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「……で、なんで黙ってたわけ?申し開きは?」
ミュアの話を聞いてすぐ、大事な話をするからとラティエを連れ出した俺は今、人気の少ない路地で仁王立ちをしている。目の前の美人はしゅんと落ち込んだ顔をしているけれど、俺は騙されないぞ。
男が妊娠とか絶対にありえない、だけど異世界ならそういうのもあり得るのかも、と拮抗する思いを抱え、本人に確認してみるとミュアの言った通り妊娠の可能性もあると言われた俺の心中を一体だれが理解できるだろうか。まぁその時は大分動揺したけど、一通り話を聞いてみると、どうやら実際に妊娠するケースはけっこう稀で、条件がそろわないと成立する可能性は低いらしい。だからといっていらぬリスクを背負うなんてまっぴらだけど。
「もちろん、万が一のことがあれば責任はとるつもりでした、最初から」
「いや、俺が言ってるのはそういうことじゃなくて!もしこれで……に、妊娠なんてことになったら困るだろ。魔王だって何とかしないといけないし、第一、俺には元の世界での生活だってあるんだ。俺はちゃんと向こうに戻るつもりだし、そういう不安要素は抱えたくなんだよ。事情が事情なんだからさ、頼むからそういうのは本当に好きなやつとしてくれ」
相手の顔色を窺うことなく一気に言い切る。いちいち言うつもりははいけれど、ここでの好きなやつとは、思いが通じ合って尚且つ未来がある相手のこと。
昨日はちょっと絆されかけたけど、俺はこの世界に留まる気は全くないし、最低限魔王問題だけ解決して後は機会さえあれば、すぐにでも日本に帰りたい。当然もっと怒る権利はあるんだろうけど、他人に対して本気で怒ることなんてそうあることじゃないし、怒り方が分からない。
「本当に好きな方……ですか?」
「うん、本当に好きな人。責任っていう言葉はそういう人に対して使うべきだと思うぞ?」
「そう、ですよね」
何か思い当たることがあるのか、ラティエは考え込むような仕草で固まってしまった。まさか、言い過ぎたのか?え、本当ならもっと怒っていいところを抑えているんだけれど。わりと普通なことを言っただけだし、傷つけてはないよな?黙り込んでしまった彼の姿になんだか罪悪感が募ってきて大幅に勢いが削がれる。
「では、レイト様」
「本当ならこのような場所で申し上げたくはないのですが……」
一瞬だけ不満気に眉を寄せたラティエは俺の右手をすくい上げると、手の甲に触れるか触れないかの優しいキスを落とした。予想を超えてくる彼の行動に開いた口が塞がらない。そのまま手を引かれ、至近距離でアメジストの瞳と視線がかち合う。反射的に逸らそうとするけれど俺は吸いこまれるようにその紫から目が離せなくなる。状況を忘れて散々見つめ合った後、ラティエが祈りを捧げるような態勢で地に膝をつく。手は握ったまま座り込むから、本当に祈られてるみたいだ。
「どうか私と結婚して頂けませんか?」
「…………は?」
ケッコン?
あまりに整った顔が俺を見上げて目を細める。まるで、眩しいものでも見るような視線に頬が引きつるのを感じながら俺は掛けられた言葉を処理しようとするがどうやら俺の脳は正常ではないらしい。たぶん疲れが出たんだ。異世界疲れ。結婚って聞こえた。予想外に予想外が重なって自分の思考回路がどこまで正常なのか分からないので、そういうときは本人に聞き返すのが無難だと思う。
「……もしかして、けっこんって?あの結婚?」
自分が大分参ってると悟った俺は聞き間違いを訂正し、正しい言葉に直すために聞き返したつもりだったが、ラティエは小首を傾げ意味が分からないとでも言いたげな顔をする。昨夜のことといい……やばい、察しそう。
「結婚という言葉には意味は一つしかないと思いますが……」
「いや、そんなことないよ!あるよ!ほら、血痕とか……血痕とか……。……ごめん、それ本気で言ってる?」
「レイト様?落ち着いてください。もちろん本気です。私はあなたに求婚しているのですよ」
分かりますか?と言われながら頬を撫でられる。お前が落ち着けよ。分かりますけど分かりません。話が飛躍してわからないです。
「な、なんでそんな急に……」
「昨晩申しましたよ?貴方のことが好きです、と」
あー、なんか言われた。聞いた気がする。結婚を考えるほど本気だったとは思ってなかった、俺の落ち度だ。まぁ、それでも急なことに変わりはないけどね。
「いや、でも、あの時はほら、誤解が、誤解があったじゃないですか。そんなに結果を焦らないで……深呼吸、深呼吸。そういうのはもっとじっくり考えないと。人生掛かってるし、誰でもいいわけじゃ……」
「誰でもではありません!貴方だから……。ねぇ、レイト様。ずっと一緒にいて下さると約束してくださいませんか?」
「いや、だから俺向こうの世界に帰るつもりだし、結婚とかいくらなんでも……。べつに俺達恋人同士でもないし」
「では、昨夜は遊びだったと?誰にでも身体を開くおつもりですか?」
「はっ!?か、身体って……そんなわけないだろ!?」
「では、多少でも私を好いてくださっているということですね?まさか陽の下の使者様ともあろうお方が誰にでも身体を許すわけないですものね」
だから、昨夜は女の子だと思ってたんだよぉ!!確かに魔が差したのはあったし、こんな綺麗な人とできる機会そうそう無いからラッキーとも思ったよ。っていうか、俺の回想ここだけ聞いたら最低なクズ男じゃんか。うわぁ、大学時代の苦い思い出が蘇りそう。
違う違う!あくまでも下になったのは俺だし、何もそんな言い方しなくても……。それ好意の有無を否定したら、ビッチ確定じゃん。誤解と不名誉が過ぎる。
「たしかに、ラティエのことは好きだよ。だけどお前の好きと同じだけの気持ちは返せない」
普通会って数日の奴にプロポーズはしないよな。
ラティエは綺麗で気が利くし博識で、こんな人間が嫌いなやついるのかなって思うけど、それこそが俺への感情は一時的なものだと物語っている。俺は彼に特別気に気に入られるような行動はしていないし、顔だってラティエとは比べ物にならない。中身もいたって平凡。この世界での取り柄といえば『使者様』っていう肩書と、よくわからない『魔法に似た何か』の能力だけ。そんな胡散臭い人間にどうやったらラティエのような人種が恋に落ちるのだろうか。もっと周りをよく見ろ、選び放題だぞと言いたくなる。
「今はそれで構いません。でも、もしも_____」
まだ何かあるのかと再びラティエの話に耳を傾けようとしたとき、地面を揺らすような鐘の音があたり一帯に響き渡った。
「な、なにっ?」
断続的に響く脳天を揺らすかのような音に思わず両耳を塞ぎながら大通りに出る。事態は掴めないが何かが起こっているのは確かなようで、大通りでは大声で人の流れを誘導している人までいる。
「あの、何があったんですか?」
目の前を流れていく人の波を見てただ事ではない気配を察してはいるけど、こんな時はどう行動すればいいのか分からない。タイミングよく目の前を通った若い男性に声を掛けると、その男性は焦った様子で早口で説明をしてくれる。
「町の周辺に魔物が出たらしい。しかもちょっとやそっとじゃねぇ。今までにないぐらいの大群だ。冒険者は前線に集まってる。お前たち冒険者じゃないだろう?だったらさっさと逃げた方がいいぜ。といっても町の外に出るのは自殺行為だな、どっかに隠れとけ。すまない、俺はもう行く」
一呼吸も置くことなく一気にここまで喋りきる男性にちょっと気押される。くれぐれも気をつけろよと肩を叩かれ、俺はその人が走り去っていく姿を呆気に取られて見送った。切羽詰まっていたみたいだからかなりまずい状況なんだろう。事態を察した俺たちは無言で顔を見合わせる。
「とりあえず、みんなと合流しよう」
******************************
「二人とも大丈夫だった!?」
店内にいた三人にもその情報は届いていたようで店に入った途端、顔を真っ青にしたミュアが開口一番にそう尋ねてくる。
「俺達は大丈夫だよ、ミュアこそ顔色悪いけど大丈夫?」
「うん、平気だよ。少し怖いだけ。…………大丈夫、大丈夫。僕なら出来る」
相当怖がっているようで、血の気の引いた顔をして身体を震わせながら大丈夫と繰り返しているミュア。まだ子供だし、怖いのも当たり前か。アートは大丈夫かと心配になって目を向けるけれど彼の場合はやっぱり通常運転でこの中で一番冷静といっても過言はなさそうだ。
「状況は聞いてると思うが群れで魔物が出たらしい。滅多に出ないような強い個体も何体かいるらしくてな。自分はしばらく席を外す」
冒険者のルーウェンさんは助勢に行くつもりらしくどこから出したのか、俺の背丈ぐらいありそうな大きな剣を取り出して戦支度を整えていた。外からは未だに警鐘が聞こえるし、慌ただしく人が移動しているのが分かる。俺はどうすべきか、答えは決まっていた。
「俺も行ってくるからさ、ラティエ、二人のこと頼んでいい?」
俺が役に立つかは分からないけれど、魔法もどきもあるし行かないのはなんだか格好悪い。あまり勝手な行動をするとアイリスさんが戻ってきた後のことが不安だけれど、ある意味自分の力を力を試せる機会でもあるから逃したくない。今後の為にも、自分の能力の範囲を知っておくことは重要になってくると思うし、なにより胸騒ぎがする。全くもって根拠はないけれど俺も行った方がいいような気がする。
「駄目です!危険すぎます。ここは本職の皆さんに任せましょう」
ラティエからは反対の声が上がる。確かにラティエの言うことは的を得ているし、ぐうの音も出ないほどの正論だ。わかっているのにどうしても引き下がれない自分がいるのはなぜだろう。
「君の意思に異論を唱えるつもりはないが、本当に来る気か?」
ルーウェンさんの言葉に深く頷く。
不意につんつんと服の袖を引っ張られる。
袖を引いているアートはもの言いたげな視線を寄越してくるけれど、俺は深くは考えなかった。
「すぐ帰ってくるからな」
そう言って頭を撫でてみたがアートは目線を動かすことなく、俺が店を出るまで俺を見つめ続けていた。
ミュアの話を聞いてすぐ、大事な話をするからとラティエを連れ出した俺は今、人気の少ない路地で仁王立ちをしている。目の前の美人はしゅんと落ち込んだ顔をしているけれど、俺は騙されないぞ。
男が妊娠とか絶対にありえない、だけど異世界ならそういうのもあり得るのかも、と拮抗する思いを抱え、本人に確認してみるとミュアの言った通り妊娠の可能性もあると言われた俺の心中を一体だれが理解できるだろうか。まぁその時は大分動揺したけど、一通り話を聞いてみると、どうやら実際に妊娠するケースはけっこう稀で、条件がそろわないと成立する可能性は低いらしい。だからといっていらぬリスクを背負うなんてまっぴらだけど。
「もちろん、万が一のことがあれば責任はとるつもりでした、最初から」
「いや、俺が言ってるのはそういうことじゃなくて!もしこれで……に、妊娠なんてことになったら困るだろ。魔王だって何とかしないといけないし、第一、俺には元の世界での生活だってあるんだ。俺はちゃんと向こうに戻るつもりだし、そういう不安要素は抱えたくなんだよ。事情が事情なんだからさ、頼むからそういうのは本当に好きなやつとしてくれ」
相手の顔色を窺うことなく一気に言い切る。いちいち言うつもりははいけれど、ここでの好きなやつとは、思いが通じ合って尚且つ未来がある相手のこと。
昨日はちょっと絆されかけたけど、俺はこの世界に留まる気は全くないし、最低限魔王問題だけ解決して後は機会さえあれば、すぐにでも日本に帰りたい。当然もっと怒る権利はあるんだろうけど、他人に対して本気で怒ることなんてそうあることじゃないし、怒り方が分からない。
「本当に好きな方……ですか?」
「うん、本当に好きな人。責任っていう言葉はそういう人に対して使うべきだと思うぞ?」
「そう、ですよね」
何か思い当たることがあるのか、ラティエは考え込むような仕草で固まってしまった。まさか、言い過ぎたのか?え、本当ならもっと怒っていいところを抑えているんだけれど。わりと普通なことを言っただけだし、傷つけてはないよな?黙り込んでしまった彼の姿になんだか罪悪感が募ってきて大幅に勢いが削がれる。
「では、レイト様」
「本当ならこのような場所で申し上げたくはないのですが……」
一瞬だけ不満気に眉を寄せたラティエは俺の右手をすくい上げると、手の甲に触れるか触れないかの優しいキスを落とした。予想を超えてくる彼の行動に開いた口が塞がらない。そのまま手を引かれ、至近距離でアメジストの瞳と視線がかち合う。反射的に逸らそうとするけれど俺は吸いこまれるようにその紫から目が離せなくなる。状況を忘れて散々見つめ合った後、ラティエが祈りを捧げるような態勢で地に膝をつく。手は握ったまま座り込むから、本当に祈られてるみたいだ。
「どうか私と結婚して頂けませんか?」
「…………は?」
ケッコン?
あまりに整った顔が俺を見上げて目を細める。まるで、眩しいものでも見るような視線に頬が引きつるのを感じながら俺は掛けられた言葉を処理しようとするがどうやら俺の脳は正常ではないらしい。たぶん疲れが出たんだ。異世界疲れ。結婚って聞こえた。予想外に予想外が重なって自分の思考回路がどこまで正常なのか分からないので、そういうときは本人に聞き返すのが無難だと思う。
「……もしかして、けっこんって?あの結婚?」
自分が大分参ってると悟った俺は聞き間違いを訂正し、正しい言葉に直すために聞き返したつもりだったが、ラティエは小首を傾げ意味が分からないとでも言いたげな顔をする。昨夜のことといい……やばい、察しそう。
「結婚という言葉には意味は一つしかないと思いますが……」
「いや、そんなことないよ!あるよ!ほら、血痕とか……血痕とか……。……ごめん、それ本気で言ってる?」
「レイト様?落ち着いてください。もちろん本気です。私はあなたに求婚しているのですよ」
分かりますか?と言われながら頬を撫でられる。お前が落ち着けよ。分かりますけど分かりません。話が飛躍してわからないです。
「な、なんでそんな急に……」
「昨晩申しましたよ?貴方のことが好きです、と」
あー、なんか言われた。聞いた気がする。結婚を考えるほど本気だったとは思ってなかった、俺の落ち度だ。まぁ、それでも急なことに変わりはないけどね。
「いや、でも、あの時はほら、誤解が、誤解があったじゃないですか。そんなに結果を焦らないで……深呼吸、深呼吸。そういうのはもっとじっくり考えないと。人生掛かってるし、誰でもいいわけじゃ……」
「誰でもではありません!貴方だから……。ねぇ、レイト様。ずっと一緒にいて下さると約束してくださいませんか?」
「いや、だから俺向こうの世界に帰るつもりだし、結婚とかいくらなんでも……。べつに俺達恋人同士でもないし」
「では、昨夜は遊びだったと?誰にでも身体を開くおつもりですか?」
「はっ!?か、身体って……そんなわけないだろ!?」
「では、多少でも私を好いてくださっているということですね?まさか陽の下の使者様ともあろうお方が誰にでも身体を許すわけないですものね」
だから、昨夜は女の子だと思ってたんだよぉ!!確かに魔が差したのはあったし、こんな綺麗な人とできる機会そうそう無いからラッキーとも思ったよ。っていうか、俺の回想ここだけ聞いたら最低なクズ男じゃんか。うわぁ、大学時代の苦い思い出が蘇りそう。
違う違う!あくまでも下になったのは俺だし、何もそんな言い方しなくても……。それ好意の有無を否定したら、ビッチ確定じゃん。誤解と不名誉が過ぎる。
「たしかに、ラティエのことは好きだよ。だけどお前の好きと同じだけの気持ちは返せない」
普通会って数日の奴にプロポーズはしないよな。
ラティエは綺麗で気が利くし博識で、こんな人間が嫌いなやついるのかなって思うけど、それこそが俺への感情は一時的なものだと物語っている。俺は彼に特別気に気に入られるような行動はしていないし、顔だってラティエとは比べ物にならない。中身もいたって平凡。この世界での取り柄といえば『使者様』っていう肩書と、よくわからない『魔法に似た何か』の能力だけ。そんな胡散臭い人間にどうやったらラティエのような人種が恋に落ちるのだろうか。もっと周りをよく見ろ、選び放題だぞと言いたくなる。
「今はそれで構いません。でも、もしも_____」
まだ何かあるのかと再びラティエの話に耳を傾けようとしたとき、地面を揺らすような鐘の音があたり一帯に響き渡った。
「な、なにっ?」
断続的に響く脳天を揺らすかのような音に思わず両耳を塞ぎながら大通りに出る。事態は掴めないが何かが起こっているのは確かなようで、大通りでは大声で人の流れを誘導している人までいる。
「あの、何があったんですか?」
目の前を流れていく人の波を見てただ事ではない気配を察してはいるけど、こんな時はどう行動すればいいのか分からない。タイミングよく目の前を通った若い男性に声を掛けると、その男性は焦った様子で早口で説明をしてくれる。
「町の周辺に魔物が出たらしい。しかもちょっとやそっとじゃねぇ。今までにないぐらいの大群だ。冒険者は前線に集まってる。お前たち冒険者じゃないだろう?だったらさっさと逃げた方がいいぜ。といっても町の外に出るのは自殺行為だな、どっかに隠れとけ。すまない、俺はもう行く」
一呼吸も置くことなく一気にここまで喋りきる男性にちょっと気押される。くれぐれも気をつけろよと肩を叩かれ、俺はその人が走り去っていく姿を呆気に取られて見送った。切羽詰まっていたみたいだからかなりまずい状況なんだろう。事態を察した俺たちは無言で顔を見合わせる。
「とりあえず、みんなと合流しよう」
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「二人とも大丈夫だった!?」
店内にいた三人にもその情報は届いていたようで店に入った途端、顔を真っ青にしたミュアが開口一番にそう尋ねてくる。
「俺達は大丈夫だよ、ミュアこそ顔色悪いけど大丈夫?」
「うん、平気だよ。少し怖いだけ。…………大丈夫、大丈夫。僕なら出来る」
相当怖がっているようで、血の気の引いた顔をして身体を震わせながら大丈夫と繰り返しているミュア。まだ子供だし、怖いのも当たり前か。アートは大丈夫かと心配になって目を向けるけれど彼の場合はやっぱり通常運転でこの中で一番冷静といっても過言はなさそうだ。
「状況は聞いてると思うが群れで魔物が出たらしい。滅多に出ないような強い個体も何体かいるらしくてな。自分はしばらく席を外す」
冒険者のルーウェンさんは助勢に行くつもりらしくどこから出したのか、俺の背丈ぐらいありそうな大きな剣を取り出して戦支度を整えていた。外からは未だに警鐘が聞こえるし、慌ただしく人が移動しているのが分かる。俺はどうすべきか、答えは決まっていた。
「俺も行ってくるからさ、ラティエ、二人のこと頼んでいい?」
俺が役に立つかは分からないけれど、魔法もどきもあるし行かないのはなんだか格好悪い。あまり勝手な行動をするとアイリスさんが戻ってきた後のことが不安だけれど、ある意味自分の力を力を試せる機会でもあるから逃したくない。今後の為にも、自分の能力の範囲を知っておくことは重要になってくると思うし、なにより胸騒ぎがする。全くもって根拠はないけれど俺も行った方がいいような気がする。
「駄目です!危険すぎます。ここは本職の皆さんに任せましょう」
ラティエからは反対の声が上がる。確かにラティエの言うことは的を得ているし、ぐうの音も出ないほどの正論だ。わかっているのにどうしても引き下がれない自分がいるのはなぜだろう。
「君の意思に異論を唱えるつもりはないが、本当に来る気か?」
ルーウェンさんの言葉に深く頷く。
不意につんつんと服の袖を引っ張られる。
袖を引いているアートはもの言いたげな視線を寄越してくるけれど、俺は深くは考えなかった。
「すぐ帰ってくるからな」
そう言って頭を撫でてみたがアートは目線を動かすことなく、俺が店を出るまで俺を見つめ続けていた。
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