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ニコラと、ジャンと。
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「まあ、そうでしたの、隊長様にはとんだ御無礼を。。」
出されたお茶を胸元に抱きしめて、小さくなって、深く頭を下げる。
意識を取り戻したニコラは、ジャンの隊に保護されて、領主の館の中で、事情聴取と、事情説明を受けている最中だ。ニコラは、この美しい館に案内されて、圧倒されて縮こまってしまっているというのに、さらに自分がノシ倒した相手が、自分を双頭の蛇から救助してくれた、しかもここの所のニコラの大変なお得意先である、解呪ポーションの卸先でもある隊長だと知って、もう身の置き所がないのだ。
(こ、このお茶は伯爵家のお茶で、缶一つで銀貨一枚もするやつで、あの蝋燭立ては銅に見えるけど、真鍮で、溶かしたら大体銀貨8枚で、この織物は金貨7枚で、今私が座っている椅子は、えっと。。)
ニコラは一生懸命精神を安定させるために、部屋中のものを銭に換算してみるが、どれを見ても、ニコラの普段扱っている品物とは桁が違うものばかりで、却って精神が落ち着かない。
尚、ニコラが見事な頭突きを放って撃退してしまったジャンは、近距離で綺麗に急所を決められて、現在意識が戻るまで別室で寝かされている模様。
さすがは魔女仕込み、最小の力で一番人間の弱い部分を突くように、ニコラも訓練されている。
ニコラはアップルパイの争奪戦でしかあまり顔を合わせない王都の隊員達の尊敬を、非常に嫌なところで買ってしまい、恥ずかしくて仕方がない。
「いや、あれは隊長のせいでもないし、ニコラちゃんのせいでもないから、気にしないで。隊長はそもそも丈夫だし、役得だからあれくらいのバチは当たっていいよ!」
一番ニコラと年が近く、妹の扱いに慣れているリバーが、この状況を怯えるニコラに説明を買って出たのだ。
リバーの着ているシャツが、清潔にノリもかかっているが、ニコラのソロバンによると、実はおおよそ銅貨で買える安いものだった事がニコラの精神によかったのだろう。
ニコラは少し、落ち着いて、リバーと話をする事ができた。
人当たりの良い、安物のシャツを身につけたこのリバーは、少しずつニコラから辛抱強く聞き出した。
ニコラの曖昧な記憶と、そしてジャンの隊が入手した情報、そして王都からの騎士団の情報を全て集めると、ニコラが魔の森に飛ばされた、当時の状況がようやく見えてくる。
ニコラの本名は、ジャンの推測通り、ニコール・ラ・マシェント伯爵令嬢。
双頭の蛇に襲われた、騎士団長の行方不明になっている一人娘だ。
騎士団の情報によると、首の後ろに、三つのほくろがあるのが、ニコラがニコールである証拠だという。
ニコラがおずおずと、リバーに首の後ろを見せると、リバーは、にっこりと笑って、膝を折って貴婦人に対する挨拶をニコラに捧げた。
そんなところにほくろがあったなど、ニコラは知らなかった。
屋敷が襲撃された際に、父である団長の転移魔法により、魔の森に飛ばされて、満月の魔女に保護されたのだ。
ニコラの父と、満月の魔女には、少しだけ面識があったらしい。
「300年に1度の、西の魔女の大移動の際に、団長が便宜を図ったらしいのです。」
リバーの側で、書記を務めていたリカルドが、騎士団から提供された情報を読み上げた。
魔女達には、魔女達の理がある。
気ままに、なんの規則などないような暮らしをしているように見えるが、魔女は、魔女の厳しい掟の下で、生きているのだ。
ニコラの父が、王都の騎士団の団長であった時に、300年に1度の、西の魔女の大移動があったそうだ。
青い西の星と、その衛星が重なる5月の満月で、満潮の夜に、西の隣国に住まう魔女の全てが、アストリア王都のはずれにある、魔の洞窟で行われる魔女の会合に参加する魔女の伝統だ。
アストリア国の国防上、国からの許可のない西の魔女のアストリア国への移動は許される事ではないが、魔女の伝統はこの国の成り立ちよりも古い。
満月の夜を司る、満月の魔女と、王都の防衛の責任者であるニコラの父は、交渉を重ねて、ニコラの父が何かの便宜を図って魔女達の伝統を損ねないように、移動の手助けをした事があるという。
「だから、魔の森だったのね。。」
ニコラは父の事はほとんど覚えていない。
だが、ニコラの父が、魔女にゆかりのあるような人物でない事は、覚えている。
ニコラがぼんやりと覚えている父は、潔癖で、厳格で、そして高潔だった。おおよそ魔女とは正反対だ。
ニコラは結果論として、元々のニコラの性格もあったのだろうが、こき使われながらも、魔女とは相性はよく、仲良く楽しく今まで暮らしてきたが、もしも魔女がニコラを疎んでいたら、ニコラはどんな人生を、送っていただろう。
「魔女は面倒で、しつこくて、始末に負えないですが、貸しにされた事は恩義としていつまでも覚えています。貴女が今、無事に生きていられるのは、魔女と、そしてお父上の高潔なお人柄の賜物でもあるのでしょう。」
リカルドは、当時のニコラの父の英断に、嘆息する。
絶命の危機に、娘の命をどこに託すかのぎりぎりの瀬戸際の判断で、伯爵令嬢を、忌み嫌われる魔女に託す事を思うなど、リカルドでは考えもつかないのだ。
しんみりとした雰囲気の中、リバーだけが、一人にやにやと続けた。
「あと、ニコラちゃんが今生きてるのは、隊長のおかげでもあるんだよ!隊長は、魔女と交渉して、ニコラちゃんを救い出したんだ。ニコラを愛している!って川の真ん中で、魔女を前にして大宣言して、おとこらしかったなあ!」
出されたお茶を胸元に抱きしめて、小さくなって、深く頭を下げる。
意識を取り戻したニコラは、ジャンの隊に保護されて、領主の館の中で、事情聴取と、事情説明を受けている最中だ。ニコラは、この美しい館に案内されて、圧倒されて縮こまってしまっているというのに、さらに自分がノシ倒した相手が、自分を双頭の蛇から救助してくれた、しかもここの所のニコラの大変なお得意先である、解呪ポーションの卸先でもある隊長だと知って、もう身の置き所がないのだ。
(こ、このお茶は伯爵家のお茶で、缶一つで銀貨一枚もするやつで、あの蝋燭立ては銅に見えるけど、真鍮で、溶かしたら大体銀貨8枚で、この織物は金貨7枚で、今私が座っている椅子は、えっと。。)
ニコラは一生懸命精神を安定させるために、部屋中のものを銭に換算してみるが、どれを見ても、ニコラの普段扱っている品物とは桁が違うものばかりで、却って精神が落ち着かない。
尚、ニコラが見事な頭突きを放って撃退してしまったジャンは、近距離で綺麗に急所を決められて、現在意識が戻るまで別室で寝かされている模様。
さすがは魔女仕込み、最小の力で一番人間の弱い部分を突くように、ニコラも訓練されている。
ニコラはアップルパイの争奪戦でしかあまり顔を合わせない王都の隊員達の尊敬を、非常に嫌なところで買ってしまい、恥ずかしくて仕方がない。
「いや、あれは隊長のせいでもないし、ニコラちゃんのせいでもないから、気にしないで。隊長はそもそも丈夫だし、役得だからあれくらいのバチは当たっていいよ!」
一番ニコラと年が近く、妹の扱いに慣れているリバーが、この状況を怯えるニコラに説明を買って出たのだ。
リバーの着ているシャツが、清潔にノリもかかっているが、ニコラのソロバンによると、実はおおよそ銅貨で買える安いものだった事がニコラの精神によかったのだろう。
ニコラは少し、落ち着いて、リバーと話をする事ができた。
人当たりの良い、安物のシャツを身につけたこのリバーは、少しずつニコラから辛抱強く聞き出した。
ニコラの曖昧な記憶と、そしてジャンの隊が入手した情報、そして王都からの騎士団の情報を全て集めると、ニコラが魔の森に飛ばされた、当時の状況がようやく見えてくる。
ニコラの本名は、ジャンの推測通り、ニコール・ラ・マシェント伯爵令嬢。
双頭の蛇に襲われた、騎士団長の行方不明になっている一人娘だ。
騎士団の情報によると、首の後ろに、三つのほくろがあるのが、ニコラがニコールである証拠だという。
ニコラがおずおずと、リバーに首の後ろを見せると、リバーは、にっこりと笑って、膝を折って貴婦人に対する挨拶をニコラに捧げた。
そんなところにほくろがあったなど、ニコラは知らなかった。
屋敷が襲撃された際に、父である団長の転移魔法により、魔の森に飛ばされて、満月の魔女に保護されたのだ。
ニコラの父と、満月の魔女には、少しだけ面識があったらしい。
「300年に1度の、西の魔女の大移動の際に、団長が便宜を図ったらしいのです。」
リバーの側で、書記を務めていたリカルドが、騎士団から提供された情報を読み上げた。
魔女達には、魔女達の理がある。
気ままに、なんの規則などないような暮らしをしているように見えるが、魔女は、魔女の厳しい掟の下で、生きているのだ。
ニコラの父が、王都の騎士団の団長であった時に、300年に1度の、西の魔女の大移動があったそうだ。
青い西の星と、その衛星が重なる5月の満月で、満潮の夜に、西の隣国に住まう魔女の全てが、アストリア王都のはずれにある、魔の洞窟で行われる魔女の会合に参加する魔女の伝統だ。
アストリア国の国防上、国からの許可のない西の魔女のアストリア国への移動は許される事ではないが、魔女の伝統はこの国の成り立ちよりも古い。
満月の夜を司る、満月の魔女と、王都の防衛の責任者であるニコラの父は、交渉を重ねて、ニコラの父が何かの便宜を図って魔女達の伝統を損ねないように、移動の手助けをした事があるという。
「だから、魔の森だったのね。。」
ニコラは父の事はほとんど覚えていない。
だが、ニコラの父が、魔女にゆかりのあるような人物でない事は、覚えている。
ニコラがぼんやりと覚えている父は、潔癖で、厳格で、そして高潔だった。おおよそ魔女とは正反対だ。
ニコラは結果論として、元々のニコラの性格もあったのだろうが、こき使われながらも、魔女とは相性はよく、仲良く楽しく今まで暮らしてきたが、もしも魔女がニコラを疎んでいたら、ニコラはどんな人生を、送っていただろう。
「魔女は面倒で、しつこくて、始末に負えないですが、貸しにされた事は恩義としていつまでも覚えています。貴女が今、無事に生きていられるのは、魔女と、そしてお父上の高潔なお人柄の賜物でもあるのでしょう。」
リカルドは、当時のニコラの父の英断に、嘆息する。
絶命の危機に、娘の命をどこに託すかのぎりぎりの瀬戸際の判断で、伯爵令嬢を、忌み嫌われる魔女に託す事を思うなど、リカルドでは考えもつかないのだ。
しんみりとした雰囲気の中、リバーだけが、一人にやにやと続けた。
「あと、ニコラちゃんが今生きてるのは、隊長のおかげでもあるんだよ!隊長は、魔女と交渉して、ニコラちゃんを救い出したんだ。ニコラを愛している!って川の真ん中で、魔女を前にして大宣言して、おとこらしかったなあ!」
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