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第3章 二度目の初夜
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吐精を終えたあとも、ふたりは繋がったまま甘い口付けを繰り返していた。その心地よさにうっとりと目を閉じ、ヴィンセントは目尻を下げる。
「僕でたくさん気持ちよくなっていただけて、うれしかったです」
そのクロードの言葉に、ヴィンセントは少し顔を赤くした。だが、クロードがあまりにも純粋な目をして微笑んでいるので、それを咎めるようなことは言えなかった。
「んっ……」
体を起こしたクロードが、ゆっくりとヴィンセントの中から性器を引き抜く。
それと同時にあふれた精液がヴィンセントの肌を伝い、シーツに零れ落ち、その温かく濡れた感触にヴィンセントはぴくりと指先を震わせた。
「ここ、ひくひくしてすごく可愛いです」
そう言って、クロードはヴィンセントの後孔の縁に指を添える。押し開こうと指に力を入れられると、粘膜に空気が触れて、空っぽになった中が勝手に伸縮した。
とろりと精液があふれるとともに、クロードがまた欲情した目をする。
そして、笑ったままのその青い目がヴィンセントへと向けられた。
「次は、後ろからしてみたいです」
「……良いですよ。来月はそうしましょう」
「? 来月じゃなくて、いまの話ですよ?」
クロードはきょとんとした表情で首を傾げた。
言葉の意味がわからず、ヴィンセントも不思議そうにクロードを見つめ返す。
「……いま?」
「はい。後ろ向きになれますか?」
その要望で、ようやくヴィンセントはクロードの言葉の意味を理解した。
ふと視線を落とせば、さきほど達したばかりであるはずのクロードの性器は再び芯を持って勃ち上がっている。
ヴィンセントは口を閉じ、黙りこくった。
なんと説明したらいいものか……クロードの背後に目線を泳がせる。
「ヴィンセントさん?」
「……閨事はいままで、月に一度、一晩に一回だけしかしてこなかったんです」
「……こんなに気持ちいいのに?」
クロードは驚愕したようだった。目を見開き、信じられないとでも言いたげな表情でヴィンセントを見つめてくる。
「父上から、月に一回以上は閨を共にする契約があるとは聞いていましたが……でも、そんな制限は聞いてないです」
「別に、契約でそう決められていたわけではないのです。ただ、気付けばなんとなくそうなっていたというか……」
以前のクロードは、月に一度しかヴィンセントを抱かなかった。その月に一度の情交さえ、本当は嫌だったのかもしれない。
跡継ぎを作るためだと、ただの性欲処理だと割り切っていたのか。それとも、契約で決められていることだから仕方なくだったのか──
とはいえ、最中のクロードはヴィンセントを気遣いながらも情熱的で、彼自身も閨事を楽しんでいるようにも見えた。
だからこそ、一度達した後であっさりとヴィンセントから離れ、身繕いをして去っていくクロードの背中を見るのが少し寂しかった覚えがある。
けれど、なぜなのかと問いかけたことは一度もなかった。
そして、いまとなってはそれを問いかけるべき相手もいなくなってしまったのだ。
「……クロードは変わった人だったんですね」
しみじみと呟くように言ったクロードを、ヴィンセントは怪訝な表情で見つめる。
だってそうでしょう?と、クロードはどこか冷ややかに言葉を続けた。
「こんなに気持ち良くて、幸せで、ヴィンセントはすごく綺麗で……なのに、閨事が月に一度だけだなんて、どうかしてます」
「それは、まあ……クロード様にはクロード様なりの考えがあったのではないかと……」
曖昧に言って、ヴィンセントは言葉を濁す。
いまのクロードがそう思ったとしても、以前のクロードにとってはそうではなかった──それをいまのクロードに伝えたところで、おそらく理解してはもらえないだろう。
いまのクロードの世界は狭い。
きっと、ヴィンセントが自分の妻で、傍にいる時間が長いから多分に勘違いしているのだ。
社交界に出て、ヴィンセントよりもずっと美しく洗練された令嬢や令息たちを見れば、多少は目も覚めるかもしれない──……
そう考えると、ヴィンセントの胸はちくりと痛んだ。
「僕でたくさん気持ちよくなっていただけて、うれしかったです」
そのクロードの言葉に、ヴィンセントは少し顔を赤くした。だが、クロードがあまりにも純粋な目をして微笑んでいるので、それを咎めるようなことは言えなかった。
「んっ……」
体を起こしたクロードが、ゆっくりとヴィンセントの中から性器を引き抜く。
それと同時にあふれた精液がヴィンセントの肌を伝い、シーツに零れ落ち、その温かく濡れた感触にヴィンセントはぴくりと指先を震わせた。
「ここ、ひくひくしてすごく可愛いです」
そう言って、クロードはヴィンセントの後孔の縁に指を添える。押し開こうと指に力を入れられると、粘膜に空気が触れて、空っぽになった中が勝手に伸縮した。
とろりと精液があふれるとともに、クロードがまた欲情した目をする。
そして、笑ったままのその青い目がヴィンセントへと向けられた。
「次は、後ろからしてみたいです」
「……良いですよ。来月はそうしましょう」
「? 来月じゃなくて、いまの話ですよ?」
クロードはきょとんとした表情で首を傾げた。
言葉の意味がわからず、ヴィンセントも不思議そうにクロードを見つめ返す。
「……いま?」
「はい。後ろ向きになれますか?」
その要望で、ようやくヴィンセントはクロードの言葉の意味を理解した。
ふと視線を落とせば、さきほど達したばかりであるはずのクロードの性器は再び芯を持って勃ち上がっている。
ヴィンセントは口を閉じ、黙りこくった。
なんと説明したらいいものか……クロードの背後に目線を泳がせる。
「ヴィンセントさん?」
「……閨事はいままで、月に一度、一晩に一回だけしかしてこなかったんです」
「……こんなに気持ちいいのに?」
クロードは驚愕したようだった。目を見開き、信じられないとでも言いたげな表情でヴィンセントを見つめてくる。
「父上から、月に一回以上は閨を共にする契約があるとは聞いていましたが……でも、そんな制限は聞いてないです」
「別に、契約でそう決められていたわけではないのです。ただ、気付けばなんとなくそうなっていたというか……」
以前のクロードは、月に一度しかヴィンセントを抱かなかった。その月に一度の情交さえ、本当は嫌だったのかもしれない。
跡継ぎを作るためだと、ただの性欲処理だと割り切っていたのか。それとも、契約で決められていることだから仕方なくだったのか──
とはいえ、最中のクロードはヴィンセントを気遣いながらも情熱的で、彼自身も閨事を楽しんでいるようにも見えた。
だからこそ、一度達した後であっさりとヴィンセントから離れ、身繕いをして去っていくクロードの背中を見るのが少し寂しかった覚えがある。
けれど、なぜなのかと問いかけたことは一度もなかった。
そして、いまとなってはそれを問いかけるべき相手もいなくなってしまったのだ。
「……クロードは変わった人だったんですね」
しみじみと呟くように言ったクロードを、ヴィンセントは怪訝な表情で見つめる。
だってそうでしょう?と、クロードはどこか冷ややかに言葉を続けた。
「こんなに気持ち良くて、幸せで、ヴィンセントはすごく綺麗で……なのに、閨事が月に一度だけだなんて、どうかしてます」
「それは、まあ……クロード様にはクロード様なりの考えがあったのではないかと……」
曖昧に言って、ヴィンセントは言葉を濁す。
いまのクロードがそう思ったとしても、以前のクロードにとってはそうではなかった──それをいまのクロードに伝えたところで、おそらく理解してはもらえないだろう。
いまのクロードの世界は狭い。
きっと、ヴィンセントが自分の妻で、傍にいる時間が長いから多分に勘違いしているのだ。
社交界に出て、ヴィンセントよりもずっと美しく洗練された令嬢や令息たちを見れば、多少は目も覚めるかもしれない──……
そう考えると、ヴィンセントの胸はちくりと痛んだ。
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