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第三章 明日へ
80. 誕生
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リノと僕の子、リティが生まれたのは秋の節の中頃だった。柔らかな白い肌はリノに、くりっとしたグレイの瞳は僕に似た可愛い子だ。
リノに抱かれた赤子を、長男であるシリルは興味津々と言った様子で覗き込む。僕はシリルの頭をそっと撫でた。
「シリル、リティだよ」
「りりー?」
「そう、リティ。シリルの弟だよ」
少しずつ色んな言葉を話し始めたシリルだが、生まれる前に何度も話していたせいか、弟という単語は理解できたらしい。ぱあっと顔を輝かせると、リティを指差して言う。
「おとうと!」
「そうだね、シリルの弟だ」
僕はシリルに微笑みかけながら言った。そしてシリルとリティの可愛らしい頬を撫でてから、愛する妻の方を向く。
「……元気な子を産んでくれてありがとう、リノ」
「僕も……家族が増えて嬉しい、ありがとう、ティト」
そう言って微笑む彼は、すっかり母親の顔になっていた。
こうして、僕達は新しい家族を迎えたのだった。
議会に復帰していたレヴィルは、リノの出産を聞くとすぐに王都から戻ってきた。
「ははしゃまー!」
レヴィルの姿を見るなり駆け寄ったシリルは、彼の腕の中に飛び込んだ。彼はシリルを抱きしめると、優しく微笑む。
「シリル、いい子にしてたか」
「してた!」
「そうか、偉いな」
シリルにとって、この節は初めての母と離れて過ごす節だ。寂しかっただろう。それでも、僕達の息子は気丈に頑張っていた。そんな息子の成長を喜ぶように、レヴィルはその小さな体を抱きしめている。
その様子を見て安心すると、今度はリノの方へ視線を向けた。彼は口元に笑みを浮かべて、レヴィルに近づいた。腕の中には生まれたばかりのリティがいる。
「リノ、頑張ったな」
「ありがとう、この子も抱いてくれますか?」
「ああ、もちろんだ」
そう言って、レヴィルは慎重にリティを受け取る。リティの顔を見ると、レヴィルは目を細めた。
「ああ、可愛いな……ティトそっくりだ」
「ええ、本当に……」
「ぼくのおとうと!」
「ああ、そうだな。シリルはお兄ちゃんになったんだな」
「うん!」
そう言い合って笑い合う彼らを見て、心の底から安堵する。きっとこれからも大変なことは沢山あるけれど、僕たちなら大丈夫だと思えた。
「そろそろ、司祭様が来る頃かな」
「ええ、そうですね」
今日はレヴィルの帰宅に合わせて、リティの魔力を調べる約束になっている。
リティがアデルなのかエバなのか、どちらの魔力を得ているかを教会に調べてもらうのだ。
そう考えてるうちに、呼び鈴の音がした。
しばらくして、使用人に連れられて部屋に入ってきたのは司祭だった。その後ろにはセレダもいる。
「司祭、わざわざありがとう」
「いえ、二人のお子様が無事に生まれたと聞いて飛んできましたよ。本当におめでとうございます」
司祭はそう言って笑うと、レヴィルの腕の中の我が子の顔をそっと覗き込んだ。
「お名前は決まったのですか?」
「リティと言うんだ」
「ああ、素敵な名前ですね」
司祭は何度も頷いて、目を細めた。
「今回もセレダがおりますので、彼に魔力を見てもらおうと思います」
司祭がそう言うとセレダが微笑んで会釈をした。シリルの時も彼に魔力を見てもらっている。今回で2回目だ。
「また、このようなお役目をいただけて光栄です」
「セレダ、ありがとう。よろしくね」
僕がそう声を掛けると、セレダは微笑んで、レヴィルに近づいた。そして、そっと腕の中を覗き込む。彼の手が優しく我が子の額に触れて、彼の不思議な瞳の虹彩が一層鮮やかになった気がした。
「…………あ」
小さく声を上げたのはセレダだった。一瞬の間を置いて、彼は僕達に視線を向ける。
「…………リティ様は……アデルで……いらっしゃいます」
「えっ……?」
思わず聞き返すと、セレダは神妙な面持ちでもう一度こくりと首を縦に振った。
「間違いありません。リティ様はアデルです」
「……そ、う」
僕は思わず隣にいたリノを見る。彼も僕と同じ様にどこか不安げな表情をしていた。
「ティト様に続いて、リティ様もアデルですか!クローデルは安泰ですね」
司祭は朗らかな声でそう言った。
「ああ、そうだな」
レヴィルが冷静な声でそう答え、リティを優しい瞳で見つめた後、ゆっくりと僕たちの方を見た。
「……大丈夫だ。リティが我が家の宝である事は変わらない」
彼は、僕達の気持ちを見透かしたようにそう言った。
「どちらの魔力を得たとしても……愛している事に違いはないだろう」
そう言って微笑むと、彼はシリルとリティの頭を撫でる。
「お前たちにとっても、俺にとっても大切な子だ」
「うん……」
レヴィルの言葉には、僕達への愛情と優しさが溢れていた。僕は隣にいるリノの手をそっと取った。
「幸せにしよう、僕たちの手で」
「ええ……」
リティがアデルであるという事は、将来、僕の様な役目を背負う運命にあるという事だ。その時が来るまでに、できるだけリティにとって良い未来にしてあげたい。リティの可愛い寝姿を見ていると、不思議とそのためだったらなんでも出来る気がした。
リノの手を握る手に力がこもる。すると彼はそっと握り返してくれた。そして僕たちは顔を見合わせて笑みを浮かべる。
大切に育てようと改めて心に誓う。
僕達はお互いに微笑み合うと、新たな家族を守るようにそっと抱き締めた。
リノに抱かれた赤子を、長男であるシリルは興味津々と言った様子で覗き込む。僕はシリルの頭をそっと撫でた。
「シリル、リティだよ」
「りりー?」
「そう、リティ。シリルの弟だよ」
少しずつ色んな言葉を話し始めたシリルだが、生まれる前に何度も話していたせいか、弟という単語は理解できたらしい。ぱあっと顔を輝かせると、リティを指差して言う。
「おとうと!」
「そうだね、シリルの弟だ」
僕はシリルに微笑みかけながら言った。そしてシリルとリティの可愛らしい頬を撫でてから、愛する妻の方を向く。
「……元気な子を産んでくれてありがとう、リノ」
「僕も……家族が増えて嬉しい、ありがとう、ティト」
そう言って微笑む彼は、すっかり母親の顔になっていた。
こうして、僕達は新しい家族を迎えたのだった。
議会に復帰していたレヴィルは、リノの出産を聞くとすぐに王都から戻ってきた。
「ははしゃまー!」
レヴィルの姿を見るなり駆け寄ったシリルは、彼の腕の中に飛び込んだ。彼はシリルを抱きしめると、優しく微笑む。
「シリル、いい子にしてたか」
「してた!」
「そうか、偉いな」
シリルにとって、この節は初めての母と離れて過ごす節だ。寂しかっただろう。それでも、僕達の息子は気丈に頑張っていた。そんな息子の成長を喜ぶように、レヴィルはその小さな体を抱きしめている。
その様子を見て安心すると、今度はリノの方へ視線を向けた。彼は口元に笑みを浮かべて、レヴィルに近づいた。腕の中には生まれたばかりのリティがいる。
「リノ、頑張ったな」
「ありがとう、この子も抱いてくれますか?」
「ああ、もちろんだ」
そう言って、レヴィルは慎重にリティを受け取る。リティの顔を見ると、レヴィルは目を細めた。
「ああ、可愛いな……ティトそっくりだ」
「ええ、本当に……」
「ぼくのおとうと!」
「ああ、そうだな。シリルはお兄ちゃんになったんだな」
「うん!」
そう言い合って笑い合う彼らを見て、心の底から安堵する。きっとこれからも大変なことは沢山あるけれど、僕たちなら大丈夫だと思えた。
「そろそろ、司祭様が来る頃かな」
「ええ、そうですね」
今日はレヴィルの帰宅に合わせて、リティの魔力を調べる約束になっている。
リティがアデルなのかエバなのか、どちらの魔力を得ているかを教会に調べてもらうのだ。
そう考えてるうちに、呼び鈴の音がした。
しばらくして、使用人に連れられて部屋に入ってきたのは司祭だった。その後ろにはセレダもいる。
「司祭、わざわざありがとう」
「いえ、二人のお子様が無事に生まれたと聞いて飛んできましたよ。本当におめでとうございます」
司祭はそう言って笑うと、レヴィルの腕の中の我が子の顔をそっと覗き込んだ。
「お名前は決まったのですか?」
「リティと言うんだ」
「ああ、素敵な名前ですね」
司祭は何度も頷いて、目を細めた。
「今回もセレダがおりますので、彼に魔力を見てもらおうと思います」
司祭がそう言うとセレダが微笑んで会釈をした。シリルの時も彼に魔力を見てもらっている。今回で2回目だ。
「また、このようなお役目をいただけて光栄です」
「セレダ、ありがとう。よろしくね」
僕がそう声を掛けると、セレダは微笑んで、レヴィルに近づいた。そして、そっと腕の中を覗き込む。彼の手が優しく我が子の額に触れて、彼の不思議な瞳の虹彩が一層鮮やかになった気がした。
「…………あ」
小さく声を上げたのはセレダだった。一瞬の間を置いて、彼は僕達に視線を向ける。
「…………リティ様は……アデルで……いらっしゃいます」
「えっ……?」
思わず聞き返すと、セレダは神妙な面持ちでもう一度こくりと首を縦に振った。
「間違いありません。リティ様はアデルです」
「……そ、う」
僕は思わず隣にいたリノを見る。彼も僕と同じ様にどこか不安げな表情をしていた。
「ティト様に続いて、リティ様もアデルですか!クローデルは安泰ですね」
司祭は朗らかな声でそう言った。
「ああ、そうだな」
レヴィルが冷静な声でそう答え、リティを優しい瞳で見つめた後、ゆっくりと僕たちの方を見た。
「……大丈夫だ。リティが我が家の宝である事は変わらない」
彼は、僕達の気持ちを見透かしたようにそう言った。
「どちらの魔力を得たとしても……愛している事に違いはないだろう」
そう言って微笑むと、彼はシリルとリティの頭を撫でる。
「お前たちにとっても、俺にとっても大切な子だ」
「うん……」
レヴィルの言葉には、僕達への愛情と優しさが溢れていた。僕は隣にいるリノの手をそっと取った。
「幸せにしよう、僕たちの手で」
「ええ……」
リティがアデルであるという事は、将来、僕の様な役目を背負う運命にあるという事だ。その時が来るまでに、できるだけリティにとって良い未来にしてあげたい。リティの可愛い寝姿を見ていると、不思議とそのためだったらなんでも出来る気がした。
リノの手を握る手に力がこもる。すると彼はそっと握り返してくれた。そして僕たちは顔を見合わせて笑みを浮かべる。
大切に育てようと改めて心に誓う。
僕達はお互いに微笑み合うと、新たな家族を守るようにそっと抱き締めた。
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