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23. エピローグ
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「サクマさんにお話があります」
「……どうしたの改まって」
サクマさんは不思議そうに首を傾げる。俺は大きく深呼吸をしてからシステムウィンドウを開く。そして八代さんから貰っていたデータファイルをサクマさんに送った。
ピロンと通知音がして、サクマさんがシステムウィンドウを開く。サクマさんはそれを見て少し目を見開いた。
俺が渡したデータはアヴァロンノート社の秘密保持契約書だった。ゲームの中で見るにはそぐわないほどしっかりしたそれは"ティル・ナ・ノーグ"で知り得た運営に関する情報を第三者に開示してはならないという内容だ。
「……これは?」
「秘密保持契約書。これにサインをしてもらわないと話せない事なんだ」
この秘密保持契約書はモニタリングキャラクターの中で、本気で相手を好きになってしまう人が続出し、救済措置として最近作られたものらしい。俺はそれを八代さんから貰ったのだった。
サクマさんは真剣な表情を浮かべて俺を見つめる。そしてゆっくりと口を開いた。
「これにサインをすればいいんだね」
サクマさんは躊躇う事もなくサインをした。俺はほっと胸を撫で下ろす。これでようやく話せる。
「ありがとう……」
俺がそう言うと、サクマさんは頷いてくれた。俺は小さく深呼吸をしてから口を開く。
「……俺ね……本当はAIじゃなくて人間なんだ」
俺がそう言うと、サクマさんは少し驚いた様な表情を見せた後、優しく微笑む。
「そうじゃないかと思った」
「え?」
「ナナセくんはAIじゃなくて人間だよね」
俺はその答えに言葉を失う。まさか気付かれていたとは思わなかったのだ。
「いつから気付いてたの……」
俺が恐る恐る尋ねると、サクマさんは笑って答える。
「デートをする様になってから、かな。逆にAIだったらどうしようって思ってた」
その言葉に俺は呆然としてしまった。そんな前から分かっていたなんて……恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じる。サクマさんはくすくすと笑うと、俺の頰にそっと触れてきた。そして顔を近づけてくる。何をされるのかは分かっていたが、逃げる気はなかった。唇が触れ合うと自然と目を閉じる。何度か触れるだけのキスを繰り返した。
「教えてくれてありがとう」
サクマさんはそう言って微笑むと、俺を優しく抱きしめてくれた。俺はその腕の中で小さく頷く。
「良かったら……俺の話を聞いて欲しい」
俺はそう言うと、今まで話せなかった自分の事を話し始めた。現実世界では大学生であること、"ティル・ナ・ノーグ"のバイトのこと、傷つくのが怖くて逃げてしまったこと。サクマさんはただ黙って聞いてくれていた。俺が話し終えるとサクマさんは俺を抱きしめた。彼の温もりを感じながら口を開く。
「サクマさんは?サクマさんの事も知りたい」
「うん」
サクマさんは短く答えると、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ"リアル"で話そうか」
◇◇◇
それから俺達はリアルで会うことになった。
佐久間 凌――それがサクマさんの本当の名前らしい。年齢は俺より7つ上で、前に聞いた通り社会人だと教えてくれた。
佐久間さんに会ってみて1番驚いたのは現実世界でも変わらずイケメンだった事だ。黒髪で前髪をかきあげていて、ピアスをしていない事以外はゲームでの姿と変わらなくて、初めて会った時はびっくりしてしまった。一方の俺はゲームの姿の方が顔立ちが整っていて、現実世界では若干ぼんやりしている。佐久間さんががっかりしてしまうのではないかと心配していたが、彼曰く好きなところは変わらないらしい。
俺たちはゲームと同じ様に、現実でも何度もデートをした。佐久間さんはやっぱり優しくて、一緒に居ると、とても楽しくて幸せな気分になる。現実世界でも佐久間さんへの恋心は変わらない――いや、もっと好きになっていた。
そして今日は初めて佐久間さんの家へ遊びに行く予定だ。都心の駅から歩いて15分程の場所にあるタワー型マンションへ向かう。
エントランスでオートロックの自動ドアを開けてもらい、エレベーターに乗る。比較的新しいマンションでホテルの様な廊下に緊張しながらインターホンを押す。するとすぐにドアが開いて中から佐久間さんが出てきた。
「いらっしゃい」
「お、お邪魔します……」
俺はそう言うと部屋の中に入った。部屋の中は綺麗に整頓されていて清潔感がある。生活感はあまり無い様な気がしたけれど、それも彼らしいなと思う。
「都会っぽい感じ……めちゃくちゃ佐久間さんっぽい!」
「はは、そう言えば"ティル・ナ・ノーグ"でもそんな事言ってたね」
佐久間さんは笑いながら言った。些細な事でも覚えていてくれたのが嬉しくて、思わず彼に近づいてぎゅっと抱きしめた。彼は少し驚いた様に身体を強張らせたがすぐに受け入れてくれて背中に手を回す。彼の体温を感じると心が満たされる様な感覚になる。
(あー好きだなぁ……)
そんな事を考えながら小さく幸せな溜息をついた。
佐久間さんが"ティル・ナ・ノーグ"で俺を見つけてくれなかったら、今こうして一緒に居る事もなかったかもしれない。そう思うと何だか不思議な気持ちだ。
俺はゆっくりと身体を離すと、佐久間さんの唇に軽くキスをした。
「サクマさん、"ティル・ナ・ノーグ"はどこでプレイしてたの?」
「ん?趣味の部屋だよ」
「え、見たい!」
佐久間さんはくすりと笑うと、俺の手を取った。
「じゃあ、行こうか」
俺は彼の言葉に笑って頷いた。
fin.
「……どうしたの改まって」
サクマさんは不思議そうに首を傾げる。俺は大きく深呼吸をしてからシステムウィンドウを開く。そして八代さんから貰っていたデータファイルをサクマさんに送った。
ピロンと通知音がして、サクマさんがシステムウィンドウを開く。サクマさんはそれを見て少し目を見開いた。
俺が渡したデータはアヴァロンノート社の秘密保持契約書だった。ゲームの中で見るにはそぐわないほどしっかりしたそれは"ティル・ナ・ノーグ"で知り得た運営に関する情報を第三者に開示してはならないという内容だ。
「……これは?」
「秘密保持契約書。これにサインをしてもらわないと話せない事なんだ」
この秘密保持契約書はモニタリングキャラクターの中で、本気で相手を好きになってしまう人が続出し、救済措置として最近作られたものらしい。俺はそれを八代さんから貰ったのだった。
サクマさんは真剣な表情を浮かべて俺を見つめる。そしてゆっくりと口を開いた。
「これにサインをすればいいんだね」
サクマさんは躊躇う事もなくサインをした。俺はほっと胸を撫で下ろす。これでようやく話せる。
「ありがとう……」
俺がそう言うと、サクマさんは頷いてくれた。俺は小さく深呼吸をしてから口を開く。
「……俺ね……本当はAIじゃなくて人間なんだ」
俺がそう言うと、サクマさんは少し驚いた様な表情を見せた後、優しく微笑む。
「そうじゃないかと思った」
「え?」
「ナナセくんはAIじゃなくて人間だよね」
俺はその答えに言葉を失う。まさか気付かれていたとは思わなかったのだ。
「いつから気付いてたの……」
俺が恐る恐る尋ねると、サクマさんは笑って答える。
「デートをする様になってから、かな。逆にAIだったらどうしようって思ってた」
その言葉に俺は呆然としてしまった。そんな前から分かっていたなんて……恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じる。サクマさんはくすくすと笑うと、俺の頰にそっと触れてきた。そして顔を近づけてくる。何をされるのかは分かっていたが、逃げる気はなかった。唇が触れ合うと自然と目を閉じる。何度か触れるだけのキスを繰り返した。
「教えてくれてありがとう」
サクマさんはそう言って微笑むと、俺を優しく抱きしめてくれた。俺はその腕の中で小さく頷く。
「良かったら……俺の話を聞いて欲しい」
俺はそう言うと、今まで話せなかった自分の事を話し始めた。現実世界では大学生であること、"ティル・ナ・ノーグ"のバイトのこと、傷つくのが怖くて逃げてしまったこと。サクマさんはただ黙って聞いてくれていた。俺が話し終えるとサクマさんは俺を抱きしめた。彼の温もりを感じながら口を開く。
「サクマさんは?サクマさんの事も知りたい」
「うん」
サクマさんは短く答えると、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ"リアル"で話そうか」
◇◇◇
それから俺達はリアルで会うことになった。
佐久間 凌――それがサクマさんの本当の名前らしい。年齢は俺より7つ上で、前に聞いた通り社会人だと教えてくれた。
佐久間さんに会ってみて1番驚いたのは現実世界でも変わらずイケメンだった事だ。黒髪で前髪をかきあげていて、ピアスをしていない事以外はゲームでの姿と変わらなくて、初めて会った時はびっくりしてしまった。一方の俺はゲームの姿の方が顔立ちが整っていて、現実世界では若干ぼんやりしている。佐久間さんががっかりしてしまうのではないかと心配していたが、彼曰く好きなところは変わらないらしい。
俺たちはゲームと同じ様に、現実でも何度もデートをした。佐久間さんはやっぱり優しくて、一緒に居ると、とても楽しくて幸せな気分になる。現実世界でも佐久間さんへの恋心は変わらない――いや、もっと好きになっていた。
そして今日は初めて佐久間さんの家へ遊びに行く予定だ。都心の駅から歩いて15分程の場所にあるタワー型マンションへ向かう。
エントランスでオートロックの自動ドアを開けてもらい、エレベーターに乗る。比較的新しいマンションでホテルの様な廊下に緊張しながらインターホンを押す。するとすぐにドアが開いて中から佐久間さんが出てきた。
「いらっしゃい」
「お、お邪魔します……」
俺はそう言うと部屋の中に入った。部屋の中は綺麗に整頓されていて清潔感がある。生活感はあまり無い様な気がしたけれど、それも彼らしいなと思う。
「都会っぽい感じ……めちゃくちゃ佐久間さんっぽい!」
「はは、そう言えば"ティル・ナ・ノーグ"でもそんな事言ってたね」
佐久間さんは笑いながら言った。些細な事でも覚えていてくれたのが嬉しくて、思わず彼に近づいてぎゅっと抱きしめた。彼は少し驚いた様に身体を強張らせたがすぐに受け入れてくれて背中に手を回す。彼の体温を感じると心が満たされる様な感覚になる。
(あー好きだなぁ……)
そんな事を考えながら小さく幸せな溜息をついた。
佐久間さんが"ティル・ナ・ノーグ"で俺を見つけてくれなかったら、今こうして一緒に居る事もなかったかもしれない。そう思うと何だか不思議な気持ちだ。
俺はゆっくりと身体を離すと、佐久間さんの唇に軽くキスをした。
「サクマさん、"ティル・ナ・ノーグ"はどこでプレイしてたの?」
「ん?趣味の部屋だよ」
「え、見たい!」
佐久間さんはくすりと笑うと、俺の手を取った。
「じゃあ、行こうか」
俺は彼の言葉に笑って頷いた。
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