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第一章 亡き王妃との約束
新たな名前と共に
しおりを挟むフィオラが目を覚ますと、見たことも無いような豪華絢爛な部屋が見えた。大きなカーテンが閉められて、外の様子は分からない。どうやら自分は眠っていたらしいと気付くが、これもまた夢かもしれないとフィオラは思っていた。
「何もかも高そう。……高いんだろうなぁ。」
うわぁ。と声を漏らしながらフィオラが言う。
今まで触れたことも無い柔らかなベットから降りたフィオラは豪勢で大きな扉に向かって歩き始めた。
丁度フィオラが扉に手をかざした瞬間に扉が開いて、フィオラは「えっ?」と驚く。
扉を開いたのはセインだった。
「良いタイミングだったな。丁度夕食の用意が終わったから呼びに来たんだよ。」
「夕食……」
一体どれくらい長く眠っていたのだろうか。フィオラが思い出そうにも霧がかったように思い出せない。
朝食は洗濯物を干す前には済ませたけれど、そう言えばお腹が空いた。と、1度感じてしまえばフィオラに空腹感が襲いかかる。
グゥっ、とお腹の音が響いた。
フィオラは顔を赤くしてお腹を抑え猫背になった。しかし鳴ってしまった音は戻せない。
セインはひっそりと笑って、フィオラの手を取る。
「さあ、冷めないうちに食べに行こうか。フィーネ。」
「フィーネ……?」
「貴女はフィオラでは無いだろう?かと言って全く違う名前をつけると分かりにくい。そこを考えて、私が名を付けた。」
「どうだ? サプライズだ。」と期待した目で見てくるセインに、フィオラは「そうね。」と、笑みがこぼれる。
そうして良い雰囲気の中、手を繋いだままセインに連れられて食事の場所へと歩みを進める。
「ところで、どういう意味で"フィーネ"なの?」
「決められた終わりに従うのではなくて、私の意思で、私自身が初めて見付けた、私だけの終着点…という意味だ。」
「んん……? よく、分からないわ。」
目をぱちくりとしてフィオラ…否、フィーネは首を傾げた。
「まあ、意味が分かった時……貴女は泣き崩れるかもしれないね。」
「えっ、何、怖いわよ。」
「そう身構えず、今は何も知らないままでいて欲しい。」
そう願ったセインは今にも消えそうに儚かった。
フィーネは「分かったわ。」とだけ答えてセインの手を握った。
しんみりとした空気になり、セインは「だが、」と話を変える。
「フィオラの体としては知らなければならないことが沢山あるから、忙しくなるだろう。」
それを聞いたフィーネの顔は歪んだ。
「そんなあからさまに面倒くさそうな顔はしてくれるな。」
「フィオラって子は本当に何に巻き込まれてる訳?」
「それは……食事が済んでから話すとしよう。部屋に着いた。」
知らない内に食事場所に着いていたらしい。セインのエスコートで扉が開かれ、フィーネは中へと促された。
「広いわね……。」
その言葉を聞いたセインは「広い。」と自分に言い聞かすように何度も呟いていた。
控えめな装飾の長テーブルの端と端に食事が置かれている。汚れひとつない真っ白で綺麗なお皿の真ん中に少量の食べ物がぽつりと飾られていた。似たような置き方で何種類か食べ物があり、スープも置いてある。
「どこの高級料理店よ。」
「気に入らなかったか?」と、セインが尋ねるが、フィーネは勢い良く首を横に振り「いいえ。」と直ぐに答えた。
「……でも、何だか寂しいわね。」
「寂しい?」
「席が離れ過ぎよ。もうちょっと近くで食べてもいいじゃない。大勢ならまだしも、2人で食べるのよ? こんなに離れてたら寂しいわ。」
フィーネがそう言ったとき、セインは自分自身の昔からの食事風景を想起していた。食事をするのは自分1人。彼にとってはそれが当たり前だった。しかしそれは客観的に見て、寂しいものであることは想像出来る。
「そうだな……寂しいものだ。」
うんうん。と、セインが頷いたかと思えば、食器や椅子が薄紫色の光に包まれた。
端から端へあっという間に物が移り、近くで向かい合わせになるように変わった。
「セイン、あんた本当に何者なの?」
その問いにセインは答えず、笑って流す。
「便利な魔法使いだろう? 生まれつき魔力量が高い所為か使う量次第でなんでも出来るんだよ。」
朗らかに笑むセインをじっと見詰めたフィーネは ジト目で「苦手な魔法は?」 と、ボソッと口に出す。
セインは瞬時に遠い目をして「回復魔法。」と答えた。
「苦手というか最早嫌いだね。」
「そんなに?」
「回復魔法も、凶器になるんだよ。強すぎる魔力は体に毒って事だ。…色んな意味でね。」
「……初めて知った。強い、ってのも考えものね。」
自分の回復魔法の力を知るフィーネの表情が暗くなる。それに気付いたセインは不安を打ち消すように笑った。
「フィーネの回復魔法は強大だが……私のような事、普通は有り得ないから大丈夫だ。」
「それって、フィオラが回復魔法得意だったって事?」
「いいや。フィオラの魔法は申し訳程度のものだったよ。回復魔法なんて高度なものは以ての外だった。」
「じゃあ何で私が……。」
「魂が変わったからだよ。魔法の力は、身体ではなく魂からのエネルギーだ。」
「……それも、初めて知ったわ。」
「魔法の力の真実は殆どの人が知らない事だからな。無理もない。知っているのはこの世に5人にも満たないだろう。」
「へえ……。」と声をこぼしながら、フィーネはセインの力にも知識にも舌を巻いていた。彼は嘘が付けない、と言う事をフィーネは薄々分かっていた。何故か、知っていた。
「おっと、これ以上は料理が勿体ない。……温めておこう。」
料理が薄紫色の光に包まれて、勢い良く湯気がたったかと思えば、美味しそうな匂いが立ち込める。
まただ。と、フィーネは思った。
記憶が曖昧なフィーネでさえ、セインの異常さに気付いていた。
セインの正体が神であったと言われても、フィーネは信じるだろう。
「さあ、食べよう。フィーネ、こちらに。」
声掛けを合図にフィーネはセインが引いた椅子に腰を下ろした。
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