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第三章 明日へ
73. 研究
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中央医院の奥に位置する部屋は、相変わらずセレダによって心地よく整えられている。
寄付を終えると、セレダは魔鉱石の瓶を丁寧に木箱に収納した。その指には彼の母が彫った指輪が嵌められている。最近は時々母の元へ訪れることもあるらしい。
「先日、初めて保護地区を見てきたよ」
「いかがでしたか?」
「思ったよりも賑やかだった。生活区は街並みだけ見ているとイーストフィールズのようだったよ」
「そうなんですね」
セレダは微笑みながら、お茶の準備をし始めた。
「生活区以外もご覧になられたんですか」
「ああ、施設は一通り見せて貰ったよ」
「そうですか……」
少し考えるように視線を落としたセレダは、慣れた手つきで紅茶を入れた。
「どうぞ」
差し出されたカップから立ち上る香りを楽しむと、僕はゆっくりと口に含む。
「美味しい」
「ありがとうございます」
自分の分の紅茶を入れると、セレダは向かい合う形でゆっくりとソファへ座った。
「何か気になる事でもあるの?」
「ええ……実は出生率の違いついて自身で試してみようかと思っていまして……」
「試す……?」
首を傾げた僕に、彼は説明を始める。
「はい。定期的に保護地区に通っている人と、教会に通っている人の子を宿す確率はかなり違いますよね?それだけではなくてアデルの出生率も大きく異なるんです」
「ああ、見学に行った時に教わったよ」
「ええ、それについての研究は行われているんですが、正直……魔力の側面からの研究は手が足りていない状況です」
「……そうか」
セレダは元々は研究者として、中央医院に従事していた。彼が抜けた事でさらに術師の研究に遅れが出ているかもしれない。
「なので、何が違うのか自分の身体で試してみようと思うんです。僕は魔力の流れを見るのが得意なので、実際に試してみれば何か分かるんじゃないかと思って」
「それはまた、随分思い切った事だね……」
彼の言葉に驚くと、彼は困ったように笑う。
「昔の僕であればそんな事思いもしませんでしたよ。試すといっても子を授かる事ですから」
「何か……思い至った理由があるの」
セレダは万華鏡の様な美しい瞳をゆっくりと細めた。
「昔は……自分と同じような魔力を持った子が生まれるかもしれないと思うと怖くて、子供を授かるなんて考えられませんでした。でも……今ならちゃんとどう言う事なのか教えていけるんじゃないかと思えるようになってきたんです」
「……心境に変化があったんだね」
「ええ、ティト様のおかげですよ」
「……僕?」
僕のおかげと言う意味がわからなくて首を傾げると、彼は穏やかな笑みを浮かべた。
「術師の仕事をちゃんと受け入れられるようになったのはティト様のおかげです」
「それは……いい事なのかな」
「少なくとも僕にとっては前進だと思っていますよ」
「そう……」
彼に良かったと言ってもらえる程、何かできた覚えは無い。けれど彼が良い変化だと受け止めているなら、それでいい様な気がした。
「なので、保護地区に協力を依頼しようと思うんです」
「……え?」
セレダの言葉に思わず聞き返す。
「協力を依頼して、保護地区に通ってみようと……」
「どうして?」
「はい?」
「僕じゃだめなの?」
自分でもびっくりするくらい食い気味に聞いてしまった事に気付く。
「あ、いや……ティト様にご迷惑をおかけする訳には――」
セレダが戸惑っているのを見て、慌てて取り繕う様に言葉を紡ぐ。
「迷惑じゃないよ!僕だってもう成人したアデルだ!それに……!」
「……」
「……」
「……それに、セレダが他の人と……過ごすのは嫌だ」
言ってしまってから顔が熱くなるのを感じる。勢いに任せて出た言葉に、自分でも驚く。でもそれ以上にセレダの方が驚いているみたいだった。
「……ふっ」
少ししてセレダが小さく吹き出した。
「何で笑うの……」
「……すみません、まさかそんな事を言われるとは思わなくて……っ」
そう言って笑うセレダに僕は拗ねたように口を引き結んだ。すると彼は僕の手を取り、両手で包み込む。火照る顔を上げると、美しい瞳がまっすぐに僕を見ていた。
「……いいんですか?」
「セレダが、嫌じゃなければ」
そう言うと彼は微笑んだ。それはとても綺麗な笑顔だった。
「僕も、貴方と過ごしたいです」
その答えを聞いて、僕は彼の手を握り返した――。
寄付を終えると、セレダは魔鉱石の瓶を丁寧に木箱に収納した。その指には彼の母が彫った指輪が嵌められている。最近は時々母の元へ訪れることもあるらしい。
「先日、初めて保護地区を見てきたよ」
「いかがでしたか?」
「思ったよりも賑やかだった。生活区は街並みだけ見ているとイーストフィールズのようだったよ」
「そうなんですね」
セレダは微笑みながら、お茶の準備をし始めた。
「生活区以外もご覧になられたんですか」
「ああ、施設は一通り見せて貰ったよ」
「そうですか……」
少し考えるように視線を落としたセレダは、慣れた手つきで紅茶を入れた。
「どうぞ」
差し出されたカップから立ち上る香りを楽しむと、僕はゆっくりと口に含む。
「美味しい」
「ありがとうございます」
自分の分の紅茶を入れると、セレダは向かい合う形でゆっくりとソファへ座った。
「何か気になる事でもあるの?」
「ええ……実は出生率の違いついて自身で試してみようかと思っていまして……」
「試す……?」
首を傾げた僕に、彼は説明を始める。
「はい。定期的に保護地区に通っている人と、教会に通っている人の子を宿す確率はかなり違いますよね?それだけではなくてアデルの出生率も大きく異なるんです」
「ああ、見学に行った時に教わったよ」
「ええ、それについての研究は行われているんですが、正直……魔力の側面からの研究は手が足りていない状況です」
「……そうか」
セレダは元々は研究者として、中央医院に従事していた。彼が抜けた事でさらに術師の研究に遅れが出ているかもしれない。
「なので、何が違うのか自分の身体で試してみようと思うんです。僕は魔力の流れを見るのが得意なので、実際に試してみれば何か分かるんじゃないかと思って」
「それはまた、随分思い切った事だね……」
彼の言葉に驚くと、彼は困ったように笑う。
「昔の僕であればそんな事思いもしませんでしたよ。試すといっても子を授かる事ですから」
「何か……思い至った理由があるの」
セレダは万華鏡の様な美しい瞳をゆっくりと細めた。
「昔は……自分と同じような魔力を持った子が生まれるかもしれないと思うと怖くて、子供を授かるなんて考えられませんでした。でも……今ならちゃんとどう言う事なのか教えていけるんじゃないかと思えるようになってきたんです」
「……心境に変化があったんだね」
「ええ、ティト様のおかげですよ」
「……僕?」
僕のおかげと言う意味がわからなくて首を傾げると、彼は穏やかな笑みを浮かべた。
「術師の仕事をちゃんと受け入れられるようになったのはティト様のおかげです」
「それは……いい事なのかな」
「少なくとも僕にとっては前進だと思っていますよ」
「そう……」
彼に良かったと言ってもらえる程、何かできた覚えは無い。けれど彼が良い変化だと受け止めているなら、それでいい様な気がした。
「なので、保護地区に協力を依頼しようと思うんです」
「……え?」
セレダの言葉に思わず聞き返す。
「協力を依頼して、保護地区に通ってみようと……」
「どうして?」
「はい?」
「僕じゃだめなの?」
自分でもびっくりするくらい食い気味に聞いてしまった事に気付く。
「あ、いや……ティト様にご迷惑をおかけする訳には――」
セレダが戸惑っているのを見て、慌てて取り繕う様に言葉を紡ぐ。
「迷惑じゃないよ!僕だってもう成人したアデルだ!それに……!」
「……」
「……」
「……それに、セレダが他の人と……過ごすのは嫌だ」
言ってしまってから顔が熱くなるのを感じる。勢いに任せて出た言葉に、自分でも驚く。でもそれ以上にセレダの方が驚いているみたいだった。
「……ふっ」
少ししてセレダが小さく吹き出した。
「何で笑うの……」
「……すみません、まさかそんな事を言われるとは思わなくて……っ」
そう言って笑うセレダに僕は拗ねたように口を引き結んだ。すると彼は僕の手を取り、両手で包み込む。火照る顔を上げると、美しい瞳がまっすぐに僕を見ていた。
「……いいんですか?」
「セレダが、嫌じゃなければ」
そう言うと彼は微笑んだ。それはとても綺麗な笑顔だった。
「僕も、貴方と過ごしたいです」
その答えを聞いて、僕は彼の手を握り返した――。
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