アデルの子

新子珠子

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第三章 明日へ

104. 将来

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 カミーユ殿下が休養して1年が経ち、彼は公務に復帰することになった。王宮に戻った彼は徐々に日常に戻ろうとしている。それは彼にとってはとても大変な事で、僕は相変わらず、週に何度かは彼の眠りを見守りに通っている。
 僕はその生活にも慣れてきて、生活のリズムも掴みつつあった。

「ティト様、本日のハリス様とのお約束ですが、お召し物はこちらでいかがでしょう」

 従者のテディが僕の服を吟味しながらそう言った。
 
「ああ、ありがとう。それにするよ」
「かしこまりました」

 テディは微笑むと、早速支度の準備をし始める。
 今日はハリスと外出の約束をしている日だ。
 彼と出会ってから8年くらい経っただろうか。成人の儀礼以来、彼とは身体の関係があるが、未だに恋人の様な、友人の様な、そんな関係が続いている。ハリスは伯爵の仕事を継ぐために忙しくしており、お互い忙しくて中々会う機会は少ない。けれど一節に一度は彼に会える時間を作るようにしていた。


 準備が終わると、テディと一緒に馬車に乗る。馬を走らせ暫くすると馬車は止まった。カイザーリング家の屋敷だ。この屋敷に来るのも久しぶりだなと思いながら門をくぐる。
 エントランスホールに入ると、そこには見知った顔があった。

「ティト様!お久しぶりです」
「タリス様。お久しぶりです。お元気そうで良かった」

 そこにいたのは、ハリスの弟であるタリスだった。彼は今年16歳で、前節に成人を迎えた。成人の儀礼では僕と夜を過ごしており、これから次男の役割に就く準備をしているところだ。きっと僕の所にも通うことになるのだろう。

「兄さんもすぐ来ると思います。もう少しお待ちいただけますか」

 そう言って笑う彼は、兄であるハリスに似て端正な顔立ちの少年に成長していた。彼の言葉に甘えて応接室で待っていると、程なくしてハリスが現れる。

「お待たせいたしました。ティト様」
「ハリス、久しぶりだね。会いたかったよ」

 僕の言葉を聞くと、ハリスは嬉しそうに微笑んだ。そんな様子に愛しさを覚えつつ、僕は彼の手を引く。
 
「さあ行こうか」
「うん!」
「いってらっしゃい、兄さん、ティト様」
「ありがとう、行ってくるね」
「はい」

 僕たちはタリスに見送られ、屋敷を出発した。


 僕たちがやってきたのは王都では有名なレストランだ。ここで食事をとって、その後ホテルに行ってセックスをする。即物的だが、忙しい僕たちの中では定番のデートコースになっている。
 店に入り、席に着くと注文をして料理を待つ。しばらく談笑しているうちに料理が届いた。テーブルには美味しそうな料理たちが置かれる。僕達はナイフで切り分けて口に運んだ。

「おいしい」
「そうだね」

 会話をしながら食事を楽しんでいると、ところで、と言ってハリスが口を開いた。
 
「ティト様は最近はどう?」
「ああ、順調かな。最近は中央医院の研究の協力もしていてやりがいがあるんだ」
「そっかぁ……すごいなぁ……」
「ハリスの方こそ、伯爵の仕事を継いで大変じゃない?」
「うーんまあまあかな。でも慣れない事が多くて、毎日てんやわんやしてるかも」

 苦笑いしながら言うハリスにつられて、僕も思わず笑ってしまう。お互いに苦労は絶えないようだけど、それでも充実した日々を送っているようだ。

「でも……頑張らないとお母様にティト様との結婚を認めてもらえないから、頑張る」

 ふんす、と張り切った様子のハリスを見て、僕は思わず笑う。
 僕とハリスの仲は順調だが、意外にも僕たちの結婚を反対したのは彼の母親であるカイザーリング伯爵だった。伯爵はハリスが一人前になるまでは僕との結婚は認めないし、僕と会うのも一節に一度程度しか認めないと強硬に主張してきたのだ。
 ハリスはそのために跡継の仕事に励んでいるらしい。それは彼をやる気にさせる為の伯爵なりの愛の鞭なのかもしれない。

「僕、一人前になって絶対にティト様にプロポーズするからね」

 そう言って恥ずかしそうに笑うハリスに、僕もつられて笑う。

「楽しみにしてる」

 僕が頷くと、ハリスは嬉しそうに笑った。
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