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第3章 二度目の初夜
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しおりを挟む「……背中の傷を見せてもらってもいいですか?」
『背中の傷が見たい』
パッと弾かれたようにヴィンセントはクロードを見た。
以前のクロードと、いまのクロードの姿が重なる。初夜のときのクロードも、ヴィンセントの背中の傷を見たがったのだ。
ヴィンセントが呆然としていると、目の前のクロードが悲しげに眉を下げる。
「……だめですか?」
「いえ……」
緩く首を振って、ヴィンセントはクロードに背中を向けた。そして、羽織っていた寝衣を肩からするりと落とす。
先ほどまでなんとも思っていなかったはずが、以前のクロードのことを思い出した途端に気持ちがそわそわとしだした。
ヴィンセントは大きな傷の残る背中をクロードに晒しながら、ごくりと唾を飲む。
クロードの視線を感じて、背中が──背中の傷が熱を持っていく。ジンと痺れるような疼きに、ヴィンセントはクロードに気付かれぬよう熱い吐息を噛み殺した。
「触れてもいいですか?」
「……はい」
クロードの指先が右肩から腰にかけて斜めに残る傷をそっとなぞった。
悪寒とよく似た快感がぞくぞくと体を走り、ヴィンセントは軽く背中を丸める。
初夜のとき、以前のクロードもこんなふうにヴィンセントの背中の傷に触れた。おそるおそると傷に触れ、さらにそこにキスをして、舌を這わせた。
ヴィンセントは戸惑ったが、嫌がりはしなかった。すると、閨事のたびにそれは執拗に繰り返されるようになり、気付けばそこで快感を拾うようになっていた。
「あの……」
「……はい」
「舐めてみてもいいですか?」
「…………だめです」
ヴィンセントは背中を向けたまま、緩く首を振る。
初夜を同じ手順でなぞろうとするのは、やはり彼がクロード・オルティスだからなのだろうか。
しかし、いまのクロードが忘れてしまっていても、ヴィンセントは──ヴィンセントの体は、その指先や舌の熱を覚えている。
もっと端的にいうと、閨事のたびにクロードからじっくりと愛撫されたその傷痕は、すっかり性感帯と化してしまっていた。
「痛むのですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
純粋に心配そうな声を出すクロードに罪悪感を覚えつつ、ヴィンセントは言葉を濁す。
気持ちが良いから触られたくない、とは口が裂けても言えなかった。
「以前のクロードさんは、そんなことしませんでしたか?」
「…………」
すぐに「しなかった」と肯定すればよかったのに、ヴィンセントは思わず黙ってしまった。もともとあまり嘘の吐けない性格なのである。
ヴィンセントが黙ったままでいると、クロードは突然後ろからヴィンセントの肩と腕のあたりをがしりと掴んだ。
そして──
「あっ……!」
あわてて手で口を押さえたものの、少し遅かった。自身の唇からこぼれた声に、ヴィンセントは顔を赤らめる。
その間にも、濡れた感触が背中の傷痕をねっとりと這っていく。
ヴィンセントは歯を噛み締め、ぎゅっと手元のシーツを握り締めた。
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