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銭ゲバ事件簿1

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「ご令嬢、どうぞ涙を拭ってください・・」

男爵は、流れ落ちるニコラの頬のものを見て、慌てて、胸ポケットから、美しい刺繍の入ったハンカチをニコラに差し出す。

(こりゃ上手な刺繍ね、銀貨5枚くらいになりそうじゃない。売り物で見たことはないから、どっかの貴族のお嬢さんのお手製ってとこかしら。)

じっとハンカチを見つめていたニコラは、遠慮なく、でもこの高級なハンカチの肌触りを堪能すべく、、そっと目を押し当てる。

(でひゃひゃ、高級品は水分の吸いもいいわね。)

(いけね、鼻水つけちゃった。)

流石に鼻水つけたハンカチを返すのは恥ずかしい。
ニコラにだって、羞恥心は一応は備わっている。少しおずおずと、申し出る。

「男爵様・・洗ってお返しします。」

「いえ、それはご令嬢、あなたに差し上げます。」

男爵は、ドギマギとしながらも、ニコラにこのハンカチをくれるというではないか。

(え、本当?こいつ悪いやつじゃないじゃない。)

今度は思わず漏れ出たゲスくて悪い笑顔を隠すために、ガッツリとその綺麗な顔を、ハンカチに埋める。

もう耐えかねて、号泣モードに入ったと男爵は思ったのだろう。

男は、口を割った。

「・・はい。昨日ベンを連れていったのは、この私です。そこにいる姉に、お願いされました。」

隊で一番大柄な男のデビッドが、魔法縄の準備を始めた。
モートン男爵は、デビッドより大きい。おそらく拿捕には、時間がかかるだろう。

「なるほど。では実行犯は、あなたで、依頼人は、スミス夫人という事ですね。ベン様はご無事でしょうか。」

隊員達は、デビッドを先頭に魔法縄を錬成し始め、拿捕の用意だ。

淡々と、質問を続けるジャンに、そこで、(ん?)この義理の姉弟は不思議そうに顔を見合わせる。

夫人が、おずおずと、話し出す。

「ええ、確かに、私が義弟にベンを連れて出てくるようにお願いしましたけど、犯人って、なんの事です?」

この後に及んで、盗人猛々しい。
デビッドが、魔法縄の準備をしながら、面倒臭そうに答えた。縄の錬成には集中力がいるのだ。邪魔しないでほしい。

「誘拐犯ですよ」

「「はあ?」」

二人が声を合わせる。

「騎士様、とんでもない間違いですわ!ベンは母親の所に遊びにいっているだけですわ!」

「ですが伯爵が・・」

フォレストが言葉を繋ごうとしたが、夫人はその最初の言葉で、何が起こっていたのか把握したらしい。きっと、厳しい目を男爵に向け、淑女らしからぬ大声で、この男爵に怒鳴りつける。

「キャス!あなた、また忘れたの??お兄様にメッセージも書かずに連れていったんじゃないでしょうね!」

「い、いや、姉さんそれは誤解だ!書いたけど、置いていくの、多分忘れただけだよ!」

「お駄賃返しなさい!」

「やだよ、僕もうお金使っちゃったもん!」

なんだか、おかしい。

この30がらみの大男、まるでお遣いもロクにできない、甘やかされた10代の子供のようではないか。

「騎士様、お恥ずかしい所を。ベンを母親のところに連れて行くように指示したのは私です。今日はベンの母親の誕生日ですの。お兄様と顔を合わせるのは鬱陶しいので、キャスにお小遣いをやってお願いしたのですが、このキャスは本当に、何もできないんだから!」

ペシン、とこの男の頭を叩くご夫人は相当ご立腹の様子。

いってええ、と大男は子供のごとくだ。

「あー、ひとつ確認したいのだけれど、男爵は、おいくつで。。」

スミス夫人は今日一大きなため息をつくと、疲れ切った顔をむけて、いった。

「老けて見えますけど、あれはまだ16歳なんですの。一応男爵は継いだのですがね、あの通りまだまだ子供で、しょっちゅう物も無くすし、お遣いのひとつもロクにできないんですのよ。本当に・・」

スミス夫人は、この老け顔の義理の弟に、ひどく手を焼いているらしい。

「・・なぜ、ベン様など見ていないと、誤魔化そうとしたのです?」

フォレストが、呆れ顔だ。恐ろしい大男だと思って身構えていたら、なんと自分より年下。妹と同じ年の子供だ。

ジャンは、空を仰ぎ見ている。
残留魔力による犯人像は、非常に高い魔力の持ち主で、顔は30代にしか見えなかった。

(まさか老けた顔した貴族の子供・・)

ジャンの能力は、とても便利だが、完璧ではない。
ニコラがいなかったらどうなっていたやら。

(魔力の読み取りだけして、書類に納めて現場に出ていなかったら、この男は捜査対象にも引っ掛からなかっただろう・・)

ジャンの心を知ってかしらずか、スミス夫人は大きなため息と共に、言った。

「・・いい年して、まだお使いしてお小遣いもらっているのが恥ずかしかったのよね、キャス。この子は見てくれは大きいし、魔力も筋力も相当なものなのですけれど、お小遣いはすぐに馬だの魔法防具だのに使ってしまうし、忘れっぽいし、すぐ物を無くすし、本当に手がかかるのですよ。一応士官学校に入れてはいるのですが、こんな状態で卒業させて、世間様のお役にたつのやら・・」

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