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第二章 深窓の君
57. 寄付*
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リノがレヴィルの代わりに僕の関係の社交の窓口を担ってくれる様になり、リノとレヴィルは一緒に夜会に出る事になった。ある程度引継ぎのようなものが終われば、僕に関係する誘いはリノが全て引き受けてくれるようになるらしい。レヴィルはこの役目を譲る事を殊の外嫌がったが、リノと僕が何度も説得をし、最終判断だけはレヴィルも関わる事を条件に何とか納得をしてくれた。
おかげで段々とレヴィルの夜会の頻度が減ってきていて、最近では時々一緒にディナーを摂る時間もできてきている。
「……眠そうだね」
結婚式の招待者のリストを見ながら欠伸を噛み殺していると、リノが笑ってそう言った。僕はごめんと謝り、居住まいを正す。彼はとん、と僕の背中に手をやり、優しく微笑んだ。
「リストは今すぐ見なきゃいけないわけじゃないし、中央医院に行く前に少し仮眠をとったらどう?今日は初めてセレダに手伝って貰うんでしょう?寝不足のままだと体調にも響くかもしれないし」
「うーん……でも……」
僕が迷っていると、彼が僕からそっとリストを取り上げる。
「一緒にお昼寝しよう」
「え?」
「僕もティトと過ごしたいから」
ね?と彼は柔らかく微笑んで、僕の手を引いた。
僕はリノに導かれ、私室から寝室へと移動をする。僕をベッドに腰を掛けさせると、リノはジャケットを脱ぐように促した。リノもジャケットを脱ぎ、両方とも丁寧に衣裳部屋に片づけてしまう。
諦めて横になると、リノもベッドに腰を掛け、僕の頬にそっとキスを落とした。
「……リノも忙しいのに……ごめんね」
「ふふ、謝らないで、ティトはよくやってるよ。それよりも毎日寝不足の状態だと心配だから、ゆっくり休もう。時間になったら起こすから」
「……うん……」
「おやすみ」
リノに優しく髪を撫でられ、とろりと眠気が襲ってくる。実際最近は睡眠時間がずっと短かったため、僕はすぐに眠りに落ちた。
――――――――――――――――――
リノが窓口を引き受けてから、レヴィルは僕と二人きりになると不安そうな態度をとる事が多くなっていた。最近では毎晩の様に僕の寝室に来て、僕が寝ていてもいつの間にかフェラをしていたり、セックスを強請ったりといった状態が続いている。
昨夜も僕が本格的にセレダに寄付の手伝いをして貰う練習を始める事を話すと、不安なのか、嫉妬なのかは分からないが、何度も強請られてしまい。流される形で夜更けまで身体を重ねてしまった。
レヴィルは僕に関係する事を自分の管理から手放す事にかなりストレスに感じているようだった。もう少し時間が経てば落ち着いてくるのかも知れないが、僕は彼と身体を重ねる事は出来ても、彼の不安な気持ちを拭って上げられていない。
「……ああ、じゃあ、最近はほとんど毎日してるんですか」
僕の話を聞いていたセレダが静かな口調でそう言った。僕は明け透けに答える事は難しくて、油の切れた歯車の様に、ぎこちなく頷く。
セレダは真剣な顔で頷き、手元のカルテの様な紙にさらさらとなにかを書きこんだ。
僕は中央医院でセレダからカウンセリングを受けていた。今も自慰で寄付をする練習は続けているが、僕は未だにこの環境で達する事はできていない。春までには寄付をできる様にはならなくてはいけないため、流石にそろそろ猶予も少なくなってきている。
春から発生する寄付の義務に間に合わせるために、今日から本格的にセレダが手伝ってくれる練習を始めることになっていた。
セレダはいくつか質問をした後、ううんと唸る。
「挿入以外でイけたことはありますか?例えば手淫とか口淫とか……」
「……いや…………ない、かな。その、精通する前はあるんだけど……」
「あぁ、そうですか」
セレダは頷いて、また何かを資料に書き込んだ。仕事だと割り切っているのだろう、こんな話をしていても全く顔色を変えないし、いつも通りの態度だ。
「ティト様が受けてる印象を教えて欲しいんですが、口淫をされるのはあんまり得意じゃないですか?」
「うーん……どう、だろう」
僕が悩む間、虹色の不思議な瞳がまっすぐ僕を見ていた。僕はどこか居心地の悪さを覚えながら、そわそわと返事をする。
「今は怖いとか……そう言う気持ちはないんだけど、誰にでもそうかは……分からないかも」
「んーなるほど……」
彼は頷いてペンを机に置いた。
「今日はちょっとそれを試してみましょうか」
「………………うん」
「……やっぱり怖いですかね?」
「いや……申し訳なくて……」
僕は首に手を掛け、俯き気味でそう答えた。
本来、僕が自慰でイく事が出来ていればセレダに手伝ってもらう必要もない。彼は寄付に携わる事を避けるために研究職に就いたと言うくらいだから、本当は寄付の手伝いなどしたくないだろう。申し訳ないし、情けない気持ちだった。
僕が俯いていると、セレダがゆっくりと立ち上がる。そして、ベッドに座る僕の足元に跪き、僕の手を取って見上げた。
「……ティト様、僕も10年以上術師をしていますから、慣れてますし、これが僕の仕事です。申し訳なく思う必要は全くありませんよ。」
「…………うん……ごめん……分かってる、んだけど……」
「僕が変な話をしてしまったから気を遣ってくださっているんですよね、すみません」
「……違う……それに変な話なんかじゃない」
「……はい、ありがとうございます」
セレダは柔らかく目を細めた。僕はそっと彼の手を引いて、隣に座ってもらう。手を繋いだまま、セレダは優しい声色で囁いた。
「今日すぐにできるようになる必要はないんですから、気楽に挑戦してみましょう。あまり気負わないでください。罪悪感も持たなくていいんですよ」
「うん……」
セレダは優しく微笑むと、慣れた様子で僕の靴を脱がせ、ベッドの上に上がらせた。ベッドに敷かれたリネンは柔らかく清潔で、ほのかに良い香りがしている。
僕はセレダが準備をしている間、緊張する心を落ち着かせるために、ほう、と息を吐いて周りを見渡した。
中央医院の奥に位置するこの部屋は、僕の寄付のために設けられた専用の部屋だ。この部屋は僕が中央医院を訪問をする際にしか使われないらしい。部屋はゆったりとした私室のような間取りになっていてバスルームや応接セット、そして大きなベッドが置かれている。南面には広い中庭を見下ろす事ができる大きな窓が設けられているが、冬の節の常である曇天した空はレースカーテン越しにわずかな光を落としているだけだった。
きっとこの部屋は僕のために特別に用意してくれた部屋のはずだ。とてもありがたい事なのだが、僕は寄付の練習の度にどうしても緊張をしてしまい、すでにこの部屋に苦手意識を持っていた。
セレダを目で追うと、窓辺に飾られた花が目に入る。チェストの上には瑞々しい白い花々とグリーンリーフがさりげなく飾られていた。
「……今日も花が素敵だね、ヘレボルスと……ラナンキュラスかな」
「ええ、そうです。今日は良い花が売っていました」
「うん、とても綺麗だ。いつもありがとう」
「いいえ、良かったです」
セレダは優しく微笑むと上着を脱ぎ、魔鉱石の瓶をサイドボードに置いた。
彼はこの部屋に来るたびに緊張をしてしまう僕のために最近はずっとこの部屋の手入れをしてくれている。心地の良いリネンや花などは、全て僕の好みを聞いて彼が用意してくれたものだし、フットバスや仮眠をする時間を設けてくれたりと、僕がこの空間自体に慣れるために骨を折ってくれていた。
きっと僕が寄付がしっかりと出来る様になるかどうかはこの医院にとっても死活問題で、彼にも相当なプレッシャーがかかっているはずだ。けれど、セレダは相変わらず飄々としていて、今までと全く態度に変わりがなかった。自慰が上手くできていない僕にとっては、彼の態度が変わらない事にどこか救われていた。
セレダが靴を脱ぎ、ベッドに上がると、僕の方をじっと見た。
「ティト様」
「ん?」
「顔が強張っていますよ」
僕が顔を上げるとセレダは少し困った様に微笑んでいた。
「大丈夫です、まだ春まで時間はあります。焦らずに」
「……うん」
硬い表情で頷くと、セレダは苦笑いをして僕を覗き込む。
「……自分で言うのも何ですが……僕、術師の中でもフェラが上手くて指名が多かったんですよね」
「えっ」
僕がびっくりして声を上擦らせると、セレダはおかしそうに笑った。
「研究職に入る前はそれなりに人気の術師だったんです、久しぶりですけど多分やり方は忘れてないと思います。」
「……そう、なんだ……」
「恐怖心がなくなる様に、ゆっくりチャレンジしてみましょう」
どんな反応をしていいか分からず、こく、と頷くと、彼は微笑み、そっと僕のベルトに手を掛けた。
――――――――――――――――――
ちゅく、と音が響く。セレダは僕のものを優しく扱きながら、緩急をつけてじっとりと舐め上げていく。彼の舌が触れる度にぞわ、と快感が走っていた。
「…………っ……」
「……大丈夫ですか」
「うん……っ……」
僕が息を吐いて答えるとセレダは頷き、優しく舌を這わせた。
僕はヘッドボードに寄りかかり、彼は僕の腰元に顔を寄せていた。彼はシャツを腕まくりし、ラフな格好だ。上目遣いで僕の様子を確かめながら、ゆっくりと先端を咥える。僕はなんだか居た堪れなくて、視線を外し、額に手を当てて顔を隠した。
彼の舌遣いは本当に巧みで僕のものはすっかり勃ち上がり始めているが、それと同時に自分の心臓がバクバクとうるさく音を立てているのも感じていた。じゅぶ、じゅぶ、と卑しい音が響くたびに自身の呼吸が浅くなっていく。
意識を向けてはいけないと分かっているのに、どうしても意識してしまう。心臓はどんどん大きく音を立てていた。
セレダはしばらく僕のものを刺激していたが、呼吸が浅くなっている僕の様子を察してか、動きが止まる。
「……っ大丈夫、……だからっ、続けて」
僕は慌ててそう答えたが、セレダはそれには従わなかった。彼は僕の肩にそっと手を置き、優しく声を掛ける。
「ティト様、息を吐けますか」
「……っ……うん、……ごめんっ」
僕は何とか息を整えようとするが、中々上手く呼吸ができない。申し訳なくて、焦る気持ちが募る。
「……ティト様」
セレダは僕を呼ぶと、そっと優しく抱きしめた。
「大丈夫ですよ、ゆっくり息を吐きましょう」
「……っ…………っ」
「僕の呼吸に合わせて」
彼の肩口に顔を寄せ、息を吐いた。セレダは僕を優しく抱きしめ、何度も背を撫でる。始めてしっかりと感じた彼の体温は温かかくて、僕はその温度に酷く安心感を覚える。ああ、この人にも体温がある、と思うと僕の呼吸は次第に治っていった。
顔を上げるとセレダの虹色の瞳と目が合う。その瞳は心配そうに僕を見ていた。
至近距離で見つめ合ったまま、僕の呼吸音だけが響く。僕は彼の温度を確かめる様にさらに顔を近づけた。触れるか触れないかの近さで吐息が混ざり合う。
セレダは僕がなにをしたいのか分かったのだろう。虹色の瞳が伏せられ、僕はそっと静かに彼の唇に自身の唇を重ねた。
彼の温度を探る様に、何度か角度を変えて唇を合わせる。それは次第に激しくなり、僕たちは抱き合いながら、何度も舌を絡ませ合った。ふわり、とお互いのフェロモンが濃くなるのが分かる。
「ん……っ……」
「……ごめんっ、このまま、続けて欲しい」
「っ……はい」
セレダが頷くと、僕はすぐに彼の唇を塞いだ。僕たちは舌を絡ませ合いながら、ごそごそと体勢を変える。セレダは僕のペニスを優しく握り、扱き始めた。
ちゅ、ちゅ、と音を立てキスをしながら、彼は巧みに僕のものを刺激する。僕のものはすぐに先走りを零し始めた。先ほどより明らかに高揚が強く、僕はほう、と熱っぽく息を吐く。
「っこれなら……イけそうな、気がする」
「ん…っ、はい……」
僕たちは何度も唇を重ね、べろべろになりながらもさらにキスを続けた。お互いのフェロモンが濃厚に漂う。唇を離す度、彼から艶のある吐息が漏れ、ぞくぞくと背筋に快感が走った。
僕たちはしばらく夢中になって、そのまま絡み合い、キスと愛撫を重ねた。
僕のものはすっかりガチガチになっていて、セレダもスラックスを履いたままだったが、すっかり勃ち上がっているのが分かる。快感に溶けた僕の脳は触れたい、と思ったが、僕がベルトに手を伸ばそうとすると彼がやんわりと左手で僕の手を握った。
「……ティト様、今日はこっちに集中してください」
セレダは艶っぽく微笑むと、薄く口を開き、舌を見せた。僕は吸い寄せられる様に彼に唇を重ねる。
彼はそのまま扱く手を早める。しばらくすると段々と身体の熱が込み上げ始めるのが分かった。
「も……っイきそう…かも…」
「っはい、大丈夫ですよ、イってください」
彼は微笑み、優しく囁いた。
「……っ……っ、…」
「……んっ……」
僕は堪らずに弄る様に彼の首筋に顔を埋めた。その拍子に彼から薄く吐息が漏れる。
僕はローズマリーの香りに酔いしれながら、彼の手に精を吐き出していた。
おかげで段々とレヴィルの夜会の頻度が減ってきていて、最近では時々一緒にディナーを摂る時間もできてきている。
「……眠そうだね」
結婚式の招待者のリストを見ながら欠伸を噛み殺していると、リノが笑ってそう言った。僕はごめんと謝り、居住まいを正す。彼はとん、と僕の背中に手をやり、優しく微笑んだ。
「リストは今すぐ見なきゃいけないわけじゃないし、中央医院に行く前に少し仮眠をとったらどう?今日は初めてセレダに手伝って貰うんでしょう?寝不足のままだと体調にも響くかもしれないし」
「うーん……でも……」
僕が迷っていると、彼が僕からそっとリストを取り上げる。
「一緒にお昼寝しよう」
「え?」
「僕もティトと過ごしたいから」
ね?と彼は柔らかく微笑んで、僕の手を引いた。
僕はリノに導かれ、私室から寝室へと移動をする。僕をベッドに腰を掛けさせると、リノはジャケットを脱ぐように促した。リノもジャケットを脱ぎ、両方とも丁寧に衣裳部屋に片づけてしまう。
諦めて横になると、リノもベッドに腰を掛け、僕の頬にそっとキスを落とした。
「……リノも忙しいのに……ごめんね」
「ふふ、謝らないで、ティトはよくやってるよ。それよりも毎日寝不足の状態だと心配だから、ゆっくり休もう。時間になったら起こすから」
「……うん……」
「おやすみ」
リノに優しく髪を撫でられ、とろりと眠気が襲ってくる。実際最近は睡眠時間がずっと短かったため、僕はすぐに眠りに落ちた。
――――――――――――――――――
リノが窓口を引き受けてから、レヴィルは僕と二人きりになると不安そうな態度をとる事が多くなっていた。最近では毎晩の様に僕の寝室に来て、僕が寝ていてもいつの間にかフェラをしていたり、セックスを強請ったりといった状態が続いている。
昨夜も僕が本格的にセレダに寄付の手伝いをして貰う練習を始める事を話すと、不安なのか、嫉妬なのかは分からないが、何度も強請られてしまい。流される形で夜更けまで身体を重ねてしまった。
レヴィルは僕に関係する事を自分の管理から手放す事にかなりストレスに感じているようだった。もう少し時間が経てば落ち着いてくるのかも知れないが、僕は彼と身体を重ねる事は出来ても、彼の不安な気持ちを拭って上げられていない。
「……ああ、じゃあ、最近はほとんど毎日してるんですか」
僕の話を聞いていたセレダが静かな口調でそう言った。僕は明け透けに答える事は難しくて、油の切れた歯車の様に、ぎこちなく頷く。
セレダは真剣な顔で頷き、手元のカルテの様な紙にさらさらとなにかを書きこんだ。
僕は中央医院でセレダからカウンセリングを受けていた。今も自慰で寄付をする練習は続けているが、僕は未だにこの環境で達する事はできていない。春までには寄付をできる様にはならなくてはいけないため、流石にそろそろ猶予も少なくなってきている。
春から発生する寄付の義務に間に合わせるために、今日から本格的にセレダが手伝ってくれる練習を始めることになっていた。
セレダはいくつか質問をした後、ううんと唸る。
「挿入以外でイけたことはありますか?例えば手淫とか口淫とか……」
「……いや…………ない、かな。その、精通する前はあるんだけど……」
「あぁ、そうですか」
セレダは頷いて、また何かを資料に書き込んだ。仕事だと割り切っているのだろう、こんな話をしていても全く顔色を変えないし、いつも通りの態度だ。
「ティト様が受けてる印象を教えて欲しいんですが、口淫をされるのはあんまり得意じゃないですか?」
「うーん……どう、だろう」
僕が悩む間、虹色の不思議な瞳がまっすぐ僕を見ていた。僕はどこか居心地の悪さを覚えながら、そわそわと返事をする。
「今は怖いとか……そう言う気持ちはないんだけど、誰にでもそうかは……分からないかも」
「んーなるほど……」
彼は頷いてペンを机に置いた。
「今日はちょっとそれを試してみましょうか」
「………………うん」
「……やっぱり怖いですかね?」
「いや……申し訳なくて……」
僕は首に手を掛け、俯き気味でそう答えた。
本来、僕が自慰でイく事が出来ていればセレダに手伝ってもらう必要もない。彼は寄付に携わる事を避けるために研究職に就いたと言うくらいだから、本当は寄付の手伝いなどしたくないだろう。申し訳ないし、情けない気持ちだった。
僕が俯いていると、セレダがゆっくりと立ち上がる。そして、ベッドに座る僕の足元に跪き、僕の手を取って見上げた。
「……ティト様、僕も10年以上術師をしていますから、慣れてますし、これが僕の仕事です。申し訳なく思う必要は全くありませんよ。」
「…………うん……ごめん……分かってる、んだけど……」
「僕が変な話をしてしまったから気を遣ってくださっているんですよね、すみません」
「……違う……それに変な話なんかじゃない」
「……はい、ありがとうございます」
セレダは柔らかく目を細めた。僕はそっと彼の手を引いて、隣に座ってもらう。手を繋いだまま、セレダは優しい声色で囁いた。
「今日すぐにできるようになる必要はないんですから、気楽に挑戦してみましょう。あまり気負わないでください。罪悪感も持たなくていいんですよ」
「うん……」
セレダは優しく微笑むと、慣れた様子で僕の靴を脱がせ、ベッドの上に上がらせた。ベッドに敷かれたリネンは柔らかく清潔で、ほのかに良い香りがしている。
僕はセレダが準備をしている間、緊張する心を落ち着かせるために、ほう、と息を吐いて周りを見渡した。
中央医院の奥に位置するこの部屋は、僕の寄付のために設けられた専用の部屋だ。この部屋は僕が中央医院を訪問をする際にしか使われないらしい。部屋はゆったりとした私室のような間取りになっていてバスルームや応接セット、そして大きなベッドが置かれている。南面には広い中庭を見下ろす事ができる大きな窓が設けられているが、冬の節の常である曇天した空はレースカーテン越しにわずかな光を落としているだけだった。
きっとこの部屋は僕のために特別に用意してくれた部屋のはずだ。とてもありがたい事なのだが、僕は寄付の練習の度にどうしても緊張をしてしまい、すでにこの部屋に苦手意識を持っていた。
セレダを目で追うと、窓辺に飾られた花が目に入る。チェストの上には瑞々しい白い花々とグリーンリーフがさりげなく飾られていた。
「……今日も花が素敵だね、ヘレボルスと……ラナンキュラスかな」
「ええ、そうです。今日は良い花が売っていました」
「うん、とても綺麗だ。いつもありがとう」
「いいえ、良かったです」
セレダは優しく微笑むと上着を脱ぎ、魔鉱石の瓶をサイドボードに置いた。
彼はこの部屋に来るたびに緊張をしてしまう僕のために最近はずっとこの部屋の手入れをしてくれている。心地の良いリネンや花などは、全て僕の好みを聞いて彼が用意してくれたものだし、フットバスや仮眠をする時間を設けてくれたりと、僕がこの空間自体に慣れるために骨を折ってくれていた。
きっと僕が寄付がしっかりと出来る様になるかどうかはこの医院にとっても死活問題で、彼にも相当なプレッシャーがかかっているはずだ。けれど、セレダは相変わらず飄々としていて、今までと全く態度に変わりがなかった。自慰が上手くできていない僕にとっては、彼の態度が変わらない事にどこか救われていた。
セレダが靴を脱ぎ、ベッドに上がると、僕の方をじっと見た。
「ティト様」
「ん?」
「顔が強張っていますよ」
僕が顔を上げるとセレダは少し困った様に微笑んでいた。
「大丈夫です、まだ春まで時間はあります。焦らずに」
「……うん」
硬い表情で頷くと、セレダは苦笑いをして僕を覗き込む。
「……自分で言うのも何ですが……僕、術師の中でもフェラが上手くて指名が多かったんですよね」
「えっ」
僕がびっくりして声を上擦らせると、セレダはおかしそうに笑った。
「研究職に入る前はそれなりに人気の術師だったんです、久しぶりですけど多分やり方は忘れてないと思います。」
「……そう、なんだ……」
「恐怖心がなくなる様に、ゆっくりチャレンジしてみましょう」
どんな反応をしていいか分からず、こく、と頷くと、彼は微笑み、そっと僕のベルトに手を掛けた。
――――――――――――――――――
ちゅく、と音が響く。セレダは僕のものを優しく扱きながら、緩急をつけてじっとりと舐め上げていく。彼の舌が触れる度にぞわ、と快感が走っていた。
「…………っ……」
「……大丈夫ですか」
「うん……っ……」
僕が息を吐いて答えるとセレダは頷き、優しく舌を這わせた。
僕はヘッドボードに寄りかかり、彼は僕の腰元に顔を寄せていた。彼はシャツを腕まくりし、ラフな格好だ。上目遣いで僕の様子を確かめながら、ゆっくりと先端を咥える。僕はなんだか居た堪れなくて、視線を外し、額に手を当てて顔を隠した。
彼の舌遣いは本当に巧みで僕のものはすっかり勃ち上がり始めているが、それと同時に自分の心臓がバクバクとうるさく音を立てているのも感じていた。じゅぶ、じゅぶ、と卑しい音が響くたびに自身の呼吸が浅くなっていく。
意識を向けてはいけないと分かっているのに、どうしても意識してしまう。心臓はどんどん大きく音を立てていた。
セレダはしばらく僕のものを刺激していたが、呼吸が浅くなっている僕の様子を察してか、動きが止まる。
「……っ大丈夫、……だからっ、続けて」
僕は慌ててそう答えたが、セレダはそれには従わなかった。彼は僕の肩にそっと手を置き、優しく声を掛ける。
「ティト様、息を吐けますか」
「……っ……うん、……ごめんっ」
僕は何とか息を整えようとするが、中々上手く呼吸ができない。申し訳なくて、焦る気持ちが募る。
「……ティト様」
セレダは僕を呼ぶと、そっと優しく抱きしめた。
「大丈夫ですよ、ゆっくり息を吐きましょう」
「……っ…………っ」
「僕の呼吸に合わせて」
彼の肩口に顔を寄せ、息を吐いた。セレダは僕を優しく抱きしめ、何度も背を撫でる。始めてしっかりと感じた彼の体温は温かかくて、僕はその温度に酷く安心感を覚える。ああ、この人にも体温がある、と思うと僕の呼吸は次第に治っていった。
顔を上げるとセレダの虹色の瞳と目が合う。その瞳は心配そうに僕を見ていた。
至近距離で見つめ合ったまま、僕の呼吸音だけが響く。僕は彼の温度を確かめる様にさらに顔を近づけた。触れるか触れないかの近さで吐息が混ざり合う。
セレダは僕がなにをしたいのか分かったのだろう。虹色の瞳が伏せられ、僕はそっと静かに彼の唇に自身の唇を重ねた。
彼の温度を探る様に、何度か角度を変えて唇を合わせる。それは次第に激しくなり、僕たちは抱き合いながら、何度も舌を絡ませ合った。ふわり、とお互いのフェロモンが濃くなるのが分かる。
「ん……っ……」
「……ごめんっ、このまま、続けて欲しい」
「っ……はい」
セレダが頷くと、僕はすぐに彼の唇を塞いだ。僕たちは舌を絡ませ合いながら、ごそごそと体勢を変える。セレダは僕のペニスを優しく握り、扱き始めた。
ちゅ、ちゅ、と音を立てキスをしながら、彼は巧みに僕のものを刺激する。僕のものはすぐに先走りを零し始めた。先ほどより明らかに高揚が強く、僕はほう、と熱っぽく息を吐く。
「っこれなら……イけそうな、気がする」
「ん…っ、はい……」
僕たちは何度も唇を重ね、べろべろになりながらもさらにキスを続けた。お互いのフェロモンが濃厚に漂う。唇を離す度、彼から艶のある吐息が漏れ、ぞくぞくと背筋に快感が走った。
僕たちはしばらく夢中になって、そのまま絡み合い、キスと愛撫を重ねた。
僕のものはすっかりガチガチになっていて、セレダもスラックスを履いたままだったが、すっかり勃ち上がっているのが分かる。快感に溶けた僕の脳は触れたい、と思ったが、僕がベルトに手を伸ばそうとすると彼がやんわりと左手で僕の手を握った。
「……ティト様、今日はこっちに集中してください」
セレダは艶っぽく微笑むと、薄く口を開き、舌を見せた。僕は吸い寄せられる様に彼に唇を重ねる。
彼はそのまま扱く手を早める。しばらくすると段々と身体の熱が込み上げ始めるのが分かった。
「も……っイきそう…かも…」
「っはい、大丈夫ですよ、イってください」
彼は微笑み、優しく囁いた。
「……っ……っ、…」
「……んっ……」
僕は堪らずに弄る様に彼の首筋に顔を埋めた。その拍子に彼から薄く吐息が漏れる。
僕はローズマリーの香りに酔いしれながら、彼の手に精を吐き出していた。
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