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第三章 明日へ
111. 墓廟
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翌朝、僕は早くに目が覚めた。
昨晩は行為の後、殿下は意識を失うようにして眠ってしまった。よほど疲れていたのだろう。僕自身も疲れ果ててそのまま寝てしまっていた。
まだ辺りは薄暗く、外には夜の気配が残っている。隣には静かに眠るカミーユ殿下がいた。
僕がそっと身じろぎをすると、殿下も何度かの瞬きの後、ゆっくりと瞳を開けた。どうやら起こしてしまったらしい。殿下がもぞり、と動き、こちらを見る。
「申し訳ありません、起こしてしまいました」
「いや……大丈夫だ」
殿下はそのまま起き上がり、ベッドの上で座ったまま、ぼう、としている。
「眠れましたか?」
「……ああ」
「良かったです」
「睡眠薬を飲まずに寝れたのは久しぶりだな……」
そう言った殿下の目元は赤かったけれど、穏やかな表情をしていた。
「お前は……すぐに戻らなくてはならないのか」
「いえ、午前は空けておりますが……」
「そうか……」
殿下はしばらく考え込むように黙った後、ふと僕の方を見る。
「もう少しだけ付き合ってくれないか」
殿下に連れられてやってきたのは王城内にある王室墓廟だった。
歴代の王族が眠る場所で、カミーユ殿下の御子であるユイール様も眠る場所だ。墓廟には早朝の静謐な空気が流れている。
「……ここに来るのも随分と久しい」
殿下はそう言って辺りをぐるりと見渡す。
「どうしても……来られなかった……」
「…………」
殿下は墓石の前に立ち止まり、じっとそこに刻まれた文字を見つめる。
「やっと……来られたよ、ユイール……長い間……すまなかったな」
そう呟いた殿下の声は震えていて、僕は堪らず後ろからそっと肩に触れた。
「……一緒にお祈りをさせていただけませんか」
「ああ……ありがとう」
そうして二人で手を合わせて目を瞑る。
ユイール様、どうか安らかに眠ってください。そして、僕のできる限りで殿下をお支えする事を、どうか許してください――。
そう強く願っているうちに、気がつくと僕の目からも一筋の涙が零れ落ちていた。
「どうして泣くんだ……」
「申し訳、ございません」
「……いや、謝るのは私のほうだな……すまない」
そう言って殿下はそっと僕の頬に伝う涙を指で掬ってくれた。
「……ありがとう、ティト」
そう言う殿下の頬からはつう、と涙が溢れていた。
それから少しの間、僕たちは言葉もなくその場に佇んでいた。
殿下の悲しみはきっと完全に癒えることはないのだろう。けれどせめて、穏やかに過ごせる時間があって欲しい。
その為にできることはしたい。生涯が掛かってでも――。
僕はそう思いながら、殿下のそばに寄り添っていた。
昨晩は行為の後、殿下は意識を失うようにして眠ってしまった。よほど疲れていたのだろう。僕自身も疲れ果ててそのまま寝てしまっていた。
まだ辺りは薄暗く、外には夜の気配が残っている。隣には静かに眠るカミーユ殿下がいた。
僕がそっと身じろぎをすると、殿下も何度かの瞬きの後、ゆっくりと瞳を開けた。どうやら起こしてしまったらしい。殿下がもぞり、と動き、こちらを見る。
「申し訳ありません、起こしてしまいました」
「いや……大丈夫だ」
殿下はそのまま起き上がり、ベッドの上で座ったまま、ぼう、としている。
「眠れましたか?」
「……ああ」
「良かったです」
「睡眠薬を飲まずに寝れたのは久しぶりだな……」
そう言った殿下の目元は赤かったけれど、穏やかな表情をしていた。
「お前は……すぐに戻らなくてはならないのか」
「いえ、午前は空けておりますが……」
「そうか……」
殿下はしばらく考え込むように黙った後、ふと僕の方を見る。
「もう少しだけ付き合ってくれないか」
殿下に連れられてやってきたのは王城内にある王室墓廟だった。
歴代の王族が眠る場所で、カミーユ殿下の御子であるユイール様も眠る場所だ。墓廟には早朝の静謐な空気が流れている。
「……ここに来るのも随分と久しい」
殿下はそう言って辺りをぐるりと見渡す。
「どうしても……来られなかった……」
「…………」
殿下は墓石の前に立ち止まり、じっとそこに刻まれた文字を見つめる。
「やっと……来られたよ、ユイール……長い間……すまなかったな」
そう呟いた殿下の声は震えていて、僕は堪らず後ろからそっと肩に触れた。
「……一緒にお祈りをさせていただけませんか」
「ああ……ありがとう」
そうして二人で手を合わせて目を瞑る。
ユイール様、どうか安らかに眠ってください。そして、僕のできる限りで殿下をお支えする事を、どうか許してください――。
そう強く願っているうちに、気がつくと僕の目からも一筋の涙が零れ落ちていた。
「どうして泣くんだ……」
「申し訳、ございません」
「……いや、謝るのは私のほうだな……すまない」
そう言って殿下はそっと僕の頬に伝う涙を指で掬ってくれた。
「……ありがとう、ティト」
そう言う殿下の頬からはつう、と涙が溢れていた。
それから少しの間、僕たちは言葉もなくその場に佇んでいた。
殿下の悲しみはきっと完全に癒えることはないのだろう。けれどせめて、穏やかに過ごせる時間があって欲しい。
その為にできることはしたい。生涯が掛かってでも――。
僕はそう思いながら、殿下のそばに寄り添っていた。
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