2 / 34
2
しおりを挟む
兄二人と姉のマチルドの婚約が順調に整っているせいか、シルヴィとアネットの嫁ぎ先について、両親はかなりのんびり構えていた。
暮らしに困るような貴族でなければ、爵位にも拘らないという感じで広くウエルカム状態だ。
そのため、アネットとシルヴィには求婚者が殺到していた。
美人姉妹であることに加え、豊かな領地収入があるドニエ公爵家の娘であれば持参金も相当なものになる。
一か八かでチャンスにかける貴族は後を絶たなかった。
求婚者の数が多いことはアネットの自慢の種だった。
今日も学園の中庭で「八人目の求婚者が現れたの」と得意げに話している。
ちなみにシルヴィには二十四人目の求婚者が現れたところだが、それも言うとめんど臭くなるので黙っておく。
まだ婚約者が決まっていないセレーヌとポーラがうらやましそうに言った。
「いいわねぇ、アネット」
「お一人、回していただきたいわ」
アネットの鼻が少し膨らんだように見えた。
オスーフ伯爵家のナディアが「でも」と笑った。
「八人目のその方、子爵家の次男だって言ってなかった?」
「だから、何?」
「爵位も財産ももらえない人と結婚するの?」
「するわけないでしょ」
「だったら、数に入れるのはおかしいんじゃない?」
確かにそうねとセレーヌとポーラも笑う。その程度の相手でいいなら、自分たちにも見つかるわねと言葉を交わした。
アネットがナディアを睨んだ。
「そういうナディアは、もう婚約者を決めたのだったかしら?」
つい数日前まで、ナディアには有力な候補はいなかった。
伯爵家の第三令嬢。自分の財産を持たないナディアは、爵位と財産を受け継ぐ相手に嫁がなければ、底辺貧乏貴族として生きていくことになる。
なんとしてもいい相手を見つけようと、常に獲物を狙うように相手を探し、条件を吟味していた。
貴族の結婚が家と家との結びつき以外の何物でもなかったのは、両親の時代までだ。
最近では自由恋愛に基づいた結婚が主流になりつつある。
もちろん、ある程度の身分のつり合いは考えなければいけないが、許容範囲内であれば、好きになった者同士が結婚できる時代になったのだ。
そのせいで婚約者がなかなか決まらないという一面もあるけれど。
まわりが勝手に決めてくれない以上、実力で勝ち取らねばならない。
ナディアはたっぷり間をおいて、周囲の令嬢たちを見回した。
それからにこりと笑い、勝ち誇ったように言った。
「モラン侯爵家のエドワール様と、お話が決まりそうなの」
暮らしに困るような貴族でなければ、爵位にも拘らないという感じで広くウエルカム状態だ。
そのため、アネットとシルヴィには求婚者が殺到していた。
美人姉妹であることに加え、豊かな領地収入があるドニエ公爵家の娘であれば持参金も相当なものになる。
一か八かでチャンスにかける貴族は後を絶たなかった。
求婚者の数が多いことはアネットの自慢の種だった。
今日も学園の中庭で「八人目の求婚者が現れたの」と得意げに話している。
ちなみにシルヴィには二十四人目の求婚者が現れたところだが、それも言うとめんど臭くなるので黙っておく。
まだ婚約者が決まっていないセレーヌとポーラがうらやましそうに言った。
「いいわねぇ、アネット」
「お一人、回していただきたいわ」
アネットの鼻が少し膨らんだように見えた。
オスーフ伯爵家のナディアが「でも」と笑った。
「八人目のその方、子爵家の次男だって言ってなかった?」
「だから、何?」
「爵位も財産ももらえない人と結婚するの?」
「するわけないでしょ」
「だったら、数に入れるのはおかしいんじゃない?」
確かにそうねとセレーヌとポーラも笑う。その程度の相手でいいなら、自分たちにも見つかるわねと言葉を交わした。
アネットがナディアを睨んだ。
「そういうナディアは、もう婚約者を決めたのだったかしら?」
つい数日前まで、ナディアには有力な候補はいなかった。
伯爵家の第三令嬢。自分の財産を持たないナディアは、爵位と財産を受け継ぐ相手に嫁がなければ、底辺貧乏貴族として生きていくことになる。
なんとしてもいい相手を見つけようと、常に獲物を狙うように相手を探し、条件を吟味していた。
貴族の結婚が家と家との結びつき以外の何物でもなかったのは、両親の時代までだ。
最近では自由恋愛に基づいた結婚が主流になりつつある。
もちろん、ある程度の身分のつり合いは考えなければいけないが、許容範囲内であれば、好きになった者同士が結婚できる時代になったのだ。
そのせいで婚約者がなかなか決まらないという一面もあるけれど。
まわりが勝手に決めてくれない以上、実力で勝ち取らねばならない。
ナディアはたっぷり間をおいて、周囲の令嬢たちを見回した。
それからにこりと笑い、勝ち誇ったように言った。
「モラン侯爵家のエドワール様と、お話が決まりそうなの」
53
お気に入りに追加
5,777
あなたにおすすめの小説
婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい
今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。
父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。
そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。
しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。
”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな”
失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。
実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。
オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。
その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。
【完結】殿下が倹約に目覚めて婚約破棄されました〜結婚するなら素朴な平民の娘に限る?では、王室に貸した国家予算の八割は回収しますので
冬月光輝
恋愛
大資産家であるバーミリオン公爵家の令嬢、ルージア・バーミリオンは突然、王国の皇太子マークスに婚約破棄される。
「前から思ってたんだけど、君って贅沢だよね?」
贅沢に溺れる者は国を滅ぼすと何かの本で読んだマークスは高級品で身を固めているルージアを王室に害をもたらすとして、実家ごと追放しようと目論む。
しかし、マークスは知らない。
バーミリオン公爵家が既に王室を遥かに上回る財を築いて、国家予算の八割を貸しつけていることを。
「平民の娘は素朴でいい。どの娘も純な感じがして良かったなぁ」
王子という立場が絶対だと思い込んでいるマークスは浮気を堂々と告白し、ルージアの父親であるバーミリオン公爵は激怒した。
「爵位を捨てて別の国に出ていきますから、借金だけは返してもらいますぞ」
マークスは大好きな節約を強いられることになる――
【完結】婚約破棄されたので国を滅ぼします
雪井しい
恋愛
「エスメラルダ・ログネンコ。お前との婚約破棄を破棄させてもらう」王太子アルノーは公衆の面前で公爵家令嬢であるエスメラルダとの婚約を破棄することと、彼女の今までの悪行を糾弾した。エスメラルダとの婚約破棄によってこの国が滅ぶということをしらないまま。
【全3話完結しました】
※カクヨムでも公開中
(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?
青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・
心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。
※ご注意
これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。
この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります
禅
恋愛
妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。
せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。
普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……
唯一の味方は学友のシーナのみ。
アリーシャは幸せをつかめるのか。
※小説家になろうにも投稿中
【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります
Rohdea
恋愛
───出来損ないでお荷物なだけの王女め!
“聖女”に選ばれなかった私はそう罵られて捨てられた。
グォンドラ王国は神に護られた国。
そんな“神の声”を聞ける人間は聖女と呼ばれ、聖女は代々王家の王女が儀式を経て神に選ばれて来た。
そして今代、王家には可愛げの無い姉王女と誰からも愛される妹王女の二人が誕生していた……
グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌは18歳の誕生日を向かえた後、
儀式に挑むが神の声を聞く事が出来なかった事で冷遇されるようになる。
そして2年後、妹の第二王女、マリアーナが“神の声”を聞いた事で聖女となる。
聖女となったマリアーナは、まず、リディエンヌの婚約者を奪い、リディエンヌの居場所をどんどん奪っていく……
そして、とうとうリディエンヌは“出来損ないでお荷物な王女”と蔑まれたあげく、不要な王女として捨てられてしまう。
そんな捨てられた先の国で、リディエンヌを拾ってくれたのは、
通称・氷の貴公子様と呼ばれるくらい、人には冷たい男、ダグラス。
二人の出会いはあまり良いものではなかったけれど───
一方、リディエンヌを捨てたグォンドラ王国は、何故か謎の天変地異が起き、国が崩壊寸前となっていた……
追記:
あと少しで完結予定ですが、
長くなったので、短編⇒長編に変更しました。(2022.11.6)
婚約破棄させようと王子の婚約者を罠に嵌めるのに失敗した男爵令嬢のその後
春野こもも
恋愛
王子に婚約破棄をしてもらおうと、婚約者の侯爵令嬢を罠に嵌めようとして失敗し、実家から勘当されたうえに追放された、とある男爵令嬢のその後のお話です。
『婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~』(全2話)の男爵令嬢のその後のお話……かもしれません。ですがこの短編のみでお読みいただいてもまったく問題ありません。
コメディ色が強いので、上記短編の世界観を壊したくない方はご覧にならないほうが賢明です(>_<)
なろうラジオ大賞用に1000文字以内のルールで執筆したものです。
ふわりとお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる