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4 My name is

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 後ろのポケットから筒状に丸めて入れたノートを手に取る未來。
未來「俺さ、むかしからアオ色が好きだったんだ。」
美月「知ってるよ。」
未來「この前、たまたま新聞読んでたら」
美月「お前、新聞なんか読まないだろ」
未來「読まないけど、たまたまって言ったろ。その時、漢字の面白さっていう記事があってさ。そこに書いてあったんだけど」
美月「なにをだ?」
  ノートを広げる未來。
未來「アオっていう漢字は3つくらいあるんだって、この青と、自分の苗字の蒼、それとこの藍の3つ……あっ……この碧もだっけ……」
 ノートに書かれたアオという漢字をひとつひとつ美月に指差し見せる未來。
美月「それがどうした?」
未來「ひとつ、ひとつ、の意味は知らねーけどさ、この蒼っていう字が一番好きなんだ」
  ノートに書かれた蒼を指差す未來。
美月「どうしてだ?」
未來「この蒼って字、俺の勝手なイメージなんだけど……」
美月「どんなイメージだ?」
未來「美月のイメージって感じ。」
美月「はっ?」
未來「空のアオさでもなければ、海のアオさとも違う。自然から感じるやわらかな優しさっていうより、人間から感じる深くて物静かな優しさって感じ。この蒼って字、美月にぴったりじゃない?」
美月「お前の勝手なイメージだろ。」
未來「そうだけど、それに……」
美月「それに?」
未來「それに、そんな美月と同じ蒼って字、俺の名前にも付いてた。」
  ニヤリ笑う未來。
美月「そうだったなぁ。」
 ニヤリ笑う美月。
未來「そして今日、より一層この蒼って字を好きになりました。」
美月「そうか」
 急に、未來の方へ歩み寄り未來の腕を掴み、なにも言わず引き寄せ両手で抱きしめる美月。
未來「イッテーよ、気持ちワリーな」
  身体を引き離す未來。
美月「ありがとな。」
未來「そうだ、俺は決めたぜ。」
美月「なにをだ?」
未來「美月が見つけてくれた、音楽の才能を信じて、俺、プロの歌手になる。」
美月「そうか」
未來「音楽を通して、自分と似てる奴らに言ってやるんだ。お前だけじゃないぞって。俺が大好きな歌に自分を重ね、慰められていたように、俺も誰かの慰めになりたい。誰かの逃げ場所になりたい。なんならあんな奴になっちゃダメだと言われる反面教師でもかまわない。」
美月「あはは」
  声を出して笑う美月。
未來「なに笑ってんだよ」
美月「お前ならきっと、いや絶対なれるよ。ど・ち・ら・に・で・も・な」
未來「だろう。」
  ニヤリ笑う未來。
美月「さぁ帰るか」
未來「あっ」
美月「また、なんだ?」
未來「もしかして、美月も俺の歌を聴いて泣いたりした?」
美月「(ゲッ)泣くわけないだろ。」
未來「そっか」
美月「俺はそう簡単に、泣かないんだ」
未來「へぇーこの嘘つきヤローめっ」

美月「そうかもな」
未來「えっ」

美月「しかし、リッスン良い歌だったな」
未來「天才ですから!!」
美月「あはは、そうだったな。」
未來「おいっそこ否定しろよっ!恥ずかしいだろ。」
美月「また、歌を書いた時には、聴かせてくれよ。」
未來「気が向いたらね。」
美月「楽しみに待ってるぞ!」
未來「おうっ」

美月「今日の晩飯、親子丼でいいか?」
未來「またー?」
美月「今回は手作です。」
未來「あはは、なんでもいいよ。」
  「さぁ教室 帰ろ。」
美月「おうっ」

  屋上から教室へ戻る美月と未來。


                   完
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