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第3章 二度目の初夜
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しおりを挟むこんなにもクロードの性欲が強いだなんて、ヴィンセントは知らなかった。月に一度だけヴィンセントを抱いていた淡白な男が、こんな獣のようなセックスをするだなんて、いったい誰が想像できるだろう。
長く、執拗なその律動に、やがてヴィンセントは喘ぎ声さえあげられなくなっていく。
ただクロードに揺さぶられるがまま、ヴィンセントはとろけたようにその身をクロードに任せていた。
「っ……はぁ、ん……ぅう……」
ようやく迎えた三度目の射精も、しっかり最奥で受け止めた。
中の性器が脈打つたび、熱いものが奥に注がれていくのがわかり、それがヴィンセントの中を白く汚していく様が目に浮かぶ。その快感に酔いしれながら、ヴィンセントはうっとりと瞼を下ろした。
「んッ……は、あぁ……」
そうして、一滴残らず精を出し切ったあと、ゆっくりとクロードの性器が抜き取られる。
腹の底が熱くて、少し苦しい。
一晩で三度も精を受け止めるのは、ヴィンセントも初めての経験だった。
ベッドの上に突っ伏したまま、荒い呼吸を繰り返す。
同じように、クロードもその隣に転がり、大きく胸を上下させていた。
「……ヴィンセントさん」
甘えるような声で呼ばれた。
ヴィンセントがちらりと視線をやると、少しぼんやりとした目をするクロードと目が合う。
その顔はまだ上気していて、汗ばんで乱れた髪がなんとも艶めいて見えた。
「ここで一緒に眠ってもいいですか……?」
「……もちろん」
ヴィンセントが掠れた声で答えると、破顔したクロードはずりずりと動いてヴィンセントの傍に身を寄せた。
そして、また甘い声で言う。
「愛しています。誰よりも」
「……ありがとうございます」
ヴィンセントは重い腕を持ち上げ、その金髪をすくように撫でた。
同じ言葉を返せないヴィンセントを、それでもクロードはうれしそうに見つめて、うっとりと目を細める。
その瞼が徐々に閉じていき、形のいい唇から穏やかな寝息が漏れだすまで、ヴィンセントはずっとその金髪を撫で続けた。
嘘でも、あなた自身を愛しているとヴィンセントも告げるべきだったのだろうか──
だが、その場しのぎの愛を囁いたところで、この聡い青年はすぐにヴィンセントの嘘を見抜いてしまうだろう。
久しぶりに見るクロードの寝顔を、ヴィンセントは静かに眺める。
愛していると言われるたび、うれしくて、同じくらい苦しかった。
これが記憶を失う前のクロードから告げられたものだったらどれだけうれしかったか──そんなことを考えてしまう自分の性格の悪さに呆れた。
ヴィンセントの口元が、自嘲するかのように微かに歪む。
これほど愛慕ってくれる存在が傍にいてくれても尚、ヴィンセントは自分に一度も愛を囁くことのなかったあのクロード・オルティスをいまも誰より愛していた。
いや、不思議と時間が経てば経つほど、その愛は大きくなっていくのだ。
とりあえずいまのクロードを愛せばいい──そう割り切れたら、きっと楽なのだろう。
けれど、どうしても心の奥底で『違う』と思ってしまう。この青年は、ヴィンセントが愛したクロード・オルティスではない、と。
閨を共にすることは簡単に受け入れたくせに、そんな理不尽なことを思う自分が馬鹿馬鹿しくてしょうがない。
しかし、頭ではそうわかっていても、どうしても以前のクロードといまのクロードを比べてしまう自分がいるのだ。
──愚かなヴィンセント。
社交界で囁かれる陰口がふと頭をよぎる。
まさしくその通りだと自身を蔑みながら、ヴィンセントは眠るクロードの隣で静かに目を閉じた。
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