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教会への一件の後、アネットは学園を休んでいた。
拗ねて部屋に閉じこもっていた月曜日に婚約破棄の使者が来て、そのまま拗ねているうちに水曜日にはシルヴィへの婚約を申し込む使者が来た。
アネットは、外に出るタイミングを失くしてしまったらしかった。
ただ、閉じこもっているだけでは飽きるらしく、屋敷の中は歩き回っていた。
大騒ぎをした水曜日以降、マチルド以外の家族は優しく気を遣っているので居心地は悪くなかったからだ。
金曜日になると母が言った。
「アネット、そろそろ学園にも行きましょうね」
卒業まであとわずか。せっかくの時間を大事にしたほうがいいと熱心に諭され、途中で逃げないように、シルヴィの馬車に同乗させられる。
馬車の中で、アネットはずっと不機嫌だった。
口を開けば「ドロボウ猫」「絶対、許さないんだから」としか言わない。
シルヴィも諦めて、学園までの道を無言で馬車に揺られていった。
その週に起きたことは、まだあまり噂になっておらず、アネットが学園に現れると、相変わらず「おめでとう」と人が集まってくる。
学園でなら気軽に声をかけやすい。未来の王太子妃に少しでも近づいておきたい貴族は少なくなかった。
前の週に、アネットと間違えて「おめでとう」と言われた時、シルヴィは「婚約したのは妹のアネットよ」と端的に事実を口にしていた。
しかし、アネットは、なぜかそういうことが言えない。
いったん調った婚約が白紙になったなどと、口が裂けても言いたくないらしかった。
だから「おめでとう」と言われるたびに、引きつった笑いを浮かべて、そのまま礼を言う。
そして、その後でシルヴィをすごい目で睨みつけてくるのだ。
「そんなに可笑しい?」
目に憎しみを込めて聞かれても、首を振るしかない。
可笑しいなどと思っていない。ただ、自分が逆の立場なら、婚約は白紙に戻ったという事実だけは伝えたと思う。
何度目かの非難を受けた時にそう口にすると、アネットは逆上した。
「同じ立場になったこともないくせに! 陰で笑ってることくらい、知ってるわよ!」
そして、「見てなさい。今度はシルヴィお姉様が恥をかく番よ」と言って、周囲の、アネットやシルヴィとあまり親しくなかった人を捕まえて、「姉が殿下を狙っている」と言いふらし始めた。
ナディアやセリーヌ、ポーラたちが心配して様子を聞きに来た。
シルヴィは婚約のことを誰にも言っていなかったのだが、三人が困惑するのを見て、誤解を生まないために、ちょっとした行き違いがあり、今は自分がジェラルドの婚約者になっているという事実を伝えた。
「それを聞いて安心したわ」
「アネットが未来の王太子妃殿下、そして王后陛下になるのかと思うと、なんだかすごくモヤッとしてたの」
「でも、へんな噂が広まるのは困るわね」
シルヴィがアネットから婚約者の座を奪おうとしている、とするアネットの声は、その日のうちに一学年下のナタリー王女に届いた。
王女は困惑していた。
「奪う……? それは、少しヘンですね。私は、ドニエ公爵令嬢のシルヴィ様に決まったと、昨日、侍従長から聞いたところです。舞踏会の準備も進めているようですし……。でも、念のため、兄に直接会って聞いてみましょうか」
拗ねて部屋に閉じこもっていた月曜日に婚約破棄の使者が来て、そのまま拗ねているうちに水曜日にはシルヴィへの婚約を申し込む使者が来た。
アネットは、外に出るタイミングを失くしてしまったらしかった。
ただ、閉じこもっているだけでは飽きるらしく、屋敷の中は歩き回っていた。
大騒ぎをした水曜日以降、マチルド以外の家族は優しく気を遣っているので居心地は悪くなかったからだ。
金曜日になると母が言った。
「アネット、そろそろ学園にも行きましょうね」
卒業まであとわずか。せっかくの時間を大事にしたほうがいいと熱心に諭され、途中で逃げないように、シルヴィの馬車に同乗させられる。
馬車の中で、アネットはずっと不機嫌だった。
口を開けば「ドロボウ猫」「絶対、許さないんだから」としか言わない。
シルヴィも諦めて、学園までの道を無言で馬車に揺られていった。
その週に起きたことは、まだあまり噂になっておらず、アネットが学園に現れると、相変わらず「おめでとう」と人が集まってくる。
学園でなら気軽に声をかけやすい。未来の王太子妃に少しでも近づいておきたい貴族は少なくなかった。
前の週に、アネットと間違えて「おめでとう」と言われた時、シルヴィは「婚約したのは妹のアネットよ」と端的に事実を口にしていた。
しかし、アネットは、なぜかそういうことが言えない。
いったん調った婚約が白紙になったなどと、口が裂けても言いたくないらしかった。
だから「おめでとう」と言われるたびに、引きつった笑いを浮かべて、そのまま礼を言う。
そして、その後でシルヴィをすごい目で睨みつけてくるのだ。
「そんなに可笑しい?」
目に憎しみを込めて聞かれても、首を振るしかない。
可笑しいなどと思っていない。ただ、自分が逆の立場なら、婚約は白紙に戻ったという事実だけは伝えたと思う。
何度目かの非難を受けた時にそう口にすると、アネットは逆上した。
「同じ立場になったこともないくせに! 陰で笑ってることくらい、知ってるわよ!」
そして、「見てなさい。今度はシルヴィお姉様が恥をかく番よ」と言って、周囲の、アネットやシルヴィとあまり親しくなかった人を捕まえて、「姉が殿下を狙っている」と言いふらし始めた。
ナディアやセリーヌ、ポーラたちが心配して様子を聞きに来た。
シルヴィは婚約のことを誰にも言っていなかったのだが、三人が困惑するのを見て、誤解を生まないために、ちょっとした行き違いがあり、今は自分がジェラルドの婚約者になっているという事実を伝えた。
「それを聞いて安心したわ」
「アネットが未来の王太子妃殿下、そして王后陛下になるのかと思うと、なんだかすごくモヤッとしてたの」
「でも、へんな噂が広まるのは困るわね」
シルヴィがアネットから婚約者の座を奪おうとしている、とするアネットの声は、その日のうちに一学年下のナタリー王女に届いた。
王女は困惑していた。
「奪う……? それは、少しヘンですね。私は、ドニエ公爵令嬢のシルヴィ様に決まったと、昨日、侍従長から聞いたところです。舞踏会の準備も進めているようですし……。でも、念のため、兄に直接会って聞いてみましょうか」
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