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第8章 ASAKURA DAISUKE -about 10 years-

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第八章

あらすじ

朝倉大輔が生きた……
25歳~35歳までの約10年間の話。


登場人物

・朝倉 大輔 (お前)35歳 男性
★柳 ジュンイチ(俺)35歳 男性

・大輔の母

・医師(男性)
・看護師(女性)

・大河  (後輩A) 24歳 会社の後輩
・流ノ介 (後輩B) 24歳 会社の後輩

・アゲハ(キャバ嬢) 20歳
・リリィ(キャバ嬢) 19歳



T ASAKURA DAISUKE ーabout 10 yearsー


◯現在・会社のビルの屋上(朝)
フェンスをよじのぼりギリギリ落ちそうで落ちない場所に立ち、両手をズボンのポケットへ入れ、背筋を伸ばしボーっと空を眺めている大輔(35)

大輔(N)「20××年8月27日 俺は死んだ。えっ死因……? 死因か……」


◎1.回想•病院(夕)
 ▲当時:大輔25歳
 医師と大輔が検査室で話をしている。
 大輔「っで、結果、悪性出たって事はガン確定って事っすよね?!」
 医師「そうだね。前回、胃潰瘍で入院された時ちょっと変な箇所にできてるな、と思って念のためその組織の一部を再検査へまわしておいたんだ。そしたら……。」
 大輔「そうですか」
 医師「っでね、これからなんだけど」
 大輔「はい……」
 医師「君はまだ若いから、もしかするとどこかに飛んでる可能性もなくもないから、身体中しっかり検査して調べていこう」
 大輔「はい」
 医師「それから、親御さんこれからここに呼んでもらう事出来るかな?」
 大輔「あっ、親には自分で話すからいいです」
 医師「いや、呼んでもらってちゃんと説明したいんだ。ガンだと聞くと誰でも不安になると思う、その上君のお母さんは看護師さんだったよね。だから尚更、僕の方から説明させてくれないか」
 大輔「……わかりました。じゃあ連絡してみます」
 審査室を出て母親へ電話する大輔。
 大輔「もしもし、母さん、今大丈夫?」
 母親「大丈夫だけど、どうしたの?」

×     ×     ×

 冷静さを装って椅子に座る母親。
 医師「お母さん……と言う事で進行性の早いスキルスではないです。多分、他の臓器へ飛んでないとは思いますが開いてみない事にはなんとも……」
 母親「……はい」
 医師「あの……一つご提案があるのですが、ペット受けてみませんか?」
 母親「ペットですか……。確か放射性薬剤を体内に投与して、悪い所をカメラで写す検査でしたよね?」
 医師「そう、そう」
 母親「……(少し悩む)はい、受けさせます」
 医師「じゃあ、診断書書くので受けて来て下さい。それに彼もまだ若いので内視鏡で取り除くやり方ではなく開腹でしっかり確認した方が良いと思うのですが?そちらはどうしましょう?」
 母親「私も内視鏡より開腹でしっかり見てもらった方が安心ですけど……手術の方法は本人に任せます」
 大輔の方を見る母親。
 大輔「俺はどっちでもいい」
 医師「じゃあ、開腹でいきましょう」
 母親「お願いします」
 医師「では次の検診日、予約入れておくのでその日までにペット受けてその結果で色々検査を進めていきましょう」
 母親「はい、お願いします」
 大輔「はい」

×     ×     ×

◎回想・病院 出入口 (夕)
 病院の出入口の自動ドアの前で大輔と母親が話す。
 母親「あんた、大丈夫?」
 大輔「なにが?」
 母親「何がって……」
 大輔「大丈夫ッ!大丈夫ッ!ニヤリ」
 母親「そう、ならいいけど……。私これから夜勤だから直接仕事行くけど」
 大輔「りょーーかい。じゃあ俺は帰ります」
 母親「気をつけてね」
 大輔「はーーい」

×     ×     ×

◎回想・病院・駐車場(夕)
 車の運転席に座りエンジンをかけボーーっとしている大輔。
 大輔「あれ、俺、泣いてる……?」
 勝手に流れる涙を何度もぬぐう大輔。
 大輔「クッソ」
 止まらない涙が流れないように上を向く大輔。
 大輔「カンベンしてくれ…… 帰れねぇーーじゃん……」

◎2.回想・病院・外観(朝) 別日
 診断室で先生が来るのを待っている看護師と大輔。
 看護師「先生、遅いですね」
 大輔「そうっすね」
 看護師「ペットどうでした?他はなんともなかった?」
 大輔「それが……首に何かあるみたいでそこがピカっと光って再検査になるかも」
 看護師「そうだったの……」
 大輔「はぁ……」
 診断室へ医師が入ってくる。
 医師「いや~~ごめん、ごめん。遅くなってしまったね」
 大輔「いえ、」
 医師「じゃあペットの結果から言うと……そこまで気にしなくていいとは思うが今回は念入りに見ておこうと思う」
 大輔「はい」
 医師「だから、光った所をもう一度ここの専門医へ見てもらう事にしたよ」
 大輔「今からですか?」
 医師「そう、今から。予約は今してきたからすぐに行ってきて」
 大輔「はっはい」
 看護師「時間、大丈夫?」
 大輔「大丈夫です」
 医師「じゃあ、これ持って南館の診察室に行ってきて」
 大輔「わかりました」
 医師「多分、大した事ないと思うけど念のためね。終わったらまたここに戻ってきてくれるかい」
 大輔「はい」

×     ×     ×

◎回想・病院・外観(夕)
 検診から戻り診断室で医師と看護師と話す大輔。
 医師「うん。やっぱりこの光ったとこは異常ないみたいだね」
 大輔「良かった……」
 看護師「良かったわね」
 医師「よし、あとはガンをたたくだけだな」
 大輔「はい」
 医師「これから外科医と手術日を決めてもらって、麻酔科にも行ってもらったり、それに入院の手続きもしなくちゃな。色々大変だけど頑張ろう!!」
 大輔「はい」
 医師「じゃあ次の検診は外科医の先生との予約を入れておくからそっちに行ってくれるか」
 大輔「はい」

×     ×     ×

◎回想・病院・会計(同2)
 お金を払う大輔。
 看護師が近寄ってくる。
 看護師「朝倉君、今日はお疲れさま」
 大輔「うん、今日はなんか疲れちゃいました ニヤリ」
 看護師「そうよね。けど……良かった……どこも悪くなくて……」
 大輔「ほんとに……」
 看護師「今日はゆっくり休んでね。それと……」
 大輔「はい。ありがとうございます」
 看護師「あのね、この病気はきっと大丈夫。大丈夫だと思うから!!今この病気の事で色々悩むのも分かるけど “これからの事” うーーん “もっとこの先の事” で悩みなさい」
 大輔「ど、どういう事っすか……」
 看護師「うーーん、背負ってくって事や受け入れていくって事がこれからのあなたには他の人よりもたくさんあると思うから……」
 大輔「はぁ」
 看護師「じゃあ、ね」
 小走りで去って行く看護師。


◎3.回想・駅・改札口(夜) ・数年後
 ▲当時:大輔27歳
 改札口を出るジュンイチ(27)
 ジュンイチを足早に抜き去る大輔(27)
 足早に抜き去る横顔が大輔に似ていて後を追い声を掛けるジュンイチ。
 ジュンイチ「よっ」
 大輔の肩を叩くジュンイチ。
 大輔「……おぅ」

◎回想・ファミレス・4人席(同3)
 大輔「やべぇーー!!!!」
 ジュンイチ「なに?なに?どうした?」
 大輔「やべぇーー う〇こしてぇーー」
 ジュンイチ「はぁーー!?あははははははははははは はやく行って来いよ」
 猛ダッシュでトイレに向かう大輔。
 ジュンイチ「変わんねーーな」

◎回想・ファミレス・トイレ(同3)
 便座に顔を近づけ吐く大輔。
 大輔「やべぇ、手汗、止まんねぇ。動悸も激しくなってきやがった……しんど……。アイツの前じゃ胃が1/4しかねーー事忘れて調子にノッて食い過ぎる……ヴェ……」
 吐く大輔。
 大輔「もうあの頃とはチゲェ……変わっちゃってんだよ、俺は……クッソ…ヴェ……。アァめんどくせ……ヴェ……」

◎4.回想・キャバクラ(夜)・数年後
 ▲当時:大輔30歳
 キャバクラの店の前でジュンイチを待つ大輔(30)
 大輔「おっせーーな。アイツから誘ってきたくせに……」
 ジュンイチ「ワリィーー!!」
 左手を大きく左右に振り駆け足で近寄ってくるジュンイチ(30)
 大輔「おせーーよ」
 ジュンイチ「ワルい、ワルい。ちょっと仕事が長引いちゃってさ、店すぐわかった?」
 大輔「ケータイのナビで瞬殺だよ」
 ジュンイチ「そっか、よし、じゃあ入ろうぜ。ここ可愛い子めちゃ多いらしーーぞ」
 大輔「マジで!?」
 ジュンイチ「今回は信じろ!!」
 店の中に入るジュンイチと大輔。

×     ×     ×

 テーブルに座り指名したキャバ嬢を待つジュンイチと大輔。
 アゲハ(キャバ嬢)「アゲハって言いまーーっす❤︎」
 ジュンイチの隣に座るアゲハ(20)
 リリィ(キャバ嬢)「あたしはリリィって言います、今日は宜しくね❤︎」
 大輔の隣に座るリリィ(19)
 大輔「リリィちゃん可愛いじゃん。なに飲む??」
 リリィ(キャバ嬢)「えっ良いんですか?!」
 大輔「もちろん!!」
リリィ(キャバ嬢)「ありがとうございまーーっす」
 ジュンイチ「アゲハちゃんはなに飲む?!良いよ好きなの頼んで!!」
 アゲハ(キャバ嬢)「わーーい、ありがとうございます」

×     ×     ×

 テーブルへ黒服が会計を持ってくる。
 黒服「こちらでお願いします」
 伝票を大輔へ渡す黒服。
 ジュンイチ「オッケィ!!じゃあここは俺が払うわ」
 大輔「俺も半分出すよ」
 ジュンイチ「いいよ、いいよ。次、よろしく!!」
 大輔「……わかった、サンキュ」
 店から出るジュンイチと大輔。

×     ×     ×

 ケータイで風俗を検索するジュンイチ。
 ジュンイチ「ここだな」
 大輔「えっこれから風俗行く気?!」
 ジュンイチのケータイを覗き込む大輔。
 ジュンイチ「最近、溜まってんだよ!!お前も付き合えよ!!」
 大輔「また今度にしよーーぜ。金ねぇわ」
 ジュンイチ「そんな事言うなよーー、行こうぜーー」
 大輔(N)「マジ(まだ)風俗は勘弁だわ……」
 ジュンイチ「じゃあ、俺1人でも行く!!お前とはここでお別れだ」
 大輔「……すまん」
 ジュンイチ「えっマジで行かねーーの?」
 大輔「うん。(うなずく)また感想聞かせてくれ!!」
ジュンイチ「嫌だ」
 ケータイのナビを頼りに1人でお店へ向かうジュンイチ。

◎回想・大輔のマンション・エレベーターの中(同4)
 エレベーターに乗り閉まるドアをジーーっとガン見している大輔。
 大輔「俺だってイきてぇーーっつうの。ただ……まだ腹の傷口が気になんだよ。服脱いで、いざって時にいちいち説明すんのめんどくせーーし……。もっと薄くなったら……っていつだよ……それ。あぁヤりまくりてぇ……クッソ」

◎5.回想・大輔の会社 ・数年後
 ▲当時:大輔35歳
 頭の上でプリント(資料)を持って揺らし呼ぶ課長。
 課長「ちょっと来てくれるかーー? この案件の担当者」
 大輔「はい、私です」
 席を立つ大輔(35)
 大河「僕が行きます」
 席を立つ大河(24)
 大輔「お前はここにいろ」
 大河「……はい」
 課長のディスクに向かう大輔。
 課長「なぜ、お前が来る?」
 大輔「私が最終確認したので」
 課長「そうだったのか、昨日この会社の社長さんからクレームの連絡が入ってな」
 プリントを手で上下に激しく揺らす課長。
 大輔「はい、大筋は大河から聞いてます」
 課長「どうすんだ?」
 大輔「これから私も一緒に謝りに行きます」
 課長「それで」
 大輔「違う案をいくつか用意したので、再度提案してみます」
 課長「うまく収まりそうか?」
 大輔「はい」
 課長「そうか。ダメだったら?」
 大輔「……(上を向く)」
 課長「まぁお前ならうまくやるだろ。それとお前、もっと後輩の指導しっかりしとけ。ちょっと甘すぎるんじゃないのか。今後お前の評価にも関わってくるんだからな」
 大輔「……はい、すみません」
 一礼して課長のディスクから離れる大輔。
 大輔(N)「……評価?どぉでもいい。あぁメンドクセェ…」

◎6.回想・休日・交差点(日中)・数日後
 買い物袋を両手に持って横断歩道を渡る大輔。
 同年代の男性4人ほどが楽しげに笑いならが大輔とすれ違う。
 大輔「なにがおもしれんだよ……」
 俯きつぶやく大輔。
 大輔「ダメだ……。イラつく……」

◎回想・休日・大輔のマンションの風呂場
・夜(同6)
 シャワーを浴びる大輔。
 大輔「ア゛ァーー!!」
 雄叫びのように叫び出す大輔。
 大輔「ア゛ァーーーー!!」
 壁を1回殴る大輔。
 大輔「ア゛ァーー!!メンドクセェ。どうして俺なんだよ。ナァ!?なんで俺なの?俺なんかした?……ガンって……クッソ」
 シャワーを顔面に浴びる大輔。
 大輔(N)「ア゛ァ……神さまは乗り越えらんねぇ奴に試練を与えない……。ハァ?!じゃあガンになって抱えてる事、俺なら乗り越えていけるって事か?!そんな簡単に言うなよ。……乗り越えらんねーーよ。ナァ、第三者に何がわかんのっ?!調子悪いと、もしかして、また?ってどんなに楽しい時だって現実に引き戻される。そんな感覚……お前らにはあんのかよ……ナァ??」
 壁を2回殴る大輔。
 大輔「もう……ここ数年、心底楽しいと思った事なんて1度もねぇ。月日が経てば経つほど再発の怖さも辛かった事も忘れていくって??逆だよ。元気になればなるほど“また……”またなったらって恐怖の方が強くなっていくんだよ」
 壁に頭をぶつける大輔。
 大輔「そりゃ隠したいけど、もしなんかあったら……迷惑かけたくないからガンだったって言えば同情され、哀れられ、気も遣われ、まるで今だに病人扱い。ナァもうこの辛さから解放してくれよ。ナァ、ナァーーってば、お前らにはわかんねーーだろ、どんなに惨めか……」
 蛇口を緩めシャワーの勢いを上げる大輔。
 大輔「看護師さんが言ってた……これからで悩みなさいって意味……10年経ってようやくわかってきた気がする……」
 蛇口をギュッと強く閉める大輔。
 大輔「ア゛ァーー!!背負いきれねぇよ……受け入れらんねぇよ……。もうどぉーーでもいい。そうだよ、俺は未だにあの地獄の日々から抜け出せないでいる、情けねぇーー人間だよ」
 その場で膝をつく大輔。
 大輔「誰か……俺と代わってくれ……」


◯回想・ジュンイチのマンション・リビング
 ケータイでHな動画を観ているジュンイチ(35)
 ジュンイチ「このコ可愛い……」
 ケータイが鳴る。
 ジュンイチ「うぅん?!もしもし……」
 大輔「すまん、寝てた?」
 ジュンイチ「いや、シコってた」
 大輔「……そっか、邪魔したな」


◯現在・会社のビルの屋上(朝)
フェンスをよじのぼりギリギリ落ちそうで落ちない場所に立ち、両手をズボンのポケットへ入れ、背筋を伸ばしボーっと空を眺めている大輔(35)
◯現在・会社・オフィス(同)
流ノ介「今日ははやく来すぎたな……。あれ朝倉先輩のカバンがある……。もう来てんのかな」
辺りを見回す流ノ介(24)
◯現在・会社のビルの屋上(同)
大輔(N)「20××年8月27日 俺は死んだ。えっ死因……? 死因か……」
右手を伸ばし青空に浮かぶ太陽を掴もうとする大輔。
大輔「人の気も知らないで……」
青空を自由に飛びまわる鳥。
大輔「本日も晴天なり!!」









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