4 / 6
その悪役令息は記憶を奪われた。
しおりを挟む
「ジュスト、私が分かるか?」
「…いいえ」
「うん。それでいいよ。」
ここは温もりに満たされている。
ひどく心地よい。
手を取られ手首の内側の柔らかく薄い皮膚に口付けられる、離れた唇の感触の残る箇所には雫の軌跡に似た傷跡が有った。
「私が守ってあげるよ。」
孵化した雛への刷り込みよろしく、僕の世界の始まりに燦然と焼き付いたその人は、シーツに背中を預ける僕の体に覆い被さり額にかかる髪を払う。
至近距離に有る顔面は滑らかで黒子のひとつもなく、見つめる瞳は磨き抜かれたアメジスト。
焦点を失う程に近づいて唇で触れ合う。
首根に指を差し込んで髪を掴まれ拘束されると、角度を変えて責められる。
いつの間にか隙間を無くした2人の胸が合わさって熱を擦り付けられている。
上唇を舐め上げられると体がびくりと震えて鼻から息が漏れる。今度は下唇に歯を立てられて堪らず声を上げてしまい、間髪入れずに舌が潜り込んで蠢く肉と粘液に蹂躙される。
僕の服の下には腕にあるよりもっと沢山の傷が隠れていた。
その一つ一つに舌を這わす美しい人の名を知らない事がもどかしい。
「貴方は誰?」
睦言に凡そ相応しからぬ言葉にも、微笑みを浮かべるこの人の事をもっと知りたい。
「私は貴方の夫だよ。」
僕の掌を自分の頬に押し当てて嬉しそうに言う。
「アリスター。」
「アリスター?」
「そう。もっと呼んで?」
「アリスター…。」
「うん。」
嬉しそうに目蓋を伏せて僕の掌の真ん中にキスすると、ゆっくりと手を戻して開いた目に燻る情欲が優しげな表情を裏切っていた。
僕の入口に押し当てられていた先端が動き出す。
ぬくりと押し広げ侵入を許すものの、想像を超える圧迫感に身体が強張る。
「ああ…まっ、まってぇ…」
「ん、きついね…。力を抜いて、もう少し頑張って。」
アリスターは容赦なく行為を続ける。
「ほら、ヌルヌルして気持ちいいでしょ?こっちも触ってあげるね。」
「ふ、んんん…だめ、いたいぃ…。」
「大丈夫、ゆっくりするからね。」
丁寧な愛撫にも拭えぬ違和感に浮かぶ疑惑…。
「は、あ…も、もしかして、初めてなの?」
「ふふ…。」
悪戯を見咎められた子供のような無邪気さでアリスターが笑う。
「え?え?…僕達、夫婦なんだよね?」
「もうすぐ、夫婦、…かな?」
さっき迄はこの人が誰であろうと構わないとさえ思っていたのに、不意に見せられたアリスターの人間味に現実感が押し寄せてくる。
「貴方は、僕の、…夫?」
「ううんと…、未来の、夫、かな…?」
「んな…。」
目を見開いて絶句する僕を、クスクスと笑うアリスター。
「ああ、その反応はまさしくジュスト。大丈夫。私達はきっと良い夫婦になるよ。」
そう言うと自分の唇で僕の口を塞ぎ、行為を再開する。
僕は混乱と痛みと兆し始めた官能に恐慌状態で、逃げを打とうとするものの、バタつく脚を抱え上げられて無力に涙を流すしか無い。
アリスターは泣き濡れる僕を見下ろして恍惚と腰を振る。
「ああ、ジュスト、愛してる。捕まえた。私の、ジュスト…。」
抵抗も虚しくなる程グズグズに愛され尽くした果てに熱い精液が腹の中に迸るのをぼんやりと感じ取った。
貴方は僕の未来の夫で、僕は、一体、誰なんだ?
「アリスター殿下。」
「おや、神子殿。お元気かな?」
「元気じゃないです!何故、学園へいらっしゃらないのです?寂しいです!」
異世界からの落人の黒髪の少年がアリスターに擦り寄る。
「貴方のお陰で私の婚約者の窮状を知る事が出来て、対応に追われていたのです。」
「対応…?」
「ええ、無事に父親から引き離して王宮に保護できました。感謝します。」
「え…?なんで?…断罪じゃ、ないの?」
「ジュストは解放が難しい程に洗脳を受けていましたので、記憶を封じて、今は本来の姿に、私の可愛い婚約者に立ち戻る事が出来ました。」
「は?可愛い?」
「では、引き続き貴方の活躍に期待していますよ。」
美貌の第一王子は颯爽と立ち去って行く。
おそらくは手折ったばかりの愛しの婚約者の元に向かって。
「え…」
「えぇ…なにそれぇ……」
「…いいえ」
「うん。それでいいよ。」
ここは温もりに満たされている。
ひどく心地よい。
手を取られ手首の内側の柔らかく薄い皮膚に口付けられる、離れた唇の感触の残る箇所には雫の軌跡に似た傷跡が有った。
「私が守ってあげるよ。」
孵化した雛への刷り込みよろしく、僕の世界の始まりに燦然と焼き付いたその人は、シーツに背中を預ける僕の体に覆い被さり額にかかる髪を払う。
至近距離に有る顔面は滑らかで黒子のひとつもなく、見つめる瞳は磨き抜かれたアメジスト。
焦点を失う程に近づいて唇で触れ合う。
首根に指を差し込んで髪を掴まれ拘束されると、角度を変えて責められる。
いつの間にか隙間を無くした2人の胸が合わさって熱を擦り付けられている。
上唇を舐め上げられると体がびくりと震えて鼻から息が漏れる。今度は下唇に歯を立てられて堪らず声を上げてしまい、間髪入れずに舌が潜り込んで蠢く肉と粘液に蹂躙される。
僕の服の下には腕にあるよりもっと沢山の傷が隠れていた。
その一つ一つに舌を這わす美しい人の名を知らない事がもどかしい。
「貴方は誰?」
睦言に凡そ相応しからぬ言葉にも、微笑みを浮かべるこの人の事をもっと知りたい。
「私は貴方の夫だよ。」
僕の掌を自分の頬に押し当てて嬉しそうに言う。
「アリスター。」
「アリスター?」
「そう。もっと呼んで?」
「アリスター…。」
「うん。」
嬉しそうに目蓋を伏せて僕の掌の真ん中にキスすると、ゆっくりと手を戻して開いた目に燻る情欲が優しげな表情を裏切っていた。
僕の入口に押し当てられていた先端が動き出す。
ぬくりと押し広げ侵入を許すものの、想像を超える圧迫感に身体が強張る。
「ああ…まっ、まってぇ…」
「ん、きついね…。力を抜いて、もう少し頑張って。」
アリスターは容赦なく行為を続ける。
「ほら、ヌルヌルして気持ちいいでしょ?こっちも触ってあげるね。」
「ふ、んんん…だめ、いたいぃ…。」
「大丈夫、ゆっくりするからね。」
丁寧な愛撫にも拭えぬ違和感に浮かぶ疑惑…。
「は、あ…も、もしかして、初めてなの?」
「ふふ…。」
悪戯を見咎められた子供のような無邪気さでアリスターが笑う。
「え?え?…僕達、夫婦なんだよね?」
「もうすぐ、夫婦、…かな?」
さっき迄はこの人が誰であろうと構わないとさえ思っていたのに、不意に見せられたアリスターの人間味に現実感が押し寄せてくる。
「貴方は、僕の、…夫?」
「ううんと…、未来の、夫、かな…?」
「んな…。」
目を見開いて絶句する僕を、クスクスと笑うアリスター。
「ああ、その反応はまさしくジュスト。大丈夫。私達はきっと良い夫婦になるよ。」
そう言うと自分の唇で僕の口を塞ぎ、行為を再開する。
僕は混乱と痛みと兆し始めた官能に恐慌状態で、逃げを打とうとするものの、バタつく脚を抱え上げられて無力に涙を流すしか無い。
アリスターは泣き濡れる僕を見下ろして恍惚と腰を振る。
「ああ、ジュスト、愛してる。捕まえた。私の、ジュスト…。」
抵抗も虚しくなる程グズグズに愛され尽くした果てに熱い精液が腹の中に迸るのをぼんやりと感じ取った。
貴方は僕の未来の夫で、僕は、一体、誰なんだ?
「アリスター殿下。」
「おや、神子殿。お元気かな?」
「元気じゃないです!何故、学園へいらっしゃらないのです?寂しいです!」
異世界からの落人の黒髪の少年がアリスターに擦り寄る。
「貴方のお陰で私の婚約者の窮状を知る事が出来て、対応に追われていたのです。」
「対応…?」
「ええ、無事に父親から引き離して王宮に保護できました。感謝します。」
「え…?なんで?…断罪じゃ、ないの?」
「ジュストは解放が難しい程に洗脳を受けていましたので、記憶を封じて、今は本来の姿に、私の可愛い婚約者に立ち戻る事が出来ました。」
「は?可愛い?」
「では、引き続き貴方の活躍に期待していますよ。」
美貌の第一王子は颯爽と立ち去って行く。
おそらくは手折ったばかりの愛しの婚約者の元に向かって。
「え…」
「えぇ…なにそれぇ……」
10
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる