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第三章 明日へ
90.宵闇
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それから数日後、僕は夜に再び王宮を訪れた。前回とは違い、今回は応接室に通される。そこには既にアルスラン殿下の姿があった。
「ティト殿」
「こんばんは、アルスラン殿下」
「先日は本当に突然ですまなかった。ユリウス様からもお叱りを受けたよ」
「いえ……」
「願いを聞き入れてくれてありがとう」
殿下の言葉に僕は首を横に振る。
「少しでもカミーユ殿下のお力になれればと思っています」
アルスラン殿下は安心した様に頷く。
「国王陛下からもお許しをいただいた。ティト殿には今宵から兄上の元へ行ってもらうことになる」
「はい」
「その前に、ユリウス様から助言を受けて兄上の主治医を呼んだよ、話を聞いてから共に向かおう」
「分かりました」
殿下は微笑むと、僕の目を真っ直ぐに見つめた。そしてゆっくりと口を開く。
「ティト殿は私にとって大切な友人だ、必ず守る」
「……はい、ありがとうございます」
殿下の気遣いに感謝しつつ、僕は返事を返した。
すると扉を叩く音が聞こえ、扉が開かれた。そして1人の男性が部屋に入って来る。
「はじめまして、私は宮廷医師長のルッツ・ヘイマーと申します」
「ティト・クローデルです、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
ルッツと名乗った男性は笑顔を浮かべる。優しそうな印象を受ける人だった。
「早速ですが、殿下の状況についてご説明させて頂きます」
「はい、お願いします」
ヘイマー医師の説明は簡潔かつ分かりやすく、とても理解しやすいものだった。
「では、行こうか」
「ええ……」
僕は立ち上がると、アルスラン殿下と共に部屋の外へ出た。何人かの侍従と共に廊下を進む。
「兄上は今どちらに?」
「今は寝室に……別のアデルの方をお呼びです」
「そう……」
僕たちはそのまま廊下を突き進む。しばらく歩くと、大きな両開きの扉の前にたどり着いた。
「ここがカミーユ殿下の寝室となっております」
扉の前に立つ門兵はそっとアルスラン殿下と侍従を止めた。
「ここから先はクローデル様、お一人でどうぞ」
「えっ」
驚いていると、殿下は少し寂しげに、それでも諦めた様な顔で言葉を返す。
「ティト殿、すまない。何かあればすぐに呼んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
殿下は心配してくれているのだろう。僕は笑って殿下に礼を言うと、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
そして意を決して扉を開けた――。
「ティト殿」
「こんばんは、アルスラン殿下」
「先日は本当に突然ですまなかった。ユリウス様からもお叱りを受けたよ」
「いえ……」
「願いを聞き入れてくれてありがとう」
殿下の言葉に僕は首を横に振る。
「少しでもカミーユ殿下のお力になれればと思っています」
アルスラン殿下は安心した様に頷く。
「国王陛下からもお許しをいただいた。ティト殿には今宵から兄上の元へ行ってもらうことになる」
「はい」
「その前に、ユリウス様から助言を受けて兄上の主治医を呼んだよ、話を聞いてから共に向かおう」
「分かりました」
殿下は微笑むと、僕の目を真っ直ぐに見つめた。そしてゆっくりと口を開く。
「ティト殿は私にとって大切な友人だ、必ず守る」
「……はい、ありがとうございます」
殿下の気遣いに感謝しつつ、僕は返事を返した。
すると扉を叩く音が聞こえ、扉が開かれた。そして1人の男性が部屋に入って来る。
「はじめまして、私は宮廷医師長のルッツ・ヘイマーと申します」
「ティト・クローデルです、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
ルッツと名乗った男性は笑顔を浮かべる。優しそうな印象を受ける人だった。
「早速ですが、殿下の状況についてご説明させて頂きます」
「はい、お願いします」
ヘイマー医師の説明は簡潔かつ分かりやすく、とても理解しやすいものだった。
「では、行こうか」
「ええ……」
僕は立ち上がると、アルスラン殿下と共に部屋の外へ出た。何人かの侍従と共に廊下を進む。
「兄上は今どちらに?」
「今は寝室に……別のアデルの方をお呼びです」
「そう……」
僕たちはそのまま廊下を突き進む。しばらく歩くと、大きな両開きの扉の前にたどり着いた。
「ここがカミーユ殿下の寝室となっております」
扉の前に立つ門兵はそっとアルスラン殿下と侍従を止めた。
「ここから先はクローデル様、お一人でどうぞ」
「えっ」
驚いていると、殿下は少し寂しげに、それでも諦めた様な顔で言葉を返す。
「ティト殿、すまない。何かあればすぐに呼んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
殿下は心配してくれているのだろう。僕は笑って殿下に礼を言うと、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
そして意を決して扉を開けた――。
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