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第三章 明日へ
85. 親心
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それからしばらく経って、ようやくジェイデンは母親に会いに行く事を決めた。きっかけは初夏にささやかな結婚式を挙げる事を決めた事だった。式の招待状を持って、彼の母親がいる王都へと向かう。
「ジェイデン、馬車は大丈夫そう?」
「はい、大丈夫ですよ」
「そっか、良かった」
ジェイデンはあれ以来、定期的に検診を受けている。お腹の子の成長は順調のようだ。
「何かあったらすぐに言ってね」
「ふふ、心配性ですね」
「だって……」
「私は大丈夫ですから、安心してください」
「分かった」
そうして僕たちは、ゆっくりと時間をかけて王都へと向かった。
ジェイデンの母親の住む家は、王都の中でも閑静な住宅街にあるタウンハウスの一角だった。玄関でベルを鳴らすと使用人らしき人が出てきて、応接間へと通される。僕たちに紅茶を出してくれた後、少々お待ちくださいませと言って部屋から出て行った。するとしばらくして、少し慌ただしい足音と共に一人の男性が部屋に入ってきた。その人はジェイデンを見るなり目を見開き、そして泣きそうな表情を浮かべる。
「……っ、ジェイデン……!」
「母上、ただいま戻りました」
「あぁ、おかえり!元気そうじゃないか……!」
どうやらこの男性がジェイデンの母親らしい。彼は目に涙を浮かべながら、本当に嬉しそうに笑った。僕はそんな二人を見てホッとした気持ちになる。
すると母親が僕の方へ視線を移して不思議そうな顔をした。
「そちらの方は……」
「初めまして、クローデル家の次男、ティト・クローデルと申します」
「あぁ、貴方様が……」
母親は深々と頭を下げた後、自己紹介を始めた。
「失礼しました。私はジェイデンの母マルガ申します。息子が大変お世話になっております」
「いえ、こちらこそ」
「それで……今日はどのようなご用件でしょうか?息子の顔を見せに来てくださっただけではないですよね?」
「ええ、息子さんとの結婚を認めていただきたくご挨拶に参りました」
「…………えっ?」
突然の話に母親は驚きの声を上げる。
「ジェイデンさんのお腹には僕たちの子供がいます。結婚し、これから共に生きていくつもりです。どうか認めていただけないでしょうか」
「…………ジェイデンに……子が……?」
「はい」
「それは本当なのか……?」
マルガは信じられないというような顔をしてジェイデンに問いかけた。ジェイデンは僅かに微笑み、頷く。
「はい、間違いありません」
ジェイデンがそう言うと母親は両手で口元を押さえ、そして大粒の涙を流し始めた。
「そうか…………良かった……本当に……」
「母上……」
「私のせいでお前を傷つけてしまった……もう二度と会えないかもしれないと思っていたんだ……」
「母上……すみませんでした……」
「謝るのは私の方だ。こうしてまた会いに来てくれて……本当にありがとう……お前に子ができただなんて、こんなに嬉しい事はない」
そう言ってマルガはジェイデンを優しく抱きしめた。
「そうか……お前はサルロを心配してくれていたんだな」
ひとしきり涙を流した後、マルガは落ち着いて僕たちの話を聞いてくれた。サルロはこの家に入った養子の名前だ。遠縁から引き取られた10歳になったばかりの少年らしい。
「お前の子供が生まれても、サルロは当主として育てる。それに変わりはないよ」
「そうですか……よかった」
「生まれてくる子供が将来ドリス家に入るかどうかはこれから話し合おう。けれど、お前たちの意志を尊重するよ」
「はい……ありがとうございます」
マルガの言葉を聞き、ジェイデンは心底安堵したように息をついた。けれど少し不安そうに顔を上げる。
「もし……この家に生まれる子が入るならば、次男の役割につかなくてはいけない……けれど、私の子です。私の様に……役に立てないかもしれません」
それは、次男の役目について、長い間相性の合う相手を見つけられなかった事を指しているんだろう。
マルガはその言葉を真っ直ぐに受け止め、そしてゆっくりと首を横に振った。
「役に立つとか、立たないとかそんな話じゃないんだよ。ただ、元気にいてくれればそれでいいんだ」
マルガはジェイデンの手を優しく握る。
「もっと私を良いように使いなさい。お前とお腹の子の幸せが一番なんだから」
「母上……」
「幸せになりなさい」
「……はい……」
ジェイデンは目に涙を浮かべながら返事をした。
「ティト様、ジェイデンをよろしくお願いします」
「はい、ジェイデンさんも子供も幸せに思ってくれる様に勤めます」
「あぁ、ありがとう」
マルガは深々と頭を下げた。
そして僕たちは空白の時間を少しずつ埋めるように、お互いの事を話し合った。今までどんな生活をしていたのか、これからどのように暮らしていくのか。マルガはずっとジェイデンを気にかけていたようで、沢山質問されたし、僕の事も自分の息子のように可愛がってくれた。
そうしてしばらく話をした後、僕とジェイデンはマルガの家を後にした。帰り道、僕はジェイデンの手を握る。
「ジェイデン」
「はい」
「これから色んな事があると思うけど、一緒に乗り越えていこうね」
「……はい」
彼は少し恥ずかしそうにしながら、僕の手を強く握り返してくれた。
「ジェイデン、馬車は大丈夫そう?」
「はい、大丈夫ですよ」
「そっか、良かった」
ジェイデンはあれ以来、定期的に検診を受けている。お腹の子の成長は順調のようだ。
「何かあったらすぐに言ってね」
「ふふ、心配性ですね」
「だって……」
「私は大丈夫ですから、安心してください」
「分かった」
そうして僕たちは、ゆっくりと時間をかけて王都へと向かった。
ジェイデンの母親の住む家は、王都の中でも閑静な住宅街にあるタウンハウスの一角だった。玄関でベルを鳴らすと使用人らしき人が出てきて、応接間へと通される。僕たちに紅茶を出してくれた後、少々お待ちくださいませと言って部屋から出て行った。するとしばらくして、少し慌ただしい足音と共に一人の男性が部屋に入ってきた。その人はジェイデンを見るなり目を見開き、そして泣きそうな表情を浮かべる。
「……っ、ジェイデン……!」
「母上、ただいま戻りました」
「あぁ、おかえり!元気そうじゃないか……!」
どうやらこの男性がジェイデンの母親らしい。彼は目に涙を浮かべながら、本当に嬉しそうに笑った。僕はそんな二人を見てホッとした気持ちになる。
すると母親が僕の方へ視線を移して不思議そうな顔をした。
「そちらの方は……」
「初めまして、クローデル家の次男、ティト・クローデルと申します」
「あぁ、貴方様が……」
母親は深々と頭を下げた後、自己紹介を始めた。
「失礼しました。私はジェイデンの母マルガ申します。息子が大変お世話になっております」
「いえ、こちらこそ」
「それで……今日はどのようなご用件でしょうか?息子の顔を見せに来てくださっただけではないですよね?」
「ええ、息子さんとの結婚を認めていただきたくご挨拶に参りました」
「…………えっ?」
突然の話に母親は驚きの声を上げる。
「ジェイデンさんのお腹には僕たちの子供がいます。結婚し、これから共に生きていくつもりです。どうか認めていただけないでしょうか」
「…………ジェイデンに……子が……?」
「はい」
「それは本当なのか……?」
マルガは信じられないというような顔をしてジェイデンに問いかけた。ジェイデンは僅かに微笑み、頷く。
「はい、間違いありません」
ジェイデンがそう言うと母親は両手で口元を押さえ、そして大粒の涙を流し始めた。
「そうか…………良かった……本当に……」
「母上……」
「私のせいでお前を傷つけてしまった……もう二度と会えないかもしれないと思っていたんだ……」
「母上……すみませんでした……」
「謝るのは私の方だ。こうしてまた会いに来てくれて……本当にありがとう……お前に子ができただなんて、こんなに嬉しい事はない」
そう言ってマルガはジェイデンを優しく抱きしめた。
「そうか……お前はサルロを心配してくれていたんだな」
ひとしきり涙を流した後、マルガは落ち着いて僕たちの話を聞いてくれた。サルロはこの家に入った養子の名前だ。遠縁から引き取られた10歳になったばかりの少年らしい。
「お前の子供が生まれても、サルロは当主として育てる。それに変わりはないよ」
「そうですか……よかった」
「生まれてくる子供が将来ドリス家に入るかどうかはこれから話し合おう。けれど、お前たちの意志を尊重するよ」
「はい……ありがとうございます」
マルガの言葉を聞き、ジェイデンは心底安堵したように息をついた。けれど少し不安そうに顔を上げる。
「もし……この家に生まれる子が入るならば、次男の役割につかなくてはいけない……けれど、私の子です。私の様に……役に立てないかもしれません」
それは、次男の役目について、長い間相性の合う相手を見つけられなかった事を指しているんだろう。
マルガはその言葉を真っ直ぐに受け止め、そしてゆっくりと首を横に振った。
「役に立つとか、立たないとかそんな話じゃないんだよ。ただ、元気にいてくれればそれでいいんだ」
マルガはジェイデンの手を優しく握る。
「もっと私を良いように使いなさい。お前とお腹の子の幸せが一番なんだから」
「母上……」
「幸せになりなさい」
「……はい……」
ジェイデンは目に涙を浮かべながら返事をした。
「ティト様、ジェイデンをよろしくお願いします」
「はい、ジェイデンさんも子供も幸せに思ってくれる様に勤めます」
「あぁ、ありがとう」
マルガは深々と頭を下げた。
そして僕たちは空白の時間を少しずつ埋めるように、お互いの事を話し合った。今までどんな生活をしていたのか、これからどのように暮らしていくのか。マルガはずっとジェイデンを気にかけていたようで、沢山質問されたし、僕の事も自分の息子のように可愛がってくれた。
そうしてしばらく話をした後、僕とジェイデンはマルガの家を後にした。帰り道、僕はジェイデンの手を握る。
「ジェイデン」
「はい」
「これから色んな事があると思うけど、一緒に乗り越えていこうね」
「……はい」
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