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軽食を取った後、俺は再び携帯で連絡を試みたがやはり圏外で、通話どころか衛星通信全般が使用不可になっていた。すっかり雨が上がった空は清々しいまでの晴天。
車を降り、車輪の様子を確認する。しかし車輪は想定より深く泥に嵌まって二進も三進もいかなくなっていた。子供と協力して押しても、引いても抜けそうにない。
そして俺は今、全く知らない土地を歩いている。
煉瓦造りの建造物に、馬を引く人。あまい焼き菓子っぽい匂いと、こちらに好奇の目を向ける人々。俺の地元付近だったはずの現在地からは考えつかないような街並みを進む。洒落た石畳の上を物が詰め込まれた俺のキャリーバッグが騒がしく進む。俺は右手では荷物を引き、左手は金髪の子供と手を繋いだ状態で進んでいた。
人間、本気で驚くと無になるんだな。さっきから大したリアクションも出来てないような気がする。映画のセットに迷い混んだような状況に喜びも、好奇心も全く湧かない。切実に帰りたい。
車は乗り捨てたさ。動かないからな。不法投棄でもなんとでも言え。俺だって捨てたくなかったさ。
それに、やけにカラフルな頭の住民(?)の視線が痛い。小声でひそひそ言い合っているのが丸聞こえだ。しかも日本語。本当によく分からない。何だよ、全員なんちゃって外国人かよ。ちらりと周りを見渡せば明らかに日本人ではない集団。でも喋っている言語は日本語だな。というか、日本国内なのに純粋な日本人のなりをしている俺が目立つってどういうことだよ。
思わず米神を押さえたくなるが、両手が塞がっていて出来ない。しかもその謎の外国人達は口々に
「魔の森から出てきたわ…」
だの
「凄い真っ黒な髪と目だ…」
だの
しまいには
「あれが伝承の…」
など言い出す始末。
お前達、聞こえているからな。こいつらは揃いも揃って中二病か何かか?いい歳こいて大丈夫か?あと、なんで俺の容姿で驚くんだよ。アジア人見たことないんですーとは言わせねぇぞ。瞑目した俺を金髪の子供が心配そうに見上げる。なんだ、もしかしてお前の出身地か。流石に無いか。あり得ない状況においてはあり得ない思考に陥るものだな。正気って何?おいしいの?
あ、そうだついでに伝えておくとこの子供意外と身長は高い。立たせてみると150cmはあった。顔立ちが幼いから立たせて初めて気付いた。意外にでけぇと。俺の身長が172cmだから、俺よりは高くなるんだろうね。これが人種の差か。
脳内で現実逃避をしていると、前から声を掛けられた。
「あなたが陽の下の使者様なのですね」
見れば初老の男性が立っていた。その後ろに何人か控えていることから、皆で聞きに来た感じなのかな?で、なんだっけ、日の本の何?
聞き返そうと口を開き掛けたが悲しいことに俺の口は開きっぱなしになってしまう。なんと目の前の数人が一斉に膝まずいたではありませんか。これはまさに開いた口が塞がらないというやつだな。分からん。目の前の男はいきなりキャリーバッグを持っていた方の俺の手を取ると、何を思ったかそのまま頬擦りして来やがった。
一瞬で全身に鳥肌が立ったな。条件反射ってすげぇ。目の前の頬擦り変質者にドン引きして、視線をさ迷わせる。隣の子供が目に入ったが、こいつはこいつでこのおっさんを射殺せんばかりに睨み付けている。Killスキル高そうだね。
そんなに睨むほど何が気に入らないのかと自分の状態を棚に上げ考える。そこではたと気付いてしまった。まさか、このおっさんが子供を道路に放置するなんていう虐待(暫定)をしたのか!?でもだったらここまで凄い顔で睨んでいるのも頷ける。うわ、児童虐待(暫定)とか最悪だな。
「………とはなんたる光栄…」
小声でなんか言ってるし気色悪いわ。そして少年よ。そんなに睨むほどこいつが嫌いなのか。だったらこんなおっさんに用はねぇよな。おっさんから少々強めに手を引っこ抜くと、荷物と子供を連れて数歩下がる。
「すいません、先を急いでいるので」
早く電話借りてぇんだよ!余計なことで時間取らせんな!
絶対に口には出せないので心のなかでこっそりと文句を言い、早々に歩きだそうとする。しかし、また予想外のことが起こる。もう予想外が続き過ぎて、感覚なくなりそう。なんと目の前のおっさんを含む周囲の野次馬が一斉に喜び立ったのだ。
「おお!王都向かうのですね!」
「やはり、陽の下の使者さまであられるのか」
「なんと……!」
色めきだった周囲に完全に取り残されている俺。なんだ?おうとって?嘔吐ではないよな?王都か?
あと、隣の少年の殺気がそろそろカンストするぞ。
「使者さまにご足労頂くなんてとんでもない。先ほど伝令を出しましたのでじきに、我が国きっての精鋭、聖王騎士団がお迎えに上がります。どうぞ使者さま。我が家でお食事をお召し上がり下さい。申し遅れました。私、この土地一帯を治めております、ワグナーというものです。お見知りおきを。いや、しかし使者さまをこの目で見れる日が来ようとは……」
云々かんぬんと、話続けるおっさ…ワグナーさん。正気めちゃくちゃ怖いんだが。なんだ騎士団って氣◯團か?まぁ食事はぶっちゃけありがたいし、電話も借りたいけど…
未だに手を繋いだままの金髪頭の方をちらりと見ると、首がどうにかなってしまうのではないかというほど凄い勢いで頭を横に振っている。そんなに嫌か。まぁ嫌だよな。
「すいません、ありがたいお話ではあるのですが…」
丁重にお断りを入れようとしたが、群がった人に「ぜひ、ぜひ」とどんどん誘導されていく。通勤ラッシュに飲まれるサラリーマンの気分を味わいながら、ややこしそうな現状に気が遠くなる。
車を降り、車輪の様子を確認する。しかし車輪は想定より深く泥に嵌まって二進も三進もいかなくなっていた。子供と協力して押しても、引いても抜けそうにない。
そして俺は今、全く知らない土地を歩いている。
煉瓦造りの建造物に、馬を引く人。あまい焼き菓子っぽい匂いと、こちらに好奇の目を向ける人々。俺の地元付近だったはずの現在地からは考えつかないような街並みを進む。洒落た石畳の上を物が詰め込まれた俺のキャリーバッグが騒がしく進む。俺は右手では荷物を引き、左手は金髪の子供と手を繋いだ状態で進んでいた。
人間、本気で驚くと無になるんだな。さっきから大したリアクションも出来てないような気がする。映画のセットに迷い混んだような状況に喜びも、好奇心も全く湧かない。切実に帰りたい。
車は乗り捨てたさ。動かないからな。不法投棄でもなんとでも言え。俺だって捨てたくなかったさ。
それに、やけにカラフルな頭の住民(?)の視線が痛い。小声でひそひそ言い合っているのが丸聞こえだ。しかも日本語。本当によく分からない。何だよ、全員なんちゃって外国人かよ。ちらりと周りを見渡せば明らかに日本人ではない集団。でも喋っている言語は日本語だな。というか、日本国内なのに純粋な日本人のなりをしている俺が目立つってどういうことだよ。
思わず米神を押さえたくなるが、両手が塞がっていて出来ない。しかもその謎の外国人達は口々に
「魔の森から出てきたわ…」
だの
「凄い真っ黒な髪と目だ…」
だの
しまいには
「あれが伝承の…」
など言い出す始末。
お前達、聞こえているからな。こいつらは揃いも揃って中二病か何かか?いい歳こいて大丈夫か?あと、なんで俺の容姿で驚くんだよ。アジア人見たことないんですーとは言わせねぇぞ。瞑目した俺を金髪の子供が心配そうに見上げる。なんだ、もしかしてお前の出身地か。流石に無いか。あり得ない状況においてはあり得ない思考に陥るものだな。正気って何?おいしいの?
あ、そうだついでに伝えておくとこの子供意外と身長は高い。立たせてみると150cmはあった。顔立ちが幼いから立たせて初めて気付いた。意外にでけぇと。俺の身長が172cmだから、俺よりは高くなるんだろうね。これが人種の差か。
脳内で現実逃避をしていると、前から声を掛けられた。
「あなたが陽の下の使者様なのですね」
見れば初老の男性が立っていた。その後ろに何人か控えていることから、皆で聞きに来た感じなのかな?で、なんだっけ、日の本の何?
聞き返そうと口を開き掛けたが悲しいことに俺の口は開きっぱなしになってしまう。なんと目の前の数人が一斉に膝まずいたではありませんか。これはまさに開いた口が塞がらないというやつだな。分からん。目の前の男はいきなりキャリーバッグを持っていた方の俺の手を取ると、何を思ったかそのまま頬擦りして来やがった。
一瞬で全身に鳥肌が立ったな。条件反射ってすげぇ。目の前の頬擦り変質者にドン引きして、視線をさ迷わせる。隣の子供が目に入ったが、こいつはこいつでこのおっさんを射殺せんばかりに睨み付けている。Killスキル高そうだね。
そんなに睨むほど何が気に入らないのかと自分の状態を棚に上げ考える。そこではたと気付いてしまった。まさか、このおっさんが子供を道路に放置するなんていう虐待(暫定)をしたのか!?でもだったらここまで凄い顔で睨んでいるのも頷ける。うわ、児童虐待(暫定)とか最悪だな。
「………とはなんたる光栄…」
小声でなんか言ってるし気色悪いわ。そして少年よ。そんなに睨むほどこいつが嫌いなのか。だったらこんなおっさんに用はねぇよな。おっさんから少々強めに手を引っこ抜くと、荷物と子供を連れて数歩下がる。
「すいません、先を急いでいるので」
早く電話借りてぇんだよ!余計なことで時間取らせんな!
絶対に口には出せないので心のなかでこっそりと文句を言い、早々に歩きだそうとする。しかし、また予想外のことが起こる。もう予想外が続き過ぎて、感覚なくなりそう。なんと目の前のおっさんを含む周囲の野次馬が一斉に喜び立ったのだ。
「おお!王都向かうのですね!」
「やはり、陽の下の使者さまであられるのか」
「なんと……!」
色めきだった周囲に完全に取り残されている俺。なんだ?おうとって?嘔吐ではないよな?王都か?
あと、隣の少年の殺気がそろそろカンストするぞ。
「使者さまにご足労頂くなんてとんでもない。先ほど伝令を出しましたのでじきに、我が国きっての精鋭、聖王騎士団がお迎えに上がります。どうぞ使者さま。我が家でお食事をお召し上がり下さい。申し遅れました。私、この土地一帯を治めております、ワグナーというものです。お見知りおきを。いや、しかし使者さまをこの目で見れる日が来ようとは……」
云々かんぬんと、話続けるおっさ…ワグナーさん。正気めちゃくちゃ怖いんだが。なんだ騎士団って氣◯團か?まぁ食事はぶっちゃけありがたいし、電話も借りたいけど…
未だに手を繋いだままの金髪頭の方をちらりと見ると、首がどうにかなってしまうのではないかというほど凄い勢いで頭を横に振っている。そんなに嫌か。まぁ嫌だよな。
「すいません、ありがたいお話ではあるのですが…」
丁重にお断りを入れようとしたが、群がった人に「ぜひ、ぜひ」とどんどん誘導されていく。通勤ラッシュに飲まれるサラリーマンの気分を味わいながら、ややこしそうな現状に気が遠くなる。
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