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第一章 亡き王妃との約束
約定
しおりを挟む部屋にやって来たのはセインだ。
嬉しさを隠しもしないまま、フィーネは扉へ駆け寄り自ら扉を開けた。
「お帰りなさい、セイン。」と満面の笑みを浮かべるフィーネを、セインは彼女を抱き締める。
「ただいま。遅れてすまない。待たせたね。」
軽いハグを済ませたセインはフィーネの顔を見ると眉をひそめた。
「……顔色が悪く見えるが、何かあった?」
やっぱりなぁ気付くと思った。とサウトの顔は真っ青になる。
セインの視線はサウトに注がれていた。それもそのはずである。ここ一ヶ月繁忙期にあるセインは、フィーネの事を渋々サウトとアンナに任せていた。よっぽどの事情がない限り女子供に強く当たれないセインが責める矛先はサウト一択である。
たじろぐサウトに対して、アンナは「申し訳ありません。」と謝った。そしてそのままサウトへの視線を遮るようにセインに近付いた。慌てたフィーネは「私は何ともないわ。」と言ってアンナを止めようとするが、アンナは首を振った。
「フィーネ様は、器の記憶によって不眠が続いています。」
あちゃー、と言うようにフィーネは額に手を当てた。
「器の記憶を? 何故早くに言わなかった。……いや、今はそれよりもやることが出来たな。」
「すまんセイン。任されていたのに気付けなかった。」
「反省しているのなら次に生かせ。だが、起こったことを解決するのが先だよ。反省はそれからだ。起こったことを踏まえて反省してこそ、対策の輪が広がるから。負の状態に囚われるな。正を探して取り込め。二度目を作るな。」
「セイン……ああ! 勿論だ!」
「フィーネ。貴女も私たちを存分に頼って欲しい。直ぐには難しいだろうから、少しづつでも。」
心配をかけた。という事は彼らの態度や表情から分かった。フィーネは「分かったわ。」と返事をしたものの彼女にとって努力案件である。抱え込む癖はフィーネ自信にも自覚があった。
それをセインも分かっているのだろう。
「言える時でいい。私たちが聞いたら言える範囲で教えて欲しいんだ。」
彼はそう言ってフィーネの頭を髪の流れに沿って撫でた。
「どういう状況か説明が欲しいのだが。」
フィーネとセインの間に流れる雰囲気に耐えられなくなった晴臣が口を出す。今まで空気を読んで静観していたのが嘘のようである。
虎太郎も彼は彼で思うところがあった。最近よく放置されるな、だとか、晴臣もちゃんと沈黙できるんだな、などと割かしどうでも良い事だったが。
声を掛けられたセインはフィーネから手を離し、晴臣と虎太郎の方を向いた。
「久しぶりだと言うのに騒がしくてすまないね。いらっしゃい。ハルオミ、コタロー。来てくれて嬉しいよ。おもてなしも出来ず重ねてすまない。」
「否、こちらは世話になる身だ。構わぬよ。」
「ああ、世話になる。」
穏やかに会話をする三人であったが、晴臣が「早速だが、」と話を切り出すと互いに真剣な顔付きとなった。
「余たちを呼んだ事も含めて説明をして貰えぬか。」
隣の虎太郎は無言で頷いて同意していた。
「勿論。まず、私とサウトそれからロドリゴにはマグノリアとの"約束"と言う名の契約があるんだ。……フィーネ、貴女も良く聞いておいて欲しい。」
突然話をふられたフィーネは慌てて「はい!」と肯定を示した。
マグノリア王妃か。と、晴臣は心の中で呟く。晴臣と虎太郎は学生時代、セインに連れられてマグノリアにあったことがあった。それも彼女が殺されるほんの数日前だ。正直、一度きりということもあってその時の記憶をはっきりとは覚えていないが、ぼんやりと思い出せる。
「うむ、約束とは?」と晴臣は先を促した。
「フィーネとマグノリアの約定を叶えることだ。マグノリアの魂は妖精女王となっていてね、約定を守ることは世界の均衡を保つことでもある。」
驚く彼らを他所に、「そして、」とセインは続ける。
「称号を貰っていないだけで私とサウトには聖騎士の資質があるからね。フィーネを守護する役割を得ている。」
フィーネは出会った頃のセインを聖騎士だと勘違いした事を思い出した。治癒魔法の下りでフィーネにとってはすっかり聖騎士枠から除外していた。しかし、セインに実力があるのは確かである。サウトも聖騎士の資質があったことには純粋に驚いた。庭で模擬剣を扱っているのをよく見ていたが、彼が魔法を使っているところを一度も見た事がなかったからである。
「通信でフィーネの事情をある程度説明しただろう? フィーネの魂を器と癒着する為にも宝具が必要なんだ。その辺はロドリゴの方が詳しい。彼は案内人としてフィーネを導く役割もあるんだ。」
三人がフィーネのそばにいたのには意味があった。フィーネはその事を実感した。
「だが、厄介な事にロドリゴ以外は刺客やら反対勢力がある。現状一番ロドリゴが動きやすいから、今も彼には情報収集を頼んでいるところだ。」
なぜ?という疑問がフィーネにわく。サウトは王族だから分かるとして、フィーネもフィオラ関係で何かしらあるのではと予想はしていた。では、セインはどうだろうか。秘密が多いとは思うし、立ち振る舞いもサウトより王族らしいと思うが、ここはキトラー王国である。仮に他国の王族貴族だとしても、訳ありだということは明白だ。頻繁な外出も気になる所である。が、考えても仕方ない。セインが話を続けているのでフィーネはそちらに集中した。
「そこで、私たちが失敗した時の保険をハルオミとコタローに託しておきたい。まあ、失敗なんてしないだろうけどね。一応。」
貴殿程の実力者が失敗なぞせぬだろうに。と、晴臣は思ったが口には出さなかった。実際にセイン自身も自信満々に言っている。
「保険と言うと? フィーネ殿を匿えば良いのか?」
「そうだね。まあ、暫くはこの屋敷にフィーネがいると思わせる細工に勤しんでくれたら良い。」
「承知した。期待せず構えておくぞ。」
それを最後に彼らの話題は友人としての語らいへと移っていく。フィーネはアンナの方へ駆け寄って行き、談笑しているようであった。
この時点で果てしなくホッと安堵している人物が一人いた。サウトである。虎太郎は彼のそばに近づくと「一先ず、と言ったところか。」と話しかけた。
「それを言うなよ。」
これから先が本番である。
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