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 ──か、かっこいい!!

 金茶色の髪に、綺麗な二重の瞳。目鼻立ちはもちろん、笑った口元から覗く白い歯並びすらも美しかった。
 まるで芸能人のような美青年だ。
 しばし、光秋は画面の中の青年の笑顔に目を奪われる。
 そんな光秋を見て、秋也は得意げににやりと笑った。

「お前、こういうアイドルみたいなキラキラした顔の男好きだろ」
「……うん」
「ま、多少加工してるだろうから、実物がこれかどうかはわかんねぇけどな。……なんだよ、ネットからは会員登録しなきゃいけねぇのかよ……」

 ぶつくさ言いながら、秋也はどこかに電話をかけだす。

「え、秋也……?」
「あ、もしもしー、予約いいですか?」

 光秋はギョッとした。
 まさかとは思ったが、この場で店に予約の電話をかけるとは予想外だ。
 光秋がわたわたとしている間に、話はどんどん進んでいく。

「はい、はい…………あ、初めてなんで、最初はエロいことなしで普通に話したり遊んだりとかってできます? …………はい、はい……あーじゃあそれで。さっそくなんですけどこのリョクってひと明日とかって……」
「ちょ、秋也、待てって……!」
「あ、奇跡的にちょうど空いてる。じゃあ、お願いしま……え? ……あー、じゃ、あとでまたネットから登録して予約しときます……はい、はい……はーい、失礼しまーす」

 最初から最後まで光秋を無視して、秋也は通話を終えた。

「え、ほんとに予約したの……?」
「いや、なんか個人情報とか聞かれたからあとでネットから予約するって言ったわ。さすがにお前の個人情報勝手に教えたりしねぇって」
「そ、そっか」

 光秋がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、「ほら、リョクってやつ明日空いてるってよ。確認してやったんだから、とっとと自分のスマホから予約しろよ」と秋也が急かしてくる。

「お前がちゃんと予約するまで車ださねぇからな」
「ちょ、ちょっと待ってよ……もうっ、なんで俺のことなのに勝手に決めるんだよ!」
「お前がうだうだやってっからだよ。いいから早く登録しろ」
「っ~~わかった! わかったから黙って!」

 いつにない大声を上げた光秋は、渋々自身のスマートフォンから秋也に教えられたサイトを開く。
 不安はあったが、いい加減自分もそういった意味で大人になりたいという気持ちも大きかった。それになにより、夜も遅いのでそろそろ家に帰って眠りたい。

「リョク君かぁ」

 画面に映る美青年を、光秋はぽーっとした表情で見下ろす。
 本当かどうかはわからないが、どうやら光秋よりも四つ年下の二十二歳らしい。
 顔もかっこいいが、とにかく笑顔が好きだった。なんというか、画面越しでもキラキラしている。

「予約した?」
「い、今から」

 震える指で、確定ボタンをタップする。
 すると画面が『ご予約ありがとうございました!』というものに切り替わった。

「予約した!」
「よし。んじゃ、帰るか」

 ようやく車が動き出した。
 いまだに光秋の心臓はどきどきしている。
 しばらくスマートフォンの画面を見下ろしていた光秋は、ちらりと秋也を窺った。
 それに気づいた秋也が、怪訝そうに眉を寄せる。

「なんだよ?」
「いや、前々から思ってたけど、秋也って俺の恋愛関係のことになるとお節介だよな」
「お前がたらたらやってっからだよ。それに……」
「それに?」

 運転中の秋也は、前を見つめたままあっさりと答える。

「俺と同じ顔の男がうだうだやってんの見ると、無性にイラつく」
「……それは悪うございました」

 ツンと顔を背けて、光秋はむくれた。
 すると、隣からゲラゲラと品のない笑い声が聞こえてくる。

「冗談だって。半分は」
「じゃあ残りの半分は本気じゃん……」
「まあな。でも、単純にお前にも幸せになってほしいと思ってんだよ。たったひとりの兄弟だし」

 どちらも秋也の本音なのだろうな、となんとなくわかった。
 光秋は再びおずおずと秋也を見つめる。

「あの……お店のひとと会ったあと、お前に電話とかしてもいい?」
「別にいいけど。お前そういうの話せる友達とかいないもんな」
「うん。そもそも身近にゲイがお前しかいないし」

 光秋は再びスマートフォンの画面に映る『リョク』を見つめる。
 不安と期待が半分ずつの不思議な気持ちだったが、もう予約を入れてしまったのだからしのごの言っても仕方がない。

 光秋は秋也に自宅マンションまで送ってもらったあと、シャワーだけ浴びてそのままベッドに横になる。

 ──恋人を作る練習で彼氏代行サービスを使うってなんか少しズレてるような気もするけど、でも、これを機会に俺もちょっとぐらいは成長できたらいいなぁ。

 そんなことをぼんやり考えながら、光秋は静かに目を閉じた。……が、緊張のせいでなかなか眠れず、結局光秋が眠りについたのはそれから約二時間後のことだった。
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