紫苑の宝玉 亡国王女と勿忘草

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第二章 寂れた村の正体

さあ友よ、準備は良いか

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 嫌な予感がした。セインの目線や仕草などから次に来る言葉を予想したアルフレッドは先手を打つつもりで口を開く。

 「前に体休めなきゃいけねーって言ったのレオだろ。今が一番調子がいんだ。何も変えたくない。」

 薬の量を減らせと言われるのだろう。だからこそ先手を打った、つもりだった。

 「うん、うん。言い調子だね。これだと飲まなくても行けそうだ。」

 レオンハルトの返答にアルフレッドはギョッと効果音とともに眼を開く。今飲んでる量を考えれば、飲まなくても良いなんておかしくないか。と、彼の言葉に違和感を感じたアルフレッドだが、気のせいだろうと違和感を拭った。

 「えっ、いや、今がいんだって。飲んでるお陰でこうやって落ち着けてるんだし。」

 「やってみないと、変えてみないと、いつまでも変わらない。良し悪しも分からないままだよ。」 

 不変性を好むアルフレッドに対してレオンハルトは可変性を好んでいた。

 「そう、だけど、でも、」

 「以前薬を減らしてからどれくらい経った? 何にしろ緩急をつけなければ効果は停滞するよ。不安があるなら尚更試して知っておくべきだ。君自身の可能性を否定しないで。」

 アルフレッドは項垂れて頷く。彼自身の自覚があったから何も言えなかったからだ。
 いつだって不安でその先に踏み出せないでいたアルフレッド。そんなときにいつも手を引っ張ってくれるのはレオンハルトである。
 彼に従って行動した時には間違いなど起きなかった。

 「君はネガティブ思考過ぎるんだよ、親友。」

 「お前はポジティブ思考過ぎんだよ、親友。」

 思考が正反対の二人だからこそ、お互いを補える存在だった。趣味や好みに関しては共通点も多く、根本的な性格も合っているため仲が良い。

 月明かりが彼らを照らし、小さな部屋の中は辺り一面よく見える。穏やかな日々とは裏腹に、近日に迫った運命の日が刻々と迫っていた。

 「さて、親友。そろそろ命運に関わる話をしようではないか。」

 レオンハルトは真剣な面向きでアルフレッドへと手を伸ばす。彼も同じようにそれに応えた。

 そうしたちょっとした会談の後、レオンハルトがフィーネたちの元へ帰ってきたのは翌日の事だった。ちなみに壊れた扉は壊した本人であるルナリエが責任を持って直していた。

 「フィーネ。昨日は本当にすまなかった。」

 「へっ?!」

 帰ってきて早々にレオンハルトは深刻な面向きで言い訳ひとつなくフィーネへと謝った。

 「あっらぁ~? なになに~レオンちゃん、フィーネちゃんと喧嘩したの?」

 ニヨニヨと効果音がつくようなニヤケた顔を心ばかり手を口に当てて隠すルナリエ。その言葉にレオンハルトは首を横へ振った。

 「違う。喧嘩、と言うよりも私が一方的に責めてしまったんだ。本当にすまなかった、フィーネ。」

 レオンハルトはもう一度フィーネへと告げる。旋毛が見えるその姿にフィーネはハッとした表情で両手を振った。

 「じっ自分でも怪しいと思うし、いいのよ! お願いだから顔を上げて!」

 そもそも受け入れてもらえる方が不思議なのだ。

 レオンハルトは皇帝である。その事が頭を過り、フィーネは余計あたふたと焦っていた。

 「ありがとう、フィーネ。だが、そうであっても私の態度が悪かった。……と、そう言うことなのだよルナリエ。」

 狼狽える素振りも一切なく、レオンハルトはルナリエに向けて素直に答える。

 「え、ああ、そう……もう、ほんっとレオンちゃんってば弄りにくいんだから!」

 レオンハルトは「そうかい?」と首を傾げる。

 「ところでフィーネ、君はこれからどうしたい?」

 「これ、から?」

 「薄々気付いているだろうけど、私たちはある目的を持った組織だ。君は……まあ関係無いから巻き込みたくはないんだけれど、何かしら知っているみたいだね。」

 「えっ?!」

 「待てレオン、本当に彼女を巻き込むのか。」

 レオンハルトへと距離を縮めてシュジャは苦言を呈する。そんな彼を横目にレオンハルトは堂々とした態度でフィーネへと語る。

 「もしここへ残ると言うのなら、そうだね、最後方のシュジャと共になら確実に守ってくれるだろう。」

 「レオン!」

 声を張り上げるシュジャにレオンハルトは冷たい眼を向けていた。

 「シュジャ、私は今彼女に問うているのだ。君の故郷の方針も、君が心配していることも理解しているが、ここは君の国ではない。」

 そう窘められたシュジャはグッと口を結んで眼を反らした。

 フィンは二人の成り行きを静かに観察していた。

 ──────レオンのあれは静かに苛立ってるやつだな。て言うか、急いでる……焦りか?

 レオンハルトの動向を特に注視していたフィンはそう感じていた。同時に納得した。もう少しで時が来るのだと。

 「フィーネ、もう一度問おう。君はどうしたい?」

 レオンハルトは指で数字を示しながら言う。

 「一つ、ここに残る。シュジャは故あって前線に出られない。彼と共にいれば一番安全に過ごせるだろう。

 二つ、君が何かを知りたいのなら、私と共に来ると良い。出来る限り守ろう。

 三つ、私たちのことは忘れて直ぐに立ち去る。

 或いは四つ目の選択肢があるかい?」

 レオンハルトの瞳は真っ直ぐにフィーネを射ぬく。フィーネの喉がごくりと鳴った。そして彼女は力強くレオンハルトを見返した。

 シュジャは物言いたげにフィーネを見ていたが、彼女は気付かない。

 「連れていって。レオン、貴方に着いていくわ。」

 「うん、良い返事だ。君の眼で、ちゃんと知ると良い。」

 レオンハルトはフィーネの答えに満足したように頷いた。

 「レオン……。」

 不満を露にするシュジャ。レオンハルトはそんなシュジャへと向き直した。

 「君の国では守る対象子供へ先に危険を教え、周りの者がその危険から遠ざけることが多い。そして、何が危険か考える間もなく、剃り込みのように危険だと認識させられる。なぜ危険かはその後に自分で学ぶしかない。」

 文化の違いを引き合いに出されれば、シュジャは口を結んだ。フィーネは二人の掛け合いをハラハラと見ている。

 「考え方、守り方の違いだ。私の国ではその物が何か、何が危険かを自分で考えることが多い。それから、だから危険なのだと教えるんだ。」

 黙って眉を寄せるシュジャに、レオンハルトは心の中で苦笑いを浮かべていた。

 ──────太陽の国の人は口よりも表情や雰囲気で話すよな。

 「心配する気持ちはわかる。だが大丈夫だ。フィーネには私がいる。」

 「それはそれで複雑なのだ。」

 「なら、きちんと二人で話してみるのはどうだろうか。」

 レオンハルトの一言で、シュジャとフィーネの目線が合った。
 
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