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第一章 静かな目覚め
12. 誕生日*
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ヴィラから帰ってきた僕の日常はかなり変化した。
「…は、………ん…っ。」
僕の寝室には甘くてほろ苦いビターオレンジの匂いが漂う。薄暗くなった寝室のベッドの中で僕とリノはキスを交わしていた。
僕たちは同じ寝室で寝るようになり、かなりの頻度で触れ合うようになっていた。
キスを落としながらリノの寝巻きのボタンを外し、彼の肌を晒す。そのままズボンにも手をかけてするすると脱がせた。彼も僕の寝巻きに手をかけて僕を脱がし始める。僕は彼の胸をやわやわと触りながら彼が脱がしてくれるのを待った。
「…ぁっ…。」
乳首をきゅっと摘まれると彼はかすかに声を上げた。僕がしつこく触ったせいか、段々と彼はここが敏感になっている。僕がちょっかいを掛けるので脱がしずらそうにしながら、彼は僕の上着を脱がせた。僕は彼の乳首を口に含み弄びながら、そっと下着に手を差し入れて彼の性器をやんわりと握る。
「っ…ん…。」
彼からは期待に満ちた声が漏れた。僕は彼の先端をくるりと親指で優しく撫でた。
「リノ、あったかいね。」
「っ…ティト様…。」
彼の榛色の瞳は早くちゃんと触って欲しいと訴えている。僕は少しだけ笑って、胸元にキスをしながら下着をずらした。彼のものはすでに反応している。僕は彼の先端のとろりとした滴を塗りつけるように弄び、ゆるゆると幹の部分を扱き始める。
「リノ、僕のも触って…。」
「は、い…。」
リノは僕の前を寛げて僕のものに触れる。宝物のようにやんわり優しく触る感触がくすぐったくて僕は思わず笑ってしまう。
「ふふ、そんなに優しくしなくても大丈夫だよ。リノなら怖くないから。」
「本当に…?」
「うん、この前も大丈夫だったでしょ?気持ち良くして欲しいな…。」
不安そうなリノの唇にキスを落として、あやすようにまた彼のものを扱いた。僕はそのままリノの唇に舌を潜り込ませて、熱い口腔内も蹂躙する。
「ん…っん…。」
リノはすぐにキスに夢中になったが、僕が少し腰を揺らすと思い出した様にゆっくりと僕のものを擦り始める。僕たちは音を立てながらキスをしてお互いのものを擦り上げた。
「はぁ……んぅ…んっ……。」
最初は戸惑う様な触り方だったリノも、自分のものが高まる興奮で段々と僕をしっかりと扱き始める。僕はヴィラから帰ってきてから、射精まではいかないが、かなりしっかりと勃起をするようになっていた。こうやって触れ合うのは変わらず気持ち良い。
僕たちはヴィラで思いが通じあった。けれど、実はあの日はリノを愛撫するだけで終わってしまっていた。
僕は誘拐事件の時に恐ろしい手淫や口淫を受けた。そのせいで触れると僕が傷つきはしないかと、直前になってリノが怖がってしまったのだ。
とんでもない状態でお預けを食らった僕は、その日以来熱心にリノを夜に誘っていた。そして何度も何度も大丈夫だと宥めすかして、口説いて、最近ようやくお互いのものを慰め合う所までこぎつけたのだった。僕はすっかりリノのフェロモンに慣れて、良い匂いとしか思わなくなっていた。
「あ、……あっ…ん…。」
唇を離すと彼の口から声が漏れる。彼が感じているであろうタイミングでぶわっぶわっとビターオレンジの香りが漂い、僕の脳を甘く刺激する。
「はぁ…リノ、自分のも握れる?」
「あっ…ぁ、自分、の…?」
リノは僕の言葉が理解出来なかった様で、恍惚とした表情のまま、こてんと首を傾げた。その様子があまりに無防備で、僕は思わず彼が戸惑うのも気にせず、ぐっとお互いのものを合わせてリノに両手を添えさせる。
「や、…なに…。」
「こうやって…お互いのを擦るんだよ。」
僕はリノにお手本を見せる様にリノの手に自分の手を添えて動かした。
「あっ…あっ…ゃ…んっ。」
先走りでくちゅくちゅと音を立てながらお互いの性器が擦れ、快感が背中を走る。僕は思わずリノの手を固定したまま腰を動かした。
「……あ、あっ…ティトさ…ぁっ。」
「うん、気持ち良いね。」
「んっ…気持ち…ぃっ…。」
しばらくその状態で繰り返し快感を貪っていると、リノも僕の動きに合わせるようにお互いのものを扱き始めた。僕たちは激しくキスをしながら夢中で擦り合わせる。
「は…いきそ、…ぁっ…あぁっ。」
「…っイキそう?」
「…んっ…。」
リノは快感が強過ぎるのか涙をはらりと流して小さくと頷いた。それを合図に僕はさらに動きを激しくする。
「はぁ……ティトさ…ま……ん、っ…あ…ぁっ。」
「っ…リノ、…好きだよ。」
「あぁ…ティトさまっ…すき…っ。」
「ん、…一緒に、いこ。」
彼はこくりと頷いた。僕はお互いの根本から先端までを勢い良く扱いた。カリや棹が擦られ、ぞくぞくと快感が走る。僕はリズムをつけてお互いのものをひたすらに高めた。
「は……あっ…あ、っあー……!」
「はぁ…くっ。」
リノががくがくと震え、びゅる、びゅると2回に分けて射精した。僕もほぼ同時にドライで絶頂を迎える。僕はリノの精液を手のひらで受け止めた。エバである彼の精液からは魔力は感じない。
「はー…っはー……。」
荒い息を整えて余韻を追っていると、情欲にゆらゆらと揺れたリノの瞳と目が合った。
僕たちはどちらともなくもう一度キスをした。
お互いに満足し合って、身体を清め、衣服を整える。僕はリノに抱き変えられて寝る体勢に入った。
僕たちはお互いを慰めるだけでそれより先に進んではいない。それでも触れ合っていると何とも言えない幸福感に包まれる。
「ティト様…なんで上手なんですか…。」
「ん?」
僕を後ろから抱きしめたリノが囁くように言った。ヴィラでも聞いたようなセリフだ。
「気持ちよくて…余裕がなくなるから、困ります…。」
「ふふ、僕は嬉しいけどな。」
「大人にならないで欲しいのに…。」
「僕はまだ子供だよ。リノにたくさん甘えたいもの。」
身を捩らせてリノの方を見る。彼は不安げな瞳で僕を見ていた。
「明日になったら…14歳ですね。」
「うん、ディナー楽しみだなぁ。」
「パトリックが気合を入れて準備してましたよ。」
「すごい量が出てきそう…。」
「ふふふ。」
最近僕が人並みに食事を取れるようになってきたので、料理長のパトリックはそれはそれは気合を入れて食事を用意してくれるようになった。きっと明日は僕の好きな食べ物を沢山用意してくれるだろう。
僕は何となく浮かない様子のリノが気になって、片肘を立てて身体を起こした。
「リノ…なにか心配?」
「……何も。」
「…そう?」
僕は何も言わない彼の額にキスを落とす。
明日には僕の誕生日に合わせてレヴィルが帰ってくる。僕たちの2人きりの時間は今日でほぼ終わりだ。おそらくリノはそれを不安に思っているのだろうと僕は感じていた。
僕はリノの柔らかい髪を撫でた。榛色の瞳と目が合う。
「レヴィルが帰ってきても、リノを大好きな事は変わらないよ。」
「……はい。」
「…ごめんね。」
「謝らないで。」
「…うん。」
リノは僕の肩に顔を埋めた。これ以上謝ることも愛を囁くことも不誠実になってしまう気がして、僕はもう何も言えなかった。
アデルの僕は彼一人だけを愛することは許されていない。
精通を迎えた時、僕はリノよりも先にレヴィルを抱く。そしてこれから先、きっとリノ以外のエバにもたくさんの愛を囁く。こんな不誠実な男の傍にずっといなければいけないリノの気持ちを思うと、申し訳なくて仕方がなかった。
でも、それでも、僕はリノに傍にいて欲しいと言う気持ちは変わらなかった。僕は心の中でもう一度リノに謝ってそっと目を瞑った。
翌日、レヴィルは昼すぎに帰郷した。久々の屋敷の主人の帰宅に、僕やリノだけではなくアズレトや使用人たちもエントランスを出て出迎る。クローデル家の紋章が入った立派な馬車から降り立ったレヴィルは、相変わらずの美丈夫だ。彼は御者に手で合図をした後、僕を見て少し目を見開いた。
「レヴィル、おかえりなさい。」
「ああ、ただいま。ティト、また背が伸びたな。」
「ふふ、ジェイデンに稽古を付けてもらうようになったら、背が伸び始めました。」
「そうか。」
僕の背は順調に伸び続けている。高身長のレヴィルとは、まだまだ身長差があるが、それでも前に彼と会った時よりは大分背が高くなった。驚いている様子のレヴィルに、リノがくすくすと笑いながら礼をする。
「レヴィル様、おかえりなさいませ。」
「ああ。リノも苦労をかけたな。」
「いいえ、とんでもありません。ご無事にお帰りいただき安心しました。」
リノはもう一度微笑んで僕の方を見た。
「最近のティト様はお食事もたくさん召し上がられるんですよ。」
「そうか…俺のいない間にあっという間に大きくなるな。」
レヴィルは懐かしむような表情で目を細める。
「14歳の誕生日おめでとう、ティト。」
「はい、ありがとうございます。」
僕はにこやかに笑顔を返した。
馬車での移動が疲れたであろうレヴィルを労い、僕たちはサロンでお茶をしながら、しばらく3人で歓談をした。話は尽きなかったが、1時間ほど時間が経過したところで一旦それぞれの私室に引き上げる。
ゲストを招いてのガーデンパーティーは来週行われるため、今日のディナーは3人だけだ。身内だけの気軽な宴ではあるが、せっかくだから礼装をしようと言う話になっていた。
僕はレヴィルともリノとも別れて私室に戻る。中では古くから勤める従僕が控えてくれていた。僕は彼に手伝って貰いながらディナージャケットへ着替え始める。
リノと結婚をすれば、リノはこの家の内事を預かる身分となる。今後もずっとリノに従者の仕事をしてもらう訳にはいかないため、最近では少しずつリノ以外の使用人に手伝ってもらうようにしていた。
今節用として仕立てた黒のディナージャケットは少し大きめに作ってもらっていたが、袖を通すとちょうど良いサイズになっていた。僕が着替え終えると従僕が丁寧にブラシで細かなチリを払う。
「今日は少し髪を上げてはいかがでしょう。」
「うん。じゃあお願い。」
「承知しました。」
従僕は僕をドレッサーの前に誘導する。僕が椅子に座ると、彼は僕のダークブロンドの髪を丁寧に梳かした。そして良い香りのするクリームを手にとり、丹念に温めてから僕の髪に撫で付ける。目の荒い櫛でラフに前髪を上げると、いつもより幾分大人っぽくみえる気がした。従僕が手鏡を持ち、合わせ鏡をして髪型を見せてくれる。
「いかがでしょう。」
「うん、大人っぽくしてくれてありがとう。気に入ったよ。」
「良うございました。」
従僕はにこりと微笑んだ。僕は彼にお礼を言って私室を出る。そろそろ2人も着替え終わっているだろう。
ダイニングルームに入るとすでに2人は着席していた。2人は僕が来たことには気づかずに和やかに話をしている。2人とも僕と一緒にいる時とは少し雰囲気が違う。
僕や使用人がいる前では上下関係を守っているが、2人は小さい頃から一緒に育った幼なじみであり、学友だ。本当はお互いの名前を呼び捨てにし合うほど仲の良いんだと母から聞いた事があった。僕は何となく邪魔をしたくなくて、所在なく佇む。するとすぐに2人が僕に気づいた。
「ティト、主役が何をしてるんだ。早く座れ。」
「こちらへどうぞ、ティト様。」
2人はあっという間に僕がよく知っている雰囲気に戻った。僕は何だか申し訳なく思いながらダイニングに入る。リノは僕の髪型を見て、似合ってくれると褒めてくれた。僕もいつもよりパリッとした装いのリノが新鮮で、格好いいと褒め合った。レヴィルはその様子を見て笑う。ディナージャケットをばっちり着こなし、前髪をかき上げたレヴィルは言うまでもなく格好が良い。僕はレヴィルにも声を掛けて着席する。
僕が着席するのを合図に、従僕が乾杯の飲み物を注いだ。スパークリングワインがしゅわしゅわと弾ける。2人はワインだが、僕のものはノンアルコールだ。
「ティト、お誕生日おめでとう。」
「ティト様、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
僕たちは微笑んで乾杯をした。
料理長が気合いを入れて手掛けてくれたディナーはどれもとても美味しかった。僕は従僕が給仕に来る度に料理の感想を伝える。
「ティト、そんなに全部褒めていたら来年も全く同じ料理になるぞ。」
「だって本当に美味しいんです。来年も同じでも良いくらい。」
そう言うとレヴィルはふっと笑う。
「本当によく食べる様になったな。」
「最近はお好きな料理がでると私よりもたくさん召し上がりますよ。」
「そうか、パトリックもさぞかし喜んでるだろう。」
僕は頷いて、口直しのグラニテをぱくりと口に入れた。甘酸っぱい爽やかな香りが口に広がる。僕自身、食事を美味しく食べれるようになった事がとても嬉しい。今まではノルマのように感じていた食事が、最近は何を食べても美味しくて、食事の時間が楽しみになっていた。
「それで、2人はどんなところでデートをしたんだ?」
「え?」
「お前は俺が帰ってきても、寝かしつけるだけで全然デートをしてくれないからな。」
レヴィルがダークブルーの瞳を細めて笑う。レヴィルは春先にも1度屋敷に戻ってきてくれていた。けれどあまりにも疲れた様子だったので、その時も2人で昼寝をして過ごしただけだった。
「2人の話を聞かせてくれ。」
僕はリノと目を合わせる。リノは恥ずかしそうに微笑んだ。
「書斎で一緒に読書をしたり、庭でピクニックをしたり、村に一緒に行ったりしました。」
「そうか。」
「でもやっぱりヴィラに一緒に行ったのがすっごく楽しかったです。」
僕が同意を求めるようにリノの方を見る。
「そうですね。とても楽しかったです。滞在をお許しくださってありがとうございました。」
「ああ、クーペルーベンか。」
「はい、ヴィラのスパが素晴らしかったです!」
僕はスパでどんな風に過ごしたかを話した。レヴィルはおそらくヴィラにも行ったことがあるだろうが、興味深そうに話を聞いてくれる。さすがにプールサイドでの触れ合いについては話さなかったが、それ以外の事はたくさん話をした。
「楽しんだようだな。」
「はい。」
僕が一通り話し終えるとレヴィルは頷いて、従僕が給仕したメインディッシュのフィレ肉にナイフを入れた。僕も満足してナイフを手に取る。美しくスライスされたフィレ肉と季節の野菜が盛り付けられ、ソースで彩られていた。フィレ肉を口に含むとじわっと肉の旨味とソースの豊かな風味が広がる。美味しい。僕は野菜も一口サイズに切りゆっくりと味わった。
「リノ、いいか。」
「…はい、もちろんです。」
僕がメインディッシュに夢中になっていると、いつの間にか2人が会話をしていた。僕は何のことか分からず首を傾げる。2人は何かを合意すると僕の方を向いた。
「ティト、明日から泊まりがけで1泊、俺とデートをしてくれるか。」
「えっ。」
「俺もお前とちゃんとデートがしてみたい。昼寝じゃなくな。」
そう言ってレヴィルが微笑んだ。僕は嬉しくてすぐに頷きそうになるが、思いとどまってリノの方を見る。
「リノ、行ってきていい?」
僕がそう聞くことにリノは少し驚いた表情をした後、困ったように笑う。
「もちろんです。私の許可なんて取らなくていいんですよ。貴方のお心のままに。」
「うん…行きたい。」
僕がもじもじと答えるとリノはにこっと笑って、レヴィルの方を向く。レヴィルは少しいたずらな笑みを浮かべた。
「ティト、もうリノの尻に敷かれてるな。」
「えっ。」
「レヴィル。ティト様をからかわないでください。」
「まあリノの機嫌をとれるのはいいことだ。」
「…もう。」
リノは少し呆れた調子でレヴィルを見た。こんな気安い調子で2人が話しているのを聞くのは初めてで、僕は2人を見比べてキョロキョロしてしまう。リノは僕の様子に苦笑しつつ口を開いた。
「どちらに1泊されるのですか?」
「ああ、湖水の別荘に行こうかと思っているが…どうだ?ティト。」
「湖水の別荘!行きたいです!」
湖の近くにある別荘は母の生前に、夏のバカンスでよく行っていた場所だ。僕は思わず大きく頷いた。
「良かったですね」
「うん!」
急に元気になった僕の様子を見て2人が笑う。僕は湖水でしたい事を思い浮かべてはにこにこと2人に話した。2人はその様子を微笑ましそうに頷きながら聞いてくれた。
僕たちはその後もたくさんの話をしながら晩餐を楽しんだ。
「…は、………ん…っ。」
僕の寝室には甘くてほろ苦いビターオレンジの匂いが漂う。薄暗くなった寝室のベッドの中で僕とリノはキスを交わしていた。
僕たちは同じ寝室で寝るようになり、かなりの頻度で触れ合うようになっていた。
キスを落としながらリノの寝巻きのボタンを外し、彼の肌を晒す。そのままズボンにも手をかけてするすると脱がせた。彼も僕の寝巻きに手をかけて僕を脱がし始める。僕は彼の胸をやわやわと触りながら彼が脱がしてくれるのを待った。
「…ぁっ…。」
乳首をきゅっと摘まれると彼はかすかに声を上げた。僕がしつこく触ったせいか、段々と彼はここが敏感になっている。僕がちょっかいを掛けるので脱がしずらそうにしながら、彼は僕の上着を脱がせた。僕は彼の乳首を口に含み弄びながら、そっと下着に手を差し入れて彼の性器をやんわりと握る。
「っ…ん…。」
彼からは期待に満ちた声が漏れた。僕は彼の先端をくるりと親指で優しく撫でた。
「リノ、あったかいね。」
「っ…ティト様…。」
彼の榛色の瞳は早くちゃんと触って欲しいと訴えている。僕は少しだけ笑って、胸元にキスをしながら下着をずらした。彼のものはすでに反応している。僕は彼の先端のとろりとした滴を塗りつけるように弄び、ゆるゆると幹の部分を扱き始める。
「リノ、僕のも触って…。」
「は、い…。」
リノは僕の前を寛げて僕のものに触れる。宝物のようにやんわり優しく触る感触がくすぐったくて僕は思わず笑ってしまう。
「ふふ、そんなに優しくしなくても大丈夫だよ。リノなら怖くないから。」
「本当に…?」
「うん、この前も大丈夫だったでしょ?気持ち良くして欲しいな…。」
不安そうなリノの唇にキスを落として、あやすようにまた彼のものを扱いた。僕はそのままリノの唇に舌を潜り込ませて、熱い口腔内も蹂躙する。
「ん…っん…。」
リノはすぐにキスに夢中になったが、僕が少し腰を揺らすと思い出した様にゆっくりと僕のものを擦り始める。僕たちは音を立てながらキスをしてお互いのものを擦り上げた。
「はぁ……んぅ…んっ……。」
最初は戸惑う様な触り方だったリノも、自分のものが高まる興奮で段々と僕をしっかりと扱き始める。僕はヴィラから帰ってきてから、射精まではいかないが、かなりしっかりと勃起をするようになっていた。こうやって触れ合うのは変わらず気持ち良い。
僕たちはヴィラで思いが通じあった。けれど、実はあの日はリノを愛撫するだけで終わってしまっていた。
僕は誘拐事件の時に恐ろしい手淫や口淫を受けた。そのせいで触れると僕が傷つきはしないかと、直前になってリノが怖がってしまったのだ。
とんでもない状態でお預けを食らった僕は、その日以来熱心にリノを夜に誘っていた。そして何度も何度も大丈夫だと宥めすかして、口説いて、最近ようやくお互いのものを慰め合う所までこぎつけたのだった。僕はすっかりリノのフェロモンに慣れて、良い匂いとしか思わなくなっていた。
「あ、……あっ…ん…。」
唇を離すと彼の口から声が漏れる。彼が感じているであろうタイミングでぶわっぶわっとビターオレンジの香りが漂い、僕の脳を甘く刺激する。
「はぁ…リノ、自分のも握れる?」
「あっ…ぁ、自分、の…?」
リノは僕の言葉が理解出来なかった様で、恍惚とした表情のまま、こてんと首を傾げた。その様子があまりに無防備で、僕は思わず彼が戸惑うのも気にせず、ぐっとお互いのものを合わせてリノに両手を添えさせる。
「や、…なに…。」
「こうやって…お互いのを擦るんだよ。」
僕はリノにお手本を見せる様にリノの手に自分の手を添えて動かした。
「あっ…あっ…ゃ…んっ。」
先走りでくちゅくちゅと音を立てながらお互いの性器が擦れ、快感が背中を走る。僕は思わずリノの手を固定したまま腰を動かした。
「……あ、あっ…ティトさ…ぁっ。」
「うん、気持ち良いね。」
「んっ…気持ち…ぃっ…。」
しばらくその状態で繰り返し快感を貪っていると、リノも僕の動きに合わせるようにお互いのものを扱き始めた。僕たちは激しくキスをしながら夢中で擦り合わせる。
「は…いきそ、…ぁっ…あぁっ。」
「…っイキそう?」
「…んっ…。」
リノは快感が強過ぎるのか涙をはらりと流して小さくと頷いた。それを合図に僕はさらに動きを激しくする。
「はぁ……ティトさ…ま……ん、っ…あ…ぁっ。」
「っ…リノ、…好きだよ。」
「あぁ…ティトさまっ…すき…っ。」
「ん、…一緒に、いこ。」
彼はこくりと頷いた。僕はお互いの根本から先端までを勢い良く扱いた。カリや棹が擦られ、ぞくぞくと快感が走る。僕はリズムをつけてお互いのものをひたすらに高めた。
「は……あっ…あ、っあー……!」
「はぁ…くっ。」
リノががくがくと震え、びゅる、びゅると2回に分けて射精した。僕もほぼ同時にドライで絶頂を迎える。僕はリノの精液を手のひらで受け止めた。エバである彼の精液からは魔力は感じない。
「はー…っはー……。」
荒い息を整えて余韻を追っていると、情欲にゆらゆらと揺れたリノの瞳と目が合った。
僕たちはどちらともなくもう一度キスをした。
お互いに満足し合って、身体を清め、衣服を整える。僕はリノに抱き変えられて寝る体勢に入った。
僕たちはお互いを慰めるだけでそれより先に進んではいない。それでも触れ合っていると何とも言えない幸福感に包まれる。
「ティト様…なんで上手なんですか…。」
「ん?」
僕を後ろから抱きしめたリノが囁くように言った。ヴィラでも聞いたようなセリフだ。
「気持ちよくて…余裕がなくなるから、困ります…。」
「ふふ、僕は嬉しいけどな。」
「大人にならないで欲しいのに…。」
「僕はまだ子供だよ。リノにたくさん甘えたいもの。」
身を捩らせてリノの方を見る。彼は不安げな瞳で僕を見ていた。
「明日になったら…14歳ですね。」
「うん、ディナー楽しみだなぁ。」
「パトリックが気合を入れて準備してましたよ。」
「すごい量が出てきそう…。」
「ふふふ。」
最近僕が人並みに食事を取れるようになってきたので、料理長のパトリックはそれはそれは気合を入れて食事を用意してくれるようになった。きっと明日は僕の好きな食べ物を沢山用意してくれるだろう。
僕は何となく浮かない様子のリノが気になって、片肘を立てて身体を起こした。
「リノ…なにか心配?」
「……何も。」
「…そう?」
僕は何も言わない彼の額にキスを落とす。
明日には僕の誕生日に合わせてレヴィルが帰ってくる。僕たちの2人きりの時間は今日でほぼ終わりだ。おそらくリノはそれを不安に思っているのだろうと僕は感じていた。
僕はリノの柔らかい髪を撫でた。榛色の瞳と目が合う。
「レヴィルが帰ってきても、リノを大好きな事は変わらないよ。」
「……はい。」
「…ごめんね。」
「謝らないで。」
「…うん。」
リノは僕の肩に顔を埋めた。これ以上謝ることも愛を囁くことも不誠実になってしまう気がして、僕はもう何も言えなかった。
アデルの僕は彼一人だけを愛することは許されていない。
精通を迎えた時、僕はリノよりも先にレヴィルを抱く。そしてこれから先、きっとリノ以外のエバにもたくさんの愛を囁く。こんな不誠実な男の傍にずっといなければいけないリノの気持ちを思うと、申し訳なくて仕方がなかった。
でも、それでも、僕はリノに傍にいて欲しいと言う気持ちは変わらなかった。僕は心の中でもう一度リノに謝ってそっと目を瞑った。
翌日、レヴィルは昼すぎに帰郷した。久々の屋敷の主人の帰宅に、僕やリノだけではなくアズレトや使用人たちもエントランスを出て出迎る。クローデル家の紋章が入った立派な馬車から降り立ったレヴィルは、相変わらずの美丈夫だ。彼は御者に手で合図をした後、僕を見て少し目を見開いた。
「レヴィル、おかえりなさい。」
「ああ、ただいま。ティト、また背が伸びたな。」
「ふふ、ジェイデンに稽古を付けてもらうようになったら、背が伸び始めました。」
「そうか。」
僕の背は順調に伸び続けている。高身長のレヴィルとは、まだまだ身長差があるが、それでも前に彼と会った時よりは大分背が高くなった。驚いている様子のレヴィルに、リノがくすくすと笑いながら礼をする。
「レヴィル様、おかえりなさいませ。」
「ああ。リノも苦労をかけたな。」
「いいえ、とんでもありません。ご無事にお帰りいただき安心しました。」
リノはもう一度微笑んで僕の方を見た。
「最近のティト様はお食事もたくさん召し上がられるんですよ。」
「そうか…俺のいない間にあっという間に大きくなるな。」
レヴィルは懐かしむような表情で目を細める。
「14歳の誕生日おめでとう、ティト。」
「はい、ありがとうございます。」
僕はにこやかに笑顔を返した。
馬車での移動が疲れたであろうレヴィルを労い、僕たちはサロンでお茶をしながら、しばらく3人で歓談をした。話は尽きなかったが、1時間ほど時間が経過したところで一旦それぞれの私室に引き上げる。
ゲストを招いてのガーデンパーティーは来週行われるため、今日のディナーは3人だけだ。身内だけの気軽な宴ではあるが、せっかくだから礼装をしようと言う話になっていた。
僕はレヴィルともリノとも別れて私室に戻る。中では古くから勤める従僕が控えてくれていた。僕は彼に手伝って貰いながらディナージャケットへ着替え始める。
リノと結婚をすれば、リノはこの家の内事を預かる身分となる。今後もずっとリノに従者の仕事をしてもらう訳にはいかないため、最近では少しずつリノ以外の使用人に手伝ってもらうようにしていた。
今節用として仕立てた黒のディナージャケットは少し大きめに作ってもらっていたが、袖を通すとちょうど良いサイズになっていた。僕が着替え終えると従僕が丁寧にブラシで細かなチリを払う。
「今日は少し髪を上げてはいかがでしょう。」
「うん。じゃあお願い。」
「承知しました。」
従僕は僕をドレッサーの前に誘導する。僕が椅子に座ると、彼は僕のダークブロンドの髪を丁寧に梳かした。そして良い香りのするクリームを手にとり、丹念に温めてから僕の髪に撫で付ける。目の荒い櫛でラフに前髪を上げると、いつもより幾分大人っぽくみえる気がした。従僕が手鏡を持ち、合わせ鏡をして髪型を見せてくれる。
「いかがでしょう。」
「うん、大人っぽくしてくれてありがとう。気に入ったよ。」
「良うございました。」
従僕はにこりと微笑んだ。僕は彼にお礼を言って私室を出る。そろそろ2人も着替え終わっているだろう。
ダイニングルームに入るとすでに2人は着席していた。2人は僕が来たことには気づかずに和やかに話をしている。2人とも僕と一緒にいる時とは少し雰囲気が違う。
僕や使用人がいる前では上下関係を守っているが、2人は小さい頃から一緒に育った幼なじみであり、学友だ。本当はお互いの名前を呼び捨てにし合うほど仲の良いんだと母から聞いた事があった。僕は何となく邪魔をしたくなくて、所在なく佇む。するとすぐに2人が僕に気づいた。
「ティト、主役が何をしてるんだ。早く座れ。」
「こちらへどうぞ、ティト様。」
2人はあっという間に僕がよく知っている雰囲気に戻った。僕は何だか申し訳なく思いながらダイニングに入る。リノは僕の髪型を見て、似合ってくれると褒めてくれた。僕もいつもよりパリッとした装いのリノが新鮮で、格好いいと褒め合った。レヴィルはその様子を見て笑う。ディナージャケットをばっちり着こなし、前髪をかき上げたレヴィルは言うまでもなく格好が良い。僕はレヴィルにも声を掛けて着席する。
僕が着席するのを合図に、従僕が乾杯の飲み物を注いだ。スパークリングワインがしゅわしゅわと弾ける。2人はワインだが、僕のものはノンアルコールだ。
「ティト、お誕生日おめでとう。」
「ティト様、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
僕たちは微笑んで乾杯をした。
料理長が気合いを入れて手掛けてくれたディナーはどれもとても美味しかった。僕は従僕が給仕に来る度に料理の感想を伝える。
「ティト、そんなに全部褒めていたら来年も全く同じ料理になるぞ。」
「だって本当に美味しいんです。来年も同じでも良いくらい。」
そう言うとレヴィルはふっと笑う。
「本当によく食べる様になったな。」
「最近はお好きな料理がでると私よりもたくさん召し上がりますよ。」
「そうか、パトリックもさぞかし喜んでるだろう。」
僕は頷いて、口直しのグラニテをぱくりと口に入れた。甘酸っぱい爽やかな香りが口に広がる。僕自身、食事を美味しく食べれるようになった事がとても嬉しい。今まではノルマのように感じていた食事が、最近は何を食べても美味しくて、食事の時間が楽しみになっていた。
「それで、2人はどんなところでデートをしたんだ?」
「え?」
「お前は俺が帰ってきても、寝かしつけるだけで全然デートをしてくれないからな。」
レヴィルがダークブルーの瞳を細めて笑う。レヴィルは春先にも1度屋敷に戻ってきてくれていた。けれどあまりにも疲れた様子だったので、その時も2人で昼寝をして過ごしただけだった。
「2人の話を聞かせてくれ。」
僕はリノと目を合わせる。リノは恥ずかしそうに微笑んだ。
「書斎で一緒に読書をしたり、庭でピクニックをしたり、村に一緒に行ったりしました。」
「そうか。」
「でもやっぱりヴィラに一緒に行ったのがすっごく楽しかったです。」
僕が同意を求めるようにリノの方を見る。
「そうですね。とても楽しかったです。滞在をお許しくださってありがとうございました。」
「ああ、クーペルーベンか。」
「はい、ヴィラのスパが素晴らしかったです!」
僕はスパでどんな風に過ごしたかを話した。レヴィルはおそらくヴィラにも行ったことがあるだろうが、興味深そうに話を聞いてくれる。さすがにプールサイドでの触れ合いについては話さなかったが、それ以外の事はたくさん話をした。
「楽しんだようだな。」
「はい。」
僕が一通り話し終えるとレヴィルは頷いて、従僕が給仕したメインディッシュのフィレ肉にナイフを入れた。僕も満足してナイフを手に取る。美しくスライスされたフィレ肉と季節の野菜が盛り付けられ、ソースで彩られていた。フィレ肉を口に含むとじわっと肉の旨味とソースの豊かな風味が広がる。美味しい。僕は野菜も一口サイズに切りゆっくりと味わった。
「リノ、いいか。」
「…はい、もちろんです。」
僕がメインディッシュに夢中になっていると、いつの間にか2人が会話をしていた。僕は何のことか分からず首を傾げる。2人は何かを合意すると僕の方を向いた。
「ティト、明日から泊まりがけで1泊、俺とデートをしてくれるか。」
「えっ。」
「俺もお前とちゃんとデートがしてみたい。昼寝じゃなくな。」
そう言ってレヴィルが微笑んだ。僕は嬉しくてすぐに頷きそうになるが、思いとどまってリノの方を見る。
「リノ、行ってきていい?」
僕がそう聞くことにリノは少し驚いた表情をした後、困ったように笑う。
「もちろんです。私の許可なんて取らなくていいんですよ。貴方のお心のままに。」
「うん…行きたい。」
僕がもじもじと答えるとリノはにこっと笑って、レヴィルの方を向く。レヴィルは少しいたずらな笑みを浮かべた。
「ティト、もうリノの尻に敷かれてるな。」
「えっ。」
「レヴィル。ティト様をからかわないでください。」
「まあリノの機嫌をとれるのはいいことだ。」
「…もう。」
リノは少し呆れた調子でレヴィルを見た。こんな気安い調子で2人が話しているのを聞くのは初めてで、僕は2人を見比べてキョロキョロしてしまう。リノは僕の様子に苦笑しつつ口を開いた。
「どちらに1泊されるのですか?」
「ああ、湖水の別荘に行こうかと思っているが…どうだ?ティト。」
「湖水の別荘!行きたいです!」
湖の近くにある別荘は母の生前に、夏のバカンスでよく行っていた場所だ。僕は思わず大きく頷いた。
「良かったですね」
「うん!」
急に元気になった僕の様子を見て2人が笑う。僕は湖水でしたい事を思い浮かべてはにこにこと2人に話した。2人はその様子を微笑ましそうに頷きながら聞いてくれた。
僕たちはその後もたくさんの話をしながら晩餐を楽しんだ。
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