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「……それ本当に俺だった? 身に覚えがないんだけど……」
「絶対みっちゃんだった。外から見える窓際の席で隣の男と楽しそうに話してた」
「うーん……あっ、もしかしたら弟かも!」
「弟?」
「うん。俺、双子の弟がいて、一卵性だから顔とか体格もよく似てるんだ。もしかしたら弟が彼氏と一緒にいて──……あっ」

 そこで光秋は、唐突にあの日のことを思い出した。
 リョクの誕生日プレゼントを買いに行った先で偶然ルートに会った、あの日のことを。

「……みっちゃん?」
「ちょ、ちょっと待っててっ」

 光秋はベッドから体を起こし、床に足をついて立ち上がった。下半身に力が入らず一瞬ぐらりと体が傾きかけたが、なんとか踏ん張って近くのチェストまで歩く。
 一番上の引き出しからあるものを取り出した光秋はベッドへと戻り、それをおずおずとリョクに差しだした。
 体を起こしたリョクは目を丸くしながらそれを──ラッピングされた平たい小箱を光秋から受け取る。

「これって……」
「誕生日プレゼント……っていっても、すっごく遅れちゃったけど」

 苦笑いしつつ光秋は頭を掻く。

「あと、コーヒーショップにいたの、やっぱ俺だったみたい。リョク君の誕生日プレゼントを探しに街に行ったとき、たまたま弟の彼氏に会って、一緒にプレゼント探すの手伝ってもらったんだ。コーヒーはそのお礼」
「弟の彼氏……? すっごく楽しそうだったし、距離もめっちゃ近かったよね?」

 リョクにじとりとした目で見つめられ、そうだったかな? と光秋は首を捻る。

「弟の話で盛り上がってたからかな。あと、リョク君の話を聞いてもらってたからかも」
「俺の話?」
「うん。弟とルート君……あ、弟の彼氏のことだけど、そのふたりにはリョク君のこと前々から話してて、その日もいろいろ聞いてもらってたんだ。俺、ゲイの友達とかいないから、そういう話できるの弟とルート君しかいなくて」
「ふぅん……」

 リョクはまだ腑に落ちない表情をしていた。けれど、今はそれ以上にプレゼントの中身が気になって仕方ないらしい。
 ちらちらと手の中の箱に視線をやるリョクを見て、光秋はくすりと笑う。

「開けてみて」
「いいの?」
「うん。気に入ってもらえるかどうかはわかんないけど……」
「絶対気に入るよ」

 自信満々に言って、リョクは小さな箱のラッピングを解いていく。
 中から現れたブラックダイヤモンドのピアスを見たリョクは、花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。

「プレゼントありがと、みっちゃん。みっちゃんが俺のために選んでくれたんだと思うと、すっっごくうれしい!」
「よかったぁ」

 光秋はホッと頬を緩めた。
 リョクは取り出したピアスを宙に掲げて、キラキラとした目で眺めている。

「……つけてみてもいい?」
「もちろん。鏡あるよ」

 鏡を覗き込んだリョクは今つけているピアスを手早く外し、光秋がプレゼントしたピアスを耳につけた。
 リョクの形のいい耳たぶの上で黒いピアスがきらりと輝いて、光秋は破顔する。

「かっこいいね。すごく似合ってる」
「うん。ありがと」

 リョクは照れくさそうに言って、光秋に触れるだけのキスをした。
 光秋はふくふくと笑いながら言う。

「俺、リョク君の誕生日に告白しようと思ってたんだ。まあ、結局告白はできなかったけど……でも、今日リョク君が代わりにしてくれたから別にいいや」
「ッ……みっちゃんっ!」
「わっ!」

 感極まった表情のリョクに抱きつかれ、光秋は再びベッドに押し倒された。
 光秋が目を白黒させているうちに、リョクは泣きそうな顔で微笑みながら言葉を紡ぐ。

「みっちゃん……俺みたいなクズのこと好きになってくれてありがとう……」
「リョ、リョク君……」
ろくって呼んで。俺の本当の名前……しめすへんの、元禄のロク」
「ろ、ろく君……?」
「うん、そう」

 ──ちゃんとわかってないかもだけど、なんかすごくかっこいい名前だ……!

 リョクの本当の名前を知れたことに光秋が感激していると、リョク──否、禄が今度は光秋に問いかけてくる。

「みっちゃんの名前は? ミツが本名じゃないよね?」
「お、俺……? み、光秋、だけど……」
「みつあき? 漢字は?」
「光るに、季節の秋……」

 別に自分の名前が嫌いなわけじゃないが、あらためて教えるとなると少し気恥ずかしい。
 光秋が照れている間に、禄はぱちりと目を瞬かせる。

「みっちゃんってもしかして、秋生まれ……?」
「うん。先月で二十七歳になったんだ」
「……俺らって両想いだったのにお互いの誕生日別々に過ごしてたんだ……」

 禄はひどくショックを受けたような顔をして、光秋の胸に顔を伏せた。
 言われてみれば確かにそうだ。
 しかし、光秋としてはもう会えないと思った禄と今こうやって一緒にいられて、これからもそれが続いていくなら、今年の誕生日をともに過ごせなかったのなんて些細なことだ。
 光秋は禄の髪を撫でながら優しい声で言う。

「来年の誕生日は一緒に過ごそうね」
「……それって、来年も俺と一緒にいてくれるってこと?」
「うん。約束ね」

 ──といっても、あくまで禄君が俺のこと来年も好きでいてくれたらの話だけど……

 心の中でそう付け加えたものの、あまりにネガティヴ過ぎるので口には出さなかった。
 光秋から『約束』の言葉を聞いた禄は目を細めて微笑む。

「みっちゃん……これからはずっと一緒にいようね」
「……うん」

 笑っているのに少し泣きそうな声で告げられて、光秋は禄を優しく抱きしめた。
 練習だとか、仕事だとか、そんな建前なんてもうふたりには必要ない。
 初めて好きになったひとが初めての恋人になってくれるなんて、なんて幸せなことだろう──光秋は多幸感に包まれたまま、禄の髪にそっとキスをした。

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