アデルの子

新子珠子

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第三章 明日へ

95. 微睡

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 苦心の末、カミーユ殿下の療養が認められたのは季節が二つほど過ぎた頃だった。カミーユ殿下は王都を見下ろす丘の上に立つ離宮で静養することになった。
 季節は春の節になり、僕は19になっていた。僕も妻たちも領地には帰らず王都に滞在し、僕は毎日の様に離宮に通っている。

 すっかり顔見知りになった近衛兵に声を掛けて、離宮に入る。庭園には色とりどりの花々が咲き乱れていた。春の日差しを受けて、木々も生き生きと茂っている。
 そんな心地よい景色を眺めながら、目的の場所へ足を運ぶ。この庭を部屋からも美しく眺める事ができる3階の南向きの部屋だ。
 僕は侍従に殿下の様子を確認して、そっとノックをした。返事がないのはいつもの事なので、少し時間を置いてから静かに部屋に入る。

「失礼します」

 部屋の中に入ると、ベッドの上で横になっている殿下の姿があった。
 
「お加減いかがですか?」
「…………あぁ」

 カミーユ殿下は僅かに返事をしただけでうつらうつらとしている様だった。最近はずっとこんな感じだ。最初は公務を心配されて療養をうまく受け入れられない様だったけれど、今では諦めたのか休んでくれる様になった。
 けれど、熟睡できている訳ではないようで、度々起きてしまう様な浅い眠りを繰り返している。隈もまだ残っているし、顔色は悪いままだ。
 それでも、以前に比べれば随分とましな方だと思う。少し前まで彼は生きているか死んでいるかも分からないような状態だった。
 こればかりは時間をかけてゆっくりと治していくしかないだろう。

 
 僕は椅子に座って、殿下をしばらく見守る。
 侍従がお茶を入れてくれる間、僕は資料を取り出して読み始めた。これはここ最近の僕の習慣だ。
 しばらくすると、うとうととしていた殿下がこちらを見ている事に気づく。
 
「起きられましたか?」
「…………何を読んでいるんだ?」
「研究書類です。アデルの出生率についての」
「……そうか」

 あまり興味がなさそうだった殿下も、最近では時々興味深そうに見てくれる事がある。それでも今日は眠気が勝った様で、彼は再び目を閉じた。
 
「ゆっくり寝てくださいね」

 殿下は僅かにうなずいた後、穏やかな寝息を立て始める。その様子にホッとして、僕は資料に目を落とした。
 しばらく部屋には僕が資料をめくる音だけが部屋に響いていた。
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