24 / 36
Menu 4『Darjeeling Second Flash』
『Darjeeling Second Flash』②
しおりを挟む
「初めてこの店に来たとき、実は俺、結構緊張してたんですよね」
視界の端で、水を入れたやかんをコンロにかけながら杏介が言う。
「えー? 実はって何よ、実はって。落ち着いて見えてはいたけど、あんたが固くなってたのは最初からわかってたよ」
「あのときは下宿に帰りがてら軽く散策してただけだったんですけど、そしたら思いがけず迷っちゃって。ほら、この建物って雰囲気あるから、なんか場違いなとこ来ちゃったか? 的な」
「まあねぇ。いやぁ、今だから言うけど、初対面のあんたは色々初々しくて可愛かったよ。バイトしたいって言われたときはさ、一瞬考えちゃったもんね。あれー、こんな若い子引っかけちゃっていいんだっけ? 的なね」
私はそのときのことを思い出して口元からククッと笑みをこぼす。
こんなこと言ったら彼はムッとするかと思ったけど、しかし、意外にも穏やかな表情のまま言った。
「でも、結果的にはここのバイトにしてもらって、とても感謝してますよ」
あれあれ? なんだよ余裕かましちゃって。チャームポイントの可愛げがなくなっちゃってるじゃん可愛げが。
「それに、当時の楓さんの状況を思えば、もっと早くに誰か雇っててもよかったくらいです」
正直な気持ちを言えば、私はこの店をずっと一人で切り盛りできると思っていた。状況に強いられてバイトを雇おうと考えたのも、随分悩んだ末のことだ。
もともと、この店は私の母のものだった。母が店長をしていた頃は私がちょこちょこ手伝いに入っていて、隣に建つ生家にも、母との記憶しか存在しない。つまり私には父親がいなかった。生物学上の父はいただろうが、家族としての父はいなかったのだ。
私の母はほとんど駆け落ち同然でこの土地に来た。元はどこぞの田舎に邸宅を構えるいいとこのお嬢様で、身体が病弱だったこともあってか、たいそう箱入りで育ったそうだ。教育も食事も医療も家に呼べるものはできるだけ呼んで、家庭教師にコックに主治医、なんでもござれみたいな環境だったと、その昔びっくりするくらい嫌味のない上品な口調で聞いたものだ。
そして主治医との子を宿して二人、愛の逃避行。熱に浮かされ主治医の金で家と併設のカフェを建て、若くして私を出産した。
だが、そんな愛の寿命は決して長くはなかったという。初めのうちこそよかったものの、父はすぐに他所で女を作って出ていったらしい。いや、そもそもが訪問診療で婚姻もギリギリの若い患者に手を出すような男なのだ。移り気で軽薄な男であることは想像に難くない。母さんにとっては盲目の恋に落ちるほどの男だったのかもしれないけれど、私にとってはただ金を持っているだけの男で顔も名前も興味はなかった。
せっかくの立派な家にも店にも、父の痕跡はまるでない。父にしても、飽きた女との古巣などあとにも先にもまったく興味はなかっただろう。いつしか所有者は母の名義になっていた。まあ慰謝料としては破格だったのかもしれないが、あまりにも世間知らずで無垢で底抜けに優しく、破滅的に優しいばかりだった母は、そんな父との別れに涙を枯らして嘆いていた。
幼い頃から、私の直感はよく当たった。学生の時分には友人の欠席を予期したり、急な行事の中止を言い当てたりすることがしばしばあった。もちろんそんなのは偶然で片付くレベルのものだったが、あとになって思えば、父が最後にこの家を出ていった日の朝も、普段通り仕事へ向かう背中にそういう気配を感じていた記憶がある。
そしてその直感は、ある日、母が倒れたときにも降ってきた。もとより病弱だった母は体調を崩して病院に行くことがままあったが、最後に母が倒れたその日、もうきっと母はこの家に戻ってくることができないだろうと、なす術もなく感じてしまったのだ。
当時、私は高校三年生だった。救急車で病棟に運ばれる母を目の当たりにしながら、私はもちろん心の底から悲しかったのだが、それと同時に、いつかこういう日が来るのだということをずっと前から知っていた自分に気づいた。
母はその年の秋にあっけなく天に旅立った。私の卒業する姿を見られないのが、とても残念だと言って。
母は生来、病気だった。病名は、覚えるには辟易するほど長くて煩雑。簡単に言えば生まれつき心臓周りの血管の一部が狭いというもので、結果的に様々な症状を引き起こす病気だ。予後は決して長くない。
そして私のこの身体にも、母と同じ病が宿っている。
幼い頃には曖昧だった自分の病気への理解は、歳を重ねるにつれて徐々に明確になっていった。生後すぐの手術によっていくらか改善は見られたが、高校一年の頃に再発し、再手術を受けた。けれども経過は芳しくなく、自分の胸に大きな傷が刻まれたことと引き換えに得られたなけなしの延命を、その頃思春期真っ只中にあった女子高生の自分が喜べたという記憶はない。
病気について、遺伝性は証明されていないもののいくつか症例はあるとのことだった。現に私の場合もそうだ。系譜を遡って調べれば他にも身内に発病者はいるかもしれない。しかし自分の血筋が呪われたそれであるかどうかの判明など、私にとっていったい何の益になるだろう。私の病気が偶然であれ必然であれ、この身体に発現した病魔が消えるわけではないのだから。
自分に降りかかる不幸に理由があるのかどうかというのは、改善に向かうための活力にはいくらか影響があるかもしれない。けれどそれが自分にどうしようもない不幸だったなら、理由などあろうとなかろうとどうでもいいものなのだと私は知った。
私は進学も就職も望まなかった。高校の先生には事情を話せば反対の言葉など返ってこない。友人とも円満に距離を取り、持ちものを増やさないことにだけ注意して生きようと心に誓った。だって私は、いつか遠くないうちに、それらの全てを残してこの世界を去るのだろうから。
卒業後は母の店を継いだが、幸い固定客はいくらかいて、母の時代から取引があった茶葉の卸し先や菓子類の提携販売もあり、経営面はなんとかなった。ただ、困るのはどうしても身体がいうことをきかない日だ。病気を患っているといつも必ず身体のどこかしらには不調があり、朝起き上がれないとか、営業終了を前に著しく体調を崩すことが唐突にあった。
一人で店を営む場合、そういうときは否応なく臨時休業にするしかない。でもせめてもう一人だけでも店員がいれば……。そう思ったから、バイトを雇うことにした。だからこそ、私はバイトにレジや皿洗いといった雑務だけを任せるのではなく、ゆっくりでも一人でカウンターに立てるようなスキルを身につけてもらいたかった。
その点、バイトの黒川くんは非常に優秀で覚えがよかった。働き始めから間もなくして、隣で私が見ていれば基本的なメニューは提供できるまでになってくれた。
「あらあら、店員さんが増えたのね」
「はい。黒川といいます。よろしくお願いします」
若い男の子のエプロン姿は近所の主婦たちにもちょっとした人気だったし、彼は彼でそうしたお客さんを相手にすることへの物怖じもあまりないようだった。
「長いこと一人でやってたみたいだけど、よかったわねぇ。楓ちゃん」
「ええ、そうなんですよー。これで私も、ついに楽できるってもんです」柔らかい笑顔で話しかけてくる常連のおばさまに私も明るく答えを返す。「というわけで、今日はこの黒川くんが、紅茶をご用意させて頂きますよ!」
「あら、いいけど、大丈夫なのかしら?」
「そりゃもう、私の弟子なんで!」
そう言うとお客さんたちは皆、嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃ、黒川くん。頼んだからねー」
「はい」
身体が苦しいときは、それを誤魔化しながらでも偉そうなふりして椅子に座って、口であれこれ言えばいい。どうしても咳や息切れ収まらないとき、軽い発作が出たときだけ、私は自室に籠って薬を飲んだ。
病気が再発してから、月日を数えるように種類の増えた錠剤は、出せば手のひらに盛り上がる。ピルケースをいくつも散らしてうずくまりながらそれらを一粒ずつ飲み下すさまを見られれば、病気のことはとても隠しきれないだろう。
戻るのが遅い私を気にして、黒川くんは時折、私の部屋を訪ねてきた。
「あの、店長。大丈夫ですか? お客さんも心配してましたけど……」
控えめなノックの音がすると、私は苦しくても必ず呼吸を浅くして扉に飛びつく。そして両手で取手を握って固定した。間違っても扉が開いて、こんな姿を見られないように。
「大丈夫大丈夫! ちょ、っと……探し物、してるだけだから!」
「でも店長、今日、いつもより調子悪そうでしたよね。よければ俺も手伝いますけど……」
「え、えー? うーん、でもなー。やっぱ部屋見せるのは恥ずかしいよ。乙女の花園は男子禁制だから」
すると少しの沈黙を経て答えが返る。
「……まあ、大丈夫ならいいですけど。あと、とりあえず乙女って歳ではないかと」
「はあ!? ちょっと黒川くん、女に歳のこと言うなんてガキじゃないんだから! 女はいつまでたっても乙女よ!」
「あ、すみません」
こみ上げてくる咳を堪えながら、私は扉にもたれて気丈に言う。
「ほらほら、いいから君はお店見ててよ。なんかわかんないことあったら保留にしといて。私もすぐ戻るから」
「……わかりました」
戸惑いがちに離れていく彼の足音を耳にしながら、私は冷たい床に伏した。そういうことが初めのうちはふた月に一度くらいだったのが、次第に短い間隔になっていった。
病気のことを、ずっとこの先も隠し通すのは、どう考えても難しい。もし彼が店で長くバイトを続けてくれるのなら、いつかは話さなければならないのかもしれない。
でも、それはまだ、今ではない。
きっとなんの根拠もなく、私は言い訳のようにそう思い続けていた。
視界の端で、水を入れたやかんをコンロにかけながら杏介が言う。
「えー? 実はって何よ、実はって。落ち着いて見えてはいたけど、あんたが固くなってたのは最初からわかってたよ」
「あのときは下宿に帰りがてら軽く散策してただけだったんですけど、そしたら思いがけず迷っちゃって。ほら、この建物って雰囲気あるから、なんか場違いなとこ来ちゃったか? 的な」
「まあねぇ。いやぁ、今だから言うけど、初対面のあんたは色々初々しくて可愛かったよ。バイトしたいって言われたときはさ、一瞬考えちゃったもんね。あれー、こんな若い子引っかけちゃっていいんだっけ? 的なね」
私はそのときのことを思い出して口元からククッと笑みをこぼす。
こんなこと言ったら彼はムッとするかと思ったけど、しかし、意外にも穏やかな表情のまま言った。
「でも、結果的にはここのバイトにしてもらって、とても感謝してますよ」
あれあれ? なんだよ余裕かましちゃって。チャームポイントの可愛げがなくなっちゃってるじゃん可愛げが。
「それに、当時の楓さんの状況を思えば、もっと早くに誰か雇っててもよかったくらいです」
正直な気持ちを言えば、私はこの店をずっと一人で切り盛りできると思っていた。状況に強いられてバイトを雇おうと考えたのも、随分悩んだ末のことだ。
もともと、この店は私の母のものだった。母が店長をしていた頃は私がちょこちょこ手伝いに入っていて、隣に建つ生家にも、母との記憶しか存在しない。つまり私には父親がいなかった。生物学上の父はいただろうが、家族としての父はいなかったのだ。
私の母はほとんど駆け落ち同然でこの土地に来た。元はどこぞの田舎に邸宅を構えるいいとこのお嬢様で、身体が病弱だったこともあってか、たいそう箱入りで育ったそうだ。教育も食事も医療も家に呼べるものはできるだけ呼んで、家庭教師にコックに主治医、なんでもござれみたいな環境だったと、その昔びっくりするくらい嫌味のない上品な口調で聞いたものだ。
そして主治医との子を宿して二人、愛の逃避行。熱に浮かされ主治医の金で家と併設のカフェを建て、若くして私を出産した。
だが、そんな愛の寿命は決して長くはなかったという。初めのうちこそよかったものの、父はすぐに他所で女を作って出ていったらしい。いや、そもそもが訪問診療で婚姻もギリギリの若い患者に手を出すような男なのだ。移り気で軽薄な男であることは想像に難くない。母さんにとっては盲目の恋に落ちるほどの男だったのかもしれないけれど、私にとってはただ金を持っているだけの男で顔も名前も興味はなかった。
せっかくの立派な家にも店にも、父の痕跡はまるでない。父にしても、飽きた女との古巣などあとにも先にもまったく興味はなかっただろう。いつしか所有者は母の名義になっていた。まあ慰謝料としては破格だったのかもしれないが、あまりにも世間知らずで無垢で底抜けに優しく、破滅的に優しいばかりだった母は、そんな父との別れに涙を枯らして嘆いていた。
幼い頃から、私の直感はよく当たった。学生の時分には友人の欠席を予期したり、急な行事の中止を言い当てたりすることがしばしばあった。もちろんそんなのは偶然で片付くレベルのものだったが、あとになって思えば、父が最後にこの家を出ていった日の朝も、普段通り仕事へ向かう背中にそういう気配を感じていた記憶がある。
そしてその直感は、ある日、母が倒れたときにも降ってきた。もとより病弱だった母は体調を崩して病院に行くことがままあったが、最後に母が倒れたその日、もうきっと母はこの家に戻ってくることができないだろうと、なす術もなく感じてしまったのだ。
当時、私は高校三年生だった。救急車で病棟に運ばれる母を目の当たりにしながら、私はもちろん心の底から悲しかったのだが、それと同時に、いつかこういう日が来るのだということをずっと前から知っていた自分に気づいた。
母はその年の秋にあっけなく天に旅立った。私の卒業する姿を見られないのが、とても残念だと言って。
母は生来、病気だった。病名は、覚えるには辟易するほど長くて煩雑。簡単に言えば生まれつき心臓周りの血管の一部が狭いというもので、結果的に様々な症状を引き起こす病気だ。予後は決して長くない。
そして私のこの身体にも、母と同じ病が宿っている。
幼い頃には曖昧だった自分の病気への理解は、歳を重ねるにつれて徐々に明確になっていった。生後すぐの手術によっていくらか改善は見られたが、高校一年の頃に再発し、再手術を受けた。けれども経過は芳しくなく、自分の胸に大きな傷が刻まれたことと引き換えに得られたなけなしの延命を、その頃思春期真っ只中にあった女子高生の自分が喜べたという記憶はない。
病気について、遺伝性は証明されていないもののいくつか症例はあるとのことだった。現に私の場合もそうだ。系譜を遡って調べれば他にも身内に発病者はいるかもしれない。しかし自分の血筋が呪われたそれであるかどうかの判明など、私にとっていったい何の益になるだろう。私の病気が偶然であれ必然であれ、この身体に発現した病魔が消えるわけではないのだから。
自分に降りかかる不幸に理由があるのかどうかというのは、改善に向かうための活力にはいくらか影響があるかもしれない。けれどそれが自分にどうしようもない不幸だったなら、理由などあろうとなかろうとどうでもいいものなのだと私は知った。
私は進学も就職も望まなかった。高校の先生には事情を話せば反対の言葉など返ってこない。友人とも円満に距離を取り、持ちものを増やさないことにだけ注意して生きようと心に誓った。だって私は、いつか遠くないうちに、それらの全てを残してこの世界を去るのだろうから。
卒業後は母の店を継いだが、幸い固定客はいくらかいて、母の時代から取引があった茶葉の卸し先や菓子類の提携販売もあり、経営面はなんとかなった。ただ、困るのはどうしても身体がいうことをきかない日だ。病気を患っているといつも必ず身体のどこかしらには不調があり、朝起き上がれないとか、営業終了を前に著しく体調を崩すことが唐突にあった。
一人で店を営む場合、そういうときは否応なく臨時休業にするしかない。でもせめてもう一人だけでも店員がいれば……。そう思ったから、バイトを雇うことにした。だからこそ、私はバイトにレジや皿洗いといった雑務だけを任せるのではなく、ゆっくりでも一人でカウンターに立てるようなスキルを身につけてもらいたかった。
その点、バイトの黒川くんは非常に優秀で覚えがよかった。働き始めから間もなくして、隣で私が見ていれば基本的なメニューは提供できるまでになってくれた。
「あらあら、店員さんが増えたのね」
「はい。黒川といいます。よろしくお願いします」
若い男の子のエプロン姿は近所の主婦たちにもちょっとした人気だったし、彼は彼でそうしたお客さんを相手にすることへの物怖じもあまりないようだった。
「長いこと一人でやってたみたいだけど、よかったわねぇ。楓ちゃん」
「ええ、そうなんですよー。これで私も、ついに楽できるってもんです」柔らかい笑顔で話しかけてくる常連のおばさまに私も明るく答えを返す。「というわけで、今日はこの黒川くんが、紅茶をご用意させて頂きますよ!」
「あら、いいけど、大丈夫なのかしら?」
「そりゃもう、私の弟子なんで!」
そう言うとお客さんたちは皆、嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃ、黒川くん。頼んだからねー」
「はい」
身体が苦しいときは、それを誤魔化しながらでも偉そうなふりして椅子に座って、口であれこれ言えばいい。どうしても咳や息切れ収まらないとき、軽い発作が出たときだけ、私は自室に籠って薬を飲んだ。
病気が再発してから、月日を数えるように種類の増えた錠剤は、出せば手のひらに盛り上がる。ピルケースをいくつも散らしてうずくまりながらそれらを一粒ずつ飲み下すさまを見られれば、病気のことはとても隠しきれないだろう。
戻るのが遅い私を気にして、黒川くんは時折、私の部屋を訪ねてきた。
「あの、店長。大丈夫ですか? お客さんも心配してましたけど……」
控えめなノックの音がすると、私は苦しくても必ず呼吸を浅くして扉に飛びつく。そして両手で取手を握って固定した。間違っても扉が開いて、こんな姿を見られないように。
「大丈夫大丈夫! ちょ、っと……探し物、してるだけだから!」
「でも店長、今日、いつもより調子悪そうでしたよね。よければ俺も手伝いますけど……」
「え、えー? うーん、でもなー。やっぱ部屋見せるのは恥ずかしいよ。乙女の花園は男子禁制だから」
すると少しの沈黙を経て答えが返る。
「……まあ、大丈夫ならいいですけど。あと、とりあえず乙女って歳ではないかと」
「はあ!? ちょっと黒川くん、女に歳のこと言うなんてガキじゃないんだから! 女はいつまでたっても乙女よ!」
「あ、すみません」
こみ上げてくる咳を堪えながら、私は扉にもたれて気丈に言う。
「ほらほら、いいから君はお店見ててよ。なんかわかんないことあったら保留にしといて。私もすぐ戻るから」
「……わかりました」
戸惑いがちに離れていく彼の足音を耳にしながら、私は冷たい床に伏した。そういうことが初めのうちはふた月に一度くらいだったのが、次第に短い間隔になっていった。
病気のことを、ずっとこの先も隠し通すのは、どう考えても難しい。もし彼が店で長くバイトを続けてくれるのなら、いつかは話さなければならないのかもしれない。
でも、それはまだ、今ではない。
きっとなんの根拠もなく、私は言い訳のようにそう思い続けていた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います
真理亜
恋愛
ここセントール王国には一風変わった習慣がある。
それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。
要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。
そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、
「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」
と言い放ったのだった。
少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。
忍チューバー 竹島奪還!!……する気はなかったんです~
ma-no
キャラ文芸
某有名動画サイトで100億ビューを達成した忍チューバーこと田中半荘が漂流生活の末、行き着いた島は日本の島ではあるが、韓国が実効支配している「竹島」。
日本人がそんな島に漂着したからには騒動勃発。両国の軍隊、政治家を……いや、世界中のファンを巻き込んだ騒動となるのだ。
どうする忍チューバ―? 生きて日本に帰れるのか!?
注 この物語は、コメディーでフィクションでファンタジーです。登場する人物、団体、名称、歴史等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ですので、歴史認識に関する質問、意見等には一切お答えしませんのであしからず。
❓第3回キャラ文芸大賞にエントリーしました❓
よろしければ一票を入れてください!
よろしくお願いします。
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと57隻!(2024/12/18時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。かなりGLなので、もちろんがっつり性描写はないですが、苦手な方はダメかもしれません。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。またお気に入りや感想などよろしくお願いします。
毎日一話投稿します。
後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~
絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。
※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
あやかしの花嫁になることが、私の運命だったようです
珠宮さくら
キャラ文芸
あやかしの花嫁になるのは、双子の妹の陽芽子だと本人も周りも思っていた。
だが、実際に選ばれることになったのが、姉の日菜子の方になるとは本人も思っていなかった。
全10話。
視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―
島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる