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第4章 朝倉 大輔 ―享年36歳―
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第四章
あらすじ
朝倉大輔は35歳で自ら命を絶つ話。
登場人物
・朝倉 大輔 35歳 男性
★柳 ジュンイチ 35歳 男性
・大輔の母
・ジュンイチの母
・後輩A
・後輩B
7DAY(日曜日)
○マンション・大輔の部屋(夜)
目覚まし時計はPM11:35をさす。
ジュンイチへ電話をする大輔(35歳)
大輔「もしもし」
〇マンション・ジュンイチの部屋(同)
ベッドからティッシュペーパーをゴミ箱へ
投げ込むジュンイチ(35歳)
ケータイが鳴る。
T 朝倉 大輔 ―享年36歳―
〇マンション・大輔とジュンイチの部屋(同)
大輔「すまん寝てた?」
ジュンイチ「いや、シコってた」
大輔「……そっか、邪魔したな」
ジュンイチ「別にいいよ。もうスッキリしたし。……っで、なんの用だよ、お前から電話してくるなんて珍しいじゃん」
大輔「いや、この前はかわいい女の子が居る店で……飲み明かして……」
ジュンイチ「それがどうしたんだよ」
大輔「なんか、楽しかったな、と思ってさ」
ジュンイチ「そんな事で……まっ俺も楽しかったけど」
大輔「なんとなくさ、“最後”(小声)にお前のバカな声が聴きたくなったんだよ」
ジュンイチ「なにそれ、キモチ悪る。お前らしくねーーな」
大輔「らしくねーーか……ってか、らしいーーってなに?」
ジュンイチ「え、え、マジどうした?」
大輔「別に、ただ気になっただけ」
ジュンイチ「らしいってのは……お前の……」
大輔「俺の……」
ジュンイチ「お前さ、中学ん時、俺んち泊りに来たの覚えてる?」
大輔「あぁ覚えてる。確か中二の夏休みだったような……」
ジュンイチ「正解!! その時さ、俺の部屋で夜中やってた【希望-それぞれの強さ-】ってアニメ観て 俺に質問してきた事も覚えてる?」
大輔「え、俺そのアニメ観た記憶はあるけど内容まで覚えてない」
ジュンイチ「アニメの内容は雨が100年続く時代に生きる少年たちが主人公で……それぞれが違う強さを持ってるっていう話」
大輔「うーーん、なんとなく思い出してきたような……」
ジュンイチ「それでお前、俺にさ、誰かに自分の弱さを涙を見せられる人間か?それとも誰にも弱さを見せず笑って我慢する人間か?どっちの人間に近い?って」
大輔「そんな質問したっけ?」
ジュンイチ「したんだよ。それで俺はたぶん自分の弱さを涙を見せられる人間に近いって答えた」
大輔「へー」
ジュンイチ「あの時もお前は へー ってだけの返しでその後、話は盛り上がることなく終わったけどな」
◎回想・中学生Aの部屋(夜中)
中学生B「なぁなぁ」
テレビを消しタオルケットを掛けながら話
す中学生B。
中学生A「なに?」
中学生B「誰かに自分の弱さを涙を見せら
れる人間か?それとも誰にも弱さを見せず
笑って我慢する人間か?どっちの人間に近い?」
中学生A「うーーん……俺はたぶん自分の
弱さを涙を見せられる人間に近いかな」
中学生B「へー」
中学生A「お前は?」
中学生B「……」
タオルケットに包まり寝る中学生B
中学生A「お、おい……寝たのかよ……」
大輔「あはははっあはははっ」
ジュンイチ「お前はきっと誰にも弱さを見せず笑って我慢する人間に近い人間だよ」
大輔「そうかな」
ジュンイチ「そう。お前はいつも口数少なくて、なんでもかんでも気にしてないフリして抱え込んで、ひとりで戦ってんだろ」
大輔「……(沈黙)」
ジュンイチ「お前は、昔っから変わってない」
大輔「いや、変わったよ。もう35だぜ……」
ジュンイチ「お前どうしたの?マジで」
大輔「もう疲れた」
ジュンイチ「え、なんて?」
大輔「だからさ……」
ジュンイチ「お前は頑張りすぎなんだよ」
大輔「俺の何を知って頑張りすぎっていうんだよ?」
ジュンイチ「うーーん、お前のすべては知らない。俺が知ってるお前は高校卒業する前にこのままじゃダメだ!!って言い出して……」
大輔「そんな事言ったっけ?!」
ジュンイチ「県外の専門行って、仕事も親が安心するように田舎まで名が通るような会社ばかり選んで就職して……」
大輔「まぁ、あながち間違いではない……」
ジュンイチ「25ん時ガンになったんだろ?」
大輔「そんな事まで知ってんの?病気の事、誰にも言ってねーーぞ。10年くらい前、駅で久しぶりに会って、それから何度か一緒に飯食ってた時も言わなかったし、聞いてこなかっただろ」
ジュンイチ「ここは田舎だぞ。誰がどこに就職して結婚して離婚して病気してとかそんな情報すぐ耳に入るよ。病気の事はあの時から知ってたけど、元気そうだから別にいっかと思って聞かなかった」
大輔「胃ガンだよ、胃ガン。初期だったけど胃を3/4切りました」
ジュンイチ「すげぇじゃん!人造人間になってんじゃん!! じゃあ長生きするな」
大輔「そうだな、同情されるよりそう言ってくれる方がマシだわ」
ジュンイチ「ってかお前がこっち帰ってきてもう10年近く経つの?!ハエェ~~、っでどうしたんだよ。再発でもしたのか?」
大輔「この前、何年かぶりに検査したけど異常なしだったよ」
ジュンイチ「よかったじゃん」
大輔「よかったけど、検査結果を待つ間が地獄でさ。もしもまたってなった時に色んな人の顔が浮かぶんだ。もうあんな辛そうな顔見たくないし、させたくない。それに笑ってる人(ヤツ)の顔もたまに浮かんでくる」
ジュンイチ「お前、病んでるな」
大輔「そんで俺、病気の事、転職するたびに健康診断するけど隠してもらってる。病歴のせいで、同情されるのも嫌だし、なんかもう……、色々面倒クセェーー」
ジュンイチ「そーーだな……」
大輔「10年前、吐血して胃潰瘍を繰り返して出来た??ガンって診断されて、いろんな検査を受けた中にガン細胞がピカっと光るPETっていう機械があって、それ受けた時、胃とは違う場所がピカってさ そこのピカった場所の再検査した時、特に異常はなかったんだけど、なぜか俺、検査、検査で疲れてか、凹んでて、その時、担当してくれた看護師さんが掛けてくれた言葉があってさ」
ジュンイチ「看護師さん、なんて?」
大輔「このガンは大丈夫。今いろいろ悩むよりこれからの事で悩んだ方がいい。って言われてさ、その時はこれからで悩むってどういう事?ってピンとこなかったけど今になって、あぁこういう事かって思う事がある」
ジュンイチ「どんな事だよ」
大輔「じぶんは一生、完治と言われない病人になったって事と、俺の病気の事知ってる人間(ひと)に良くも悪くも一生心配されるって事、あぁ情けねーーよな……。だから無理にでも笑っとかないといけないって事も……」
ジュンイチ「やっぱりお前は……」
大輔「なんだよ」
ジュンイチ「じぶんが死んだら悲しむ人間がいるって事ちゃんとわかってんじゃん」
大輔「本当はいないかもしれないけどな、そんな人間」
ジュンイチ「お前になら、いっぱい居るよ」
大輔「やっやっやめろ……テッテッテレんだろーーが……」
ジュンイチ「この10年いろんな事、考えたり、思ったりして必死で生きてきたんだろ」
大輔「どうだろ……。ふと思うんだ あの時、死んどけばって」
ジュンイチ「(3秒後)……お前はやっぱり誰にも弱さを見せず笑って我慢する人間に近い人間だよ」
大輔「そうかな?!そぉだとしても、もう限界……」
ジュンイチ「ってか、死んどけばって言葉は取り消せ」
大輔「おっおぅ……」
ジュンイチ「なぁ恋人は? 好きな子とかいないの?恋はいいぞぉ~~」
大輔「居るわけねーーじゃん、こんなガン患者に。またなった時、迷惑かけるだけだし……」
ジュンイチ「もう10年たったんだろ……病気の事、忘れろよとは言わないけど、もういいんじゃない、気にしなくて」
大輔「簡単に言うなよ」
ジュンイチ「……そうだな、すまん……簡単な事じゃ……ないよな」
大輔「……なった者にしかわかんねーーよ」
ジュンイチ「お前それ言ったら話終わるぞ」
大輔「……ガンの事、忘れられたらどんなに楽か……」
ジュンイチ「あぁーー!!じゃあもう今度は俺の話する」
大輔「なに?」
ジュンイチ「この間さ仕事帰りに、立ち寄った本屋で不思議な本見つけたんだ」
大輔「どんな本?」
ジュンイチ「恋愛小説なんだけど、文章がところどころ空白の場所があってさ、そこに色々書き込んでいったら、本に書き込んだ通りの事が現実で起きるんだ。例えばキスをするって書き込んだらキスが出来るんだぜ すごくない?」
大輔「すげぇ」
ジュンイチ「だろ!けど、なんかズルしてるような気がして……。まっ、あともう少しでクライマックスなんだけど俺は必ず高嶺の花子さんを手に入れてみせるぞ!奇跡を起こすぞ!」
大輔「高嶺の花子さんって誰?」
ジュンイチ「彼女にしたい会社の後輩 めちゃくちゃ可愛いんだ」
大輔「へー」
ジュンイチ「だから へー で終わらすなよ」
大輔「あっじゃあ、また。もう遅いし寝るわ」
ジュンイチ「おっおぉ……そうだな」
大輔「遅くに連絡して悪かった」
ジュンイチ「いいよ、どうせ暇人だし」
大輔「じゃあおやすみ」
ジュンイチ「今度また飯でも食いに行こうぜ。そん時、その本見せてやるよ」
大輔「わかった」
ジュンイチ「その頃には俺、彼女モチかもな」
大輔「叶うといいな」
ジュンイチ「おう、じゃあおやすみ」
〇大輔の部屋(朝)
目覚まし時計はAM7:30をさす。
スーツを着て玄関を出る大輔
大輔「よしっ」
玄関を出てネクタイを直す大輔。
〇ジュンイチの部屋(朝)
目覚まし時計はAM11:00をさす。
ベッドに寝っ転がるジュンイチ。
母からの連絡でケータイが一度切れてまたすぐ鳴る。
ジュンイチ「もしもし」
母親「もしもし、あんた今大丈夫?」
ジュンイチ「うん、大丈夫。今日、仕事休みだし」
母親「そお……」
ジュンイチ「どうしたの?」
母親「あんたの同級生の朝倉君、今朝、亡くなったらしいわよ」
ジュンイチ「ハァ―――――――――!?」
母親「自殺だって」
ジュンイチ「マジで!?俺、昨日電話してたけど!?」
母親「そーーなの?会社の屋上から飛び降りたらしいわよ」
ジュンイチ「いやいやいやいや……」
母親「さっき朝倉君、ご自宅へ戻ってきたみたいなのよ。あんた休みなら行ってきなさいよ」
ジュンイチ「うっうん……」
母親「電話してた時、朝倉君の様子おかしくなかった?」
ジュンイチ「うーーん。いつもはあんまり喋らない奴だけど昨日はよく喋ってた。疲れた。とも言ってた……」
母親「そお。あの子あんまり喋らない子だったのはお母さんも覚えてるわ」
ジュンイチ「とりあえず、俺、あいつの実家行ってみるよ」
母親「そうね」
ジュンイチ「その帰り家寄って帰るわ」
母親「わかった」
〇大輔の実家・玄関 (夕)
ピンポンを鳴らすジュンイチ。
ジュンイチ「こんにちは 柳です」
大輔の母「あら、ジュンイチくん、ちょっと待ってね」
ドアから大輔の母が出てくる。
ジュンイチ「こんにちは、お久しぶりです」
大輔の母「ほんと、久しぶりね」
ジュンイチ「あのアイツは……」
大輔の母「上がって」
ジュンイチ「はい」
〇同・居間(夕)
顔に白い布をかぶせて寝ている大輔。
白い布を取る大輔の母。
大輔の母「今朝、出勤して退職届をじぶんの机の上に置いて屋上から飛び降りたみたいなの」
ジュンイチ「そうですか」
大輔より少し離れて座るジュンイチ。
大輔の母「うん」
ジュンイチ「昨日、僕、大輔君と夜中、電話で話してたんです」
大輔の母「そうだったの」
ジュンイチ「はい」
大輔の母「あの子、どんな様子だった?」
ジュンイチ「疲れた。とは、言ってましたけど……」
大輔の母「そう、弱音吐くなんて珍しい」
ジュンイチ「仕事うまくいってなかったんですか?」
大輔の母「会社の人たちも驚いてたわ。 成績優秀で誰からも好かれてる、あの子がどうしてって……」
◎回想・MOON(居酒屋)・個室 (夜)
後輩B「先輩、次何にします?」
先輩「タイガ、ブルドック頼んで」
後輩A「そんなイケメンな顔して」
先輩「顔、関係ないから」
後輩Aと後輩Bの楽しげに笑う顔。
正座して俯く大輔の母。
ジュンイチ「そうなんですか……アイツ、うまくやってたんだ……。昨日はいつもと違ってじぶんから良く喋るからストレス溜まってんなーー、くらいに軽く思ってたけど……ここまで追い込まれてるとは思ってなかったです……」
大輔の母「私もよ。あの子の親なのに……気づいてやれなかった……。病気して、3年ぐらいは一緒に住んでたんだけどね、私たちに気を使わせないためにすぐ仕事決めて、アパート借りて、出て行ってしまったの。それからはたまに、心配で連絡してたんだけど……」
ジュンイチ「そうだったんですか」
大輔の母「あの子、大丈夫!!大丈夫!!楽勝。としか言わなくて……。身体の事や仕事の事、いろんな事、ひとりで抱え込んでしまったのね……」
ジュンイチ「アイツはそういう奴です。昔っからそういう奴です。お母さんのせい……とか、誰かのせいとかじゃないと思います」
号泣する大輔の母。
ジュンイチ「病気していろんな事が変わったんだと思います。言葉の受け取り方や吐き出し方。考え方、人間関係、仕事、恋愛、夢や希望、きっと俺みたいに平凡な目線で見ているこの世界とはちょっと違った角度で見えちゃってたんだと思います。なんて言うか、うまく伝えられないけど……」
大輔の母「わかってる、わかってるけど死んだら、終わりよ」
泣き出す大輔の母。
ジュンイチ「はい。僕もそう思います。だからほんとは僕めちゃくちゃムカついてます」
大輔の母「えっ」
ジュンイチを見る大輔の母。
ジュンイチ「一緒に飯食いに行っても俺の弱音や愚痴ばっかり嫌な顔ひとつせず聞いてくれて……じぶんは何もありません。とばかりに余裕ブッこいて……うまそうにから揚げやフライドポテトばっか食いまくってさ、カッコつけやがって……お前の方がヨエーじゃねぇーーかよ。いや、ツエーのか!?もぉわっかんねぇーーよッ」
大輔の母「ア゛ァ゛……(泣き崩れる)」
ジュンイチ「おい、聞いてんのかよ」
大輔の顔に近寄るジュンイチ。
ジュンイチ「お前の周りに居てくれてる人達の辛そうな姿もう見たくなかったんじゃないのかよ。おい、目を開けて見てみろよ。お前が一番望んでなかった事が起きてるぞ。おい、それとも確かめたかったのか、ほんとに自分のために泣いてくれる人間がいるのかどうか!?おい!!ってば、人造人間になったんだろ……不死身なんだろ……おい!!っ起きろよ。起きろってば……」
立ち上がり何かを取りに向かう大輔の母。
ジュンイチ「これから誰が、俺の心の器、空っぽにしてくれんだよ……」
大輔の母「これね」
四つ折りにした紙を震える手で渡してくる大輔の母。
大輔の母「今日穿いてた大輔のスーツのズボンから出てきたの」
ジュンイチ「なんですか?」
左手で涙を拭いて、右手で紙を受けとるジュンイチ。
ジュンイチ「これ……」
□折りたたまれた紙に書かれた歌詞
【Stay Gold】
♪
Stay Gold
― ここはどこ 私はだれ ―
(交差)点と(視)点を地平(線)で繋いだ新たな世界で
羽ばたく準備は出来てるか?
情報があちこち行き交う 交差(点)
迷わされないように ただ ただ まっすぐ
イコール=プラスかマイナスか 計算したところで
考えすぎても 始まらない
振り向くな 俯くな 時代を変える者たちよ
☆誰の真似もしない
信じ抜いた者だけが 貫き通す者だけが
主役になれる資格を持っている
虚言があちこち飛び交う 地平(線)
惑わされないように ただ ただ まっすぐ
イコール=ダウトかトゥルースか 疑心抱くとこまで
勘ぐりすぎても 始まらない
見上げれば 其処にいる 未来を照らす者たちよ
★誰の真似もしない
学び抜いた者だけが 笑みを忘れぬ者だけが
トップに立てる資格を持っている
躊躇うな 挫けるな 時代を変える者たちよ
☆
★
時にはその視(点)を変えろ
♪
大輔の母「あなたたち高校でバンド組んでたでしょ」
ジュンイチ「はい」
大輔の母「その時のモノだと思うけど……」
ジュンイチ「これ大輔が初めて書いた、歌詞です」
大輔の母「そうだったの」
ジュンイチ「……懐か……しい」
大輔の母「そこに書いてあるように生きて行きたかったのかな、あの子も……」
ジュンイチ「あの……これ頂けませんか?」
大輔の母「そうねどうぞ。来てくれたお礼に」
ジュンイチ「ありがとうございます」
○同日・玄関 (夕)
大輔の母「今日はわざわざありがとうね」
ジュンイチ「いえ」
玄関まで見送りにくる大輔の母と立ち話を始めるジュンイチ。
大輔の母「あのね、さっき言ってた事なんだけど……」
ジュンイチ「さっき言ってた事……? なんですか?」
大輔の母「ファミレス?で一緒に、から揚げやフライドポテトを食べたって話……」
ジュンイチ「あぁ」
大輔の母「あの子ね、胃の手術をしてから油もの食べるの避けてたのよ」
ジュンイチ「え、どうしてですか」
大輔の母「胃を切った人にはダンピング症候群っていってね、身体に合わない物食べたり、一気にたくさん食べ過ぎたりすると、その日の体調にもよると思うんだけど、動悸やめまい、冷や汗、腹痛なんかを起こしたりして体調が悪くなってしまうの。だからあの子、そんな姿誰にも見せたくないと思って人とご飯食べる時は色々気を使ってたのよ」
ジュンイチ「そーーだったんですか?」
◎回想・ファミレス・4人席
お前「やべぇーー!!!!!」
俺「なに?なに?どうした?」
お前「やべぇーー う〇こしてぇーー」
俺「はぁーー!?あはははははははははは
はやく行って来いよ」
猛ダッシュでトイレに向かうお前。
大輔の母「それなのに、そんな姿を見せれたのかなぁ。ジュンイチ君にならいいやって……」
すこし微笑みながら嬉しそうに話す大輔の母。
ジュンイチ「アイツ……」
両手で目頭を抑えるジュンイチ。
ジュンイチ「なにもしてやれなくて、すみません」
大輔の母「そんなこと言わないで。ほんとにありがとう」
ジュンイチ「はい」
〇同日・ジュンイチの実家(夜)
ジュンイチの部屋。
ベッドに横たわり紙を広げて読んでいるジュンイチ。
ジュンイチ「お前の歌詞 サイコーにダセェぞ アハハハ」
ベッドから起きて押し入れを開け何かを探し始めるジュンイチ。
ジュンイチ「あった」
大輔とジュンイチの好きな歌手のCDを取り出しフタを開けるジュンイチ。
ジュンイチ「お前さ、ネットでじぶんの名前検索してたら同姓同名の作曲家の人ばっかがヒットして、誰だよって調べてたら、その内その人が作る曲を歌う歌手のファンになっちゃってて、アハハ」
CDの歌詞カードを見るジュンイチ。
ジュンイチ「ほんとカッコ良かったよなーー。そんで俺もいつかこの人に曲書いてもらうんだって書いた歌詞が……」
ベッドに戻るジュンイチ。
ジュンイチ「この Stay Gold だったよな……」
大輔の歌詞を握るジュンイチ。
ジュンイチ「マジあの頃はなんでも出来ると思ってたし、何にでも成れると思ってたよな。けど、現実はそう甘くわないって気づいたのか……。思い通りに行かないのが人生だっていうけど、行かなすぎるとメンタルやられちゃうよな。この歳にもなると、どんどん有望な下の奴も増えて、焦るし、家族も恋人もいないとなると、なんのために生きてんのかってじぶんの存在価値、見失っちゃうし、この先を考えると怖くもなるよな。本当にやりたい事が出来てる人間なんてほんの一握りだけ、その一握りに入りたかったな。お前は真面目だし、努力家だし、良い奴だし、そんな奴ですら叶わない事なんていくらだってあったんだろう……。でもだからって……だからって……死ぬなよな……」
より強く大輔の歌詞を握るジュンイチ。
ジュンイチ「バーーカッ!!!!」
○同・部屋のドア(夜)
ジュンイチの部屋のドアが開く。
母親「あんた、帰ってたの?」
ジュンイチ「うん」
母親「なに、あんた泣いてんの?」
ジュンイチ「泣いてねぇよ」
母親「いい歳して、変わんないわね」
ジュンイチ「うっせ」
母親「晩御飯、食べて帰るでしょ」
ジュンイチ「うん」
母親「何、食べたい?」
ジュンイチ「なんでもいい」
母親「なんでもいいじゃ困る」
ジュンイチ「じゃあ、から揚げ」
母親「りょうかい」
〇大輔の実家 葬式(日替わり・日中)
棺桶の中で眠る大輔。
棺桶の前で泣きじゃくる会社の後輩A。
後輩A「俺のせいだ……あん時、俺がミスしたから……俺のせいだ……俺の……俺の……」
後輩B「タイガのせいじゃないって……」
肩を叩きながら慰める会社の後輩B。
後輩A「リュヴノ……ズゲ…… ハ悲シクネェノカヨ……」
後輩B「悲しいに決まってるだろ……けど……ここでは泣かない」
〇同・棺桶・大輔の顔(アップ)
棺桶を覗き込み話しかけるジュンイチ。
ジュンイチ「おーい、まだ寝てんのか……」
(ハァ)ため息を吐くジュンイチ。
ジュンイチ「俺らどこで道間違ったんだろうな……。
いつの選択を間違ったんだろうな……。
わかる日がくるまで……
俺は生きてくわ」
大輔N「おう」声のみ
ジュンイチ「もしかして、間違ってねぇかもしんねーーし……」
完
あらすじ
朝倉大輔は35歳で自ら命を絶つ話。
登場人物
・朝倉 大輔 35歳 男性
★柳 ジュンイチ 35歳 男性
・大輔の母
・ジュンイチの母
・後輩A
・後輩B
7DAY(日曜日)
○マンション・大輔の部屋(夜)
目覚まし時計はPM11:35をさす。
ジュンイチへ電話をする大輔(35歳)
大輔「もしもし」
〇マンション・ジュンイチの部屋(同)
ベッドからティッシュペーパーをゴミ箱へ
投げ込むジュンイチ(35歳)
ケータイが鳴る。
T 朝倉 大輔 ―享年36歳―
〇マンション・大輔とジュンイチの部屋(同)
大輔「すまん寝てた?」
ジュンイチ「いや、シコってた」
大輔「……そっか、邪魔したな」
ジュンイチ「別にいいよ。もうスッキリしたし。……っで、なんの用だよ、お前から電話してくるなんて珍しいじゃん」
大輔「いや、この前はかわいい女の子が居る店で……飲み明かして……」
ジュンイチ「それがどうしたんだよ」
大輔「なんか、楽しかったな、と思ってさ」
ジュンイチ「そんな事で……まっ俺も楽しかったけど」
大輔「なんとなくさ、“最後”(小声)にお前のバカな声が聴きたくなったんだよ」
ジュンイチ「なにそれ、キモチ悪る。お前らしくねーーな」
大輔「らしくねーーか……ってか、らしいーーってなに?」
ジュンイチ「え、え、マジどうした?」
大輔「別に、ただ気になっただけ」
ジュンイチ「らしいってのは……お前の……」
大輔「俺の……」
ジュンイチ「お前さ、中学ん時、俺んち泊りに来たの覚えてる?」
大輔「あぁ覚えてる。確か中二の夏休みだったような……」
ジュンイチ「正解!! その時さ、俺の部屋で夜中やってた【希望-それぞれの強さ-】ってアニメ観て 俺に質問してきた事も覚えてる?」
大輔「え、俺そのアニメ観た記憶はあるけど内容まで覚えてない」
ジュンイチ「アニメの内容は雨が100年続く時代に生きる少年たちが主人公で……それぞれが違う強さを持ってるっていう話」
大輔「うーーん、なんとなく思い出してきたような……」
ジュンイチ「それでお前、俺にさ、誰かに自分の弱さを涙を見せられる人間か?それとも誰にも弱さを見せず笑って我慢する人間か?どっちの人間に近い?って」
大輔「そんな質問したっけ?」
ジュンイチ「したんだよ。それで俺はたぶん自分の弱さを涙を見せられる人間に近いって答えた」
大輔「へー」
ジュンイチ「あの時もお前は へー ってだけの返しでその後、話は盛り上がることなく終わったけどな」
◎回想・中学生Aの部屋(夜中)
中学生B「なぁなぁ」
テレビを消しタオルケットを掛けながら話
す中学生B。
中学生A「なに?」
中学生B「誰かに自分の弱さを涙を見せら
れる人間か?それとも誰にも弱さを見せず
笑って我慢する人間か?どっちの人間に近い?」
中学生A「うーーん……俺はたぶん自分の
弱さを涙を見せられる人間に近いかな」
中学生B「へー」
中学生A「お前は?」
中学生B「……」
タオルケットに包まり寝る中学生B
中学生A「お、おい……寝たのかよ……」
大輔「あはははっあはははっ」
ジュンイチ「お前はきっと誰にも弱さを見せず笑って我慢する人間に近い人間だよ」
大輔「そうかな」
ジュンイチ「そう。お前はいつも口数少なくて、なんでもかんでも気にしてないフリして抱え込んで、ひとりで戦ってんだろ」
大輔「……(沈黙)」
ジュンイチ「お前は、昔っから変わってない」
大輔「いや、変わったよ。もう35だぜ……」
ジュンイチ「お前どうしたの?マジで」
大輔「もう疲れた」
ジュンイチ「え、なんて?」
大輔「だからさ……」
ジュンイチ「お前は頑張りすぎなんだよ」
大輔「俺の何を知って頑張りすぎっていうんだよ?」
ジュンイチ「うーーん、お前のすべては知らない。俺が知ってるお前は高校卒業する前にこのままじゃダメだ!!って言い出して……」
大輔「そんな事言ったっけ?!」
ジュンイチ「県外の専門行って、仕事も親が安心するように田舎まで名が通るような会社ばかり選んで就職して……」
大輔「まぁ、あながち間違いではない……」
ジュンイチ「25ん時ガンになったんだろ?」
大輔「そんな事まで知ってんの?病気の事、誰にも言ってねーーぞ。10年くらい前、駅で久しぶりに会って、それから何度か一緒に飯食ってた時も言わなかったし、聞いてこなかっただろ」
ジュンイチ「ここは田舎だぞ。誰がどこに就職して結婚して離婚して病気してとかそんな情報すぐ耳に入るよ。病気の事はあの時から知ってたけど、元気そうだから別にいっかと思って聞かなかった」
大輔「胃ガンだよ、胃ガン。初期だったけど胃を3/4切りました」
ジュンイチ「すげぇじゃん!人造人間になってんじゃん!! じゃあ長生きするな」
大輔「そうだな、同情されるよりそう言ってくれる方がマシだわ」
ジュンイチ「ってかお前がこっち帰ってきてもう10年近く経つの?!ハエェ~~、っでどうしたんだよ。再発でもしたのか?」
大輔「この前、何年かぶりに検査したけど異常なしだったよ」
ジュンイチ「よかったじゃん」
大輔「よかったけど、検査結果を待つ間が地獄でさ。もしもまたってなった時に色んな人の顔が浮かぶんだ。もうあんな辛そうな顔見たくないし、させたくない。それに笑ってる人(ヤツ)の顔もたまに浮かんでくる」
ジュンイチ「お前、病んでるな」
大輔「そんで俺、病気の事、転職するたびに健康診断するけど隠してもらってる。病歴のせいで、同情されるのも嫌だし、なんかもう……、色々面倒クセェーー」
ジュンイチ「そーーだな……」
大輔「10年前、吐血して胃潰瘍を繰り返して出来た??ガンって診断されて、いろんな検査を受けた中にガン細胞がピカっと光るPETっていう機械があって、それ受けた時、胃とは違う場所がピカってさ そこのピカった場所の再検査した時、特に異常はなかったんだけど、なぜか俺、検査、検査で疲れてか、凹んでて、その時、担当してくれた看護師さんが掛けてくれた言葉があってさ」
ジュンイチ「看護師さん、なんて?」
大輔「このガンは大丈夫。今いろいろ悩むよりこれからの事で悩んだ方がいい。って言われてさ、その時はこれからで悩むってどういう事?ってピンとこなかったけど今になって、あぁこういう事かって思う事がある」
ジュンイチ「どんな事だよ」
大輔「じぶんは一生、完治と言われない病人になったって事と、俺の病気の事知ってる人間(ひと)に良くも悪くも一生心配されるって事、あぁ情けねーーよな……。だから無理にでも笑っとかないといけないって事も……」
ジュンイチ「やっぱりお前は……」
大輔「なんだよ」
ジュンイチ「じぶんが死んだら悲しむ人間がいるって事ちゃんとわかってんじゃん」
大輔「本当はいないかもしれないけどな、そんな人間」
ジュンイチ「お前になら、いっぱい居るよ」
大輔「やっやっやめろ……テッテッテレんだろーーが……」
ジュンイチ「この10年いろんな事、考えたり、思ったりして必死で生きてきたんだろ」
大輔「どうだろ……。ふと思うんだ あの時、死んどけばって」
ジュンイチ「(3秒後)……お前はやっぱり誰にも弱さを見せず笑って我慢する人間に近い人間だよ」
大輔「そうかな?!そぉだとしても、もう限界……」
ジュンイチ「ってか、死んどけばって言葉は取り消せ」
大輔「おっおぅ……」
ジュンイチ「なぁ恋人は? 好きな子とかいないの?恋はいいぞぉ~~」
大輔「居るわけねーーじゃん、こんなガン患者に。またなった時、迷惑かけるだけだし……」
ジュンイチ「もう10年たったんだろ……病気の事、忘れろよとは言わないけど、もういいんじゃない、気にしなくて」
大輔「簡単に言うなよ」
ジュンイチ「……そうだな、すまん……簡単な事じゃ……ないよな」
大輔「……なった者にしかわかんねーーよ」
ジュンイチ「お前それ言ったら話終わるぞ」
大輔「……ガンの事、忘れられたらどんなに楽か……」
ジュンイチ「あぁーー!!じゃあもう今度は俺の話する」
大輔「なに?」
ジュンイチ「この間さ仕事帰りに、立ち寄った本屋で不思議な本見つけたんだ」
大輔「どんな本?」
ジュンイチ「恋愛小説なんだけど、文章がところどころ空白の場所があってさ、そこに色々書き込んでいったら、本に書き込んだ通りの事が現実で起きるんだ。例えばキスをするって書き込んだらキスが出来るんだぜ すごくない?」
大輔「すげぇ」
ジュンイチ「だろ!けど、なんかズルしてるような気がして……。まっ、あともう少しでクライマックスなんだけど俺は必ず高嶺の花子さんを手に入れてみせるぞ!奇跡を起こすぞ!」
大輔「高嶺の花子さんって誰?」
ジュンイチ「彼女にしたい会社の後輩 めちゃくちゃ可愛いんだ」
大輔「へー」
ジュンイチ「だから へー で終わらすなよ」
大輔「あっじゃあ、また。もう遅いし寝るわ」
ジュンイチ「おっおぉ……そうだな」
大輔「遅くに連絡して悪かった」
ジュンイチ「いいよ、どうせ暇人だし」
大輔「じゃあおやすみ」
ジュンイチ「今度また飯でも食いに行こうぜ。そん時、その本見せてやるよ」
大輔「わかった」
ジュンイチ「その頃には俺、彼女モチかもな」
大輔「叶うといいな」
ジュンイチ「おう、じゃあおやすみ」
〇大輔の部屋(朝)
目覚まし時計はAM7:30をさす。
スーツを着て玄関を出る大輔
大輔「よしっ」
玄関を出てネクタイを直す大輔。
〇ジュンイチの部屋(朝)
目覚まし時計はAM11:00をさす。
ベッドに寝っ転がるジュンイチ。
母からの連絡でケータイが一度切れてまたすぐ鳴る。
ジュンイチ「もしもし」
母親「もしもし、あんた今大丈夫?」
ジュンイチ「うん、大丈夫。今日、仕事休みだし」
母親「そお……」
ジュンイチ「どうしたの?」
母親「あんたの同級生の朝倉君、今朝、亡くなったらしいわよ」
ジュンイチ「ハァ―――――――――!?」
母親「自殺だって」
ジュンイチ「マジで!?俺、昨日電話してたけど!?」
母親「そーーなの?会社の屋上から飛び降りたらしいわよ」
ジュンイチ「いやいやいやいや……」
母親「さっき朝倉君、ご自宅へ戻ってきたみたいなのよ。あんた休みなら行ってきなさいよ」
ジュンイチ「うっうん……」
母親「電話してた時、朝倉君の様子おかしくなかった?」
ジュンイチ「うーーん。いつもはあんまり喋らない奴だけど昨日はよく喋ってた。疲れた。とも言ってた……」
母親「そお。あの子あんまり喋らない子だったのはお母さんも覚えてるわ」
ジュンイチ「とりあえず、俺、あいつの実家行ってみるよ」
母親「そうね」
ジュンイチ「その帰り家寄って帰るわ」
母親「わかった」
〇大輔の実家・玄関 (夕)
ピンポンを鳴らすジュンイチ。
ジュンイチ「こんにちは 柳です」
大輔の母「あら、ジュンイチくん、ちょっと待ってね」
ドアから大輔の母が出てくる。
ジュンイチ「こんにちは、お久しぶりです」
大輔の母「ほんと、久しぶりね」
ジュンイチ「あのアイツは……」
大輔の母「上がって」
ジュンイチ「はい」
〇同・居間(夕)
顔に白い布をかぶせて寝ている大輔。
白い布を取る大輔の母。
大輔の母「今朝、出勤して退職届をじぶんの机の上に置いて屋上から飛び降りたみたいなの」
ジュンイチ「そうですか」
大輔より少し離れて座るジュンイチ。
大輔の母「うん」
ジュンイチ「昨日、僕、大輔君と夜中、電話で話してたんです」
大輔の母「そうだったの」
ジュンイチ「はい」
大輔の母「あの子、どんな様子だった?」
ジュンイチ「疲れた。とは、言ってましたけど……」
大輔の母「そう、弱音吐くなんて珍しい」
ジュンイチ「仕事うまくいってなかったんですか?」
大輔の母「会社の人たちも驚いてたわ。 成績優秀で誰からも好かれてる、あの子がどうしてって……」
◎回想・MOON(居酒屋)・個室 (夜)
後輩B「先輩、次何にします?」
先輩「タイガ、ブルドック頼んで」
後輩A「そんなイケメンな顔して」
先輩「顔、関係ないから」
後輩Aと後輩Bの楽しげに笑う顔。
正座して俯く大輔の母。
ジュンイチ「そうなんですか……アイツ、うまくやってたんだ……。昨日はいつもと違ってじぶんから良く喋るからストレス溜まってんなーー、くらいに軽く思ってたけど……ここまで追い込まれてるとは思ってなかったです……」
大輔の母「私もよ。あの子の親なのに……気づいてやれなかった……。病気して、3年ぐらいは一緒に住んでたんだけどね、私たちに気を使わせないためにすぐ仕事決めて、アパート借りて、出て行ってしまったの。それからはたまに、心配で連絡してたんだけど……」
ジュンイチ「そうだったんですか」
大輔の母「あの子、大丈夫!!大丈夫!!楽勝。としか言わなくて……。身体の事や仕事の事、いろんな事、ひとりで抱え込んでしまったのね……」
ジュンイチ「アイツはそういう奴です。昔っからそういう奴です。お母さんのせい……とか、誰かのせいとかじゃないと思います」
号泣する大輔の母。
ジュンイチ「病気していろんな事が変わったんだと思います。言葉の受け取り方や吐き出し方。考え方、人間関係、仕事、恋愛、夢や希望、きっと俺みたいに平凡な目線で見ているこの世界とはちょっと違った角度で見えちゃってたんだと思います。なんて言うか、うまく伝えられないけど……」
大輔の母「わかってる、わかってるけど死んだら、終わりよ」
泣き出す大輔の母。
ジュンイチ「はい。僕もそう思います。だからほんとは僕めちゃくちゃムカついてます」
大輔の母「えっ」
ジュンイチを見る大輔の母。
ジュンイチ「一緒に飯食いに行っても俺の弱音や愚痴ばっかり嫌な顔ひとつせず聞いてくれて……じぶんは何もありません。とばかりに余裕ブッこいて……うまそうにから揚げやフライドポテトばっか食いまくってさ、カッコつけやがって……お前の方がヨエーじゃねぇーーかよ。いや、ツエーのか!?もぉわっかんねぇーーよッ」
大輔の母「ア゛ァ゛……(泣き崩れる)」
ジュンイチ「おい、聞いてんのかよ」
大輔の顔に近寄るジュンイチ。
ジュンイチ「お前の周りに居てくれてる人達の辛そうな姿もう見たくなかったんじゃないのかよ。おい、目を開けて見てみろよ。お前が一番望んでなかった事が起きてるぞ。おい、それとも確かめたかったのか、ほんとに自分のために泣いてくれる人間がいるのかどうか!?おい!!ってば、人造人間になったんだろ……不死身なんだろ……おい!!っ起きろよ。起きろってば……」
立ち上がり何かを取りに向かう大輔の母。
ジュンイチ「これから誰が、俺の心の器、空っぽにしてくれんだよ……」
大輔の母「これね」
四つ折りにした紙を震える手で渡してくる大輔の母。
大輔の母「今日穿いてた大輔のスーツのズボンから出てきたの」
ジュンイチ「なんですか?」
左手で涙を拭いて、右手で紙を受けとるジュンイチ。
ジュンイチ「これ……」
□折りたたまれた紙に書かれた歌詞
【Stay Gold】
♪
Stay Gold
― ここはどこ 私はだれ ―
(交差)点と(視)点を地平(線)で繋いだ新たな世界で
羽ばたく準備は出来てるか?
情報があちこち行き交う 交差(点)
迷わされないように ただ ただ まっすぐ
イコール=プラスかマイナスか 計算したところで
考えすぎても 始まらない
振り向くな 俯くな 時代を変える者たちよ
☆誰の真似もしない
信じ抜いた者だけが 貫き通す者だけが
主役になれる資格を持っている
虚言があちこち飛び交う 地平(線)
惑わされないように ただ ただ まっすぐ
イコール=ダウトかトゥルースか 疑心抱くとこまで
勘ぐりすぎても 始まらない
見上げれば 其処にいる 未来を照らす者たちよ
★誰の真似もしない
学び抜いた者だけが 笑みを忘れぬ者だけが
トップに立てる資格を持っている
躊躇うな 挫けるな 時代を変える者たちよ
☆
★
時にはその視(点)を変えろ
♪
大輔の母「あなたたち高校でバンド組んでたでしょ」
ジュンイチ「はい」
大輔の母「その時のモノだと思うけど……」
ジュンイチ「これ大輔が初めて書いた、歌詞です」
大輔の母「そうだったの」
ジュンイチ「……懐か……しい」
大輔の母「そこに書いてあるように生きて行きたかったのかな、あの子も……」
ジュンイチ「あの……これ頂けませんか?」
大輔の母「そうねどうぞ。来てくれたお礼に」
ジュンイチ「ありがとうございます」
○同日・玄関 (夕)
大輔の母「今日はわざわざありがとうね」
ジュンイチ「いえ」
玄関まで見送りにくる大輔の母と立ち話を始めるジュンイチ。
大輔の母「あのね、さっき言ってた事なんだけど……」
ジュンイチ「さっき言ってた事……? なんですか?」
大輔の母「ファミレス?で一緒に、から揚げやフライドポテトを食べたって話……」
ジュンイチ「あぁ」
大輔の母「あの子ね、胃の手術をしてから油もの食べるの避けてたのよ」
ジュンイチ「え、どうしてですか」
大輔の母「胃を切った人にはダンピング症候群っていってね、身体に合わない物食べたり、一気にたくさん食べ過ぎたりすると、その日の体調にもよると思うんだけど、動悸やめまい、冷や汗、腹痛なんかを起こしたりして体調が悪くなってしまうの。だからあの子、そんな姿誰にも見せたくないと思って人とご飯食べる時は色々気を使ってたのよ」
ジュンイチ「そーーだったんですか?」
◎回想・ファミレス・4人席
お前「やべぇーー!!!!!」
俺「なに?なに?どうした?」
お前「やべぇーー う〇こしてぇーー」
俺「はぁーー!?あはははははははははは
はやく行って来いよ」
猛ダッシュでトイレに向かうお前。
大輔の母「それなのに、そんな姿を見せれたのかなぁ。ジュンイチ君にならいいやって……」
すこし微笑みながら嬉しそうに話す大輔の母。
ジュンイチ「アイツ……」
両手で目頭を抑えるジュンイチ。
ジュンイチ「なにもしてやれなくて、すみません」
大輔の母「そんなこと言わないで。ほんとにありがとう」
ジュンイチ「はい」
〇同日・ジュンイチの実家(夜)
ジュンイチの部屋。
ベッドに横たわり紙を広げて読んでいるジュンイチ。
ジュンイチ「お前の歌詞 サイコーにダセェぞ アハハハ」
ベッドから起きて押し入れを開け何かを探し始めるジュンイチ。
ジュンイチ「あった」
大輔とジュンイチの好きな歌手のCDを取り出しフタを開けるジュンイチ。
ジュンイチ「お前さ、ネットでじぶんの名前検索してたら同姓同名の作曲家の人ばっかがヒットして、誰だよって調べてたら、その内その人が作る曲を歌う歌手のファンになっちゃってて、アハハ」
CDの歌詞カードを見るジュンイチ。
ジュンイチ「ほんとカッコ良かったよなーー。そんで俺もいつかこの人に曲書いてもらうんだって書いた歌詞が……」
ベッドに戻るジュンイチ。
ジュンイチ「この Stay Gold だったよな……」
大輔の歌詞を握るジュンイチ。
ジュンイチ「マジあの頃はなんでも出来ると思ってたし、何にでも成れると思ってたよな。けど、現実はそう甘くわないって気づいたのか……。思い通りに行かないのが人生だっていうけど、行かなすぎるとメンタルやられちゃうよな。この歳にもなると、どんどん有望な下の奴も増えて、焦るし、家族も恋人もいないとなると、なんのために生きてんのかってじぶんの存在価値、見失っちゃうし、この先を考えると怖くもなるよな。本当にやりたい事が出来てる人間なんてほんの一握りだけ、その一握りに入りたかったな。お前は真面目だし、努力家だし、良い奴だし、そんな奴ですら叶わない事なんていくらだってあったんだろう……。でもだからって……だからって……死ぬなよな……」
より強く大輔の歌詞を握るジュンイチ。
ジュンイチ「バーーカッ!!!!」
○同・部屋のドア(夜)
ジュンイチの部屋のドアが開く。
母親「あんた、帰ってたの?」
ジュンイチ「うん」
母親「なに、あんた泣いてんの?」
ジュンイチ「泣いてねぇよ」
母親「いい歳して、変わんないわね」
ジュンイチ「うっせ」
母親「晩御飯、食べて帰るでしょ」
ジュンイチ「うん」
母親「何、食べたい?」
ジュンイチ「なんでもいい」
母親「なんでもいいじゃ困る」
ジュンイチ「じゃあ、から揚げ」
母親「りょうかい」
〇大輔の実家 葬式(日替わり・日中)
棺桶の中で眠る大輔。
棺桶の前で泣きじゃくる会社の後輩A。
後輩A「俺のせいだ……あん時、俺がミスしたから……俺のせいだ……俺の……俺の……」
後輩B「タイガのせいじゃないって……」
肩を叩きながら慰める会社の後輩B。
後輩A「リュヴノ……ズゲ…… ハ悲シクネェノカヨ……」
後輩B「悲しいに決まってるだろ……けど……ここでは泣かない」
〇同・棺桶・大輔の顔(アップ)
棺桶を覗き込み話しかけるジュンイチ。
ジュンイチ「おーい、まだ寝てんのか……」
(ハァ)ため息を吐くジュンイチ。
ジュンイチ「俺らどこで道間違ったんだろうな……。
いつの選択を間違ったんだろうな……。
わかる日がくるまで……
俺は生きてくわ」
大輔N「おう」声のみ
ジュンイチ「もしかして、間違ってねぇかもしんねーーし……」
完
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