遠のくほどに、愛を知る

リツカ

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第2章 目覚めたクロード

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 あれから一ヶ月がたっても、クロードの記憶が元に戻る気配はなかった。

 しかし、良い報告もある。
 クロードは記憶喪失の状態ではあるが、日常的な一般常識や貴族のマナーに関してはきちんと覚えていた。
 それに加え、領主である父親の仕事の補佐も、たった数日である程度こなせるようになったらしい。クロード曰く、なんとなくわかるのだという。

 人のことは忘れてしまっているが、それ以外のことはほぼ完璧に近い形で覚えていることがわかり、公爵は心底ほっとした様子だった。

 クロード本人も、目覚めたときと比べれば格段に落ち着いている。相変わらず別人のようではあるが、最近ではヴィンセントの前で笑顔を見せることも増えていた。

「本当によかったわ」

 優雅に紅茶を飲みながら、公爵夫人はにこやかに微笑む。

「最初はどうなることかと思ったけど、なんとかなるものね。それに、いまのクロードは可愛げがあっていいわ。前の気難しいあの子とは大違い」

 そう言いつつも、公爵夫人の声には以前のクロードを懐かしむような哀愁があった。
 ヴィンセントはあえてそれを指摘せずに、軽く相槌を打ってから紅茶に口をつける。

 公爵夫人は気さくな方で、普段からよくヴィンセントに声をかけ、午後のティータイムを一緒に過ごすことが多かった。

 しかし、今日はいつもと違い、なにか特別な話があるらしい。
 ヴィンセントが部屋を訪れるのと同時に室内にいたメイドたちを下がらせたことからそれに気付いたヴィンセントは、静かに公爵夫人が話を切り出すのを待っていた。

 現在、公爵夫人の部屋には、公爵夫人とヴィンセント、そして侍女頭の三人がいる。といっても、侍女頭は公爵夫人とヴィンセントがふたりきりにならないよう、公爵夫人が気を利かせて残しているだけだろう。

「いまのクロードはどう?」
「どう、と言われますと……」
「随分変わってしまったけど、あなたにだけは心を開いているみたいだから。最近一緒に過ごす時間も増えたのでしょう?」

 公爵夫人はヴィンセントと目を合わせ、少し揶揄うような声音で尋ねてきた。
 ヴィンセントはそれに少し戸惑いながらも、淡々と答える。

「そうですね。妻の俺と一緒にいることで記憶が早めに戻るのではないか……とクロード様の方から提案があったので、クロード様が屋敷を開けているとき以外は一緒にいる時間が増えました」

 その提案を持ちかけられたのは、一ヶ月ほど前。クロードがヴィンセントの前で泣き顔を見せた日の翌日のことだった。
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