21 / 119
第2章 目覚めたクロード
21
しおりを挟む無論、ヴィンセントのことを気遣ってくれているのはなんとなくわかる。だが、そのヴィンセント本人が嫌がっていないのだから、そんな心配はいらないのだ。
逆に、そこまでためらうということは、なにか他に理由があるのではないか──そう考えたヴィンセントは、徐に口を開く。
「……あの、もしクロードが俺とはそういう気分になれないということでしたら、断ってくださっても大丈夫ですよ? お義父様とお義母様には俺から伝えておくので──」
「僕は嫌ではありません!」
「そ、そうですか」
クロードが突然すごい剣幕で大声をあげたので、思わずヴィンセントは軽く仰け反った。
であれば、クロードがなぜそんなにも躊躇しているのか……ヴィンセントはますますクロードがわからなくなる。
唇を噛んだクロードが、口惜しそうに俯く。
「……ヴィンセントさんは、僕のことを愛しているんですか?」
「……はい?」
「以前のクロードを愛しているから、僕のことも愛しているんですか? それとも、以前のクロードを愛していたから、僕を愛していなくても僕に抱かれることができるんですか?」
クロードはやけに強張った表情で、ヴィンセントにそう尋ねてきた。
ぱちぱちと目を瞬かせたヴィンセントは、困惑しながらもクロードの問いの答えを考える。
いまのクロードを愛しているのかと問われても、正直よくわからない。
先ほどクロードが言った通り、いま目の前にいるクロードと、ヴィンセントが愛していた以前のクロードの内面は大きく異なっている。
それでも、どちらも同じクロード・オルティスなのだ。目の前にいる美しい青年が、ヴィンセントにとっては唯一無二の伴侶だった。
そもそも、なぜそれほどクロードが『愛』にこだわるのか、ヴィンセントにはわからない。
貴族の間で愛のない政略結婚はよくあることで、ヴィンセントとて、最初からクロードを愛していたわけではなかった。
政略結婚をした時点で、夫婦だから、という理由で閨事をすることがそれほどおかしいことだとは思えない。
それに、ヴィンセントにしてみれば、相手は十二回も夜をともにしている夫なのだ。少なくとも、その肉体は。
考えれば考えるほど、頭の中がこんがらがっていく。クロードがいったいどんな答えを求めているのか、ちっとも見当がつかなかった。
ヴィンセントは迷いつつ、言葉を紡いだ。
「……正直言うと、あなたを愛しているのかどうかはわかりません。ですが、俺はクロード・オルティスを愛していて、あなたはクロード・オルティスです。あなたが自分のことを偽物だと思おうと、その事実は変わりません」
クロードはまた複雑そうな表情を浮かべて口を引き結んだ。
なにかにショックを受けて呆然としているようにも、納得できない苛立ちを押さえ込んでいるようにも、少しばかり安堵しているようにも見える。
やがて、その表情のままクロードは真っ直ぐにヴィンセントと視線を合わせた。
「……わかりました。では、今夜ヴィンセントさんの部屋に参ります」
「ええ、お待ちしております」
ヴィンセントが答えると、クロードはヴィンセントに背中を向けて、来た道を戻っていく。
少し遅れて、ヴィンセントもその後ろを早足で追った。
楽しみでもなければ憂鬱でもない。
なんとも不思議な心持ちだった。
66
お気に入りに追加
1,930
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】気づいたら6人の子持ちで旦那がいました。え、今7人目がお腹にいる?なにそれ聞いてません!
愛早さくら
BL
はたと気づいた時、俺の周りには6人の子供がいて、かつ隣にはイケメンの旦那がいた。その上大きく膨らんだお腹の中には7人目がいるのだという。
否、子供は6人ではないし、お腹にいるのも7人目ではない?え?
いったい何がどうなっているのか、そもそも俺は誰であなたは誰?と、言うか、男だよね?子供とか産めなくない?
突如、記憶喪失に陥った主人公レシアが現状に戸惑いながらも押し流されなんとかかんとかそれらを受け入れていく話。になる予定です。
・某ほかの話と同世界設定でリンクもしてるある意味未来編ですが、多分それらは読んでなくても大丈夫、なはず。(詳しくは近況ボード「突発短編」の追記&コメント欄をどうぞ
・男女関係なく子供が産める、魔法とかある異世界が舞台です
・冒頭に*がついてるのは割と容赦なくR18シーンです。他もあやしくはあるんですけど、最中の描写がばっちりあるのにだけ*付けました。前戯は含みます。
・ハッピーエンドは保証しません。むしろある意味メリバかも?
・とはいえ別にレイプ輪姦暴力表現等が出てくる予定もありませんのでそういう意味ではご安心ください
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
バイバイ、セフレ。
月岡夜宵
BL
『さよなら、君との関係性。今日でお別れセックスフレンド』
尚紀は、好きな人である紫に散々な嘘までついて抱かれ、お金を払ってでもセフレ関係を繋ぎ止めていた。だが彼に本命がいると知ってしまい、円満に別れようとする。ところが、決意を新たにした矢先、とんでもない事態に発展してしまい――なんと自分から突き放すことに!? 素直になれない尚紀を置きざりに事態はどんどん劇化し、最高潮に達する時、やがて一つの結実となる。
前知らせ)
・舞台は現代日本っぽい架空の国。
・人気者攻め(非童貞)×日陰者受け(処女)。
番って10年目
アキアカネ
BL
αのヒデとΩのナギは同級生。
高校で番になってから10年、順調に愛を育んできた……はずなのに、結婚には踏み切れていなかった。
男のΩと結婚したくないのか
自分と番になったことを後悔しているのか
ナギの不安はどんどん大きくなっていく--
番外編(R18を含む)
次作「俺と番の10年の記録」
過去や本編の隙間の話などをまとめてます
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる