アデルの子

新子珠子

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第三章 明日へ

113. 幸せ

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 それから、2年が経った。
 僕は相変わらず毎日忙しい日々を送っている。今日は久しぶりに時間が作れたので、皆揃っての食事だ。

「とーさまー!」
「おとうさま、こっちー!」
「ふふ、分かったよ」

 子供たちが僕の腕を引っ張って急かす。ジェイデンの子ジェレミーと、リノの子リティだ。2人ともすっかり大きくなった。まだ幼いながらも、それぞれ個性が出てきて、性格も好きなものも全然違う。
 
「お父様は逃げないから、あんまり引っ張らないのよ」

 その様子を見ていたリノが優しく嗜める。隣に座っているジェイデンも笑いながら口を開いた。

「ほら、早く席について、いただきますしよう」
「はぁい」

 子供たちは素直に返事をすると、それぞれ自分の椅子に座った。僕もそれに続いて席に座る。そこに遅れてきていたセレダがセネトを抱いてやってきた。
 全員が座ったのを確認したレヴィルが頷く。

「それじゃあ食べようか」
「いただきます」
「いただきまーす!」

 みんな一斉にご飯を食べ始める。子供たちと過ごす食卓は慌ただしいが、この光景を見ていると、とても幸せな気持ちになる。
 
「きょうは、ぼくがとーさまのおせわするの!」
「えぇ?だめだよ、ぼくのほうがさきだからね」
「ちょっとまってよぉ」

 子供たちは言い合いをしながら楽しげに料理を口に運ぶ。僕はそんな様子を見守りながら、温かいスープを飲んだ。
 
「ティト様」
「ん?」

 隣に座るジェイデンが、思い出したように口を開いた。

「この間話していた件、許可が出ました」
「本当?」
「ええ、やっと準備ができたみたいで」
「それはいいね」
 
 最近のジェイデンは保護地区のアデルに護身術を教えに行くようになっていた。それは護衛が必要になる大人のアデルが対象だったが、子供たちにも教える許可が下りたらしい。

「ぼくも一緒にいくよ!」

 ジェレミーがにこにこしながらそう言った。

「そうか、ジェレミーもお母さまに教えてもらうの?」
「うん!」
「すごいな、たくさん教えてもらうんだよ」

 ジェレミーは元気よく頷いた。隣に座っていたリティが口を尖らせる。

「ジェレミーだけずるい!ぼくもいきたい!」
「ぼくも行きたいな」

 リティだけではなく、長男のシリルも興味があるようだ。
 騒ぐ子供たちにリノとジェイデンが顔を見合わせる。

「そんなに大勢で行ったら迷惑でしょう?」
「大丈夫ですよ。周りも子供たちですから、先方に説明して皆連れていきます」
「やったー!」

 子供たちが喜び、きゃっきゃと声をあげた。
 リノはその様子を見て笑い、ジェイデンにお願いしますね、と声をかけた。

 
 リノは相変わらずしっかりと家を取り仕切ってくれて、今では皆のお母さんと言った感じだ。子供たちからもリノ母さまと呼ばれて慕われている。
 そんなリノのお腹には2人目となる子供がいる。上の子であるリティも弟が生まれる事を楽しみにしてたいるようだ。
 魔力を見る事ができるセレダからは、お腹の子はアデルじゃないかと言われている。けれど僕もリノもそこまで気にしてはいなくて、アデルでもエバでもどちらでも嬉しいし、無事に元気で生まれてくれればそれで十分だと思っている。

 

 セネトの食事を見守りつつ、食事を摂っていたセレダが顔を上げる。
 
「そうだ、ティト様、今度の寄付が終わったら少し時間をとっていただけますか?研究チームに顔を出していただきたいんです」
「ああ、もちろん」
「ありがとうございます」

 セレダは微笑みながら食事を口に運んだ。
 セレダもこの屋敷に住み始めてもう2年になった。最初は慣れない様子だったが、今ではすっかり馴染んでいる。
 彼は相変わらず研究で忙しくしている。けれど僕の専属術師も相変わらずセレダのままだ。
 研究の方は着実に進んでいて、アデルは術師と共に加護を行うために各地へ向かう様になった。術師とアデルによる加護で、出生率は上がってきている。それに加えて、さらに研究が進み、受胎後にも加護を行う事で徐々にアデルの出生率も上がってきていた。
 きっといつかアデルの保護がいらなくなる日もくるかもしれない。
 
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