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03. アソートクッキー
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「相変わらず、すごい人だなー」
大通りは行き交う人々で溢れている。ここは"ティル・ナ・ノーグ"でも比較的大きな街だから当然と言えば当然だ。この街のメインストリートは様々な店や屋台が軒を連ねており、いつも賑やかだ。
NPCとしての生活も悪くないと思っているけれど、この活気ある街を見るとゲームのプレイヤーたちに羨ましさを感じずにはいられないから不思議だ。
俺は大通りを行き交う人々を避けながら、表通りから路地へと進む。歩きながら、街並みに香ばしい焼き菓子の香りが漂ってくるのがわかった。小さな店に美味しそうな焼き菓子が陳列されているのが見える。
甘い香りに誘われるように、ふらりとその店に入った。カウンターにはバラエティ豊かな焼き菓子が美しく並んでいる。お店の雰囲気も温かく、ゆったりとした空間だ。
「いらっしゃいませ!どのお菓子になさいますか?」
店員さんが声をかけてくれる。目移りしながら長考し、ひとつ焼き菓子を指差した。
「このアソートクッキー、お願いします」
店員さんはにこりと笑うと、きれいに包んでくれた。袋には温かい手触りが伝わり、焼きたての匂いがほんのりと感じられる。これは絶対に美味しい。
俺は店を出ると移動して、早速広場で食べることにした。広場の奥の噴水のあるベンチに腰掛けると、袋からクッキーを取り出し、ひとつ口に運ぶ。口に入れた瞬間、サクサクとした食感からほろりと解け、バターの風味が舌の上に広がった。
「うまっ」
思わず声が出てしまう。俺の声に気付いたのか、街の人がこちらを見て笑った。恥ずかしいけど、美味しいものは仕方ない。俺はもうひとつ、クッキーを頬張った。
俺の最近の楽しみはこうやって街を散策しながら、美味しいものを発見することだ。ゲーム内のお店にはいろいろな種類の食べ物が並んでいて、見ているだけでも楽しい。それにいくら食べても現実には影響がないところも良い。
最近は時間があれば、こうして街に出て気ままに過ごしている。自由時間の多いところがこのバイトの良いところだ。
俺がこのバイトを始めたのは、アヴァロンノートのゲームテスターのバイトをしていた事がきっかけだ。ゲームテスターとして数ヶ月バイトをしていた時に声を掛けてもらった。
"ティル・ナ・ノーグ"のNPCはジェンダー関係なく恋愛ができる。そう言った面でも俺は都合が良かった。俺がバイだったからだ。けれど実際には同性同士の恋愛経験はない。
クッキーをもぐもぐと味わいながら、街の様子を眺める。これだけたくさんのNPCがいれば、NPCナナセがプレイヤーに気に入られる確率はきっと低い。俺はこんな日常を過ごしてバイト期間を終えるのかもしれない。
「あー、おいしかった!」
俺は袋に入った残りのクッキーをアイテムボックスにしまうと立ち上がる。
「さて、戻るかな」
俺はのんびりとした歩調で店へ歩き出した。
大通りは行き交う人々で溢れている。ここは"ティル・ナ・ノーグ"でも比較的大きな街だから当然と言えば当然だ。この街のメインストリートは様々な店や屋台が軒を連ねており、いつも賑やかだ。
NPCとしての生活も悪くないと思っているけれど、この活気ある街を見るとゲームのプレイヤーたちに羨ましさを感じずにはいられないから不思議だ。
俺は大通りを行き交う人々を避けながら、表通りから路地へと進む。歩きながら、街並みに香ばしい焼き菓子の香りが漂ってくるのがわかった。小さな店に美味しそうな焼き菓子が陳列されているのが見える。
甘い香りに誘われるように、ふらりとその店に入った。カウンターにはバラエティ豊かな焼き菓子が美しく並んでいる。お店の雰囲気も温かく、ゆったりとした空間だ。
「いらっしゃいませ!どのお菓子になさいますか?」
店員さんが声をかけてくれる。目移りしながら長考し、ひとつ焼き菓子を指差した。
「このアソートクッキー、お願いします」
店員さんはにこりと笑うと、きれいに包んでくれた。袋には温かい手触りが伝わり、焼きたての匂いがほんのりと感じられる。これは絶対に美味しい。
俺は店を出ると移動して、早速広場で食べることにした。広場の奥の噴水のあるベンチに腰掛けると、袋からクッキーを取り出し、ひとつ口に運ぶ。口に入れた瞬間、サクサクとした食感からほろりと解け、バターの風味が舌の上に広がった。
「うまっ」
思わず声が出てしまう。俺の声に気付いたのか、街の人がこちらを見て笑った。恥ずかしいけど、美味しいものは仕方ない。俺はもうひとつ、クッキーを頬張った。
俺の最近の楽しみはこうやって街を散策しながら、美味しいものを発見することだ。ゲーム内のお店にはいろいろな種類の食べ物が並んでいて、見ているだけでも楽しい。それにいくら食べても現実には影響がないところも良い。
最近は時間があれば、こうして街に出て気ままに過ごしている。自由時間の多いところがこのバイトの良いところだ。
俺がこのバイトを始めたのは、アヴァロンノートのゲームテスターのバイトをしていた事がきっかけだ。ゲームテスターとして数ヶ月バイトをしていた時に声を掛けてもらった。
"ティル・ナ・ノーグ"のNPCはジェンダー関係なく恋愛ができる。そう言った面でも俺は都合が良かった。俺がバイだったからだ。けれど実際には同性同士の恋愛経験はない。
クッキーをもぐもぐと味わいながら、街の様子を眺める。これだけたくさんのNPCがいれば、NPCナナセがプレイヤーに気に入られる確率はきっと低い。俺はこんな日常を過ごしてバイト期間を終えるのかもしれない。
「あー、おいしかった!」
俺は袋に入った残りのクッキーをアイテムボックスにしまうと立ち上がる。
「さて、戻るかな」
俺はのんびりとした歩調で店へ歩き出した。
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