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お水の神様がついてるのに、お水にならないのは、不幸な話だ

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「お前、一体何杯やらかしたんだ、大体なあ、異世界からやってきてるという自分の立場をな、もうすこし・・」

ぶつぶつとダンテのお説教を聞いてはいるが、何も内容は入ってきちゃいない。
何といっても、記念すべき異世界の初二日酔いだ。

今日はさすがに一人で寝てるのは心細く、カロンの勧めに素直に応じて、居間で、カロンに看病してもらっている。

「さあ、酔いさましだよ」

なんか苦い液体を飲まされる。

「ありがと、カロン・・おええええええ」

異世界の酒は旨いが、チャンポンは禁物だ。
汚物用のバケツまでこんな天使のごとく可愛いカロンに用意してもらって、さすがにいい大人として、申し訳なさすぎて泣きたくなる。

「おい汚いな!本当にこの女はとんでもない・・」

「まあまあ、ダンテ様。ミシェルのおかげだと、聖女様は大変なお喜びでしたよ」

カロンはミシェルの背中をさすりながら、ダンテをたしなめてくれた。

そう、占いの後、ミシェルはアランの腕をひっぱって聖女様の所につれていくと、とりあえずこの娘を綺麗に整えて、海辺につれていけ、それから軍資金をよこせ、と鼻息あらく迫ったのだ。

目を丸くして驚いていた聖女は、ミシェルの要望が相当おもしろかったらしく、すぐに歴代の聖女が安息日に使っている、海際のコテージを手配してくれた。

誰が何といっても受け付けなかった、華やかな装いを、ミシェルがいうならと、アランが了承したのも、聖女にとっては大きな驚きだったらしい。

他の神殿の巫女達も、おもしろがって協力してくれた。

美しく夜遊びにふさわしく華やかに着飾った二人と、同じく美しく着飾った、こちらは多少遊び慣れている他の美しい巫女達の団体は、聖女御用達の海際のコテージからほどちかい、浜辺のバーで、しこたま飲みに飲んだのだ。

アランはミシェルの見立て通り、水辺で心が解放されやすい性質の上、水商売のお姉さま垂涎の神様の大きな祝福を受けている。

酒は彼女の味方だ。

酒はアランの心を解放し、より美しさを引き出してくれるポーションだ。
普段と違う装い、仕事場の気のしれた、仲間達との楽しい時間、水辺の解放感、そして酒。
心の鎧を水の祝福にのせて流したアランは、本来の輝きを解き放つ事に、躊躇しなかった。

尚、アランは酒場に顔を出すことはないが、そこそこ酒はいける口だったらしい。
父や兄と一緒によく楽しんでいた、とペロリと舌を出すアランは、非常に魅力的だった。

浜辺のバーは、前触れもなく訪れた、妖精のごとく美しく着飾った、戯れる女たちの群れの間で、酒を楽しむ蠱惑的な謎の美女に、男たちは浮き立った。

聖女御用達のコテージは、貴族専用の避暑地の中にある非常に格式の高いコテージで、浜辺のバーも気軽なつくりながら、そこに出入りできるのは、ある程度の身分の貴族の子弟のみだ。

すっかり心のタガを外して、本来の性分通りに、十分に夜を楽しむ美女に、多くの男たちが心を奪われた。
そして、その蠱惑的な美女の正体が、昼間は禁欲的な男装の聖女の騎士である、アランだというではないか。

結局たった一晩で、アンジェリーナは一躍、王都の貴族の男達の最も求められる、大輪の花となったのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おええええええ!」

クラスで3番目くらいには可愛い自覚と、自治体のミスコンに自ら応募するくらいの図々しいメンタルのミシェルは、アンジェリーナと、聖女の巫女達に群がってくる、美しい貴族の男達のうちのどれかはお持ち帰りしてやろうと、手ぐすねを引いて品定めしていたのだが。

「だからお前には、貴族の装いをさせずに魔女見習いの恰好をさせていたのだ!」

「悪かったわよ・・ごめんなさい。今回は私が全面的に悪うございました・・」

ダンテはおかんむりだ。

魔女見習いの装いは、黒くてだぼだぼのワンピース型のドレスで大変気分が上がらない。

こんなドレスで出会いの場に飲みに行けるか!と聖女様と巫女様達に用意してもらったドレスは、腰の所をぐううう!と締め付けて、胸元をぐっと開けた、美しい貴族の娘のあでやかな装いだ。

最高にひらひらして可愛いのだが、ちょっとなにかつまんだだけでお腹いっぱいになって、気持ち悪くなった所に、貴族の女性用の酒の可愛らしい事、飲みやすい事。

ガブガブと酒豪だったアランに合わせて飲んでいたら、すっかり悪酔いして、久しぶりのハイヒールで体幹バランス忘れた事もあって、ドレスの裾をひっかけてしまってひっくり返ってしまうわ、悪酔いして男をひっかけて帰るどころではなく、夜も相当更けてから、心配してわざわざ迎えに来てくれたダンテとカロンに、ものすごく迷惑をかけている、状態というわけだ。

(なるほど、カロンの用意してくれた町娘の恰好では聖女様にはあえないしね・・)

ダンテは非常に鬱陶しいし、ミシェルに対する態度がなっていないと思うが、バカではない。
貴族の娘の装いでは、異世界からきたミシェルには苦しいだろうとの配慮があったのだ。

「それにしてもすごいですね、あの格好いい、氷の貴公子のアラン様が、あんなに美しい女性にそれこそ一瞬で変わるだなんて、わが目を疑いました」

カロンは素直に驚いたらしい。

「女とは恐ろしい生き物だろう?カロン。お前ももうすぐ恋人の一人でも持つだろうが、女は基本的に恐ろしい生き物であると、先に学んでおいたほうがいい」

「ちょっと!私の可愛いカロンになにを教えてんのよ!うっ・・きもちわる・・」

「大きな声など出したら頭が痛くなるに決まっているだろう!ほら、二日酔いにはこれと、この国では定番だ。これを食え。ましになる」

そう言ってダンテが出してくれたのは、鳥の骨で真っ白になるまでダシを取ったスープに、これでもかと生姜のような辛味のある根菜と、青ネギを刻んで、卵をを落としたオートミールのような、おかゆ。

その上に、釜茹でシラスだろうか、ふんわりしたとても小さな小魚と、小さなキノコがまぶしてある。
もきゅ、もきゅとした触感がうれしい。

憎たらしい事に、卵は溶きこんでいる卵と、温泉卵にして落としている二種類でお楽しみあれときたものだ。

ここでもミシェルは、完敗だ。負けを認めざるを得ない。

「ダンテあんた本当に料理は最高よ・・あいたたた・・ちょっと卵に辛い油おとしてくれたの?あんた最高よ、最高」

涙目になりながらも、はふはふと、ミシェルは完食した。
ダンテはうざいが、食に罪はない。

ダンテは、にやりと笑うと、

「そうだろう、料理のできない魔術師は魔術師とはいえない。私ほどの魔術師になると、やはり料理も一流だ」

「所でこれはキノコ?すごくおいしいわ、繊細なのにコクがあって上品ね」

そうミシェルが小さなキノコを味わっていた所。

にやり、とダンテは非常に悪い顔をミシェルに見せた。

「ちなみにそのキノコは、骸ダケという。死んで3日以内の魔獣の死骸にだけ生える、貴重なキノコだ。二日酔いには最高に効くから、心して味わえ!」

「!!!!!!!」

わはははは、と居間を、世紀の悪役のごとく去っていくダンテの後ろすがたに、ミシェルは枕を投げつけるが、ダンテには届かずに、ダンテは悠々と去っていった。

(くそう、ダンテを一瞬でも見直した私の心を返してくれ)


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