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その悪役令息は記憶を奪われた。
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「ジュスト、私が分かるか?」
「…いいえ」
「うん。それでいいよ。」
ここは温もりに満たされている。
ひどく心地よい。
手を取られ手首の内側の柔らかく薄い皮膚に口付けられる、離れた唇の感触の残る箇所には雫の軌跡に似た傷跡が有った。
「私が守ってあげるよ。」
孵化した雛への刷り込みよろしく、僕の世界の始まりに燦然と焼き付いたその人は、シーツに背中を預ける僕の体に覆い被さり額にかかる髪を払う。
至近距離に有る顔面は滑らかで黒子のひとつもなく、見つめる瞳は磨き抜かれたアメジスト。
焦点を失う程に近づいて唇で触れ合う。
首根に指を差し込んで髪を掴まれ拘束されると、角度を変えて責められる。
いつの間にか隙間を無くした2人の胸が合わさって熱を擦り付けられている。
上唇を舐め上げられると体がびくりと震えて鼻から息が漏れる。今度は下唇に歯を立てられて堪らず声を上げてしまい、間髪入れずに舌が潜り込んで蠢く肉と粘液に蹂躙される。
僕の服の下には腕にあるよりもっと沢山の傷が隠れていた。
その一つ一つに舌を這わす美しい人の名を知らない事がもどかしい。
「貴方は誰?」
睦言に凡そ相応しからぬ言葉にも、微笑みを浮かべるこの人の事をもっと知りたい。
「私は貴方の夫だよ。」
僕の掌を自分の頬に押し当てて嬉しそうに言う。
「アリスター。」
「アリスター?」
「そう。もっと呼んで?」
「アリスター…。」
「うん。」
嬉しそうに目蓋を伏せて僕の掌の真ん中にキスすると、ゆっくりと手を戻して開いた目に燻る情欲が優しげな表情を裏切っていた。
僕の入口に押し当てられていた先端が動き出す。
ぬくりと押し広げ侵入を許すものの、想像を超える圧迫感に身体が強張る。
「ああ…まっ、まってぇ…」
「ん、きついね…。力を抜いて、もう少し頑張って。」
アリスターは容赦なく行為を続ける。
「ほら、ヌルヌルして気持ちいいでしょ?こっちも触ってあげるね。」
「ふ、んんん…だめ、いたいぃ…。」
「大丈夫、ゆっくりするからね。」
丁寧な愛撫にも拭えぬ違和感に浮かぶ疑惑…。
「は、あ…も、もしかして、初めてなの?」
「ふふ…。」
悪戯を見咎められた子供のような無邪気さでアリスターが笑う。
「え?え?…僕達、夫婦なんだよね?」
「もうすぐ、夫婦、…かな?」
さっき迄はこの人が誰であろうと構わないとさえ思っていたのに、不意に見せられたアリスターの人間味に現実感が押し寄せてくる。
「貴方は、僕の、…夫?」
「ううんと…、未来の、夫、かな…?」
「んな…。」
目を見開いて絶句する僕を、クスクスと笑うアリスター。
「ああ、その反応はまさしくジュスト。大丈夫。私達はきっと良い夫婦になるよ。」
そう言うと自分の唇で僕の口を塞ぎ、行為を再開する。
僕は混乱と痛みと兆し始めた官能に恐慌状態で、逃げを打とうとするものの、バタつく脚を抱え上げられて無力に涙を流すしか無い。
アリスターは泣き濡れる僕を見下ろして恍惚と腰を振る。
「ああ、ジュスト、愛してる。捕まえた。私の、ジュスト…。」
抵抗も虚しくなる程グズグズに愛され尽くした果てに熱い精液が腹の中に迸るのをぼんやりと感じ取った。
貴方は僕の未来の夫で、僕は、一体、誰なんだ?
「アリスター殿下。」
「おや、神子殿。お元気かな?」
「元気じゃないです!何故、学園へいらっしゃらないのです?寂しいです!」
異世界からの落人の黒髪の少年がアリスターに擦り寄る。
「貴方のお陰で私の婚約者の窮状を知る事が出来て、対応に追われていたのです。」
「対応…?」
「ええ、無事に父親から引き離して王宮に保護できました。感謝します。」
「え…?なんで?…断罪じゃ、ないの?」
「ジュストは解放が難しい程に洗脳を受けていましたので、記憶を封じて、今は本来の姿に、私の可愛い婚約者に立ち戻る事が出来ました。」
「は?可愛い?」
「では、引き続き貴方の活躍に期待していますよ。」
美貌の第一王子は颯爽と立ち去って行く。
おそらくは手折ったばかりの愛しの婚約者の元に向かって。
「え…」
「えぇ…なにそれぇ……」
「…いいえ」
「うん。それでいいよ。」
ここは温もりに満たされている。
ひどく心地よい。
手を取られ手首の内側の柔らかく薄い皮膚に口付けられる、離れた唇の感触の残る箇所には雫の軌跡に似た傷跡が有った。
「私が守ってあげるよ。」
孵化した雛への刷り込みよろしく、僕の世界の始まりに燦然と焼き付いたその人は、シーツに背中を預ける僕の体に覆い被さり額にかかる髪を払う。
至近距離に有る顔面は滑らかで黒子のひとつもなく、見つめる瞳は磨き抜かれたアメジスト。
焦点を失う程に近づいて唇で触れ合う。
首根に指を差し込んで髪を掴まれ拘束されると、角度を変えて責められる。
いつの間にか隙間を無くした2人の胸が合わさって熱を擦り付けられている。
上唇を舐め上げられると体がびくりと震えて鼻から息が漏れる。今度は下唇に歯を立てられて堪らず声を上げてしまい、間髪入れずに舌が潜り込んで蠢く肉と粘液に蹂躙される。
僕の服の下には腕にあるよりもっと沢山の傷が隠れていた。
その一つ一つに舌を這わす美しい人の名を知らない事がもどかしい。
「貴方は誰?」
睦言に凡そ相応しからぬ言葉にも、微笑みを浮かべるこの人の事をもっと知りたい。
「私は貴方の夫だよ。」
僕の掌を自分の頬に押し当てて嬉しそうに言う。
「アリスター。」
「アリスター?」
「そう。もっと呼んで?」
「アリスター…。」
「うん。」
嬉しそうに目蓋を伏せて僕の掌の真ん中にキスすると、ゆっくりと手を戻して開いた目に燻る情欲が優しげな表情を裏切っていた。
僕の入口に押し当てられていた先端が動き出す。
ぬくりと押し広げ侵入を許すものの、想像を超える圧迫感に身体が強張る。
「ああ…まっ、まってぇ…」
「ん、きついね…。力を抜いて、もう少し頑張って。」
アリスターは容赦なく行為を続ける。
「ほら、ヌルヌルして気持ちいいでしょ?こっちも触ってあげるね。」
「ふ、んんん…だめ、いたいぃ…。」
「大丈夫、ゆっくりするからね。」
丁寧な愛撫にも拭えぬ違和感に浮かぶ疑惑…。
「は、あ…も、もしかして、初めてなの?」
「ふふ…。」
悪戯を見咎められた子供のような無邪気さでアリスターが笑う。
「え?え?…僕達、夫婦なんだよね?」
「もうすぐ、夫婦、…かな?」
さっき迄はこの人が誰であろうと構わないとさえ思っていたのに、不意に見せられたアリスターの人間味に現実感が押し寄せてくる。
「貴方は、僕の、…夫?」
「ううんと…、未来の、夫、かな…?」
「んな…。」
目を見開いて絶句する僕を、クスクスと笑うアリスター。
「ああ、その反応はまさしくジュスト。大丈夫。私達はきっと良い夫婦になるよ。」
そう言うと自分の唇で僕の口を塞ぎ、行為を再開する。
僕は混乱と痛みと兆し始めた官能に恐慌状態で、逃げを打とうとするものの、バタつく脚を抱え上げられて無力に涙を流すしか無い。
アリスターは泣き濡れる僕を見下ろして恍惚と腰を振る。
「ああ、ジュスト、愛してる。捕まえた。私の、ジュスト…。」
抵抗も虚しくなる程グズグズに愛され尽くした果てに熱い精液が腹の中に迸るのをぼんやりと感じ取った。
貴方は僕の未来の夫で、僕は、一体、誰なんだ?
「アリスター殿下。」
「おや、神子殿。お元気かな?」
「元気じゃないです!何故、学園へいらっしゃらないのです?寂しいです!」
異世界からの落人の黒髪の少年がアリスターに擦り寄る。
「貴方のお陰で私の婚約者の窮状を知る事が出来て、対応に追われていたのです。」
「対応…?」
「ええ、無事に父親から引き離して王宮に保護できました。感謝します。」
「え…?なんで?…断罪じゃ、ないの?」
「ジュストは解放が難しい程に洗脳を受けていましたので、記憶を封じて、今は本来の姿に、私の可愛い婚約者に立ち戻る事が出来ました。」
「は?可愛い?」
「では、引き続き貴方の活躍に期待していますよ。」
美貌の第一王子は颯爽と立ち去って行く。
おそらくは手折ったばかりの愛しの婚約者の元に向かって。
「え…」
「えぇ…なにそれぇ……」
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