アリガトウ、サヨウナラ

猫修羅

文字の大きさ
上 下
1 / 4

しおりを挟む
 おれにとっては、ただうっとうしいだけの存在だったんだ。
 それまではずっと……。

 高校にはいってから、落ちこぼれでどうしようもないやつらとつるみはじめたおれは、やがてまわりと同化してろくでもない人間になっていった。学校をさぼることなんてあたりまえで、窃盗や恐喝といった犯罪行為も日常的な光景だった。そうすることでしか自己表現できなかったわけではなく、そうすることが自分にとっての正解だという気がしていたんだ。
「龍馬、学校にはちゃんといってるの?」
 坂本龍馬のような立派な男になってほしいという短絡的な願いをこめて、おれはたいそうな名前をつけられていた。坂本龍馬がどう立派だったのか詳しくは知らないが、最期はだれかに殺されたというあいまいな記憶だけがあり、人に誇れるような名前だとはいまでも思わない。

 おれには父親がいなかった。母ひとり子ひとりの平凡な家庭だ。おふくろのいうことを信用するなら、父親はおれが生まれてまもないころに病死してしまい、写真の一枚も残ってはいないらしい。それにかんしては、おれも深く追求することはなかった。いまさら真実を知ったところでなにも変わらないし、とくにこれといった感情もわいてこないと思ったからだ。
 おふくろは、学校にもろくにいっていなかったおれを母親らしくとがめていたが、周囲のだれからも愛される温和で明るい人だった。おれみたいなろくでなしを女手ひとつで育てたんだから、顔にはださない多大な心労があったにちがいない。近所にある大型スーパーのパートタイマーとして昼間は仕事に精をだし、夜は夜で家事に追われるという余裕のない生活だ。そこに心労がなかったはずもない。それでもおふくろは、おれに対して陰を見せることは一度としてなかった。

 けっして恵まれた環境ではなかったが、現実というものをよく知らなかったおれは、こんな生活がいつまでもつづくと思いこんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夏の青さに

詩葉
青春
小学生のころからの夢だった漫画家を目指し上京した湯川渉は、ある日才能が無いことを痛感して、専門学校を辞めた。 その日暮らしのアルバイト生活を送っていたある時、渉の元に同窓会の連絡が届くが、自分の現状を友人や家族にすら知られたくなかった彼はその誘いを断ってしまう。 次の日、同窓会の誘いをしてきた同級生の泉日向が急に渉の家に今から来ると言い出して……。 思い通りにいかない毎日に悩んで泣いてしまった時。 全てが嫌になって壊してしまったあの時。 あなたならどうしますか。あなたならどうしましたか。 これはある夏に、忘れかけていた空の色を思い出すお話。

水曜日の子供たちへ

蓮子
青春
ベンヤミンは肌や髪や目の色が他の人と違った。 ベンヤミンの住む国は聖力を持つ者が尊ばれた。 聖力と信仰の高いベンヤミンは誰からも蔑まれないために、神祇官になりたいと嘱望した。早く位を上げるためには神祇官を育成する学校で上位にならなければならない。 そのための試験は、ベンヤミンは問題を抱えるパオル、ヨナス、ルカと同室になり彼らに寄り添い問題を解決するというものだ。 彼らと関わり、問題を解決することでベンヤミン自身の問題も解決され成長していく。 ファンタジー世界の神学校で悲喜交々する少年たちの成長物語 ※ゲーム用に作ったシナリオを小説に落とし込んだので、お見苦しい点があると思います。予めご了承ください。 使用する予定だったイラストが差し込まれています。ご注意ください。 イラスト協力:pizza様 https://www.pixiv.net/users/3014926 全36話を予定しております

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

坊主の誓い

S.H.L
青春
新任教師・高橋真由子は、生徒たちと共に挑む野球部設立の道で、かけがえのない絆と覚悟を手に入れていく。試合に勝てば坊主になるという約束を交わした真由子は、生徒たちの成長を見守りながら、自らも変わり始める。試合で勝利を掴んだその先に待つのは、髪を失うことで得る新たな自分。坊主という覚悟が、教師と生徒の絆をさらに深め、彼らの未来への新たな一歩を導く。青春の汗と涙、そして覚悟を描く感動の物語。

処理中です...