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しおりを挟む「…………好き、だけど……好きじゃない」
「あ?」
「かっこいいし、一緒にいると楽しくて、幸せだけど……でも、あっちは仕事だってちゃんとわかってるつもり。一緒にいるときどれだけ好きって言われてもそんなのサービストークだし、リョクくんと付き合えることなんて絶対にないし……」
──自分で言ってて悲しくなってきた……
光秋はしゅんと俯く。
自分とリョクの関係は客とキャストで、それ以上になることなんて絶対にない──そう頭でわかっていても、あの夢のような時間をまた過ごしたいと思ってしまう。リョクに恋人扱いされて、優しくされたいと思ってしまう。
かといって、優しくされて勘違いしているわけでも、このままリョクと関係を続ければ本物の恋人になれると思っているわけでもない。
ただリョクに会って、幸せなひと時を過ごしたい。
それが間違っていると光秋も頭ではわかってはいるが、今の光秋にとってリョクとの逢瀬は日常の唯一の楽しみになっていた。
「いや、ガチでそこそこ惚れてんじゃねぇか。……まあでも、のめり込んでる割に付き合えることはないってちゃんと理解してるだけまだましか……」
秋也はため息をついて頭を掻く。
「つうか、そいつとしか経験がないからそいつに執着しちゃってる部分もあると思うんだよなぁ。お前、他のキャストとデートする気はないの?」
「ほ、他のキャスト?」
「別に最初指名した男以外のキャストを指名しても、システム的には問題ないはずだろ? というか、色んな男指名した方がお前にとってはいい練習になるんじゃねぇの」
「んー……確かに」
とはいえ、リョク以外のキャストとデートするなんて気が乗らない。
また初めましてからなんて疲れそうだし、お金と時間の無駄のようにさえ思えた。
──でも、このままリョク君だけ指名しててもなんも変われないよな……
秋也の言うことはいつも大体正しい。
練習なのにキャストのリョクに執着するなんて馬鹿げているし、どうせなら色んな相手と経験を積むべきだ。
そう、目的を見誤ってはならない。
たとえどんなに楽しくても、リョクとの逢瀬は光秋にとって『恋人を作るための練習』なのだ。
むしろ、これ以上リョクに執着して身動きが取れなくなる前に、彼以外と軽いデートくらいは経験しておいたほうがいいのかもしれない。
「……俺、次はリョク君以外のひとを指名してみるよ」
「おっ、めずらしくやる気じゃん」
「うん……お前のおかげでせっかく一歩踏み出せたわけだし、それに、ずっとリョク君を俺の練習に付き合わせるのも悪いかなって」
「ふーん」
光秋はスマートフォンを手に持ち、空いている手で秋也の服の袖をくいくいと引っ張る。
「なあ、次にデートするひと一緒に選んで」
「仕方ねぇなぁ。お前の好みってアイドルみたいな顔した綺麗系の巨根だっけ?」
「きょっ……!? そんなこと言ったことないだろっ!!」
ああだこうだと口喧嘩を交えながらホームページ上のレンタル彼氏のプロフィールをふたりで吟味して、そこからひとりに絞るまでなんだかんだ一時間近くかかった。
選んだのは、コウという名前の青年だ。
どことなくリョクと雰囲気が似ていて、プロフィール写真の穏やかな笑顔に惹かれて指名することにした。
いや、惹かれたというより、リョク以外で一番人当たりの良さそうなキャストを選んだだけのような気もする。
「ほら、決心が鈍らないうちに予約しとけよ」
「う、うん」
光秋はおずおずと画面上の予約確定ボタンに手を伸ばした。
けれど、ふいに『みっちゃん、大好き』と笑うリョクの顔が頭に浮かんで、光秋の指がぴたりと動きを止める。
妄想の中のリョクは優しく光秋に微笑んでいるはずなのに、その弧を描いた瞳はやけに冷ややかだ。それこそ、まるで光秋の行動を咎めているかのように。
固まって動かなくなった光秋を見て、秋也は眉をひそめる。
「光秋、どうした?」
「…………」
「やっぱやめんの?」
「……ううん、やめない」
──ばかだな……俺が誰を指名したって、リョク君が気にするはずないのに。
緩くかぶりを振って、微かに震える指先で予約確定ボタンをタップする。
予約完了画面が表示されたのを見て、光秋はフーッと大きく息を吐いて肩の力を抜いた。
初めてリョクの予約をしたときに経験した達成感など、今はない。
不安と、憂鬱と、謎の罪悪感──胸の中で渦巻くそれらから目を逸らし、光秋は再び吐き出しそうになったため息を飲み込んだ。
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