アデルの子

新子珠子

文字の大きさ
上 下
90 / 114
第三章 明日へ

90.宵闇

しおりを挟む
 それから数日後、僕は夜に再び王宮を訪れた。前回とは違い、今回は応接室に通される。そこには既にアルスラン殿下の姿があった。
 
「ティト殿」
「こんばんは、アルスラン殿下」
「先日は本当に突然ですまなかった。ユリウス様からもお叱りを受けたよ」
「いえ……」
「願いを聞き入れてくれてありがとう」
 
 殿下の言葉に僕は首を横に振る。
 
「少しでもカミーユ殿下のお力になれればと思っています」

 アルスラン殿下は安心した様に頷く。
 
「国王陛下からもお許しをいただいた。ティト殿には今宵から兄上の元へ行ってもらうことになる」
「はい」
「その前に、ユリウス様から助言を受けて兄上の主治医を呼んだよ、話を聞いてから共に向かおう」
「分かりました」
 
 殿下は微笑むと、僕の目を真っ直ぐに見つめた。そしてゆっくりと口を開く。
 
「ティト殿は私にとって大切な友人だ、必ず守る」
「……はい、ありがとうございます」

 殿下の気遣いに感謝しつつ、僕は返事を返した。
 すると扉を叩く音が聞こえ、扉が開かれた。そして1人の男性が部屋に入って来る。

「はじめまして、私は宮廷医師長のルッツ・ヘイマーと申します」
「ティト・クローデルです、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」

 ルッツと名乗った男性は笑顔を浮かべる。優しそうな印象を受ける人だった。
 
「早速ですが、殿下の状況についてご説明させて頂きます」
「はい、お願いします」





 ヘイマー医師の説明は簡潔かつ分かりやすく、とても理解しやすいものだった。
 
「では、行こうか」
「ええ……」

 僕は立ち上がると、アルスラン殿下と共に部屋の外へ出た。何人かの侍従と共に廊下を進む。
 
「兄上は今どちらに?」
「今は寝室に……別のアデルの方をお呼びです」
「そう……」

 僕たちはそのまま廊下を突き進む。しばらく歩くと、大きな両開きの扉の前にたどり着いた。
 
「ここがカミーユ殿下の寝室となっております」

 扉の前に立つ門兵はそっとアルスラン殿下と侍従を止めた。
 
「ここから先はクローデル様、お一人でどうぞ」
「えっ」

 驚いていると、殿下は少し寂しげに、それでも諦めた様な顔で言葉を返す。
 
「ティト殿、すまない。何かあればすぐに呼んでくれ」
「はい、ありがとうございます」

 殿下は心配してくれているのだろう。僕は笑って殿下に礼を言うと、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
 そして意を決して扉を開けた――。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

学園の卒業パーティーで卒業生全員の筆下ろしを終わらせるまで帰れない保険医

ミクリ21
BL
学園の卒業パーティーで、卒業生達の筆下ろしをすることになった保険医の話。 筆下ろしが終わるまで、保険医は帰れません。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...