上 下
3 / 34

しおりを挟む
 令嬢たちの視線は一斉にナディアに向く。

「まあ、すごいじゃない!」
「おめでとう、ナディア」

「ありがとう。婚約披露パーティーを開く予定だから、みんな来てね」

 ナディアは離れたベンチで本を読んでいたシルヴィにも声をかけた。

「シルヴィも来てね」

 シルヴィは顔を上げて、「もちろん行くわ。ありがとう」と微笑んだ。

 今夜の慈善パーティーにもエスコートしてもらう予定だとナディアは言った。

 むすっとした顔のアネットが、令嬢たちから離れて歩いてくる。
 シルヴィの隣に座ると「バカみたい」と言った。

「ナディアは伯爵令嬢だから、格上の侯爵家に嫁げるのが嬉しいんでしょうけど」
「エドワールは立派な方だし、いいお話じゃない」
「でも、まだ正式に決まったわけじゃないんでしょ。あんなに自慢して、うまくいかなかったら大恥よね」

 シルヴィは眉を潜めた。

「何かヘンなこと考えてないでしょうね」
「ヘンなことって、何? シルヴィこそ、ヘンな言いがかかりつけるのはやめてよね」

 ツンとすましてシルヴィに言い返したアネットの目が、学舎の渡り廊下に向けられた。
 そこを行く誰かに向かって、にこりと天使のような笑みを浮かべる。

 視線を追うと、ずんぐりした体系の青年貴族が驚いたようにアネットを見ていた。
 モラン侯爵家の第一令息エドワールだ。
 少し前まで、アネットは彼など眼中にもないという態度で接していたのに……。

「アネット……、やめて」
「あら、何? 目が合ったから笑っただけでしょ」

 金色の美しい巻き毛を揺らして、アネットは嫣然と微笑む。
 その美しい笑顔のままベンチから立ち上がり、エドワールのほうへ歩きだした。

「エドワール、今夜ちょっとしたパーティーがあって、私をエスコートしてくださる方がいないの……。もしよかったら、あなたにお願いしたいのですけど……」

 いかにも恥ずかしそうに頬を染めるアネットを、エドワールが目を丸くして見つめる。
 真っ赤になって「ぼ、ぼ、僕で、よければ……」と答えた。

 アネットは勝ち誇ったような顔でシルヴィを振り向いた。
 少し離れた場所では令嬢たちが呆然と二人を見ている。ぎゅっと握られたナディアの拳が震えているのがわかった。

(アネット……。おかしなことはしないでって、たった今、言ったばかりなのに……)

 ナディアの顔を見ることができず、シルヴィはそっと目を閉じる。その場で頭を抱えたかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。 父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。 そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。 しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。 ”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな” 失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。 実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。 オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。 その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。

【完結】殿下が倹約に目覚めて婚約破棄されました〜結婚するなら素朴な平民の娘に限る?では、王室に貸した国家予算の八割は回収しますので

冬月光輝
恋愛
大資産家であるバーミリオン公爵家の令嬢、ルージア・バーミリオンは突然、王国の皇太子マークスに婚約破棄される。 「前から思ってたんだけど、君って贅沢だよね?」  贅沢に溺れる者は国を滅ぼすと何かの本で読んだマークスは高級品で身を固めているルージアを王室に害をもたらすとして、実家ごと追放しようと目論む。 しかし、マークスは知らない。 バーミリオン公爵家が既に王室を遥かに上回る財を築いて、国家予算の八割を貸しつけていることを。 「平民の娘は素朴でいい。どの娘も純な感じがして良かったなぁ」 王子という立場が絶対だと思い込んでいるマークスは浮気を堂々と告白し、ルージアの父親であるバーミリオン公爵は激怒した。 「爵位を捨てて別の国に出ていきますから、借金だけは返してもらいますぞ」 マークスは大好きな節約を強いられることになる――

【完結】婚約破棄されたので国を滅ぼします

雪井しい
恋愛
「エスメラルダ・ログネンコ。お前との婚約破棄を破棄させてもらう」王太子アルノーは公衆の面前で公爵家令嬢であるエスメラルダとの婚約を破棄することと、彼女の今までの悪行を糾弾した。エスメラルダとの婚約破棄によってこの国が滅ぶということをしらないまま。 【全3話完結しました】 ※カクヨムでも公開中

(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?

青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・ 心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。 ※ご注意 これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。 この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります

恋愛
 妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。  せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。  普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……  唯一の味方は学友のシーナのみ。  アリーシャは幸せをつかめるのか。 ※小説家になろうにも投稿中

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea
恋愛
───出来損ないでお荷物なだけの王女め! “聖女”に選ばれなかった私はそう罵られて捨てられた。 グォンドラ王国は神に護られた国。 そんな“神の声”を聞ける人間は聖女と呼ばれ、聖女は代々王家の王女が儀式を経て神に選ばれて来た。 そして今代、王家には可愛げの無い姉王女と誰からも愛される妹王女の二人が誕生していた…… グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌは18歳の誕生日を向かえた後、 儀式に挑むが神の声を聞く事が出来なかった事で冷遇されるようになる。 そして2年後、妹の第二王女、マリアーナが“神の声”を聞いた事で聖女となる。 聖女となったマリアーナは、まず、リディエンヌの婚約者を奪い、リディエンヌの居場所をどんどん奪っていく…… そして、とうとうリディエンヌは“出来損ないでお荷物な王女”と蔑まれたあげく、不要な王女として捨てられてしまう。 そんな捨てられた先の国で、リディエンヌを拾ってくれたのは、 通称・氷の貴公子様と呼ばれるくらい、人には冷たい男、ダグラス。 二人の出会いはあまり良いものではなかったけれど─── 一方、リディエンヌを捨てたグォンドラ王国は、何故か謎の天変地異が起き、国が崩壊寸前となっていた…… 追記: あと少しで完結予定ですが、 長くなったので、短編⇒長編に変更しました。(2022.11.6)

処理中です...