アリガトウ、サヨウナラ

猫修羅

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 それからしばらくして、おふくろは死んだ。結局、倒れてから意識がもどることは一度もなかった。担当医は深々と頭をさげ、なにもできずに申しわけなかったと謝っていた。
 おふくろとの最後の会話はなんだったろう。きっと、たわいもないことだったにちがいない。でも、病室で伝えたおれの気持ちが最後の会話だったらいいといつも思う。いつまでも忘れずにいられるんだから。

 大学をどうにか卒業したおれは、いま地元の小学校で教師をしている。
 そんなおれが生徒に対していつも教えているのは『感謝の気持ちはそのときに伝えろ』ということだ。どうしてなのかと理由を訊いてくる生徒は多いが、おれはかならず「伝えたいと思ったときに、伝えられないかもしれないだろう」と答えている。おれが味わったあの後悔を、まだ無垢な子どもたちに経験させたくはない。
 整備士の道を選んだ英二は「おまえが教師なんて笑い話でしかないな」といつもからかってくるが、おれたちがおとなになったいまだからこそ笑っていられるんだろう。

 おふくろの墓のまえについたとき、きのうから降りつづいていた雨があがった。
 いまでも龍馬という名前は好きになれないが、名前をつけてくれたおふくろのことは大好きだ。
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