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魔の森から出られない訳
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「めちゃくちゃ美味しいいい!!!!!」
「なにこれこんな美味しいものが世界に存在したの!!」
「鼻血が出る、鼻血が、、出ちゃったきゃああ!!」
ジャンに思考に飛び込んできたのは、ものすごい興奮状態のニコラの思考だ。
もう興奮しすぎて鼻血が出たらしい。
ニコラの興奮が伝わって、胸が早鐘を打つ。
「隊長。」
リカルドは、このポーションの摂取に心配ない事はよく知っているが、やはり声をかけずにいられない。
「ああ、製作者はものすごい興奮状態だ。鼻血まで出してる。おうおう。。」
思わず手元のタオルを、虚空に手渡そうになり、リカルドにそっといなされる。
ジャンはいつでも、基本物腰が柔らかく、冷静沈着だ。
こんなに興奮したのは、前の戦争の最前線以来だ。
しばらく思考の波に身を任せ、不思議そうにしているリカルドに、説明してやる。
「リカルド、信じられるか。」
「何をです?」
「この娘、チョコレートの入ったパンに興奮して、卒倒しそうに興奮してるんだ。」
リカルドは、弾けたように爆笑して、ことの次第を手元の冊子になんとか書きつけている。
だが、ジャンは、自分の胸の早鐘の正体が、どこにでもあるようなチョコレートのクリームが詰まった、パンである事に、もう苦笑を通り越して、なんだか切なくなってしまった。
敵襲の急襲で、絶対絶命の危機だった時でさえ、こんなに興奮しなかったリカルドの心臓を揺さぶっているのは、チョコレートの詰まったパンを、おそらく初めて食べた、ニコラの思考。
(こんな素朴で、可愛い子が、命を狙われていて、魔の森に潜んで生きているなんて。。)
ジャンはニコラの随分と可愛らしい思考にそのまま、身を任せていたが、注意を凝らすと何か、少しおかしい事に気が付く。
ニコラは、なぜだか、疲れ切っている様子なのだ。
それに、いつものニコラなら丁寧に優しい魔術をふんわりとこめる所が、なんだか、最後の力を振り絞ったように、ヒリヒリとした魔力が感じる。
それに、この吝嗇もいいところのニコラが、チョコレートクリームの入ったパンを、どうやって手に入れたんだ。そして、なぜニコラは、今日の朝、水辺にいなかった。
「今日、薬局に行った時に何かいつもと違う事はなかったか?」
リカルドは、不思議そうにジャンを見返したが、
「いえ、何も変わった事は。」
そう言って、ふと思い出した事があったらしい。
「ああ、そうですね、今日のそのポーションは、保冷袋に入っていました。いつもは薬師が作ってから、すぐに運ばれている様子でしたから、保冷袋に入っていなかったのですが、今日は作成してから少し時間が経過したものを持ってきたのでしょうか。」
先ほどの、リバー隊員の言葉が、なぜか気になる。
隊長としての勘が、何かを告げようとしている。
ジャンは、胸の警笛を鳴らして、部下を呼びつけた。
「隊長、何事ですか。」
ジャンは、まだポーションの影響下にいる、いわば酩酊状態。
ポーションの影響下で部下を呼びつけるなど、それは緊急事態以外に何もない。
部下たちは、バタバタとジャンのベッドの周りをぐるりと囲む。
「すまない、今日、ニコラを見たものはいるか。」
隊員達は、お互いの顔を見合わせて、首をかしげる。
「今日はパイの日なのに、そういえば見てないですね。」
「アップルパイだから、絶対に端のカリカリのところを、俺より先にさらって行くだろうと思って待ち構えてたんですが、そういえば俺が狙ってたの取れました。」
ジャンの顔が、さっと青くなる。
「リバー!!」
先ほど穏やかな会話を交わしたはずの、隊長の声の鋭さに慄きながら、リバー隊員が前に出る。
「は!!」
「なんでもいい、頼む、思い出してくれ。昨日憲兵に拿捕された男は、他に何を言っていた??」
リバーは、困惑しながらも少し考えると、思い出したことがあったらしい。
「ええと、見つけたぞ、ニコール・・・そうだ、ニコールという女性の名前を叫んでいました。」
その瞬間、ジャンはリカルドに向き直り、
「リカルド、私は潜る。」
そう言って、ベッドにその身を投げた。
美味い!美味い!ばかりの可愛いニコラの思考の海の、その下の階層にジャンは潜り込む決意をしたのだ。
これは、非常に危険な行為だ。
思考のその下には、意識がある。顕在している意識だけでなく、潜在している意識まで深く触れてしまうと、思考の本来の持ち主の心から乖離することができなくなり、ジャンの精神の均衡が危ぶまれる危険がある。
ジャンは目を閉じた。
(ニコール、ニコラ、無事であってくれ。。)
「なにこれこんな美味しいものが世界に存在したの!!」
「鼻血が出る、鼻血が、、出ちゃったきゃああ!!」
ジャンに思考に飛び込んできたのは、ものすごい興奮状態のニコラの思考だ。
もう興奮しすぎて鼻血が出たらしい。
ニコラの興奮が伝わって、胸が早鐘を打つ。
「隊長。」
リカルドは、このポーションの摂取に心配ない事はよく知っているが、やはり声をかけずにいられない。
「ああ、製作者はものすごい興奮状態だ。鼻血まで出してる。おうおう。。」
思わず手元のタオルを、虚空に手渡そうになり、リカルドにそっといなされる。
ジャンはいつでも、基本物腰が柔らかく、冷静沈着だ。
こんなに興奮したのは、前の戦争の最前線以来だ。
しばらく思考の波に身を任せ、不思議そうにしているリカルドに、説明してやる。
「リカルド、信じられるか。」
「何をです?」
「この娘、チョコレートの入ったパンに興奮して、卒倒しそうに興奮してるんだ。」
リカルドは、弾けたように爆笑して、ことの次第を手元の冊子になんとか書きつけている。
だが、ジャンは、自分の胸の早鐘の正体が、どこにでもあるようなチョコレートのクリームが詰まった、パンである事に、もう苦笑を通り越して、なんだか切なくなってしまった。
敵襲の急襲で、絶対絶命の危機だった時でさえ、こんなに興奮しなかったリカルドの心臓を揺さぶっているのは、チョコレートの詰まったパンを、おそらく初めて食べた、ニコラの思考。
(こんな素朴で、可愛い子が、命を狙われていて、魔の森に潜んで生きているなんて。。)
ジャンはニコラの随分と可愛らしい思考にそのまま、身を任せていたが、注意を凝らすと何か、少しおかしい事に気が付く。
ニコラは、なぜだか、疲れ切っている様子なのだ。
それに、いつものニコラなら丁寧に優しい魔術をふんわりとこめる所が、なんだか、最後の力を振り絞ったように、ヒリヒリとした魔力が感じる。
それに、この吝嗇もいいところのニコラが、チョコレートクリームの入ったパンを、どうやって手に入れたんだ。そして、なぜニコラは、今日の朝、水辺にいなかった。
「今日、薬局に行った時に何かいつもと違う事はなかったか?」
リカルドは、不思議そうにジャンを見返したが、
「いえ、何も変わった事は。」
そう言って、ふと思い出した事があったらしい。
「ああ、そうですね、今日のそのポーションは、保冷袋に入っていました。いつもは薬師が作ってから、すぐに運ばれている様子でしたから、保冷袋に入っていなかったのですが、今日は作成してから少し時間が経過したものを持ってきたのでしょうか。」
先ほどの、リバー隊員の言葉が、なぜか気になる。
隊長としての勘が、何かを告げようとしている。
ジャンは、胸の警笛を鳴らして、部下を呼びつけた。
「隊長、何事ですか。」
ジャンは、まだポーションの影響下にいる、いわば酩酊状態。
ポーションの影響下で部下を呼びつけるなど、それは緊急事態以外に何もない。
部下たちは、バタバタとジャンのベッドの周りをぐるりと囲む。
「すまない、今日、ニコラを見たものはいるか。」
隊員達は、お互いの顔を見合わせて、首をかしげる。
「今日はパイの日なのに、そういえば見てないですね。」
「アップルパイだから、絶対に端のカリカリのところを、俺より先にさらって行くだろうと思って待ち構えてたんですが、そういえば俺が狙ってたの取れました。」
ジャンの顔が、さっと青くなる。
「リバー!!」
先ほど穏やかな会話を交わしたはずの、隊長の声の鋭さに慄きながら、リバー隊員が前に出る。
「は!!」
「なんでもいい、頼む、思い出してくれ。昨日憲兵に拿捕された男は、他に何を言っていた??」
リバーは、困惑しながらも少し考えると、思い出したことがあったらしい。
「ええと、見つけたぞ、ニコール・・・そうだ、ニコールという女性の名前を叫んでいました。」
その瞬間、ジャンはリカルドに向き直り、
「リカルド、私は潜る。」
そう言って、ベッドにその身を投げた。
美味い!美味い!ばかりの可愛いニコラの思考の海の、その下の階層にジャンは潜り込む決意をしたのだ。
これは、非常に危険な行為だ。
思考のその下には、意識がある。顕在している意識だけでなく、潜在している意識まで深く触れてしまうと、思考の本来の持ち主の心から乖離することができなくなり、ジャンの精神の均衡が危ぶまれる危険がある。
ジャンは目を閉じた。
(ニコール、ニコラ、無事であってくれ。。)
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