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第三章 明日へ
92. 寝所
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隣の部屋に入ると、そこは応接室の様になっていた。ベッドはないが、ソファや長椅子がある。一先ず移動するには問題なさそうだった。
「殿下、こちらで休まれてください。私は医師を呼んで参ります」
「余計な事を……」
殿下は不機嫌そうな表情を浮かべていたが、大人しく指示に従った。
僕は急いで侍従を呼び、ヘイマー医師を呼ぶように伝えた。そしてすぐに殿下の元へと戻る。殿下は部屋の端に置かれた長椅子に座っていた。僕はホッとして殿下に駆け寄る。
「良かった……ちゃんと休まれていましたね。お加減いかがですか?」
「最悪だよ」
「それは結構です、解毒薬を処方してもらいましょう」
「そんなもの飲んだところで変わらない」
「そうかもしれませんね」
殿下の顔色は見るからに悪い。それは媚薬香によるものではないだろう。
「媚薬香はよくお使いになられるのですか」
「……お前には関係ないだろう」
「いえ、関係ありますよ」
僕は真っ直ぐに殿下を見据えた。
「これから私は毎夜、貴方のものを訪れます。毎回この様なことになるのは困ります」
僕の言葉に殿下は驚いた顔をする。
「……何だと?どういうことだ」
「国王陛下にお許しをいただきました」
「何故、陛下が……」
「陛下もアルスラン殿下も、殿下の身を心配なさっておいでです。だから私が来たのです」
「……」
「殿下、ヘイマー医師から睡眠薬を預かっています。明日からは服用しましょう」
「……お前、一体何を考えている?」
僕は少し悩んでから口を開いた。
「私は殿下を守りたいだけです」
「守る……?俺を?」
殿下はおかしそうに笑った。
「お前如きに守れるものなど何もない」
「そうかもしれませんね」
「なら―――」
「でも、殿下だって人間でしょう」
僕はなるべく殿下に目を合わせて口を開く。
「人間は誰もが休息が必要です。そのお手伝いをさせてください」
「……いらぬ世話だ」
「そう思われても構いません、勝手に参ります」
「……」
殿下は諦めた様にため息をつくと目を閉じた。そのまま眠りにつくのかと思いきや、彼は再び目を開ける。
「お前の名は?」
「ティト・クローデルと申します」
「ああ、そうだったな……」
殿下は何かを思い出したかのように呟くと、もう一度目を閉じた。眠れるわけではないかもしれないが、休んでくれる気はある様だ。
僕はヘイマー医師を待つため、静かに扉の方へと歩いていく。すると、後ろから声をかけられた。
「……ティト」
振り返ると殿下は目を瞑り、こちらを見てはいなかった。
「はい」
「……明日も来るのか」
「はい、お伺いします」
僕の返事を聞いても殿下は反応しなかった。それでもいい。今はそれで充分だと思った。
「殿下、こちらで休まれてください。私は医師を呼んで参ります」
「余計な事を……」
殿下は不機嫌そうな表情を浮かべていたが、大人しく指示に従った。
僕は急いで侍従を呼び、ヘイマー医師を呼ぶように伝えた。そしてすぐに殿下の元へと戻る。殿下は部屋の端に置かれた長椅子に座っていた。僕はホッとして殿下に駆け寄る。
「良かった……ちゃんと休まれていましたね。お加減いかがですか?」
「最悪だよ」
「それは結構です、解毒薬を処方してもらいましょう」
「そんなもの飲んだところで変わらない」
「そうかもしれませんね」
殿下の顔色は見るからに悪い。それは媚薬香によるものではないだろう。
「媚薬香はよくお使いになられるのですか」
「……お前には関係ないだろう」
「いえ、関係ありますよ」
僕は真っ直ぐに殿下を見据えた。
「これから私は毎夜、貴方のものを訪れます。毎回この様なことになるのは困ります」
僕の言葉に殿下は驚いた顔をする。
「……何だと?どういうことだ」
「国王陛下にお許しをいただきました」
「何故、陛下が……」
「陛下もアルスラン殿下も、殿下の身を心配なさっておいでです。だから私が来たのです」
「……」
「殿下、ヘイマー医師から睡眠薬を預かっています。明日からは服用しましょう」
「……お前、一体何を考えている?」
僕は少し悩んでから口を開いた。
「私は殿下を守りたいだけです」
「守る……?俺を?」
殿下はおかしそうに笑った。
「お前如きに守れるものなど何もない」
「そうかもしれませんね」
「なら―――」
「でも、殿下だって人間でしょう」
僕はなるべく殿下に目を合わせて口を開く。
「人間は誰もが休息が必要です。そのお手伝いをさせてください」
「……いらぬ世話だ」
「そう思われても構いません、勝手に参ります」
「……」
殿下は諦めた様にため息をつくと目を閉じた。そのまま眠りにつくのかと思いきや、彼は再び目を開ける。
「お前の名は?」
「ティト・クローデルと申します」
「ああ、そうだったな……」
殿下は何かを思い出したかのように呟くと、もう一度目を閉じた。眠れるわけではないかもしれないが、休んでくれる気はある様だ。
僕はヘイマー医師を待つため、静かに扉の方へと歩いていく。すると、後ろから声をかけられた。
「……ティト」
振り返ると殿下は目を瞑り、こちらを見てはいなかった。
「はい」
「……明日も来るのか」
「はい、お伺いします」
僕の返事を聞いても殿下は反応しなかった。それでもいい。今はそれで充分だと思った。
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