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第5章 手紙
クロードの手紙
しおりを挟む親愛なるカタリナへ。
手紙の返事をありがとう。俺はあなたぐらいしか相談できる相手がいないので、いつもあなたからの手紙には助かっている。
ただ、もし体調が悪いのであれば無理はしないでくれ。安定期に入ったとは聞いているが、どうか自分とお腹の子どものことを第一に考えて過ごしてほしい。
さて、この前の手紙であなたに問いかけられたことについての返答だが……情けない話、ヴィンセントが俺のことをどう思ってるのかはよくわからない。
結婚当初ほどは嫌われていないのかもしれないが、いまだに騎士に戻りたいとは考えているようだ。どうやら、毎朝部屋の中で剣の素振りをしているらしい。
父上からは騎士に復帰させてやったらどうかとも言われたが、そんなことは考えられない。ただでさえ平気で命をなげうてる男だ。もし任務で命を落とすようなことがあれば、俺はきっと気が狂ってしまう。
……この話はやめよう。またアルバートに情緒不安定だと笑われてしまいそうだ。
そのアルバートの勧めで、ヴィンセントに服や宝石類を贈ったこともあったが、ヴィンセントの反応はあまり芳しくなかった。一応受け取ってはくれるが、いつも少し困ったような顔をする。贈ったものを身に付けているところも、いままで一度も見たことがない。
物欲がないからか、それとも単純に俺が嫌いだからなのかはわからない。もしかすると両方なんだろうか。
そもそもヴィンセントはほとんど表情を変えないから、なにを考えているのか目で判断するのも難しい。いつも涼しい顔で、俺の前では笑わないし、あまり喋らない。
実家から連れてきたミラという侍女と話すときだけやけに楽しそうだ。俺には一線引いた態度を崩さないくせに……。
いや、それは別にあいつが悪いわけじゃない。もともとは俺が悪いんだ。まるで金で買うみたいに、無理やりヴィンセントを妻にした。恨まれても仕方がない。
……そうわかっているのに諦めきれないのは、俺自身に驕りがあるからだろうか。
文句も言わず傍に居てくれているだけで感謝しなければいけないことはわかっている。だが、近ければ近いほど、欲がでる。もしかしたら愛し返してくれるんじゃないかと期待して、でもそんなはずはないのだとまたすぐに気付かされての繰り返しだ。
その苛立ちをよりにもよってヴィンセントにぶつけてしまうことも時々あって、俺はそのたび自己嫌悪で死にたくなる。
──ああ、こんなことばかり書くから、あなたを心配させてしまうんだな。
大丈夫だ。馬鹿なことなんて考えていない。自分で言うのもなんだが、俺は姉上ほど心優しくもなければ度胸もないんだ。
あなたを悲しませるようなことにはならないと約束する。
あの木を頼ることはない。絶対に。
あなたからの返事があれば、また手紙を書きたいと思う。だが、最初に言った通り無理はしないでくれ。返事が煩わしければ、この手紙は燃やしてくれても構わない。
あなたとアルバートと子どもたちの健康と幸福を祈る。
愛を込めて、クロードより。
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