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銭ゲバ事件簿2
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やっとこご紹介にあずかったニコラは、さっさと肉の代金を犬の飼い主に弁償させてやりたい。
早く切り出して、金を請求したいところなのだが、なんだかベラベラと、目の前の貴族たちが天気だの庭だのの大変つまらない話を始めたのを、ニコラはいつ切り出そうかと、じっと待っていた。
半刻ほど、実につまらない話を聞かされていたのち、やっとニコラにチャンスが回ってきた。
「それで、マシェント伯爵令嬢。貴方今日は、うちに何か御用でお越しだって、オットー先生がおっしゃていたけれど、何の御用ですの?」
このあまりにつまらない貴族的な会話が目の前で繰り広げたる中、山盛りに結って盛りに盛った美しい金髪と、これでもかとフリルをつけた美しい黄色い布地でできたドレスを纏ったこのエベリンお嬢様を目をすがめて焦点をぼやかして見たら、動く金塊みたいだな、とニコラはこっそり遊んでいたのだ。そんなわけで、いきなり金塊・・もといお嬢様に話を振られて、びっくりしてしまって言葉がうまいこと貴族的につなげなかった。
「あ、ええと、犬を追ってきたのです」
「犬?」
ここで、色々やんわり言い方をオブラートにつつんで、いいたい事を伝えるのが貴族のやり方だと、ジャンは言っていたのだが、すっかり抜けてしまった。
「ええ、魔獣肉を私の手から、盗っていった大きな犬。拿捕の魔術をかけたら、公爵家の裏口に、消えましたの」
なんのオブラートにも包まずに、ニコラは、今日あった出来事をそのまま伝えてしまった。
「ま、魔獣肉だと??」
今さっきニコラに奢ってもらった肉が、魔獣肉だと知ったキャスが動揺する。貴族は魔獣肉なんぞ食わないのだ。
「ええ、キャス。魔獣肉よ。それも、三番目の胃の部分」
ニコラは涼しい顔だが、キャスは動揺している。魔獣の肉の、しかも内臓だ。結構グロい食材に値する。
「それで、飼い主を探しておりますの」
そこまで言い切ると、ニコラはやっと落ち着いて、手元の紅茶に手を伸ばした。
(いけね、貴族っぽい事なんもしてないわ)
美味いのかよくはわからんが、不思議な匂いはした。大体こういう香りがする紅茶は、やたらと高いと相場が決まっているが、この香りはこのアストリア国では、存在してはいけない香りだ。
「ところで、さすが公爵家、素晴らしい紅茶ですわね」
ニコラは、少し落ち着いたので、貴族のマナーはとりあえず褒める所だった、ととりあえず手元の紅茶を褒めたのだ。
「この茶葉は、ハドソン川から向こうのものですね。公爵家ともなると、こんな茶葉でも入手できますのね」
ニコラはゆっくり微笑を浮かべて、お嬢様にそう、語りかける。
ハドソン川を挟んで向こう側は、ちょっと天候がこちら側とは違うので、紅茶の茶葉の香りが違ってくる。
この
向こう側で一仕事してきた澱む水の魔女と呼ばれている魔女が、出張中にほったらかしておいた家の掃除をニコラに依頼した事があったのだ。
澱む水の魔女は、隣国の娼館に呼ばれていたとかで、娼館からガメてきた、ちょっと高級な茶葉をご馳走になった。この魔女は茶葉の趣味があったので、手伝いに行くたびに紅茶を振る舞ってくれたが、別に優しいわけでもなんでもなく、一回紅茶を入れたら2回目の出涸らしも、絶対飲みたいのだが、一人でそんなに飲めないという、ただそれだけの理由だ。
なお、一応隣国とは臨戦状態にあるので、渡航はできないはず。
だが魔女たちは国境なんぞの縛りを気にする性質ではないので、ポーション作成に必要な材料などを揃える時は、こっそり国境を越えたりして、向こう側から色々入手してくるのだ。
川向こうの魔女のテリトリーを荒らさない限り、魔女たちは基本的に、どこに行こうが自由。
一応は国の法律は魔女にも当てはめられるのだが、魔女たちは別の理で生きている。
国に害を及ぼさない限りは、比較的魔女の法律違反には、どの国も寛容だし、そもそも魔女と関わり合いになるのは、どの国のお役人だってごめんなのだ。
早く切り出して、金を請求したいところなのだが、なんだかベラベラと、目の前の貴族たちが天気だの庭だのの大変つまらない話を始めたのを、ニコラはいつ切り出そうかと、じっと待っていた。
半刻ほど、実につまらない話を聞かされていたのち、やっとニコラにチャンスが回ってきた。
「それで、マシェント伯爵令嬢。貴方今日は、うちに何か御用でお越しだって、オットー先生がおっしゃていたけれど、何の御用ですの?」
このあまりにつまらない貴族的な会話が目の前で繰り広げたる中、山盛りに結って盛りに盛った美しい金髪と、これでもかとフリルをつけた美しい黄色い布地でできたドレスを纏ったこのエベリンお嬢様を目をすがめて焦点をぼやかして見たら、動く金塊みたいだな、とニコラはこっそり遊んでいたのだ。そんなわけで、いきなり金塊・・もといお嬢様に話を振られて、びっくりしてしまって言葉がうまいこと貴族的につなげなかった。
「あ、ええと、犬を追ってきたのです」
「犬?」
ここで、色々やんわり言い方をオブラートにつつんで、いいたい事を伝えるのが貴族のやり方だと、ジャンは言っていたのだが、すっかり抜けてしまった。
「ええ、魔獣肉を私の手から、盗っていった大きな犬。拿捕の魔術をかけたら、公爵家の裏口に、消えましたの」
なんのオブラートにも包まずに、ニコラは、今日あった出来事をそのまま伝えてしまった。
「ま、魔獣肉だと??」
今さっきニコラに奢ってもらった肉が、魔獣肉だと知ったキャスが動揺する。貴族は魔獣肉なんぞ食わないのだ。
「ええ、キャス。魔獣肉よ。それも、三番目の胃の部分」
ニコラは涼しい顔だが、キャスは動揺している。魔獣の肉の、しかも内臓だ。結構グロい食材に値する。
「それで、飼い主を探しておりますの」
そこまで言い切ると、ニコラはやっと落ち着いて、手元の紅茶に手を伸ばした。
(いけね、貴族っぽい事なんもしてないわ)
美味いのかよくはわからんが、不思議な匂いはした。大体こういう香りがする紅茶は、やたらと高いと相場が決まっているが、この香りはこのアストリア国では、存在してはいけない香りだ。
「ところで、さすが公爵家、素晴らしい紅茶ですわね」
ニコラは、少し落ち着いたので、貴族のマナーはとりあえず褒める所だった、ととりあえず手元の紅茶を褒めたのだ。
「この茶葉は、ハドソン川から向こうのものですね。公爵家ともなると、こんな茶葉でも入手できますのね」
ニコラはゆっくり微笑を浮かべて、お嬢様にそう、語りかける。
ハドソン川を挟んで向こう側は、ちょっと天候がこちら側とは違うので、紅茶の茶葉の香りが違ってくる。
この
向こう側で一仕事してきた澱む水の魔女と呼ばれている魔女が、出張中にほったらかしておいた家の掃除をニコラに依頼した事があったのだ。
澱む水の魔女は、隣国の娼館に呼ばれていたとかで、娼館からガメてきた、ちょっと高級な茶葉をご馳走になった。この魔女は茶葉の趣味があったので、手伝いに行くたびに紅茶を振る舞ってくれたが、別に優しいわけでもなんでもなく、一回紅茶を入れたら2回目の出涸らしも、絶対飲みたいのだが、一人でそんなに飲めないという、ただそれだけの理由だ。
なお、一応隣国とは臨戦状態にあるので、渡航はできないはず。
だが魔女たちは国境なんぞの縛りを気にする性質ではないので、ポーション作成に必要な材料などを揃える時は、こっそり国境を越えたりして、向こう側から色々入手してくるのだ。
川向こうの魔女のテリトリーを荒らさない限り、魔女たちは基本的に、どこに行こうが自由。
一応は国の法律は魔女にも当てはめられるのだが、魔女たちは別の理で生きている。
国に害を及ぼさない限りは、比較的魔女の法律違反には、どの国も寛容だし、そもそも魔女と関わり合いになるのは、どの国のお役人だってごめんなのだ。
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