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第3章 二度目の初夜
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しおりを挟むヴィンセントはついついきょとんとした表情を浮かべてしまった。この方はいったいなにを言い出すのだろう……としばし呆気に取られる。
「嫌われるのが怖い、ですか……」
口に出してみると、尚更おかしな言葉である。ヴィンセントがクロードを嫌うことなんてあり得ないし、そもそもクロードがそれを恐れる必要もない。
「俺があなたのことを嫌いになるなんて、そんなことはあり得ません」
「そんなのわからないじゃないですか……! それに……」
「それに?」
言い淀んだクロードに、ヴィンセントは言葉を重ねるように問いかけた。
すると、クロードはいっそう挙動不審な態度を見せたあと、がくりと項垂れる。
「…………記憶がないので、どうすればいいのかわかりません」
「そんなことを気にしていたんですか……」
「だ、だってっ……!」
クロードの白い顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
もともとクロードはヴィンセントよりも五つ年下ではあるが、記憶を失ってからのクロードはもっと幼く感じられる。それこそ、まるで十代半ばの少年のようだ。
拗ねたような、焦ったようなその顔がなんだか可愛らしく思えて、ヴィンセントはわずかに頬を緩めた。
「俺があなたのことを嫌いになることなんて、絶対にありません」
「……僕がクロード・オルティスだからですか?」
「そうです」
ヴィンセントが言い切ると、クロードはまた難しい表情をした。
再び話が堂々巡りになりそうな雰囲気を察したヴィンセントは、さらに言葉を続ける。
「それに、あなたがどうすればいいのかわからなくても、俺にはわかります。俺にはちゃんと記憶があるので」
たった十二回。されど十二回。
ヴィンセントはちゃんとクロードとの閨事を覚えていた。クロードのキスの仕方も、触れ方も、中に押し入ってきたときの雄の熱さも──
それを思い出すと同時に、ヴィンセントは乾くような飢えを感じた。腹の底にちりちりと熱が生まれ、その熱が徐々に全身へと広がっていく。
やはり、自分は好色なのかもしれない。ヴィンセントは苦笑いしつつ、そっとクロードの手を取る。
ほっそりとした美しい手はびくりと震えたが、決してヴィンセントの手を振り払いはしなかった。
「どうしても不安なら、約束します。俺はあなたを絶対に嫌いにならないし、閨事がうまくいかなくても、絶対に幻滅したりはしません」
「……その言葉は少し、デリカシーが無いと思います」
「それは失礼致しました」
拗ねるクロードを見て、ヴィンセントはさらりと謝った。そして、その青い瞳と視線を交えたまま、穏やかな口調で問いかける。
「俺とベッドに移動してくれますか?」
尋ねたあとで、これではまるでヴィンセントがクロードを抱こうとしているようだな、と気付いたが、いちいち訂正はしなかった。今回に限っては、当たらずとも遠からずといった流れになりそうだとも思ったからだ。
クロードは尚も迷っているような顔をしていたが、やがて、こくんと一つ頷いた。
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