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19. さやえんどう
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「ナナセー、畑の手伝いに行ってくれるかい?」
「はーい」
俺は大きな麦わら帽子を被って、畑に向かった。最近はもっぱら農作業ばかりだ。だけど、こういう生活も嫌いじゃない。むしろ充実していると思う。サクマさんのことはまだ忘れられないけれど……それでも段々と時の流れで忘れることが出来たらいいと思うようになっていた。
「あ! ナナセお兄ちゃん!」
畑に着くと、女の子が俺の方に駆け寄ってきた。彼女はこの農場の娘さんで、俺が農作業を手伝うことをとても喜んでくれる。
「おはよう」
「おはよう、今日もよろしくね!」
彼女はにっこりと笑った後、俺の手を引っ張った。そして収穫する野菜を指差して教えてくれる。俺は指示された通りに収穫をしていった。
暫くして収穫作業が終わりかけると、誰かがこちらにやってきた。その姿を見て思わず目を見開く。
「…………え……?」
その人は俺を見て、驚いた様に顔を上げた。目にかかる長さの黒髪と毛先だけ青いグラデーションヘアにスラリとした長身。
「ナナセ……くん?」
そこにいたのは旅人の衣服を着たサクマさんだった。
「……サクマ……さん?」
俺は驚きの声を上げた。彼は俺と同じように驚いているのか、目を見開いている。
(何で……?)
どうしてサクマさんがここに居るのだろう?そんな疑問が脳内を駆け巡る。
「ナナセくん!」
サクマさんは俺の元に駆け寄ってくると、ぎゅっと抱きしめてきた。そして何度も俺の名前を呼ぶ。
(本当に……サクマさんだ……)
ふわりと香った匂いは、紛れもなく彼と同じだった。俺は思わず泣きそうになってしまう。
「会いたかった……!」
そう言ってサクマさんは俺を強く抱きしめた。俺も同じ気持ちだ。彼にずっと会いたいと思っていた。けれど俺は彼の身体を離すと、小さく首を横に振ることしか出来なかった。
「なんで……俺のこと…………」
俺のことなんて、すっかり忘れてると思っていたのに。サクマさんは困ったように笑った。
「……あの日、起きたら、もう……君がいなくて」
「……うん」
「お店に行っても……もう田舎に帰ったって……」
「うん」
「それで……君の田舎へ行ったけど……居なくて……」
「…………」
「それから……ずっと探してた……」
サクマさんはそう言うと、ぎゅっと俺の身体を再び抱きしめた。俺はどう答えたらいいか分からないまま、彼の抱擁を受け入れる事しか出来なかった。本当にずっと探してくれていたのだろうか。この広いゲームワールドの中をずっと。
そう思うと熱いものが込み上げてきて、俺は泣くのを堪えるのに必死だった。
「ナナセお兄ちゃん?その人誰ー?」
女の子の声が聞こえてきて、ハッとする。慌てて身体を離すと、取り繕う様に笑顔を作る。
「この人は……俺の友達だよ」
「そうなの?でもお兄ちゃん顔真っ赤だよー!」
「え?」
俺は驚いて自分の頬に手をやった。確かに熱を持っている気がする。
「ナナセくん?」
サクマさんは不思議そうに首を傾げたが、俺は誤魔化すように顔を逸らした。そして女の子に野菜の入った籠を手渡す。
「これ、お願いできる?」
「あ、うん!」
彼女は元気よく返事をすると、俺の手から籠を受け取った。
「ごめん、久しぶりに会ったからちょっとお話ししてくるね。先に戻ってて」
「分かった!お父さんにも言っておくね!」
女の子は何度も振り返って手を振りながら去っていった。俺はそれに手を振り返すと、サクマさんの方に向き直る。
「……良かったら、俺の家に寄って行きませんか?」
俺がそう言うと、サクマさんは嬉しそうに微笑んだ。
「はーい」
俺は大きな麦わら帽子を被って、畑に向かった。最近はもっぱら農作業ばかりだ。だけど、こういう生活も嫌いじゃない。むしろ充実していると思う。サクマさんのことはまだ忘れられないけれど……それでも段々と時の流れで忘れることが出来たらいいと思うようになっていた。
「あ! ナナセお兄ちゃん!」
畑に着くと、女の子が俺の方に駆け寄ってきた。彼女はこの農場の娘さんで、俺が農作業を手伝うことをとても喜んでくれる。
「おはよう」
「おはよう、今日もよろしくね!」
彼女はにっこりと笑った後、俺の手を引っ張った。そして収穫する野菜を指差して教えてくれる。俺は指示された通りに収穫をしていった。
暫くして収穫作業が終わりかけると、誰かがこちらにやってきた。その姿を見て思わず目を見開く。
「…………え……?」
その人は俺を見て、驚いた様に顔を上げた。目にかかる長さの黒髪と毛先だけ青いグラデーションヘアにスラリとした長身。
「ナナセ……くん?」
そこにいたのは旅人の衣服を着たサクマさんだった。
「……サクマ……さん?」
俺は驚きの声を上げた。彼は俺と同じように驚いているのか、目を見開いている。
(何で……?)
どうしてサクマさんがここに居るのだろう?そんな疑問が脳内を駆け巡る。
「ナナセくん!」
サクマさんは俺の元に駆け寄ってくると、ぎゅっと抱きしめてきた。そして何度も俺の名前を呼ぶ。
(本当に……サクマさんだ……)
ふわりと香った匂いは、紛れもなく彼と同じだった。俺は思わず泣きそうになってしまう。
「会いたかった……!」
そう言ってサクマさんは俺を強く抱きしめた。俺も同じ気持ちだ。彼にずっと会いたいと思っていた。けれど俺は彼の身体を離すと、小さく首を横に振ることしか出来なかった。
「なんで……俺のこと…………」
俺のことなんて、すっかり忘れてると思っていたのに。サクマさんは困ったように笑った。
「……あの日、起きたら、もう……君がいなくて」
「……うん」
「お店に行っても……もう田舎に帰ったって……」
「うん」
「それで……君の田舎へ行ったけど……居なくて……」
「…………」
「それから……ずっと探してた……」
サクマさんはそう言うと、ぎゅっと俺の身体を再び抱きしめた。俺はどう答えたらいいか分からないまま、彼の抱擁を受け入れる事しか出来なかった。本当にずっと探してくれていたのだろうか。この広いゲームワールドの中をずっと。
そう思うと熱いものが込み上げてきて、俺は泣くのを堪えるのに必死だった。
「ナナセお兄ちゃん?その人誰ー?」
女の子の声が聞こえてきて、ハッとする。慌てて身体を離すと、取り繕う様に笑顔を作る。
「この人は……俺の友達だよ」
「そうなの?でもお兄ちゃん顔真っ赤だよー!」
「え?」
俺は驚いて自分の頬に手をやった。確かに熱を持っている気がする。
「ナナセくん?」
サクマさんは不思議そうに首を傾げたが、俺は誤魔化すように顔を逸らした。そして女の子に野菜の入った籠を手渡す。
「これ、お願いできる?」
「あ、うん!」
彼女は元気よく返事をすると、俺の手から籠を受け取った。
「ごめん、久しぶりに会ったからちょっとお話ししてくるね。先に戻ってて」
「分かった!お父さんにも言っておくね!」
女の子は何度も振り返って手を振りながら去っていった。俺はそれに手を振り返すと、サクマさんの方に向き直る。
「……良かったら、俺の家に寄って行きませんか?」
俺がそう言うと、サクマさんは嬉しそうに微笑んだ。
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