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第3章 二度目の初夜
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しおりを挟むその告白のようなものにヴィンセントが唖然としているうちに、クロードは再びヴィンセントの唇を奪った。
熱い舌を絡めあい、強く舌を吸われる。
とろけるような快感と、頭に響くような水音にぼうっとしつつ、ヴィンセントはクロードが口にした言葉の意味を考えていた。
クロードがヴィンセントを愛しているだなんて、おかしな話だ。
もちろん、そうであったなら嬉しい。ヴィンセントはクロードを愛しているから。
しかし、しかし──……
「ん、ぁ……はっ………………目を覚まして、初めて顔を合わせたのが俺だったので、自然と俺を慕ってしまっているだけでは……?」
「僕はヒヨコではありません」
「……申し訳ありません」
じっとりとした目で睨まれ、ヴィンセントはバツの悪そうな表情ですぐに謝罪する。
拗ねたように唇を尖らせたクロードは、目を閉じてヴィンセントの胸板に頬を寄せた。ひどく心地よさそうな顔をして、ヴィンセントの心臓の音を聞いているかのようだった。
「最初はむしろ怖かったんですよ。知らない人がたくさんいて、僕を取り囲んで、泣いたり、笑ったり、騒いだりしてるんですから」
「それも、申し訳ありませんでした」
あのときは、クロードが目を覚ましてくれたのがうれしくて、最初は皆、クロードの様子がおかしいことに気づけなかった。
怯えたような青い瞳を思い出すと、いまでもクロードがかわいそうに思えてくる。ヴィンセントは謝罪の気持ちを込めながら、優しくクロードの髪を撫でてやった。
そして、また徐に口を開く。
「……話を続けてもいいですか?」
「まだ続きがあるんですか? あなたとの結婚が政略結婚だったことも、クロードがあなたを愛していなかったことも、僕はあまり興味がありません。僕には関係のないことなので」
面倒くさそうな声でそう言い切りながら、クロードはヴィンセントの胸板に頬擦りをする。
「僕はあなたを愛していて、中身はともかく、僕は間違いなくクロード・オルティス本人です。そして、あなたはクロード・オルティスの妻で、クロード・オルティスを愛している」
ああ、なんて素晴らしいことだろう。
さきほどの億劫そうな口調とは打って変わって、至極うっとりとした声でクロードはそう呟いた。
ヴィンセントはなんともいえない表情で天井を仰ぐ。そして、もうひとつ重要なことをクロードに伝えることにした。
「クロード様には、幼い頃から決められていた婚約者がいました。この世のものとは思えないほど美しく、なにより尊い方です。……しかし、俺が現れたせいでクロード様はその方との婚約を解消して、俺と結婚しました。幼い頃から結ばれていたふたりを、俺が引き離してしまったんです……」
後悔の念からか、声が徐々に小さくなる。
すべてにおいてヴィンセントよりも優れた、素晴らしいひとだった。
けれども優しいクロードは、自ら相手方に頭を下げ、婚約を解消してしまったのだという。
おまけに、その相手が相手だ。きっと、公爵夫妻にも多大な迷惑がかかったことだろう。
「……そのことで、ヴィンセントさんはクロードになにか酷いことを言われたんですか?」
「まさか。あの方はそんなことは言いません。愛していなくても、俺のことを大切にしてくださいました、本当に」
そうだ。クロードはわかりにくくはあったが、確かにヴィンセントに優しかった。
だからこそ、いっそう辛く、そして、こんなにも愛おしい。
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