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エロゲ攻略対象も楽ではありませんが、聖女はメリバで幸せそうだ
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モモカは異世界に転移した。もう三ヶ月も前の事だ。
喚び出されたのはなんと、異世界人であるモモカがエクスタシーを極めると神秘のエネルギーを生成することができる。という設定のエロゲー世界だった。
つまりモモカは生体発電機的な何某かとして、エネルギーを補給するために必要不可欠な人材。そう、国を支える救世の聖女様となったのだ。
当初はもちろんびっくりして不安を感じたし、ちょっぴりナーバスにもなった。
しかし幸運にも、この世界はモモカにとってプレイ済みゲームの世界だった。しかもかなりハマってやり込んだゲームだったのである。就職した会社のブラックっぷりや、ゲスな彼氏などの現実から逃避するのに、よく活用させてもらった。心の支えだったと言っても過言ではない。
荒んだ心の慰めに、毎日没頭していた世界だ。それに何より待遇が良い。一度現状を受け入れて仕舞えば、こんなトンデモ設定も「ばっちこい」である。
実際は、プレイヤーの中から適材として選別された人材なので、エロゲー世界にすんなり溶け込めてしまえるのも割と当然の結果であるのだが。その辺は運営サイドの都合なので説明は省く。
大事なのは、世界のためにと課された役割によって、モモカが日夜、複数の相手との性行為に励まなければならない。という建前を手に入れたことだ。
「あっ……♡」
「ここ、ですか……?」
「んんっ♡……あああんっあ、♡あっ……はう、んっ♡♡」
「くっ……ふっ、」
「んあんっ♡あっ♡いくっ♡いっちゃううぅっ♡♡っあーーーっ♡♡」
モモカが達すると、男はまだ勃ち上がったままの屹立をを引き抜いた。
「ふあぁん……♡」
「ふ、聖女様。また後ほど」
「はぁい♡」
くたりとベッドに体を預けるモモカ。男はガウンの前を合わせると部屋を立ち去る。ここで一旦休憩できるようだ。入れ替わりで小姓が入室する。
「聖女様、少し宜しいですか」
「え♡」
小姓と一緒に訪ねて来たお客さんが居たようだ。その聞き覚えのある声に、小姓に助けられながら急いで起き上がるモモカ。ショールを肩に掛けて、胸の谷間もあらわに微笑む。
「ユーインさま♡」
「お勤めご苦労様です。お体、お辛くないですか?」
「はひ♡大丈夫れす♡」
ユーインはゲームに登場する攻略対象の中で、モモカの最推しである。
黒髪に紫紺の瞳の細マッチョ。全キャラ中美形度ナンバーワン。とっても真面目でちょっとツンデレな敬語キャラ。
少し冷血そうな無表情が堪らない。今すぐ抱いて欲しい。否、抱きたい。
「ユーインさま♡今日は……」
「王太子殿下の命によりご機嫌伺いに参上しました」
「え♡じゃ、じゃあ……♡」
「滋養の高い果物などお持ちしております。お納めください」
「あっ♡は、はい♡……うれしい、です♡」
実じゃなくて、身を差し出してほしかった。モモカは軽く暴れそうになりながら、気合いでシナを作る。
ユーインはデレるまでが非常に長い。プレイヤー間でラスボスと評される王太子殿下と並ぶ、難攻不落のSSキャラなのだ。今日も今日とて無難な業務連絡だけを済ますと、躊躇いもなく暇を乞う。
「あ、あの♡今度ゆっくりお茶でも……」
「そうですね。では神殿長に進言しましょう」
「いや、は……はい♡」
それはユーインとの、お茶の時間だろうか……?ただの新しい日課を提案しようとしていないだろうか……?いや、しかし、ティータイムがルーティーン化すれば、結果的にユーインとのお茶に繋がるかもしれないのか……?
「あ♡あれ……?」
モモカが悩んでいるうちに、いつの間にかユーインは部屋を去ろうとしている。戸口で振り向いて最後に一言、といった雰囲気。一部の隙もない身のこなし。全然攻略できてる気がしない。
「困ったことがあれば、お側にいる者に何なりとお申し付け下さい。では、また」
「ああん……♡また、来て下さいね♡」
寂しく手を振って見送る。なんの余韻も残さずにユーインは行ってしまった。
ため息をつき、虚しさを抱えて部屋を振り返れば、ユーインが持参した果物がカットされてテーブルに置かれている。
小姓くんの仕事が早い。甘い香りがちょっぴり荒んだ心を慰める。桃のような匂いだ。絶対美味しい。
モモカはいそいそと椅子に座る。フォークを手に取り、柔らかな果肉を一切れ頬張った。唇から果汁が滴るほどに瑞々しい。甘い。美味しい。
次のお相手に口移しで食べさせたなら、さぞかし盛り上がるだろうと考えて、モモカは「うふふ♡」と口元を緩めた。
休憩は早めに切り上げる事になりそうだ。
「ただいま戻りました」
「お帰りユーイン、ご苦労様。聖女様はどんな様子だった?」
書類の山から顔を上げてユーインを労うのは、少しクセのある金髪と、空色の瞳の青年。穏やかで優しげな印象のその人は、ユーインが側近として仕えるシリル王太子殿下である。
平穏無事な主人の姿を確かめて、ユーインは緊張を緩める。
「はい。聖女様におかれましては、こちらの暮らしにご満足頂いているようで、健やかに仕事に励んでいらっしゃいました」
「うん。ユーイン、おいで」
澄んだ青い瞳が、もの言いたげにこちらを見ている。ユーインは吸い寄せられるように近づき、足元に跪いた。さもそれが当然であるように。
王太子は目を愛しげに細める。
「どうした?変な顔をして」
ユーインは気まずそうに目を泳がせて躊躇いがちに口を開く。
「殿下。聖女様は何故あんなに幸せそうにしていられるのでしょう」
モモカの前では機能停止していた表情筋が本領を発揮して、迷子のような不安げな顔を晒している。王太子はユーインを安心させるように小さく頷いて見せた。
窓から差し込む斜陽に、金の髪がキラキラと輝やいて神々しい。
「聖女の選択が不思議か?」
「私には恐ろしくさえあります」
王太子の足の間に膝をつき、祈るように主人を見上げるユーイン。深い青の中に緑や紫が混じる宝石の様な瞳が、頼りなく揺れている。
王太子はそっと手を差し出した。
「私が思うに。人は、長い時間をかけて狼を犬に、原牛を乳牛へと変えて家畜化したように。争いを良しとせず、他者との共生を好む都市型社会に適す家畜へと、自らを、変化してきた。これによって都市は肥大化を可能とし、幾多のメガロポリスを生み出した。そうして巨大な経済圏を擁する国家形成の道へと至ったのだ」
慰めるように伸ばされた手に、ユーインは頬を擦り寄せ瞼を伏せる。長い指が優しく耳殻を撫でた。
「交戦的な人間の集まりでは、こうは行くまい」
指先はそのまま頬を辿り、唇を撫でる。抵抗のない柔らかな感触を楽しんでいたかと思えば、しっとりと潤う粘膜にまで触れて遊ぶ。
「聖女の故郷は、ここを超える経済規模を持つ国家だと伝え聞く。人が多いほど争いの芽も増すとすれば、より高度な文明人ほど、家畜としての自身に安らぎを覚えるよう進化する必要があったのかもしれない」
英明な言葉とは裏腹に、横暴な彼の指は歯列をなぞり、ここを開けろと訴える。ユーインは顔を赤くして目を閉じ、震えながら侵入を許す。
指は無遠慮に口内を犯し、ユーインの舌を撫でさすった。
あえかな息遣いで涙を浮かべるユーインの口元から、唾液が一筋、肌を伝い落ちていくのを、王太子はじっと見ていた。
「家畜としての生に依存する者さえ現れるほどに」
魅入られたような王太子は呟く加減でそう言うと、そっとユーインの唇を解放した。ユーインの中心が勃ち上がって居るのを、チラリと確かめながら。
「とは言え、飼われるには主人が必要だ。主人となる者は家畜であってはならない。望む望まざるとにかかわらず、我々は支配する側の人間なのだ」
王太子はユーインの顎に指を添え、顔を上げさせる。視線を合わせて、そっと憐れむように、諭すように言った。
恍惚としていたユーインは、王太子の表情を確かめて眉を寄せる。彼はどうして悲しんでいるのかと。
「可哀想なユーイン。進化してしまった人類にとってどちらの生き方が幸せなのか、私には分からない」
王太子の目に諦めが過る。ユーインは、はっと息を呑んだ。
「いいえ……!」
離れようとする王太子の手を取ったユーインは、麗しい顔に生気を取り戻す。腰を上げ半歩前へ。二人を隔たる距離を無くして、目を丸くする王太子と視線を絡める。
「私の幸せは、貴方と共に闘うこと。私の支配者は私自身と、唯一の貴方。貴方以外の誰かとなどと、考えるだに悍ましい」
ユーインという一匹の、美しい狼。
彼は怒りすら滲ませ、番を等閑にして家畜に甘んじる気など更々ないと断言する。生涯ただ一人を愛し抜き、群れを守って生きるのが己の望むところだと。
しばし茫然としていた王太子は、さっと顔を赤らめて口元に手をやった。
ユーインの顔がいい。圧倒的にいい。その上、自分だけに心を許して愛を囁くのだ。たまらん。
少し垂れ目がちの相好を崩し、甘いマスクを蕩けさせる。
「可愛いユーイン。もちろん私もだよ」
両手でユーインの頬を包み、王太子はゆっくりと顔を近づける。絡み合う視線をそのままに額を合わせて「ふふ」と笑い、どちらともなく唇を触れ合わせる。
やわやわと啄み、舌先で形を辿る。音を立てて吸い付いて悪戯に甘噛む。口づけは次第に深くなっていく。舌を絡めあいながら、熱くなる身体を擦り付け合う若い番。
余裕をなくして身を悶える二人の吐息が、ユーインの耳を犯した。身体は、唯一の人が求めてくれる悦びに打ち震える。
こんな幸福が他にあるだろうか。
夢中になっている内に、王太子はユーインの身体を我が物顔で弄って乱していく。
手早く外される釦。肌けられる胸元。淫靡な指が素肌を撫で回す。
「あっ殿下……」
「名前を」
「ふぁっシ、シリル……」
二人はもつれ合いながら奥のソファに雪崩れ込んだ。ユーインは仰向けに押し倒される。
ドサリと覆いかぶさる熱い身体。雨上がりの森の様な香りに包まれ、鼻を擦り寄せる。大好きな匂い。
淫蕩に酔うユーインの無防備な耳朶に、熱い唇が触れて、耳腔にぴちゃりと舌が這った。
「くぅ……んっ……!」
「耳、好き?」
身を跳ねさせるユーインの答えを待たず、首筋に、鎖骨にと、甘いうずきを灯す口づけは移ろう。次なる愛撫を期待してドクドクと高鳴る鼓動。
けれど慕わしい体は不意にユーインを置き去りにする。遠ざかる森の香り。
上体を起こした王太子は、煩わしそうに着崩れた衣服をバサリと脱ぎ捨てる。
ユーインは目を奪われ胸を上下させた。
「いいね、物欲しそうな顔。そそるよ」
見慣れたはずの社交的かつ品の良い鉄壁の王太子はどこにも居ない。雄の目をしてユーインを見下ろす素顔のシリル。
自分にだけ見せるその表情に、ユーインは堪らない気持ちになる。早く、めちゃくちゃにしてくれと。
もちろん望みはすぐに叶えられた。
ケダモノと化したその人に、身体中のあらゆる場所に舌を這わされ、泣きながら足を開かされる。後孔はあっという間に三本の指を受け入れて、もっと太いモノをと涎を垂らす。行き場なく震える屹立は先走りに濡れて、解放の許しを健気に待っている。
「シリル!シリル……もう、もうイかせて……!」
「いいよ。どうして欲しい?」
ハラハラと涙をこぼしながら、ユーインは言葉を飲む。言うべき台詞は分かっているのに。
王太子はその一言を、舌なめずりして待ちながら、意地悪く会陰に自身を擦り付けてくる。
こうしてユーインが恥じらう姿を殊更に喜ぶのだ。この男、優しげに装ってドSである。
「んあっ……あっい、いれて……!」
「ふっ」
「ああぁ……!!」
一息に剛直を受け入れたユーインは、挿入と共に精を放ち、ビクビクと身を震わせる。
「くぅっ……ユーイン!」
王太子は堪らずに腰を振り立てた。二人の体が重なる音と嬌声が部屋に響く。
行き過ぎた快楽に身を捩るユーインを捕まえて唇を合わせ、体を波打たせる。絶頂へとひた走る。その性急さがユーインには嬉しかった。
太陽はいつの間にか顔を隠し、しっとりと滑らかな闇が世界を包む。静寂を乱すのは二匹の獣の蠢く音と、荒々しい息遣いだけ。
今だけは何もかも忘れて、唯の生き物となれる。欲を満たし、恋に浮かれ、死ぬまでを生きる、一個の命に。
そしていつしか二人は果てる。
「あああぁ!!」
「くっ……んん。ふ、はあ、はあ、ふぅ……ユーイン、ユーイン……。愛してる」
「ん、あぁ……はぁ、はぁ……私も、です」
やがて息が整えば、またもぞもぞと人間に戻って、二人は互いの身を繕った。
しっとりと汗に濡れた背を拭い、乱れた髪を結い直す。
王太子は未だ執務中である。仕事は山積みだ。多少のことは皆も素知らぬふりをしてくれるが、余り気を使わせるのも忍びない。
フワフワと癖のある金の髪を梳るユーインに、背中を預けたままで王太子が言う。
「明日は北の二十二番聖女に顔を見せてきてくれるか?ユーインをご所望だそうだ」
「承りました」
すっかり無表情に戻ったユーインはツンとすまして応える。王太子はどこか不満そう。
意地悪く留意点を付け加える。
「ただし、指一本触れさせないこと」
貴人らしく堂々と鏡の前に座る王太子は、背に立つユーインをじっと見つめる。
身勝手な我儘を突きつけながら、いじらしく反応を伺う恋人と、鏡越しに見つめ合い、ユーインは微笑んだ。
「もちろんです」
王太子はユーインの手を捕まえて唇を寄せる。音を立ててキスを落とすと、素っ気なく立ち上がって書類に手を伸ばした。ユーインも後に続く。
空は晴れて星が輝いていた。
夜はまだ始まったばかり。
【知らなくてもいい話】
ユーイン達は両性生殖の生き物です。見た目は男性モデル。中身は雌雄同体。
ゲームでは男しかいない世界とされていたので、モモカはその様に認識しています。子供は木の股から産まれるような世界だと思っているかも。
モモカにご奉仕している人達は、厳しい審査を通過した犯罪奴隷。性別のない世界における女性は、きっとかなり違和感のある存在でしょうから、そのお相手は、罪人の役目とされる程度には不人気な役割。
いったい何人いるのか分からない転移聖女達ですが、この世界の人間とは交配できません。只々エネルギーを生産するだけのエロ行為を繰り返しています。多分それが本人達の望む(性)生活で、そういうところが選ばれた聖女たる所以です。
聖女には引退制度がありますが、誰も申請しません。きっとモモカも望んで死ぬまで聖女です。
喚び出されたのはなんと、異世界人であるモモカがエクスタシーを極めると神秘のエネルギーを生成することができる。という設定のエロゲー世界だった。
つまりモモカは生体発電機的な何某かとして、エネルギーを補給するために必要不可欠な人材。そう、国を支える救世の聖女様となったのだ。
当初はもちろんびっくりして不安を感じたし、ちょっぴりナーバスにもなった。
しかし幸運にも、この世界はモモカにとってプレイ済みゲームの世界だった。しかもかなりハマってやり込んだゲームだったのである。就職した会社のブラックっぷりや、ゲスな彼氏などの現実から逃避するのに、よく活用させてもらった。心の支えだったと言っても過言ではない。
荒んだ心の慰めに、毎日没頭していた世界だ。それに何より待遇が良い。一度現状を受け入れて仕舞えば、こんなトンデモ設定も「ばっちこい」である。
実際は、プレイヤーの中から適材として選別された人材なので、エロゲー世界にすんなり溶け込めてしまえるのも割と当然の結果であるのだが。その辺は運営サイドの都合なので説明は省く。
大事なのは、世界のためにと課された役割によって、モモカが日夜、複数の相手との性行為に励まなければならない。という建前を手に入れたことだ。
「あっ……♡」
「ここ、ですか……?」
「んんっ♡……あああんっあ、♡あっ……はう、んっ♡♡」
「くっ……ふっ、」
「んあんっ♡あっ♡いくっ♡いっちゃううぅっ♡♡っあーーーっ♡♡」
モモカが達すると、男はまだ勃ち上がったままの屹立をを引き抜いた。
「ふあぁん……♡」
「ふ、聖女様。また後ほど」
「はぁい♡」
くたりとベッドに体を預けるモモカ。男はガウンの前を合わせると部屋を立ち去る。ここで一旦休憩できるようだ。入れ替わりで小姓が入室する。
「聖女様、少し宜しいですか」
「え♡」
小姓と一緒に訪ねて来たお客さんが居たようだ。その聞き覚えのある声に、小姓に助けられながら急いで起き上がるモモカ。ショールを肩に掛けて、胸の谷間もあらわに微笑む。
「ユーインさま♡」
「お勤めご苦労様です。お体、お辛くないですか?」
「はひ♡大丈夫れす♡」
ユーインはゲームに登場する攻略対象の中で、モモカの最推しである。
黒髪に紫紺の瞳の細マッチョ。全キャラ中美形度ナンバーワン。とっても真面目でちょっとツンデレな敬語キャラ。
少し冷血そうな無表情が堪らない。今すぐ抱いて欲しい。否、抱きたい。
「ユーインさま♡今日は……」
「王太子殿下の命によりご機嫌伺いに参上しました」
「え♡じゃ、じゃあ……♡」
「滋養の高い果物などお持ちしております。お納めください」
「あっ♡は、はい♡……うれしい、です♡」
実じゃなくて、身を差し出してほしかった。モモカは軽く暴れそうになりながら、気合いでシナを作る。
ユーインはデレるまでが非常に長い。プレイヤー間でラスボスと評される王太子殿下と並ぶ、難攻不落のSSキャラなのだ。今日も今日とて無難な業務連絡だけを済ますと、躊躇いもなく暇を乞う。
「あ、あの♡今度ゆっくりお茶でも……」
「そうですね。では神殿長に進言しましょう」
「いや、は……はい♡」
それはユーインとの、お茶の時間だろうか……?ただの新しい日課を提案しようとしていないだろうか……?いや、しかし、ティータイムがルーティーン化すれば、結果的にユーインとのお茶に繋がるかもしれないのか……?
「あ♡あれ……?」
モモカが悩んでいるうちに、いつの間にかユーインは部屋を去ろうとしている。戸口で振り向いて最後に一言、といった雰囲気。一部の隙もない身のこなし。全然攻略できてる気がしない。
「困ったことがあれば、お側にいる者に何なりとお申し付け下さい。では、また」
「ああん……♡また、来て下さいね♡」
寂しく手を振って見送る。なんの余韻も残さずにユーインは行ってしまった。
ため息をつき、虚しさを抱えて部屋を振り返れば、ユーインが持参した果物がカットされてテーブルに置かれている。
小姓くんの仕事が早い。甘い香りがちょっぴり荒んだ心を慰める。桃のような匂いだ。絶対美味しい。
モモカはいそいそと椅子に座る。フォークを手に取り、柔らかな果肉を一切れ頬張った。唇から果汁が滴るほどに瑞々しい。甘い。美味しい。
次のお相手に口移しで食べさせたなら、さぞかし盛り上がるだろうと考えて、モモカは「うふふ♡」と口元を緩めた。
休憩は早めに切り上げる事になりそうだ。
「ただいま戻りました」
「お帰りユーイン、ご苦労様。聖女様はどんな様子だった?」
書類の山から顔を上げてユーインを労うのは、少しクセのある金髪と、空色の瞳の青年。穏やかで優しげな印象のその人は、ユーインが側近として仕えるシリル王太子殿下である。
平穏無事な主人の姿を確かめて、ユーインは緊張を緩める。
「はい。聖女様におかれましては、こちらの暮らしにご満足頂いているようで、健やかに仕事に励んでいらっしゃいました」
「うん。ユーイン、おいで」
澄んだ青い瞳が、もの言いたげにこちらを見ている。ユーインは吸い寄せられるように近づき、足元に跪いた。さもそれが当然であるように。
王太子は目を愛しげに細める。
「どうした?変な顔をして」
ユーインは気まずそうに目を泳がせて躊躇いがちに口を開く。
「殿下。聖女様は何故あんなに幸せそうにしていられるのでしょう」
モモカの前では機能停止していた表情筋が本領を発揮して、迷子のような不安げな顔を晒している。王太子はユーインを安心させるように小さく頷いて見せた。
窓から差し込む斜陽に、金の髪がキラキラと輝やいて神々しい。
「聖女の選択が不思議か?」
「私には恐ろしくさえあります」
王太子の足の間に膝をつき、祈るように主人を見上げるユーイン。深い青の中に緑や紫が混じる宝石の様な瞳が、頼りなく揺れている。
王太子はそっと手を差し出した。
「私が思うに。人は、長い時間をかけて狼を犬に、原牛を乳牛へと変えて家畜化したように。争いを良しとせず、他者との共生を好む都市型社会に適す家畜へと、自らを、変化してきた。これによって都市は肥大化を可能とし、幾多のメガロポリスを生み出した。そうして巨大な経済圏を擁する国家形成の道へと至ったのだ」
慰めるように伸ばされた手に、ユーインは頬を擦り寄せ瞼を伏せる。長い指が優しく耳殻を撫でた。
「交戦的な人間の集まりでは、こうは行くまい」
指先はそのまま頬を辿り、唇を撫でる。抵抗のない柔らかな感触を楽しんでいたかと思えば、しっとりと潤う粘膜にまで触れて遊ぶ。
「聖女の故郷は、ここを超える経済規模を持つ国家だと伝え聞く。人が多いほど争いの芽も増すとすれば、より高度な文明人ほど、家畜としての自身に安らぎを覚えるよう進化する必要があったのかもしれない」
英明な言葉とは裏腹に、横暴な彼の指は歯列をなぞり、ここを開けろと訴える。ユーインは顔を赤くして目を閉じ、震えながら侵入を許す。
指は無遠慮に口内を犯し、ユーインの舌を撫でさすった。
あえかな息遣いで涙を浮かべるユーインの口元から、唾液が一筋、肌を伝い落ちていくのを、王太子はじっと見ていた。
「家畜としての生に依存する者さえ現れるほどに」
魅入られたような王太子は呟く加減でそう言うと、そっとユーインの唇を解放した。ユーインの中心が勃ち上がって居るのを、チラリと確かめながら。
「とは言え、飼われるには主人が必要だ。主人となる者は家畜であってはならない。望む望まざるとにかかわらず、我々は支配する側の人間なのだ」
王太子はユーインの顎に指を添え、顔を上げさせる。視線を合わせて、そっと憐れむように、諭すように言った。
恍惚としていたユーインは、王太子の表情を確かめて眉を寄せる。彼はどうして悲しんでいるのかと。
「可哀想なユーイン。進化してしまった人類にとってどちらの生き方が幸せなのか、私には分からない」
王太子の目に諦めが過る。ユーインは、はっと息を呑んだ。
「いいえ……!」
離れようとする王太子の手を取ったユーインは、麗しい顔に生気を取り戻す。腰を上げ半歩前へ。二人を隔たる距離を無くして、目を丸くする王太子と視線を絡める。
「私の幸せは、貴方と共に闘うこと。私の支配者は私自身と、唯一の貴方。貴方以外の誰かとなどと、考えるだに悍ましい」
ユーインという一匹の、美しい狼。
彼は怒りすら滲ませ、番を等閑にして家畜に甘んじる気など更々ないと断言する。生涯ただ一人を愛し抜き、群れを守って生きるのが己の望むところだと。
しばし茫然としていた王太子は、さっと顔を赤らめて口元に手をやった。
ユーインの顔がいい。圧倒的にいい。その上、自分だけに心を許して愛を囁くのだ。たまらん。
少し垂れ目がちの相好を崩し、甘いマスクを蕩けさせる。
「可愛いユーイン。もちろん私もだよ」
両手でユーインの頬を包み、王太子はゆっくりと顔を近づける。絡み合う視線をそのままに額を合わせて「ふふ」と笑い、どちらともなく唇を触れ合わせる。
やわやわと啄み、舌先で形を辿る。音を立てて吸い付いて悪戯に甘噛む。口づけは次第に深くなっていく。舌を絡めあいながら、熱くなる身体を擦り付け合う若い番。
余裕をなくして身を悶える二人の吐息が、ユーインの耳を犯した。身体は、唯一の人が求めてくれる悦びに打ち震える。
こんな幸福が他にあるだろうか。
夢中になっている内に、王太子はユーインの身体を我が物顔で弄って乱していく。
手早く外される釦。肌けられる胸元。淫靡な指が素肌を撫で回す。
「あっ殿下……」
「名前を」
「ふぁっシ、シリル……」
二人はもつれ合いながら奥のソファに雪崩れ込んだ。ユーインは仰向けに押し倒される。
ドサリと覆いかぶさる熱い身体。雨上がりの森の様な香りに包まれ、鼻を擦り寄せる。大好きな匂い。
淫蕩に酔うユーインの無防備な耳朶に、熱い唇が触れて、耳腔にぴちゃりと舌が這った。
「くぅ……んっ……!」
「耳、好き?」
身を跳ねさせるユーインの答えを待たず、首筋に、鎖骨にと、甘いうずきを灯す口づけは移ろう。次なる愛撫を期待してドクドクと高鳴る鼓動。
けれど慕わしい体は不意にユーインを置き去りにする。遠ざかる森の香り。
上体を起こした王太子は、煩わしそうに着崩れた衣服をバサリと脱ぎ捨てる。
ユーインは目を奪われ胸を上下させた。
「いいね、物欲しそうな顔。そそるよ」
見慣れたはずの社交的かつ品の良い鉄壁の王太子はどこにも居ない。雄の目をしてユーインを見下ろす素顔のシリル。
自分にだけ見せるその表情に、ユーインは堪らない気持ちになる。早く、めちゃくちゃにしてくれと。
もちろん望みはすぐに叶えられた。
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「シリル!シリル……もう、もうイかせて……!」
「いいよ。どうして欲しい?」
ハラハラと涙をこぼしながら、ユーインは言葉を飲む。言うべき台詞は分かっているのに。
王太子はその一言を、舌なめずりして待ちながら、意地悪く会陰に自身を擦り付けてくる。
こうしてユーインが恥じらう姿を殊更に喜ぶのだ。この男、優しげに装ってドSである。
「んあっ……あっい、いれて……!」
「ふっ」
「ああぁ……!!」
一息に剛直を受け入れたユーインは、挿入と共に精を放ち、ビクビクと身を震わせる。
「くぅっ……ユーイン!」
王太子は堪らずに腰を振り立てた。二人の体が重なる音と嬌声が部屋に響く。
行き過ぎた快楽に身を捩るユーインを捕まえて唇を合わせ、体を波打たせる。絶頂へとひた走る。その性急さがユーインには嬉しかった。
太陽はいつの間にか顔を隠し、しっとりと滑らかな闇が世界を包む。静寂を乱すのは二匹の獣の蠢く音と、荒々しい息遣いだけ。
今だけは何もかも忘れて、唯の生き物となれる。欲を満たし、恋に浮かれ、死ぬまでを生きる、一個の命に。
そしていつしか二人は果てる。
「あああぁ!!」
「くっ……んん。ふ、はあ、はあ、ふぅ……ユーイン、ユーイン……。愛してる」
「ん、あぁ……はぁ、はぁ……私も、です」
やがて息が整えば、またもぞもぞと人間に戻って、二人は互いの身を繕った。
しっとりと汗に濡れた背を拭い、乱れた髪を結い直す。
王太子は未だ執務中である。仕事は山積みだ。多少のことは皆も素知らぬふりをしてくれるが、余り気を使わせるのも忍びない。
フワフワと癖のある金の髪を梳るユーインに、背中を預けたままで王太子が言う。
「明日は北の二十二番聖女に顔を見せてきてくれるか?ユーインをご所望だそうだ」
「承りました」
すっかり無表情に戻ったユーインはツンとすまして応える。王太子はどこか不満そう。
意地悪く留意点を付け加える。
「ただし、指一本触れさせないこと」
貴人らしく堂々と鏡の前に座る王太子は、背に立つユーインをじっと見つめる。
身勝手な我儘を突きつけながら、いじらしく反応を伺う恋人と、鏡越しに見つめ合い、ユーインは微笑んだ。
「もちろんです」
王太子はユーインの手を捕まえて唇を寄せる。音を立ててキスを落とすと、素っ気なく立ち上がって書類に手を伸ばした。ユーインも後に続く。
空は晴れて星が輝いていた。
夜はまだ始まったばかり。
【知らなくてもいい話】
ユーイン達は両性生殖の生き物です。見た目は男性モデル。中身は雌雄同体。
ゲームでは男しかいない世界とされていたので、モモカはその様に認識しています。子供は木の股から産まれるような世界だと思っているかも。
モモカにご奉仕している人達は、厳しい審査を通過した犯罪奴隷。性別のない世界における女性は、きっとかなり違和感のある存在でしょうから、そのお相手は、罪人の役目とされる程度には不人気な役割。
いったい何人いるのか分からない転移聖女達ですが、この世界の人間とは交配できません。只々エネルギーを生産するだけのエロ行為を繰り返しています。多分それが本人達の望む(性)生活で、そういうところが選ばれた聖女たる所以です。
聖女には引退制度がありますが、誰も申請しません。きっとモモカも望んで死ぬまで聖女です。
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