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第一章 亡き王妃との約束
古びた薔薇のペンダントと手紙
しおりを挟むフィーネの緊張も程よく解けたところで、やっと本題へと入る。
「さて、まずはこれを。今度こそ受け取って欲しい。」
そう言いながらセインは彼女への贈り物を取り出した。手紙と、小さな箱。セインは小さな箱から開けるようフィーネを促す。
フィーネは素直にそれを受け取り、丁寧に包みを開いていった。箱には年季の入った赤い薔薇のペンダントがあった。
「わあ……古いけれど、とっても綺麗。ロケットペンダントね。」
「フィーネの物だ。できる限り肌身離さず持っておくと良い。」
その物言いに「セインが用意したの?」とフィーネが問う。セインは首を横に振り「手紙の送り主からだよ。」と答えた。
フィーネは手紙を手に取った。1辺を手で破ろうとすると、すかさずセインはペーパーナイフをフィーネへ渡す。
彼が持つベルト式の鞄から出したのだろうけど、他に一体何が入っているのか少し気になりながら、フィーネはセインにお礼を述べた。
切れ味の良いペーパーナイフだった。
手紙は2枚入っていた。最初の紙にさっと目を通したフィーネは、セインに一瞬だけ視線を遣ると、声に出して手紙を読み始める。
「親愛なるフィーネへ。括弧、弟子の事だからフィーネと名付けるのではないかと思い、フィーネと呼ぶ事にします。括弧閉じる。」
ピクリと身体を震わせたセインは片手で顔を隠し、天井を仰いだ。小さく「怖っ。」とボヤいていたのがフィーネの耳には聞こえていた。
「そのロケットペンダントの鎖は少しばかり錆びれていたのだけれど、弟子の事だから錆びにくく壊れにくい素材に変えていることでしょう。守護魔法も弟子の事だから更に強力に掛け直し……」
「待て待て待て。まさか、1枚目の殆どに私の事が書いていないか?」
「殆ど……と言うか、全部ね。」
「長い。飛ばそう。消そう。2枚目から読むんだ。」
「え~?」と不満げに言いながらも、1枚目は後で読もうと2枚目の紙の下に入れた。セインがやたら1枚目の手紙をじっと見て無言の抗議をしてくるので、フィーネは取られまいとしっかりと2枚の紙を掴み、2枚を読み始める。
「弟子の話ばかりしては面白くないので本題に移ります。」
「是非そうして欲しい。」
セインが皮肉めいた声色で吐き捨てると、フィーネはセインに視線を遣ってから再び目線を落とした。
「と、弟子も言っていることでしょう。」
「え。」と、声を零したセイン。暫く黙っておこう。それがいい。と、彼は心に誓った。
「さて、弟子も静かになった所で、話を続けましょう。」
それを聞いて両手で顔を覆ったセインは再び天井を仰いだ。
それを横目にフィーネは楽しんでいた。まだ関わって間もないとはいえ、初めて見る彼の反応が嬉しく思えた。加えて、今までからかわれた腹いせでもあった。
「フィーネ、貴女に探して欲しい物があります。それは貴女にしか見付けること、扱うことが出来ないものです。私にも何が見つかるかは分かりませんが、参考までに、私の時は血のように紅い宝石の付いたロッドでした。詳しい事は弟子に聞いて下さい。私に全て任せようとしても無駄ですからね、可愛い弟子よ。時間は有限です。しっかりおやりなさい。祟りますよ。フィーネと弟子へ愛を込めて、マグノリア・ノエル・シュヴァリエより。」
読み終わると、フィーネは素早くと手紙を封筒に戻して、抱き抱えた。
「……それだけか?」
セインが恐る恐る尋ねる。フィーネは「そうよ。」と答え、セインをじっと見た。
結局、私がほぼイチから伝えるのか。と、セインは頭を抱えていた。
「私、分かったわ。」
真顔のフィーネが妙にスッキリとした様子で言う。
「あんたの物騒さは、師匠譲りだったのね。」
「何て至極どうでも良い事だ。否定はしないが。」
フィーネが何か思いだしたのかと思い期待していたセインはあからさまに落胆して見せた。
「それで、送り主に心当たりは?」
気を取り直してフィーネへ問う。
「ないわ。でも、シュヴァリエってことは、シュヴァリエ公国関係かしら。」
おや。と、セインは内心呟いた。正直なところ、彼女が知っているとは思っていなかったからである。
「その通り。マグノリアはシュヴァリエ公国の王妃だ。他に何か知っているか?」
「シュヴァリエ公国は、確か、滅ぼされたのよね。3年前だったかしら。」
そこまでの知識があるとは。セインは感心していた。そして、彼女の知識の出処としては2つばかり心当たりがあった。
何処まで分かるか、話せるか。セインは話を続けていく。
「ああ。キトラー王国にだ。当時のキトラー王が残虐な人でね。東のブァルプルギス帝国には勝てないからと、西のシュヴァリエ公国に目を付けた。」
「他の小国は潰し甲斐がないから、ってね。」と、セインが付け加えて言う。
真剣に聞いていたフィーネは「あれ?」と声をあげた。
「でも、シュヴァリエ公国って、キトラー王の妹が嫁いだ国だった筈よね?」
「そう。その妹がマグノリアのことだよ。昔から賢かったからか、殺伐とした王宮の中でも唯1人キトラー王から生き延びた妹だった。凄い女性だよ。」
そう語るセインは少年のように活き活きとして見えた。彼がマグノリアの事を尊敬している様子がありありと分かる。
フィーネは、その光景をどこがで見たような気がした。
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