アデルの子

新子珠子

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第二章 深窓の君

70. 初恋**

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 ワルツの優雅な旋律が終わり、周りから拍手が起こる。僕を含めた新成人たちは拍手に応える様に礼をする。エスコート役とのダンスはこれで終わりだ。

 ダンスを眺めていた男性たちが何人か中央に進み、新成人にダンスを申し込み始めた。きっと彼らは招待されたアデルだろう。和やかだった会場がざわざわと色めき立つ。
 僕とリノは腕を組み、ホール内をゆっくりと移動しハリスを探した。

「ティト様」

 声の方を見るとハリスとカイザーリング伯が歩み寄って来ていた。ハリスはどこか緊張していて落ち着かない様子だ。僕とリノは彼らにゆっくりと礼をする。ハリスは笑顔で応えてくれたものの、やはり少し固い表情だった。
 僕は彼の緊張を和らげるように少しリラックスして微笑み、手を差し出した。彼が僕を見上げる。彼は昼間見た時と同じように白の装いが映えて、まるで月の光に照らされている様に美しかった。

「僕と踊っていただけますか」
「――はい」

 ハリスはそんな清廉な雰囲気を少しだけ崩し、恥ずかしそうにはにかんで、僕の手を取った。
 リノとカイザーリング伯が一歩下がり、僕たちを見送る。2人が見守る中、僕はハリスと共にゆっくりとボールルームの中央へ進んだ。







 ハリスとワルツを踊った後、僕はハリス以外の何人かとも何曲か踊った。
 何曲目かを境に段々とホール内の人は減り始めている。エスコート役の保護者が帰宅をし始めているのと、もしかするともう別室に向かい始めている人も居るのかもしれない。
 僕とリノは別れる際にホールでは彼の姿は探さない、という約束をしていた。ダンスの相手がいるのにリノばかりに注意を払って相手に集中が出来ないのは申し訳ないからだ。だから、あたりを見回す事はしないが、おそらく彼はまだ何処かで見守ってくれているのだろう。1人で行動していても、何だかそれだけで心強かった。

 僕は次の曲が始まる前にハリスを探す。
 彼も僕を探していたのか目が合うとパッと顔を明るくさせた。僕が彼にダンスを申し込んだタイミングでちょうど音楽が鳴り始める。僕たちはくすりと笑って、ゆっくりとホールドを組み、ステップを踏み始めた。

 ハリスはダンスもとても上手だ。ゆったりと踊る彼の姿はとても美しい。けれど今はどこか落ち着かない雰囲気に見えていた。もしかすると、この先の事を不安に感じているのかもしれない。

「……ハリス」
「はい」
「この曲が終わったら……部屋に行きたいんだけど、いいかな?」

 僕は覚悟を決めて、そう切り出した。
 彼は潤んだ瞳で僕を見ると、恥ずかしそうにこくりと頷いた。





――――――――――――――――――

 舞踏会の会場である離宮は王室の持ち物だけあって、途方もないほどたくさんのゲストルームがある。僕たちが通されたのもその中の1つだった。ゲストルームにはちょっとしたリビングスペースとバスルーム、そして天蓋付きのベッドが置かれた寝室があった。
 僕たちはそれぞれの従者にジャケットを預け、寝室へと進む。ハリスは緊張しているのか俯き気味だ。

「怖い?」
「……ちょっと、だけ」
「うん……実は僕も少しだけ」

 僕が情けない調子でそう言うと、ハリスは僕を見上げて少しだけ笑った。そっと彼の髪をかき上げ、瞼にキスをする。

「……怖くなったら教えてね」
「うん……」

 僕たちは少しだけ笑い合って、ゆっくりと唇を合わせ、ベッドに沈み込んだ。




「……んぅっ……ぁ……」

 指を動かす度に微かにハリスから声が漏れる。彼のほっそりとした身体は声を漏らすたびに微かに揺れた。
 初めての経験であろう彼が少しでも安心できるように、僕は出来るだけ丁寧に彼を抱きしめていた。服を脱がせながら、ゆったりと肌を撫でて、優しく愛撫を重ねる。その甲斐もあってか、最初は緊張していたものの、次第に僕に身を委ねてくれていた。

 準備をするために自身のものにも触れて、はたと手を止める。僕のものはそれなりに反応しているが、そこまで硬くはなっていない。思えば前戯の間、フェロモンの匂いは強くならず、鼻をくすぐる程度だった。以前に嗅いだハリスの香りよりも遥かに薄い。ここまで何とか冷静にする事が出来たのはフェロモンが少なかったからだと思い至る。

「…………ハリス……もしかしてフェロモン我慢してる?」

 彼は不安そうに僕を見上げるともう一度こくんと頷いた。僕は困った様に笑い彼の髪をそっと撫でる。

「フェロモン出していいんだよ」
「大……丈夫?」
「うん、気を遣わせちゃったね。気付かなくてごめん」

 ハリスと初めてキスをした時、僕にはまだトラウマが強く残っていて、彼のフェロモンを嗅いで体調を崩してしまった。思えばあの出来事以来、彼は一生懸命練習をして、僕にあまりフェロモンを嗅がせない様にしてくれていた。きっとずっと気にしてくれていたのだ。

「ハリスの香り、すごくいい匂いだと思う。もっと嗅がせて欲しいな」

 僕がそう言うと、ハリスの瞳はみるみるうちに潤んでいく。

「っ……ティト、さま」
「……うん」
「ティト様……好きっ……大好きっ」
「うん……うん、ありがとう、ハリス」

 彼はぽろりと1粒の透明な波を零す。僕は彼の涙をそっと拭い、その額にキスを落とした。



 ふわ、ふわ、とライラックの優しくて甘い香りが香る。彼は快感にとても素直で、ゆっくりと時間を掛けて僕の指を受け入れた。充分に濡れてきたそこからそっと指を引き抜くと、彼の表情を伺う。

「……入れてもいいかな?」

 ハリスは僕と目が合うと頬を紅潮させ、瞳を潤ませながらこくんと頷いた。初めてで大丈夫かどうかも分からないだろうに、ほとんど思考時間もなく頷かれてしまい、全幅の信頼を寄せてくれているのだと感じる。
 僕は何度か自分のものを扱き、彼の後孔にそっと自身を押し当てた。

「力抜いてね」
「……あっ…………っ……」

 ゆっくりと押し進むと、ハリスのシーツを掴む手に力が入り、はく、と音にならない声が漏れる。それでも僕を信頼してくれているのか、彼は潤んだ瞳のまま僕を見上げていた。

「先端が入ったの、分かる?」
「うんっ……」
「苦しい?」
「……っ大丈、夫」
「そっか……息吐いてね」

 きっと本当は苦しいのだろう。彼は眉を寄せ、汗ばんだ顔で頷いた。僕が大袈裟に呼吸をするのに合わせてゆっくりと息を吸い、喉を震わせながら息を吐く。僕はなるべく負担にならない様に彼の呼吸に合わせて、力が抜けたタイミングでぬく、と腰を進めた。

「ん…あっ…ああっ♡」

 数度、それを繰り返すとおそらく良い所に当たったのだろう。途端に彼が喘いだ。

「……ここ、気持ちいい?」
「ひあ…………あ、あ、ん……っ、分かんない、あ、あっ♡」

 僕は彼の反応を確かめる様に少しだけ引いて、もう一度そこを擦る。すると格段に良い反応が返ってきた。僕は何度か腰を引き、彼の呼吸に合わせて浅く抽送を繰り返した。

「やっ、……あ、あ、……ッ♡~ッ♡」
「良さそうだね……」
「ぁ、あ……ティトさ、まっ……」
「うん……気持ちいい?」
「んっ……きもちいっ♡」
「良かった、僕もだよ……もうちょっと、っ奥まで入ってもいい、かな」

 ハリスはこくこくと頷く。快感に応えようと一所懸命な彼が可愛くて、僕の中では大切にしてあげたいという思いと、思う様突き上げて泣かしてしまいたいという獰猛な欲求が綯い交ぜになっていた。
 僕は彼から許可を得た事をいい事に、細い腰を引き寄せ、覆い被さる様に彼の奥を穿つ。

「ッ――――~~……♡」

 彼は声にならない声を上げる。
 流石にこれ以上、乱暴に押し入る気にはなれなくてきゅうきゅうと締め付ける彼の奥でぐっと押し留まった。

「辛い……かな」
「ぁ……、へい、き……全部、入った?」
「っうん」

 僕が頷くと、ハリス蕩ける様に笑う。

「すごい、ね……、キス……したい」
「っ……うん」

 僕は噛み付く様に彼の唇を塞ぐ。僕の我慢の限界はそこまでだった。彼と舌を絡ませながら、腰を引き彼を突き上げる。

「……んんっ!~~ッ……っ♡」

 彼からくぐもった声が上がる。僕はしなやかな腰を掴み、ゆっくりと揺さぶった。

「っあ、ぁん、……あ、あ、……ん、んぅ♡」
「痛く、ない?」
「うう、ん……気持ちいいっ……あ、ぁっ」

 彼は素直に快感を拾っている様だった。ずる、と抜けてしまいそうなくらい引き抜くと、行かないでと言われるかの様にハリスの脚が僕に絡む。僕は少しだけ笑って、彼の奥を何度も揺さぶった。

「ぁあ……ん、……は、あぅ……っ、ティトさ、ま」
「っうん」
「好きっ……すきっ……あっ、ぁ♡」
「うん、っありがとう……ハリス」

 ハリスは頬を紅潮させ、熱っぽい表情で僕に微笑んだ。彼に抱きつかれ、何度も好きだと言われながら身体を繋げる。
 彼にこんなにも好意を示してもらっているのに、僕は一度も彼に好きだとか、そう言った言葉を掛けてあげれていない。それを分かっているのに、それでもそういう言葉を紡ぐ事が出来ないのが申し訳なかった。

「っん……んん……ティト様、ぼくっ……ぁっ」
「ん?」

 ハリスは何かを言いたい様だった。揺さぶりを和らげると、彼は汗ばんだ顔をくしゃりと歪めて笑う。

「僕……今すごく、っ幸せだよ……っ」
「…………っ」

 まるで僕の思考を悟ったかの様な言葉に、僕は言葉を詰まらせる。

「……っあり、がとう」
「うんっ、僕もありがとう……っ、ティトさま」

 彼は笑って僕を抱きしめた。それはとても優しくて、僕は思わず泣かない様に彼の首筋に顔を埋める。

「っこのまま……いきたい、な」
「……うん、……っ分かった」

 僕は少しだけ頷いて、ハリスを抱きしめ返した。密着したままだと少し動き辛いが、それでもハリスの体温や汗、吐息を感じられる事にどこか安心感を覚える。

「……ぁ、っ……あぁ……ん」

 僕は彼が少しでも気持ちよくなって欲しくて、彼の反応を確かめながら律動する。

「んん……はぁ……あ、あっ♡」

 彼の中がきゅうきゅうと吸い付き、脳が甘く痺れる様な感覚を覚える。僕たちは身体ごと一体になったかの様に密着して、ぱちゅ、ぱちゅ、と激しく混ざり合った。

「ぁっ……も、いく、っ……いっちゃう……あぁっ」
「っうん、僕も……っいきそう、だ」
「ん……ふぁっ、ティトさまっ……あ、んん――ッ♡」
「…………ッ!!……~~っ!」

 僕たちは強く抱きしめ合い、ほとんど同時に絶頂をした。



 ああ、せめて、ハリスにこの先……沢山の幸せが訪れます様に――――

 快感が走る意識の中で、僕は強く、強く、そう祈った。その時、僕は少しだけ国王の言葉が分かった気がした。
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