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 兄二人と姉のマチルドの婚約が順調に整っているせいか、シルヴィとアネットの嫁ぎ先について、両親はかなりのんびり構えていた。
 暮らしに困るような貴族でなければ、爵位にも拘らないという感じで広くウエルカム状態だ。

 そのため、アネットとシルヴィには求婚者が殺到していた。
 美人姉妹であることに加え、豊かな領地収入があるドニエ公爵家の娘であれば持参金も相当なものになる。
 一か八かでチャンスにかける貴族は後を絶たなかった。
 
 求婚者の数が多いことはアネットの自慢の種だった。
 今日も学園の中庭で「八人目の求婚者が現れたの」と得意げに話している。

 ちなみにシルヴィには二十四人目の求婚者が現れたところだが、それも言うとめんど臭くなるので黙っておく。

 まだ婚約者が決まっていないセレーヌとポーラがうらやましそうに言った。

「いいわねぇ、アネット」
「お一人、回していただきたいわ」

 アネットの鼻が少し膨らんだように見えた。
 オスーフ伯爵家のナディアが「でも」と笑った。

「八人目のその方、子爵家の次男だって言ってなかった?」
「だから、何?」
「爵位も財産ももらえない人と結婚するの?」
「するわけないでしょ」
「だったら、数に入れるのはおかしいんじゃない?」

 確かにそうねとセレーヌとポーラも笑う。その程度の相手でいいなら、自分たちにも見つかるわねと言葉を交わした。
 アネットがナディアを睨んだ。

「そういうナディアは、もう婚約者を決めたのだったかしら?」

 つい数日前まで、ナディアには有力な候補はいなかった。
 伯爵家の第三令嬢。自分の財産を持たないナディアは、爵位と財産を受け継ぐ相手に嫁がなければ、底辺貧乏貴族として生きていくことになる。
 なんとしてもいい相手を見つけようと、常に獲物を狙うように相手を探し、条件を吟味していた。

 貴族の結婚が家と家との結びつき以外の何物でもなかったのは、両親の時代までだ。
 最近では自由恋愛に基づいた結婚が主流になりつつある。
 もちろん、ある程度の身分のつり合いは考えなければいけないが、許容範囲内であれば、好きになった者同士が結婚できる時代になったのだ。

 そのせいで婚約者がなかなか決まらないという一面もあるけれど。
 まわりが勝手に決めてくれない以上、実力で勝ち取らねばならない。

 ナディアはたっぷり間をおいて、周囲の令嬢たちを見回した。
 それからにこりと笑い、勝ち誇ったように言った。

「モラン侯爵家のエドワール様と、お話が決まりそうなの」


 
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