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第三章 明日へ
76. 苦味**
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「……ぁ……っ」
「っ外……出すよ」
「は、い」
セレダの腹の上に精を吐き出す。
彼は魔力の篭った手でそれを受け止めた。息が整うまでは呆然としていたが、やがてゆっくり起き上がり、僕の精を魔鉱石の瓶に納めていく。
夏の節になっても、僕達はセレダの研究に付き合う形で身体の関係を続けていた。けれど、中へ出す事はしていなくて、寄付のやり方が変わっただけの様な状態だった。
セレダはベッドから降りると、上着を羽織り、テーブルに置かれた水差しを取った。水をコップに注いで、僕に手渡す。それを受け取り飲むと、渇いた喉が潤う。少し人心地がついた気がした。
「休んで下さい。後はやっておきますから」
「ありがとう。でもセレダも休んで」
「いえ、僕は大丈夫ですよ」
いつも通りの笑顔で言われてしまえばそれ以上は何も言えなくなる。僕が困ったように頷くと、セレダは笑って身支度を整え始めた。
「研究について、何か分かりそう?」
「そうですね……正直、今は最中に余裕がないのもあって、まだ何も」
「そっか……」
僕は水を一気に飲み干し、意を決してもう一度口を開く。
「セレダ……気になっていることがあるんだけど」
「はい、何でしょう」
「寄付の時に今は外に出しているでしょう?」
「……ええ」
「それだと完璧に避妊が出来ている訳ではないと思うんだ。セレダは……それでいいの?」
ずっと疑問だったのだ。中で出すのは怖いと言っているのに、セックスはしている。彼が望まない妊娠をしてしまわないか心配だった。
だが、セレダはきょとんとした表情を見せた後に苦笑を浮かべた。
「まぁ、確かにそうですね」
「なら――」
この世界では避妊具はあまり発達していない。妊娠したくないなら、今の状況は良くない。
けれど、僕が次の言葉を言う前にセレダは首を横に振った。
「それでも構わないんです」
「どうして? 」
その言葉の意味が分からず困惑する。そんな僕を見て、セレダは穏やかに微笑んだ。
「貴方の子供ができたら……きっと受け入れられると思います」
「…………それって」
「でも、そうは思っていてもまだ怖くて……はっきりしなくてすみません」
照れた様に笑う彼の手を思わず掴む。驚いた顔を向けられるが、そのまま引き寄せて抱き締めた。
「あの……ティト様?」
「僕はセレダが好きだよ」
「……」
「セレダは……僕の妻になるのは嫌?」
セレダはしばらく黙っていたが、やがて静かに首を横に振った。
「……体を重ねているだけでも過ぎた待遇です。妻なんてとても」
「でも僕は……」
「僕はただの術師です。ティト様とは一緒にはなれません」
「……身分は関係ないよ」
「いいえ、そんなことはありません。僕は傍に居させてくれればそれだけで十分なんですよ」
「……」
「好きと言ってくださってありがとうございます」
セレダはそう言って困ったように笑って見せた。
「…………分かった」
「申し訳ありません」
「謝らないで。無理を言ったのは僕の方だ」
セレダは首を横に振ると、小さく息を吐いて目を閉じた。そして、また目を開けるといつも通りの穏やかな笑顔を見せる。
「お疲れでしょう。今日はこの辺りにしましょう」
「……そうだね」
これ以上話を続けるのは無理だろう。
僕は名残惜しいと思いながらも彼から離れる。それから部屋を出て、教会を出るまで、僕達は会話をしなかった。
「……じゃあ、また」
「はい、ありがとうございました」
頭を下げた彼に背を向けると馬車に乗った。
(これで良かったんだよな)
自分に言い聞かせるようにして、そう心の中で呟く。
本当はもっと強く彼の気持ちを確認したかった。けれど、それができない事も分かっていた。
ため息をつく。
僕は、まだ諦めきれないんだろう。
そう思えるくらいに、胸は苦しかった――
「っ外……出すよ」
「は、い」
セレダの腹の上に精を吐き出す。
彼は魔力の篭った手でそれを受け止めた。息が整うまでは呆然としていたが、やがてゆっくり起き上がり、僕の精を魔鉱石の瓶に納めていく。
夏の節になっても、僕達はセレダの研究に付き合う形で身体の関係を続けていた。けれど、中へ出す事はしていなくて、寄付のやり方が変わっただけの様な状態だった。
セレダはベッドから降りると、上着を羽織り、テーブルに置かれた水差しを取った。水をコップに注いで、僕に手渡す。それを受け取り飲むと、渇いた喉が潤う。少し人心地がついた気がした。
「休んで下さい。後はやっておきますから」
「ありがとう。でもセレダも休んで」
「いえ、僕は大丈夫ですよ」
いつも通りの笑顔で言われてしまえばそれ以上は何も言えなくなる。僕が困ったように頷くと、セレダは笑って身支度を整え始めた。
「研究について、何か分かりそう?」
「そうですね……正直、今は最中に余裕がないのもあって、まだ何も」
「そっか……」
僕は水を一気に飲み干し、意を決してもう一度口を開く。
「セレダ……気になっていることがあるんだけど」
「はい、何でしょう」
「寄付の時に今は外に出しているでしょう?」
「……ええ」
「それだと完璧に避妊が出来ている訳ではないと思うんだ。セレダは……それでいいの?」
ずっと疑問だったのだ。中で出すのは怖いと言っているのに、セックスはしている。彼が望まない妊娠をしてしまわないか心配だった。
だが、セレダはきょとんとした表情を見せた後に苦笑を浮かべた。
「まぁ、確かにそうですね」
「なら――」
この世界では避妊具はあまり発達していない。妊娠したくないなら、今の状況は良くない。
けれど、僕が次の言葉を言う前にセレダは首を横に振った。
「それでも構わないんです」
「どうして? 」
その言葉の意味が分からず困惑する。そんな僕を見て、セレダは穏やかに微笑んだ。
「貴方の子供ができたら……きっと受け入れられると思います」
「…………それって」
「でも、そうは思っていてもまだ怖くて……はっきりしなくてすみません」
照れた様に笑う彼の手を思わず掴む。驚いた顔を向けられるが、そのまま引き寄せて抱き締めた。
「あの……ティト様?」
「僕はセレダが好きだよ」
「……」
「セレダは……僕の妻になるのは嫌?」
セレダはしばらく黙っていたが、やがて静かに首を横に振った。
「……体を重ねているだけでも過ぎた待遇です。妻なんてとても」
「でも僕は……」
「僕はただの術師です。ティト様とは一緒にはなれません」
「……身分は関係ないよ」
「いいえ、そんなことはありません。僕は傍に居させてくれればそれだけで十分なんですよ」
「……」
「好きと言ってくださってありがとうございます」
セレダはそう言って困ったように笑って見せた。
「…………分かった」
「申し訳ありません」
「謝らないで。無理を言ったのは僕の方だ」
セレダは首を横に振ると、小さく息を吐いて目を閉じた。そして、また目を開けるといつも通りの穏やかな笑顔を見せる。
「お疲れでしょう。今日はこの辺りにしましょう」
「……そうだね」
これ以上話を続けるのは無理だろう。
僕は名残惜しいと思いながらも彼から離れる。それから部屋を出て、教会を出るまで、僕達は会話をしなかった。
「……じゃあ、また」
「はい、ありがとうございました」
頭を下げた彼に背を向けると馬車に乗った。
(これで良かったんだよな)
自分に言い聞かせるようにして、そう心の中で呟く。
本当はもっと強く彼の気持ちを確認したかった。けれど、それができない事も分かっていた。
ため息をつく。
僕は、まだ諦めきれないんだろう。
そう思えるくらいに、胸は苦しかった――
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