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第三章 明日へ
91. 殿下
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中に入ると、薄暗い空間が広がっていて、ギシギシと軋む音が響いていた。辺りには濃密なバラの香りが漂う。
僕は思わず眉を顰めた。フェロモンにしてはあまりに匂いがキツイ。奥へ進むと、薄暗さに目が慣れてきて、大きなベッドが置かれているのが見える。
「…あっ…んっ……はぁ……」
ベッドの方から艶めかしい声が聞こえてきた。
恐る恐るベッドに近づく。するとそこには裸で絡み合う2人の男性の姿があった。
一人は、金髪に碧眼、白い肌に整った顔立ち――カミーユ殿下だ。しかし、記憶にある殿下の姿より遥かにやつれている。
その上に覆い被さって腰を振るもう一人の男は、歳若く見える青年だった。
髪を振り乱し、狂った様に腰を振る青年に対し、カミーユ殿下は無気力にされるがままになっている。カミーユ殿下の首筋や胸元には無数の赤い花びらが散りばめられていた。
「……」
気配に気付いたのか、カクリと首を曲げて、僕の姿を見たカミーユ殿下は、すぐに妖しく微笑んだ。
「……あぁ、クローデルの……よく来たな……」
僕は震えそうになる身体を抑えて、なるべく冷静に口を開いた。
「……どういうことですか、これは?今日は私がお伺いする通達があったと思いますが」
僕の問い掛けに対して、カミーユ殿下はニヤリと歪んだ笑みを深める。
「見ての通りだよ。お前が来る前に遊んでただけだ」
「遊ぶって……」
僕が来たことで興醒めしたのか、カミーユ殿下は鬱陶しそうに青年を遠ざけた。
青年は必死に殿下に縋る。その姿は熱に溺れてる様だった。
「媚薬香……ですか……」
この部屋に入った瞬間から感じていた強烈な匂いの正体はそれだろう。恐らく青年はこの媚薬の効果によって理性を失い、本能のままに動いてしまったのだ。
「あぁ、そうだよ、どうせお前も俺のこと抱くんだろう?ちょうどいいじゃないか」
カミーユ殿下は投げやりな態度で言った。
僕は殿下の態度に戸惑うしかなかった。しかし、このまま黙っている訳にもいかない。僕は近くに投げ捨てられた上着を拾い、青年に羽織らせた。近くで見ると青年というにはとても若くて、僕より若い様に見えた。その姿はあまりに痛々しい。
「君……歩けるかな。侍従は事情を把握してるから薬を貰って少し休んで」
青年に声をかけると、彼は小さくコクリと首を縦に振った。そしてフラつきながらも何とか立ち上がり、廊下へと消えていった。
彼が去った後、僕はカミーユ殿下を見つめる。
「……何故、こんなことを?」
僕の問い掛けにカミーユ殿下は鼻で笑う。
「そんなもの、決まってるだろ。跡継ぎを産むのは王族の義務だ」
「こんなやり方……殿下にもアデルたちにもよくありません」
「じゃあお前が代わりになってくれるのか?」
殿下は愉快げに笑っていた。
「出来ないだろ?なら知った様な口を聞くな、俺が産むしかないんだよ!」
カミーユ殿下は苛立った様子で叫んだ。その様子は謁見の時の穏やかな様子とはあまりにも違っている。
彼の言葉を聞いた僕は、思わず殿下の腕を強く掴んでいた。
「自身の心身を守る事も王族としての務めではないのですか……!」
「……何を偉そうに」
僕はそのまま殿下を引き摺りながらベッドから降ろす。殿下は抵抗したが、力で勝る僕に適わず引きずられていく。
「おい、離せ!!何処へ連れて行く気だ!?」
殿下は抵抗するが僕は構わなかった。
「あんな媚薬香が充満する部屋で休ませる訳にはいきません。まずは殿下のお身体を診てもらわないと」
「ふざけるな!!」
「暴れないで下さい。ただでさえ今の貴方は弱っています。それにこれ以上悪化しても良いんですか?お子様が出来にくくなるかもしれませんよ?」
僕の脅しに殿下はピタリと動きを止める。どうやら自覚はあるらしい。
僕は傍にあったガウンを彼にかけた。
「殿下、申し上げにくいのですが、このままでは殿下の御命に関わります。どうかご自愛ください」
「……」
「さぁ行きましょう」
僕は殿下の手を引いて、隣の部屋へと向かった。
僕は思わず眉を顰めた。フェロモンにしてはあまりに匂いがキツイ。奥へ進むと、薄暗さに目が慣れてきて、大きなベッドが置かれているのが見える。
「…あっ…んっ……はぁ……」
ベッドの方から艶めかしい声が聞こえてきた。
恐る恐るベッドに近づく。するとそこには裸で絡み合う2人の男性の姿があった。
一人は、金髪に碧眼、白い肌に整った顔立ち――カミーユ殿下だ。しかし、記憶にある殿下の姿より遥かにやつれている。
その上に覆い被さって腰を振るもう一人の男は、歳若く見える青年だった。
髪を振り乱し、狂った様に腰を振る青年に対し、カミーユ殿下は無気力にされるがままになっている。カミーユ殿下の首筋や胸元には無数の赤い花びらが散りばめられていた。
「……」
気配に気付いたのか、カクリと首を曲げて、僕の姿を見たカミーユ殿下は、すぐに妖しく微笑んだ。
「……あぁ、クローデルの……よく来たな……」
僕は震えそうになる身体を抑えて、なるべく冷静に口を開いた。
「……どういうことですか、これは?今日は私がお伺いする通達があったと思いますが」
僕の問い掛けに対して、カミーユ殿下はニヤリと歪んだ笑みを深める。
「見ての通りだよ。お前が来る前に遊んでただけだ」
「遊ぶって……」
僕が来たことで興醒めしたのか、カミーユ殿下は鬱陶しそうに青年を遠ざけた。
青年は必死に殿下に縋る。その姿は熱に溺れてる様だった。
「媚薬香……ですか……」
この部屋に入った瞬間から感じていた強烈な匂いの正体はそれだろう。恐らく青年はこの媚薬の効果によって理性を失い、本能のままに動いてしまったのだ。
「あぁ、そうだよ、どうせお前も俺のこと抱くんだろう?ちょうどいいじゃないか」
カミーユ殿下は投げやりな態度で言った。
僕は殿下の態度に戸惑うしかなかった。しかし、このまま黙っている訳にもいかない。僕は近くに投げ捨てられた上着を拾い、青年に羽織らせた。近くで見ると青年というにはとても若くて、僕より若い様に見えた。その姿はあまりに痛々しい。
「君……歩けるかな。侍従は事情を把握してるから薬を貰って少し休んで」
青年に声をかけると、彼は小さくコクリと首を縦に振った。そしてフラつきながらも何とか立ち上がり、廊下へと消えていった。
彼が去った後、僕はカミーユ殿下を見つめる。
「……何故、こんなことを?」
僕の問い掛けにカミーユ殿下は鼻で笑う。
「そんなもの、決まってるだろ。跡継ぎを産むのは王族の義務だ」
「こんなやり方……殿下にもアデルたちにもよくありません」
「じゃあお前が代わりになってくれるのか?」
殿下は愉快げに笑っていた。
「出来ないだろ?なら知った様な口を聞くな、俺が産むしかないんだよ!」
カミーユ殿下は苛立った様子で叫んだ。その様子は謁見の時の穏やかな様子とはあまりにも違っている。
彼の言葉を聞いた僕は、思わず殿下の腕を強く掴んでいた。
「自身の心身を守る事も王族としての務めではないのですか……!」
「……何を偉そうに」
僕はそのまま殿下を引き摺りながらベッドから降ろす。殿下は抵抗したが、力で勝る僕に適わず引きずられていく。
「おい、離せ!!何処へ連れて行く気だ!?」
殿下は抵抗するが僕は構わなかった。
「あんな媚薬香が充満する部屋で休ませる訳にはいきません。まずは殿下のお身体を診てもらわないと」
「ふざけるな!!」
「暴れないで下さい。ただでさえ今の貴方は弱っています。それにこれ以上悪化しても良いんですか?お子様が出来にくくなるかもしれませんよ?」
僕の脅しに殿下はピタリと動きを止める。どうやら自覚はあるらしい。
僕は傍にあったガウンを彼にかけた。
「殿下、申し上げにくいのですが、このままでは殿下の御命に関わります。どうかご自愛ください」
「……」
「さぁ行きましょう」
僕は殿下の手を引いて、隣の部屋へと向かった。
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